
ここが衛生の代謝の山場です。
前回まで見てきた酸化は、水溶性を上げて外に捨てるための反応──つまり解毒でした。ところが同じCYPが、相手によっては毒を作ってしまう。その代表がエポキシ化と酸化的脱硫反応の2つです。
衛生でこの単元をやる理由そのものがここにあるので、ほかを忘れてもこの2つだけは落とさないでください。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
エポキシドとは何か

C=Cの二重結合に酸素が1個入って、三角形の環ができる。これがエポキシドです。
CYPがやっていることは、これまでと同じ「酸素を1個つける」だけです。相手がOHのつく炭素なら無害なアルコールができますが、相手が二重結合だと三角形になる。そしてこの三角形は、結合角が無理やり押し曲げられているので、ものすごく反応しやすい。
反応しやすいということは、体の中のDNAやタンパク質にすぐ飛びつくということです。DNAに結合すれば付加体を作り、塩基配列が狂う。これが化学発がんの入口になります。
エポキシ化される4つ「スッチーびびって便所でアフロ」

エポキシ化を受ける代表物質は、語呂で4つまとめて取れます。
スッチーびびって 便所で アフロ
スッチー=スチレン / びび=塩化ビニル / 便所=ベンゾ[a]ピレン / アフロ=アフラトキシン
共通点はC=C二重結合を持っていることです。塩化ビニルはCH₂=CHClという、いちばんシンプルな形。スチレンはベンゼン環にビニル基がついたもの。ベンゾ[a]ピレンは芳香環が5つつながった多環芳香族炭化水素。アフラトキシンB₁はカビ毒です。
この4つはすべて発がん性物質として、あとの単元でもう一度出てきます。ここで名前を押さえておくと後が楽です。
ベンゾ[a]ピレンが発がん活性本体になるまで
![ベンゾ[a]ピレンの代謝的活性化](https://yakugaku-gokaku.com/wp-content/uploads/2026/09/eisei-cyp-sanka-08.png)
エポキシ化のいちばん有名な例を、3段階で追います。
- ベンゾ[a]ピレン が CYP1A で酸化され、ベンゾ[a]ピレン-7,8-オキシド(エポキシド)になる
- エポキシドヒドロラーゼがそのエポキシドを加水分解して、7,8-ジオール体にする(ここは解毒しようとしている工程です)
- ところが、その7,8-ジオール体をCYP1Aがもう一度酸化してしまい、7,8-ジオール-9,10-エポキシドができる。これが発がんの活性本体
皮肉な流れです。①CYPが毒を作り、②エポキシドヒドロラーゼが解毒しようとし、③その解毒産物をCYPがもう一度加工して、もっと危険なものにしてしまう。「代謝は必ずしも解毒ではない」という衛生のメッセージが、いちばんくっきり出ている反応です。
エポキシドヒドロラーゼによる加水分解そのものは加水分解とアルコール代謝で、活性本体としてのエポキシドの扱いは化学物質と発がんの単元で、それぞれもう一度取り上げます。
酸化的脱硫反応|パラチオン → パラオキソン

もう1つの「毒性が増す」代表が、酸化的脱硫反応です。
反応の中身は名前のとおりで、Sが抜けてOが入るだけ。
パラチオン(P=S型) → パラオキソン(P=O型)
パラチオンは有機リン系の殺虫剤です。P=S のままでは、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)への結合力がさほど強くありません。ところがCYPによってP=O型(オキソン体)に変わると、AChEを強力に阻害するようになります。毒性が増す方向の代謝です。
覚え方は名前そのものです。
- 「〜チオン」……チオ=硫黄。P=S型
- 「〜オキソン」……オキソ=酸素。P=O型
チオン体からオキソン体へ、と名前が変わるところが、そのまま毒性が上がるところだと覚えてください。有機リン剤の各論(パラチオン・マラチオン・フェニトロチオンなど)は化学物質の毒性の単元で扱います。
国試ではこう問われる
エポキシ化と酸化的脱硫は、衛生の理論問題で構造式とセットで繰り返し出題される、この単元でいちばん出題頻度が高い論点です。
- 第111回では、化学物質A〜Eの代謝的活性化を問う中で「Dは、シトクロムP450及びエポキシドヒドロラーゼにより代謝され、7,8-ジオール-9,10-エポキシ体を生成する」という選択肢が出ました。上で追った3段階そのものです。同じ問題に「クロロエチレンオキシドを生成する」(塩化ビニル)、「メチルカチオンを生成する」という選択肢も並びます。
- 第105回 問133の選択肢には「Dはシトクロム P450 による酸化的脱硫反応によりオクソン体に代謝される」。
- 第107回 問132(農薬)の選択肢1は「フェニトロチオンは、シトクロムP450による酸化的脱硫反応により代謝的活性化を受けてアセチルコリンエステラーゼを阻害する」。パラチオンで覚えた理屈を、別の「〜チオン」にそのまま当てはめられるかが問われています。
- 第102回 問22の選択肢にも「パラチオンの酸化的脱硫化」が入っています(CYPの仕事なので、この問題では正答ではありません)。
構造式が並ぶので難しく見えますが、聞かれているのは毎回同じ「二重結合→エポキシド」「P=S→P=O」の2パターンです。
まとめ
- エポキシドは、C=Cに酸素が1個入ってできる三角形。反応性が高くDNAに結合するので発がんにつながる
- エポキシ化される4つは「スッチーびびって便所でアフロ」=スチレン・塩化ビニル・ベンゾ[a]ピレン・アフラトキシン
- ベンゾ[a]ピレンは CYP1A → エポキシド → エポキシドヒドロラーゼでジオール体 → CYP1Aで再酸化 → 7,8-ジオール-9,10-エポキシド(活性本体)
- 酸化的脱硫反応は「Sが抜けてOが入る」。パラチオン(〜チオン、P=S)→パラオキソン(〜オキソン、P=O) で毒性が増す
- どちらも代謝が解毒ではなく活性化に回る代表例。衛生で代謝をやる理由そのもの
次は第Ⅰ相の還元反応|四塩化炭素と腸内細菌によるニトロ・アゾ還元を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。