代謝と活性化

活性本体①エポキシド|アフラトキシンB₁とベンゾ[a]ピレンが発がん物質になるまで【薬剤師国家試験】

化学物質と発がんのマインドマップ
化学物質と発がんのマインドマップ

二次発がん物質の活性本体、1つめはエポキシドです。

エポキシ化と酸化的脱硫で「二重結合にCYPが酸素を1つ架けると、三員環のエポキシドができる」「エポキシドは反応性が高く、DNAに結合してしまう」という話をしました。ここではその続きとして、実際に国試で名指しされる4つの物質と、そのうちベンゾ[a]ピレンだけが別格に厄介な理由をやります。

エポキシドの回は、語呂で物質を4つ引き出し、そのあと反応式を2本(アフラトキシン型とベンゾ[a]ピレン型)だけ追いかけるという進め方が一番早いです。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

エポキシドになる物質は語呂で4つ

エポキシ化される物質の語呂
エポキシ化される物質の語呂

スッチーびびって 便所で アフロ

スチレン / 塩化ビニル(びびって) / ベンゾ[a]ピレン(便所) / アフラトキシン(アフロ)

いずれも二重結合を持っているのが共通点です。CYPは二重結合を見つけるとそこに酸素を架けてエポキシドを作る——だから二重結合があるものがエポキシ化される、という原則がそのまま4物質に効いています。

この4つは、それぞれ別の単元でも顔を出します。塩化ビニルは職業がんで肝血管肉腫として、ベンゾ[a]ピレンは食品中の発がん物質で多環芳香族炭化水素(PAH)として、アフラトキシンB₁はカビ毒でAspergillus属が作る最強の天然発がん物質として出てきます。同じ物質が科目内で何度も再会するので、そのたびに「こいつはエポキシドになるやつだ」と紐づけ直してください。

アフラトキシンB₁|ビスフラン環の二重結合がエポキシ化される

アフラトキシンB1の代謝活性化
アフラトキシンB1の代謝活性化

アフラトキシンB₁は、ピーナッツなどにつくカビ(Aspergillus flavus など)が作る毒で、天然物として最強クラスの発がん性を持ちます。標的は肝臓です。

反応は1段階です。

  1. アフラトキシンB₁の左側には、フラン環が2つ縮んだ「ビスフラン環」がある
  2. その末端の二重結合が、CYP3A4によってエポキシ化される
  3. できるのが アフラトキシンB₁ 2,3-エポキシド。これが活性本体で、DNAを化学修飾する

そして解毒経路が2本あります。

アフラトキシンB₁はこの2本のどちらかに乗れば、そこで終わりです。「エポキシドができる → 解毒される or DNAにつく」という、素直な一本道。

ベンゾ[a]ピレン|解毒されたはずの場所から、もう一度エポキシ化される

ところがベンゾ[a]ピレンだけは、この素直な一本道になりません。ここが国試で一番狙われます。

まず構造と位置番号を確認しておきます。

ベンゾ[a]ピレンの位置番号
ベンゾ[a]ピレンの位置番号

ピレン(ベンゼン環4つが縮んだ骨格)に、もう1つベンゼン環(ベンゾ)がくっついた形です。番号は図のように時計回りに1〜12。追加されたベンゼン環のほうに7・8・9・10が来ていることだけ確認してください。あとの反応がこの番号で書かれます。

ベンゾ[a]ピレンの代謝活性化
ベンゾ[a]ピレンの代謝活性化

流れは3段階です。

① P450によるエポキシ化(7,8位) まず7,8位の二重結合がエポキシ化され、7,8-エポキシドができます。エポキシドなので、この時点で有毒。

② エポキシドヒドロラーゼによる加水分解 → 7,8-ジオール ここで解毒酵素が働いて、三員環が開いて 7,8-ジオール(OHが2つ、互いに反対側に出る trans 型)になります。エポキシドが解消されたので、いったん不活性です。ここで終われば何も起きません。

③ もう一度P450によるエポキシ化(9,10位) ところが、ベンゾ[a]ピレンは環が5つもある大きな分子で、7,8位を潰してもまだ隣に二重結合が残っています。そこへCYPがもう一度酸素を架けて、9,10位がエポキシ化される。

こうしてできる最終形が、

ベンゾ[a]ピレン-7,8-ジオール-9,10-エポキシド

これが活性本体で、DNAを化学修飾して発がんに至ります。

なぜベンゾ[a]ピレンだけ「例外」なのか

ポイントは、解毒酵素であるエポキシドヒドロラーゼが、活性化の途中経路として使われてしまっていることです。

  • アフラトキシンB₁……エポキシドヒドロラーゼ=解毒
  • ベンゾ[a]ピレン……エポキシドヒドロラーゼ=活性化の一工程

同じ酵素が、相手によって守りにも攻めにもなる。「抱合=解毒」「加水分解=解毒」と機械的に覚えていると必ず外すところで、次の記事のニトレニウムイオンでも同じ構図が出てきます。

名前が長いので、分解して読む練習をしておきましょう。

ベンゾ[a]ピレン - 7,8-ジオール - 9,10-エポキシド

= ベンゾ[a]ピレンの / 7と8にOHがついていて / 9と10がエポキシドになっている

数字が2組出てきたら、小さいほうがジオール、大きいほうがエポキシド。この順番だけ覚えておけば書けます。

国試ではこう問われる

エポキシドはアフラトキシン5回・スチレン7回・塩化ビニル11回(過去15年の登場回数)と、物質側からの出題が非常に多い項目です。

  • 第111回 問130「化学物質A〜Eの代謝的活性化による発がん物質の生成に関する記述として、正しいのはどれか」。選択肢4が「Dは、シトクロムP450及びエポキシドヒドロラーゼにより代謝され、7,8-ジオール-9,10-エポキシ体を生成する」。直近の国試でそのまま出ています。選択肢2の「クロロエチレンオキシドを生成する」は塩化ビニルのエポキシドのことです。
  • 第101回 問132の選択肢3は「Cの究極的代謝活性体は、シトクロムP450による酸化を受けた後に生成する9,10-ジオール体である」。「9,10-ジオール」は誤りで、正しくは7,8-ジオール-9,10-エポキシド。数字とジオール/エポキシドの組み合わせを入れ替えた引っかけで、上の分解練習がそのまま効きます。
  • 第108回 問129の選択肢2「アフラトキシンB₁は、シトクロムP450によりエポキシ化されて発がん作用を示す」——これは正しい記述です。アフラトキシン=エポキシ化は素直に問われます。
  • 第106回 問135の選択肢3「スチレンは、シトクロムP450によりスチレンオキシドに活性化される」も正しい記述。スチレン→スチレンオキシドという名前の対応も押さえておきましょう。

「究極的代謝活性体」という言い方が国試では使われます。この記事でいう活性本体と同じ意味です。問題文で見かけたら「活性本体のことだな」と読み替えてください。

まとめ

  • エポキシドになるのは二重結合を持つもの。語呂は「スッチーびびって便所でアフロ」(スチレン・塩化ビニル・ベンゾ[a]ピレン・アフラトキシン)
  • アフラトキシンB₁……ビスフラン環の二重結合がCYP3A4でエポキシ化され、2,3-エポキシドになる。解毒はグルタチオン抱合とエポキシドヒドロラーゼ
  • ベンゾ[a]ピレン……7,8-エポキシ化 → エポキシドヒドロラーゼで7,8-ジオール → さらに9,10-エポキシ化の3段階。活性本体はベンゾ[a]ピレン-7,8-ジオール-9,10-エポキシド
  • ベンゾ[a]ピレンでは、解毒酵素のエポキシドヒドロラーゼが活性化の一工程として使われる。「加水分解=解毒」と決めつけない
  • 数字が2組出たら、小さいほうがジオール、大きいほうがエポキシド

次は活性本体②ニトレニウムイオン|抱合が発がんを生む例外を読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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