代謝と活性化

異物代謝の全体像と細胞内分画|S9mix・ミクロソーム画分の覚え方【薬剤師国家試験】

代謝・代謝活性化の全体像のマインドマップ
代謝・代謝活性化の全体像のマインドマップ

ここから衛生の「化学物質・放射線の生体への影響」に入ります。最初にやるのは代謝です。

「代謝ならもう薬剤でやったよ」と思うかもしれません。でも衛生で代謝を扱う理由は、薬剤とはまったく別のところにあります。薬剤の代謝は「薬がどう消えていくか」の話でした。衛生の代謝は、「無害だったはずの化学物質が、体の中で加工された結果、発がん物質に化ける」という話です。このあと出てくるベンゾ[a]ピレンもアフラトキシンも農薬のパラチオンも、そのままでは大して悪さをしません。体が解毒しようとして手を出した瞬間に、毒になります。

だから衛生では、反応の中身を1つずつ追いかけます。この記事ではその入口として、①代謝には解毒と活性化の2つの向きがあること、②第Ⅰ相反応と第Ⅱ相反応という2段構えの流れ、③その酵素が細胞のどこにいるのか、の3つを押さえます。③は地味に見えますが、のちのAmes試験(変異原性試験)でS9mixという試薬が出てくる理由が、ここを理解していないと一生わかりません。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

代謝には「解毒」と「代謝的活性化」の2つの向きがある

代謝的活性化と解毒
代謝的活性化と解毒

まず言葉から整理します。

  • 解毒……代謝を受けた結果、毒性が下がる(薬なら薬理活性が下がる)
  • 代謝的活性化……代謝を受けた結果、毒性が上がる(薬なら薬理活性が上がる)

同じ「代謝」という1つの現象が、物質によって逆向きに働きます。薬学の世界では、活性が上がる方向をうまく利用したものがプロドラッグです(詳しくは薬剤のプロドラッグの覚え方・目的別まとめを見てください)。衛生で問題になるのはその逆で、意図せず毒性が上がってしまうパターンのほうです。

衛生の代謝の単元は、最初から最後まで「この反応は解毒なのか、活性化なのか」を問い続ける単元だと思ってください。

第Ⅰ相反応と第Ⅱ相反応|水溶性を2段階で上げる

第Ⅰ相反応と第Ⅱ相反応の流れ
第Ⅰ相反応と第Ⅱ相反応の流れ

体に入ってくる異物は、脂溶性のものが多いというのが出発点です。脂溶性のままだと尿にも胆汁にも出ていってくれないので、体は「いかに水溶性を上げて外に捨てるか」という作戦を取ります。その作戦が2段構えになっています。

第Ⅰ相反応は、異物にOH・NH₂・COOH といった極性の官能基を導入する段階です。主役は酸化で、ここで働くのがCYP(シトクロムP450)。ほかに還元と加水分解も第Ⅰ相に入ります。これで水溶性が少し上がります。

第Ⅱ相反応は、第Ⅰ相でついた官能基を目印にして、供与体(グルクロン酸など)をくっつける段階です。抱合反応と呼びます。触媒するのはトランスフェラーゼ(転移酵素)という名前の酵素たちです。これで水溶性がさらに上がって、排泄されます。

順番としては「第Ⅰ相 → 第Ⅱ相」が基本ですが、もともとOHやNH₂を持っている異物は、第Ⅰ相を飛ばしていきなり第Ⅱ相に入れます。この点はのちのち引っかけになるので、頭の隅に置いておいてください。

薬物代謝酵素はどこにいるのか|遠心分画で場所を分ける

肝臓のホモジネートを遠心分離で分ける
肝臓のホモジネートを遠心分離で分ける

ここが衛生独自のパートです。「酵素がどの画分にあるか」が国試で直接問われます。

やっていることは単純で、肝臓をミキサーで粉々にして(ホモジナイゼーション)、遠心分離を3段階かけるだけです。重いものから順に沈んでいきます。

遠心の段階 沈殿(得られる画分) 含まれる代謝酵素
低速遠心 核画分(壊れていない細胞と核) ―
中速遠心 ミトコンドリア画分 アミノ酸抱合の酵素
高速遠心 ミクロソーム画分(=滑面小胞体の断片) CYP、グルクロン酸抱合のUDP-グルクロン酸転移酵素
高速遠心の上清 可溶性画分(サイトゾル) 硫酸抱合・グルタチオン抱合・アセチル抱合の酵素

そして、中速遠心をかけたときの上清、つまり「まだミクロソームも可溶性画分も一緒に入っている液」が、S9mixです。

覚え方は「クロ」3つ

ミクロソーム画分に何が入っているかは、「クロ」で3つそろうと覚えると一発です。

ミクロソーム画分には、シトクロムP450 と グルクロン酸抱合のUDP

逆に言えば、硫酸・グルタチオン・アセチルの3つは「クロ」がないので可溶性画分、アミノ酸抱合だけ仲間はずれでミトコンドリア、という整理になります。抱合反応の各論はグルクロン酸・硫酸・アセチル・アミノ酸抱合|4つの抱合の使い分けでまとめて扱いますが、画分だけはここで先に押さえてしまったほうが早いです。

S9mixは、Ames試験で「代謝させるため」に入れる試薬

なぜこんな話を衛生でするのか。答えは変異原性試験(Ames試験)です。

発がん物質には2種類あります。そのままDNAを傷つける一次発がん物質と、代謝を受けて初めて発がん性を示す二次発がん物質です。細菌にヒトの肝臓の代謝酵素はありませんから、シャーレの中の細菌にそのまま化学物質を振りかけても、二次発がん物質は「シロ」と判定されてしまいます。

そこで、ラットの肝臓から取ったS9mix(=代謝酵素のかたまり)を加えた条件と、加えない条件の両方で試験するわけです。

  • S9mix なしで変異原性あり → 代謝を受けなくても変異原性がある = 一次発がん物質の疑い
  • S9mix ありで初めて変異原性あり → 代謝で活性化された = 二次発がん物質の疑い

この4象限の表がAmes試験の核心です。細胞内分画は、Ames試験の前振りとしてここで出てきていると理解しておくと、単なる暗記項目ではなくなります。

国試ではこう問われる

細胞内分画そのものより、「どの酵素がどの画分にいるか」を選択肢の一部として混ぜてくる出題が目立ちます。

  • 第100回 問43「グルクロン酸抱合反応に関する記述のうち、誤っているのはどれか」。選択肢5に「主に細胞のミクロソーム画分に活性がある」が入っていて、これは正しい記述です(正答は選択肢2の「シトクロムP450による酸化的代謝物にのみ起こる」。第Ⅰ相を経ずに直接抱合されるものがあるので誤り)。画分の知識が、そのまま正誤判定に使われています。
  • 第103回 問131「グルクロン酸抱合に関する記述のうち、正しいのはどれか」。正答は「UDP-グルクロン酸転移酵素は小胞体膜に局在する」。ミクロソーム画分=滑面小胞体、とつなげられれば即答できます。
  • 第101回 問23では、化審法の蓄積性の判定に使う試験を選ばせる中で、選択肢に「ネズミチフス菌を用いた復帰突然変異原性試験」(=Ames試験)が並んでいます。S9mixとセットで名前を覚えておきましょう。

まとめ

  • 代謝には解毒と代謝的活性化の2つの向きがある。衛生で追うのは主に後者
  • 第Ⅰ相反応=OH・NH₂・COOHを導入(主にCYPによる酸化)、第Ⅱ相反応=供与体をくっつける抱合。2段階で水溶性を上げて排泄する
  • 酵素の場所は遠心分画で決まる。ミクロソーム画分は「クロ」3つ(ミクロソーム・シトクロム・グルクロン酸)
  • アミノ酸抱合だけミトコンドリア、硫酸・グルタチオン・アセチルは可溶性画分
  • 中速遠心の上清がS9mix。Ames試験で一次発がん物質と二次発がん物質を区別するために使う

次はCYP(シトクロムP450)とは|反応サイクルと分子種ごとの基質を読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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