
第Ⅱ相反応、抱合反応に入ります。
抱合は6種類あって、それぞれに供与体と酵素と基質があります。まともに表で暗記しようとすると、ほぼ確実に混ざります。「グルクロン酸抱合の供与体は?」「硫酸抱合の基質は?」と1つずつ問われる形で覚えようとしてはいけません。
代わりにやることは1つだけ。「どちらが活性化されるか」で3パターンに分けることです。この分け方ができれば、6種類の抱合が3グループに畳めて、あとは各論を乗せるだけになります。この記事はそのための1本です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
第Ⅱ相反応がやっていること

第Ⅰ相反応で、異物には OH・NH₂・COOH といった官能基がつきました。第Ⅱ相反応は、その官能基を目印にして、供与体をくっつける段階です。
くっつける相手を供与体と呼びます。グルクロン酸、硫酸、アセチル基、アミノ酸、グルタチオンなどです。触媒するのはトランスフェラーゼ(転移酵素)という名前の酵素たち。
結果として水溶性がさらに上がって排泄される──これが原則です。ただし例外が2つあるので、それは後半で扱います。
3つのパターン|どちらが活性化されるか

ここが心臓部です。講義では異物を男、供与体を女に見立てて説明しています。この比喩が驚くほどよく効くので、そのまま使います。
その1:高嶺の花パターン(供与体が活性化)
供与体(女)がクレオパトラのような高嶺の花。だから男のほうからアタックさせる。
活性化されるのは供与体のほうです。ただし、クレオパトラにアタックできる男は何かを持っている必要があります。それが OH・NH₂・COOH といった官能基。「お金や権力を持っている男なら相手をしてあげてもいいわよ」という関係です。
該当するのはグルクロン酸抱合・硫酸抱合・アセチル抱合の3つ。供与体はそれぞれUDP-α-D-グルクロン酸、活性硫酸(PAPS)、アセチルCoA。どれも名前に「活性」や高エネルギー結合の気配があります。
その2:面食い女子パターン(異物が活性化)
女のほうがイケメン好き。カッコいい男(=活性化された異物)にだけ、女からアタックする。
活性化されるのは異物のほうです。逆転しているのがこのパターンの特徴。
該当するのはアミノ酸抱合だけ。異物側がCOOHを持っていて、そこにCoAがついて活性化(アシルCoA)されてから、アミノ酸が攻撃します。
その3:悪に惹かれるパターン(どちらも活性化されない)
何も持っていない「たちの悪い男」に、なぜか惹かれてしまう女。
該当するのはグルタチオン抱合だけ。相手はエポキシドやハロゲン化合物──官能基らしい官能基を持たず、電子密度が偏っていて反応性が高い(=たちが悪い)ものです。グルタチオン自身の求核性が高いので、活性化なしでアタックできます。
供与体はどの官能基を狙うのか

3パターンが頭に入ったら、次は「どの官能基を持っていれば、どの抱合を受けられるか」です。ここも1枚の図で片付きます。
| 異物が持っている官能基 | 受けられる抱合 |
|---|---|
| OH・NH₂・COOH のどれか | グルクロン酸抱合(いちばん守備範囲が広い) |
| OH・NH₂ | 硫酸抱合・アセチル抱合 |
| COOH | アミノ酸抱合 |
| エポキシド・ハロゲン化合物 | グルタチオン抱合 |
グルクロン酸抱合がいちばん幅広いのがポイントです。「釣り合うなら相手してあげる」という、比較的心の広いクレオパトラ。逆にアミノ酸抱合はCOOHにしか手を出さない(=面食い)、グルタチオン抱合は悪いものにしか手を出さない、と両極端です。
5つの抱合を1枚の表にする
ここまでを1枚にまとめたのが、この表です。酵素画分の列は、異物代謝の全体像と細胞内分画でやった遠心分画の話がそのまま入っています。
| 抱合反応 | パターン | 酵素画分 | 主な基質(官能基) | 供与体 |
|---|---|---|---|---|
| グルクロン酸抱合 | 高嶺の花 | 小胞体(ミクロソーム画分) | 水酸基・アミノ基・カルボキシ基・チオール基 | UDP-α-D-グルクロン酸 |
| 硫酸抱合 | 高嶺の花 | 細胞質 | 水酸基・アミノ基 | 活性硫酸(PAPS) |
| アセチル抱合 | 高嶺の花 | 細胞質 | アミノ基・アミド・水酸基・ヒドラジド | アセチルCoA |
| アミノ酸抱合(グリシン抱合) | 面食い | ミトコンドリア | カルボキシ基(安息香酸) | 主にグリシン、一部グルタミン |
| グルタチオン抱合 | 悪に惹かれる | 細胞質 | エポキシド・ハロゲン化物・ニトロ基 | グルタチオン |
グルクロン酸抱合だけミクロソーム画分(「クロ」3つ)、アミノ酸抱合だけミトコンドリア、残り3つは細胞質。画分はこの3グループで覚えます。
抱合=必ず解毒、ではない
原則は「抱合すると水溶性が上がって排泄される」です。でも例外が2つあります。
アセチル抱合とメチル抱合は、水溶性が下がる。
アセチル基もメチル基も、極性のない小さな炭化水素だからです。NH₂のような極性基にフタをしてしまうぶん、むしろ脂溶性が上がる。「抱合されたのだから水溶性は上がるはず」という思い込みが、そのまま引っかけになります。
もう1つの例外は、抱合が発がんにつながるケースです。芳香族アミンをN-水酸化したあと硫酸抱合やアセチル抱合をすると、そこからニトレニウムイオンという活性本体が生まれてしまう。この話は化学物質と発がんの単元で扱いますが、「抱合=解毒」と単純化しすぎると足をすくわれる、とだけ覚えておいてください。
国試ではこう問われる
供与体を問う形が繰り返し出ています。3パターン分けは、まさにこのタイプの問題を落とさないための道具です。
- 第101回 問22「ヒトにおける抱合反応に利用されないのはどれか」。選択肢は S-アデノシルメチオニン / アセチルCoA / メルカプツール酸 / 活性硫酸 / タウリン。正答は3「メルカプツール酸」です。ほかの4つはすべて供与体ですが、メルカプツール酸はグルタチオン抱合の最終生成物であって供与体ではありません。「供与体か、生成物か」を問う、まさに全体像の問題です。
- 第101回 問43「一般に、薬物の水溶性が低下する代謝反応はどれか」。正答は5「アセチル抱合」。選択肢にはアルキル側鎖の水酸化・N-脱アルキル化・エステルの加水分解・グルクロン酸抱合が並びます。上で書いた例外そのものが、そのまま1問になっています。
- 第110回 問44「薬物代謝における第Ⅱ相反応に関与するのはどれか」。正答は2「UDP-グルクロン酸転移酵素」。シトクロムP450・フラビン含有モノオキシゲナーゼ・アルコール脱水素酵素・モノアミン酸化酵素が誤りの選択肢です。相の切り分けが直球で問われました。
つまり狙われるのは、各論の細かい数字ではなく「どれが供与体か」「どれが第Ⅱ相か」「どれが水溶性を下げるか」という大枠です。この記事の内容だけで3問取れる計算になります。
まとめ
- 第Ⅱ相反応=第Ⅰ相でついた官能基に供与体をくっつける。触媒はトランスフェラーゼ
- ①高嶺の花(供与体が活性化)=グルクロン酸・硫酸・アセチル、②面食い(異物が活性化)=アミノ酸抱合だけ、③悪に惹かれる(どちらも活性化されない)=グルタチオン抱合だけ
- 官能基の対応は、グルクロン酸が最も広い(OH・NH₂・COOH)、硫酸とアセチルはOH・NH₂、アミノ酸はCOOHのみ、グルタチオンはエポキシド・ハロゲン化合物
- 画分はグルクロン酸=ミクロソーム、アミノ酸=ミトコンドリア、残りは細胞質
- アセチル抱合とメチル抱合は水溶性が下がる。抱合=必ず解毒ではない
次はグルクロン酸・硫酸・アセチル・アミノ酸抱合|4つの抱合の使い分けを読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
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