
第Ⅰ相反応の2つめ、還元反応です。
講義でも「たまに還元」という扱いで、酸化に比べれば出番は多くありません。ただし出てくるものが毎回同じなので、逆に得点源になります。押さえるのは3つだけです。
- CYPによる脱ハロゲン化(四塩化炭素)
- 腸内細菌によるニトロ基の還元
- 腸内細菌によるアゾ基の還元
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
還元が起こる舞台は2つある
還元は「電子を受け取る反応」なので、酸素が乏しい環境のほうが起こりやすくなります。体の中でそういう場所がどこかというと──腸管の中です。
腸管内は酸素がない(嫌気的)→ 還元が起こりやすい
腸内細菌は嫌気性なので、還元反応と加水分解を得意とします。これが2と3の舞台です。
一方、1の四塩化炭素だけは腸内細菌ではなくCYPの仕事です。CYPは主に好気的条件で酸化を触媒しますが、たまに嫌気的条件で還元も触媒する、というのがここで効いてきます。
「腸内細菌がやるのか、CYPがやるのか」で整理しておくと、選択肢の切り分けが一気に楽になります。
四塩化炭素の還元的脱ハロゲン化「かっかっかっか!」

これは理屈をこねるより、語呂で1本にしてしまうのが早いです。
かっかっかっか!
四塩化炭素 → 還元(脱ハロゲン化) → トリクロロメチルラジカル → 肝障害
流れはこうです。
- 四塩化炭素(CCl₄) ……炭素に塩素が4つついた化合物
- CYPによって還元的に脱ハロゲン化され、塩素が1つ外れる
- トリクロロメチルラジカル(・CCl₃) ができる
- ラジカルが細胞膜の脂質を攻撃して肝障害を起こす
ポイントはラジカルであることです。ラジカルは不対電子を持つので手当たり次第に反応し、脂質過酸化を引き起こします。四塩化炭素は肝毒性の代表として、化学物質の毒性の単元でもハロゲン化炭化水素の代表選手として再登場します。
腸内細菌によるニトロ基の還元

ニトロ基(-NO₂)が還元されてアミノ基の方向へ進む反応です。代表はニトロベンゼン。
ニトロベンゼン → ニトロソベンゼン → フェニルヒドロキシルアミン
還元酵素(腸内細菌由来)が2段階で還元していきます。
ここで「あれ、どこかで見た」と思ってほしいところがあります。フェニルヒドロキシルアミンは、前回第Ⅰ相の酸化反応で、アニリンがCYP2E1でN-水酸化されてできたのと同じ物質です。
同じ物質に、2つのルートからたどり着く
- アニリン(NH₂) → N-水酸化(酸化) → フェニルヒドロキシルアミン
- ニトロベンゼン(NO₂) → 還元 → フェニルヒドロキシルアミン
NH₂から酸化で上がってくるルートと、NO₂から還元で下がってくるルート。どちらから来てもメトヘモグロビン血症になるわけです。この2本立てはそのまま出題の狙い目になります。
メトヘモグロビン血症の治療
図には治療薬も書いてあります。
Hb(Fe²⁺) ⇄ メトHb(Fe³⁺) …… 戻すのが メチレンブルー
メトヘモグロビンは鉄がFe³⁺に酸化されて酸素を運べなくなった状態です。メチレンブルーがこれをFe²⁺に還元して戻します。中毒と処置の単元につながる知識なので、ここでセットにしておきましょう。
腸内細菌によるアゾ基の還元

アゾ基(-N=N-)が切れて、2つのアミノ基に分かれる反応です。触媒するのはアゾ還元酵素(腸内細菌由来)。
プロントジル
世界初のサルファ剤として有名な例です。アゾ結合が切れて、スルファニルアミド(抗菌作用の本体)とトリアミノベンゼンに分かれます。プロントジル自体には抗菌作用がなく、体内で切れて初めて効く──プロドラッグの元祖という位置づけです。
サラゾスルファピリジン(こちらが本命)
国試的に圧倒的に重要なのはこちらです。アゾ結合が切れて、左右2つに分かれます。
- スルファピリジン……抗菌作用
- 5-アミノサリチル酸(5-ASA、メサラジン)……抗炎症作用。潰瘍性大腸炎の治療薬
サラゾスルファピリジンを飲んでも、胃や小腸では切れません。大腸まで届いて、腸内細菌のアゾ還元酵素で初めて切れる。つまり炎症が起きている大腸で、狙ったとおりに薬効本体が放出される設計になっています。ターゲティングの成功例として、薬剤のプロドラッグの覚え方・目的別まとめでも扱われています。
「腸内細菌のアゾ還元 → 大腸で効かせる」という1本の線で覚えてください。
国試ではこう問われる
- 第108回 問132「化学物質の毒性に関する記述のうち、正しいのはどれか」の選択肢3は「四塩化炭素は、シトクロムP450によって還元的に脱ハロゲン化されて、肝障害を引き起こす」。還元的・脱ハロゲン化・肝障害という3語がそのまま並びます。語呂で押さえていれば一瞬で判定できます。
- 第102回 問22「CYPの寄与が小さいのはどれか」の選択肢4にも「四塩化炭素の還元的脱ハロゲン化」が入っています。還元だけれどCYPの仕事、という引っかけになりうるところです。
- 第106回 問22「代謝物が、主としてメトヘモグロビン血症を引き起こすのはどれか」。正答は4「アニリン」ですが、選択肢には四塩化炭素も並んでいます。四塩化炭素は肝障害、アニリンはメトヘモグロビン血症──毒性の出方で区別できるかが問われています。
- 化審法の第一種特定化学物質を選ばせる問題(第104回 問22)でも、選択肢に四塩化炭素が並びます(正答ではありません)。名前をどこで見ても動じないように、毒性とセットで覚えておきましょう。
まとめ
- 還元が起こりやすいのは嫌気的な環境=腸管内。ただし四塩化炭素だけはCYPの仕事
- 「かっかっかっか!」=四塩化炭素・脱ハロゲン化・トリクロロメチルラジカル・肝障害
- ニトロ基の還元:ニトロベンゼン→ニトロソベンゼン→フェニルヒドロキシルアミン。アニリンのN-水酸化と同じ物質にたどり着く
- メトヘモグロビン(Fe³⁺)をHb(Fe²⁺)に戻すのはメチレンブルー
- アゾ基の還元:サラゾスルファピリジン → スルファピリジン + 5-アミノサリチル酸。大腸の腸内細菌で切れるから潰瘍性大腸炎に効く
次は加水分解とアルコール代謝|エステラーゼとADH・ALDH・CYP2E1を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
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