
吸収・分布ときて、ここからは代謝です。薬剤の代謝は、上のマインドマップ1枚で終わります。 範囲は狭い。そのわりに国試での登場回数が多く、しかもこのあとの単元がぜんぶここに乗っかってくるという、位置取りのいい単元です。
第1相反応・第2相反応の「反応そのもの」は衛生でみっちり扱うので、ここでは深追いしません。薬剤で問われるのは各論——どのCYPがどの薬を代謝するか、そして代謝されて初めて効く薬はどれかの2つです。
この記事のゴールも、それに合わせて2つ。CYPの分子種と代表薬を語呂で固定することと、「代謝=解毒」という思い込みを外すこと。代謝されて効かなくなる薬もあれば、代謝されて初めて効く薬もある。ここが腹に落ちると、このあとのプロドラッグ・代謝阻害・代謝誘導・遺伝子多型が、別々の暗記ではなく1本の話として入ってきます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
代謝はなぜ必要か ― 腎臓から捨てるための下ごしらえ
薬を体の外に出す主役は腎臓です。ところが腎臓は、脂溶性の高い物質をうまく捨てられません。 糸球体でいったんろ過しても、尿細管を流れていく間に脂質二重膜をすいすい通り抜けて血液側へ戻ってきてしまうからです。これが再吸収。脂溶性が高い薬ほど、何度ろ過されても体に居座り続けます。
そこで肝臓がやるのが代謝です。中身を一言でいうと、水に溶けやすい形に作り替えて、再吸収されないようにすること。 「毒を消す」ではなく「捨てられる形にする」と理解しておいてください。あとで活性代謝物の話が出てきたときに混乱しなくなります。
作り替えは2段階です。
| 反応の種類 | やっていること | |
|---|---|---|
| 第1相反応 | 酸化・還元・加水分解 | 分子に極性基(–OH、–NH₂、–COOHなど)という取っ手を付ける。CYPが働くのは主に酸化 |
| 第2相反応 | 抱合反応 | その取っ手を手がかりに、グルクロン酸・硫酸・グルタチオン・アセチル基などをくっつける |
第2相でくっつける相手は大きくて水によく溶けるので、抱合が終わった薬物はもう膜を通り抜けられません。 通れない=再吸収されない=尿や胆汁に出ていく。これが代謝から排泄までの一本の筋です。
順番は第1相 → 第2相。第1相は第2相のための下ごしらえです。逆にいえば、もともと–OHのような取っ手を持つ薬は、第1相を飛ばしていきなり抱合されることもあります。細かい反応機構は衛生の範囲なので、薬剤では「CYPは第1相の酸化担当」という位置関係だけ押さえれば足ります。
CYP(シトクロムP450)とは何者か
CYP=シトクロムP450は、肝細胞の小胞体(ミクロソーム)にいる酵素の一族です。「P450」は、還元して一酸化炭素を結合させると450 nm付近に吸収極大が出るという性質から来た名前で、Pはpigment(色素)。つまりヘム(鉄)を持つタンパク質だということが、名前そのものに書いてあります。
反応の中身はモノオキシゲナーゼ(一原子酸素添加酵素)です。酸素分子O₂を取り込み、2個ある酸素原子のうち1個だけを薬物にくっつけ、残り1個は水になって出ていく。 必要な電子はNADPHが供給し、NADPH-CYP還元酵素が受け渡しを仲介します。
薬物 + O₂ + NADPH + H⁺ → 薬物–OH + H₂O + NADP⁺
ここで押さえてほしいのは、反応の舞台がヘムの鉄だという点です。だからCYPを邪魔する薬の多くは、ヘム鉄に結合するという形で邪魔をします。 可逆的に配位結合するタイプ(アゾール系、シメチジンなど)と、不可逆的に共有結合するタイプ(エリスロマイシンなどのマクロライド系)の区別は、代謝阻害の中心論点です。
分子種の名前の読み方も押さえておきましょう。CYP3A4なら、3=ファミリー(アミノ酸配列が40%以上一致)、A=サブファミリー(55%以上一致)、4=通し番号。CYP2C9と2C19は「2C」まで同じで近縁ですが、性質まで同じではありません。遺伝子多型の出方も基質も別物です。似ているからこそ、国試では並べて出されます。
量的な主役はCYP3A4で、肝臓のCYP全体のおよそ3割、医薬品の代謝の半分近くに関わるとされます。しかもCYP3A4は小腸の上皮にも多い。 経口薬は肝臓に着く前から小腸で削られており、これが初回通過効果の正体の一つです。グレープフルーツジュースの相互作用が有名なのも、小腸のCYP3A4が止まるからです。
CYPの分子種と代表的な基質薬(語呂合わせで覚える)

ここが薬剤の代謝でいちばん問われるところです。CYPの分子種は何十とありますが、国試対策で覚えるべきものはかなり絞られます。まずこの表をマストで覚えて、あとは問題演習で出会うたびに足していく。それが一番効率のいいやり方です。
| CYP分子種 | 語呂 | 代表的な基質薬 |
|---|---|---|
| CYP1A2 | あいつの 小さい 手をにぎる | チザニジン、テオフィリン |
| CYP2C9 | 肉納豆の フェイント | ワルファリン、フェニトイン |
| CYP2C19 | オメーが にくい 白黒つけよう | オメプラゾール、シロスタゾール、クロピドグレル |
| CYP2D6 | イミふな ほど ツンデレな 子です | イミプラミン(→デシプラミン)、コデイン(→モルヒネ) |
| CYP2E1 | エタノールの「エ」 | エタノール |
| CYP3A4 | と り あ えず | トリアゾラム、リトナビル、アゾール系、エリスロマイシン |
語呂は分解できて初めて使えます。
- 1A2「あいつの小さい手をにぎる」… あいつ=1A2、小さい=チザニジン、手をにぎる=テオフィリン
- 2C9「肉納豆のフェイント」… 肉納豆は血液凝固因子の語呂と共用で、そこからワルファリンを引っぱり出す。フェイント=フェニトイン
- 2C19「オメーがにくい、白黒つけよう」… オメー=オメプラゾール、にくい=2C19、白=シロスタゾール、黒=クロピドグレル
- 2D6「イミふなほど、ツンデレな子です」… イミふ=イミプラミン、デ=デシプラミン、ツンデレ=2D6、子です=コデイン
- 3A4「と・り・あ・えず」… トリアゾラム、リトナビル、アゾール系、エリスロマイシン
2C19の「にくい」と2D6の「ツンデレ」が酵素の番号そのものを指している点だけ、引っかかりやすいので注意してください。
そしてCYP2D6の行が特別に重要です。 イミプラミンとコデインは、この記事の活性代謝物、遺伝子多型(プアーメタボライザーで効果がどう動くか)、代謝阻害(パロキセチンによる2D6阻害)の3か所すべてに登場します。 国試が繰り返し狙う一等地です。ここで顔と名前を一致させておくと、あと3本が一気に楽になります。
活性代謝物 ― 代謝されて効くようになる薬

さきほど「代謝は捨てられる形にする工程」と言いました。ところが、作り替えた結果できた代謝物がそのまま薬として効くことがあります。これが活性代謝物です。
| 作用 | 薬物 | 語呂・酵素 | → | 活性代謝物 |
|---|---|---|---|---|
| 抗てんかん | プリミドン | プリティフェスティバル | → | フェノバルビタール(×フェニトイン) |
| 潰瘍性大腸炎・関節リウマチ | サラゾスルファピリジン | ― | → | 5-アミノサリチル酸(=メサラジン) |
| 抗うつ | アミトリプチリン | アミに乗る | → | ノルトリプチリン |
| 抗うつ | イミプラミン | 意味不明です | → | デシプラミン(→遺伝子多型) |
| 鎮咳・鎮痛 | コデイン | CYP2D6 → グルクロン酸抱合 | → | モルヒネ → モルヒネ-6-グルクロニド |
最頻出の引っかけはプリミドンです。 活性代謝物はフェノバルビタールであって、フェニトインではありません。 どちらも抗てんかん薬で名前も似ているので、並べられると一瞬迷います。語呂は「プリティフェスティバル」。フェス=フェノバル、と決め打ちしてください。
アミトリプチリンとイミプラミンは、どちらも三環系抗うつ薬が脱メチル化されて、やはり三環系抗うつ薬になる関係です。親も代謝物も抗うつ薬なので、「代謝されたら効かなくなる」という思い込みが通用しません。イミプラミンのほうは、主経路が2D6によるヒドロキシ化(不活性)で、デシプラミンができるのは副経路という構造になっています。この「副経路」という点が遺伝子多型でそのまま効いてきます。2D6が働かない人では主経路が詰まり、副経路のデシプラミンが逆に増えるからです。
サラゾスルファピリジンは面白い薬です。それ自体に抗リウマチ作用があってリウマチに使われ、体内で切れてできる5-アミノサリチル酸(メサラジン)は抗炎症作用を持つので潰瘍性大腸炎にも使われます。1つの薬が、代謝の前と後で別の病気に使われる。 そう捉えると記憶に残ります。
第2相反応だから不活化、とは限らない
コデインはCYP2D6で脱メチル化されてモルヒネになり、鎮痛作用を出します。咳止めが代謝されて鎮痛薬に化けるわけです。そしてモルヒネはさらにグルクロン酸抱合を受け、モルヒネ-6-グルクロニド(M6G)になります。
ここで立ち止まってください。グルクロン酸抱合は第2相反応、つまり不活化の工程のはずです。ところがM6Gには鎮痛作用があります。
第2相反応(抱合)だからといって、必ず不活化されるとは限らない。
「第1相=活性化、第2相=不活化」と機械的に覚えていると、ここで足をすくわれます。代謝はあくまで捨てられる形にする工程であって、活性のオン・オフは結果にすぎない。 冒頭で「代謝=解毒と思わないでほしい」と書いたのは、この一点のためです。
国試ではこう問われる
第97〜111回の15年分を見ると、この単元の語はよく顔を出します。活性代謝物14回、コデイン14回、サラゾスルファピリジン10回、チザニジン9回。分子種ではCYP2D6が7回、3A4が6回、1A2が5回、2C19と2C9が各4回です。
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第111回・問172 | 代謝の相互作用を「薬物・併用薬・メカニズム」の組合せで問う | 正解はシクロスポリン×リファンピシン=CYP3A4の誘導と、ノルトリプチリン×パロキセチン=CYP2D6の阻害 |
| 第102回・問167 | 薬物とその活性代謝物の組合せで誤っているもの | ニトラゼパム→ジアゼパムが誤り。 ニトラゼパムは還元されて7-アミノニトラゼパムになる。上の表がそのまま問われた形 |
| 第102回・問266-267 | 体質性黄疸(間接ビリルビン高値)の患者に推奨すべき遺伝子診断の対象 | 答えはUGT1A1。続く問267はイリノテカンの副作用発現。CYPだけでなく抱合酵素の多型も出る |
| 第103回・問220 | CYP2D6の遺伝子型と、乳がん術後タモキシフェン治療の無再発生存率のグラフを読ませる | 代謝酵素の多型が治療成績に直結した実例として出題。詳しくは遺伝子多型で |
掘り下げるなら第111回・問172です。この記事の内容がほぼそのまま採点対象になっています。
選択肢4が見事な引っかけでした。「チザニジン × フルボキサミン → CYP1A2の誘導」。チザニジンが1A2の基質なのは「あいつの小さい手をにぎる」で分かるし、フルボキサミンが1A2に関わることも知っている。組合せとしては正しいのに、誤りなのです。 フルボキサミンは1A2を阻害する薬であって、誘導するのではありません。基質と酵素の対応を覚えただけでは足りず、「阻害か誘導か」まで揃って初めて正解になる——問われているのはそこです。
同じ構図が選択肢2にもあります。「フェニトイン × シプロフロキサシン → CYP2C9の阻害」。フェニトインが2C9の基質なのは「肉納豆のフェイント」のとおりですが、シプロフロキサシンが阻害するのは1A2で、酵素の名前が1つずれています。シプロフロキサシンが1A2を阻害してチザニジンを上げるのは代謝阻害の定番論点ですから、選択肢2と4は同じ薬理をひっくり返して2通りの罠にしたものだと分かります。
正解のほうも確認しておきましょう。リファンピシンはCYP3A4を誘導するので、3A4で代謝されるシクロスポリンの血中濃度は下がる(→代謝誘導)。パロキセチンはCYP2D6を阻害するので、2D6の基質であるノルトリプチリンは上がる。ここでもまた2D6です。
まとめ
- 代謝の目的は解毒ではなく、水に溶ける形に変えて腎臓から捨てられるようにすること
- 第1相反応(酸化・還元・加水分解)で極性基という取っ手を付け、第2相反応(抱合)でそこに大きな基をくっつける。 順番は第1相 → 第2相
- CYPは小胞体にあるヘム鉄を持つモノオキシゲナーゼ。 阻害薬の多くがヘム鉄に結合するのはこのため
- 量的な主役はCYP3A4で、小腸にも多いため初回通過効果にも関わる
- 分子種と代表薬は語呂で固定する。あいつの小さい手をにぎる(1A2)/肉納豆のフェイント(2C9)/オメーがにくい白黒つけよう(2C19)/イミふなほどツンデレな子です(2D6)/とりあえず(3A4)
- CYP2D6の行(イミプラミン・コデイン)は、活性代謝物・遺伝子多型・代謝阻害のすべてに再登場する最重要ポイント
- 活性代謝物の最頻出の引っかけは、プリミドン → フェノバルビタール(フェニトインではない)
- モルヒネ-6-グルクロニドには鎮痛作用がある。 第2相反応だから不活化、とは限らない
- 国試では「基質と酵素の対応」だけでなく「阻害か誘導か」まで揃えて問われる
次はプロドラッグの覚え方・目的別まとめを読んでみてください。代謝されて初めて効く薬を、目的別に整理していきます。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
薬剤のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。