
第Ⅱ相(抱合)反応の全体像で3パターンに分けたので、ここから各論です。この記事では高嶺の花パターン3つ(グルクロン酸・硫酸・アセチル)と面食いパターンのアミノ酸抱合、あわせて4つを扱います。
グルタチオン抱合だけは話が長くなるので、グルタチオン抱合とメルカプツール酸に独立させています。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
グルクロン酸抱合|αで来てβで終わる

いちばん守備範囲が広い抱合です。例としてモルヒネを見ます。
- 供与体:UDP-α-D-グルクロン酸
- 酵素:UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)
- 場所:ミクロソーム画分(=滑面小胞体)
- 生成物:β-グルクロニド(この例ではモルヒネ3-グルクロニド)
なぜαで来てβになるのか
国試で繰り返し問われるのが、この立体の反転です。
供与体の段階では、グルクロン酸の1位にUDPがα(下向き)についています。そこへ異物(モルヒネの水酸基)がUDPと反対側から攻撃して、UDPを押し出す。攻撃してきた側にくっつくわけですから、できあがる結合はβ(上向き)になります。
UDP-α-D-グルクロン酸 → β-グルクロニド
αで来て、βで終わる。
「α-D-グルクロン酸が供与体」「生成物はβ-グルクロニド」──この2つは必ずセットで覚えてください。片方だけ入れ替えた選択肢が実際に出ます。
抱合体が薬効を持つこともある
モルヒネの場合、3位が抱合されるとモルヒネ3-グルクロニドになります。一方、6位が抱合されたモルヒネ6-グルクロニドは、モルヒネより強い鎮痛作用を持ちます。「抱合したから不活性になったはず」とは限らない、という好例です(詳しくは薬剤の薬物代謝の基礎とCYPの分子種の覚え方を参照)。
硫酸抱合|供与体は「活性硫酸(PAPS)」

硫酸抱合の主役は供与体の名前です。
SO₄²⁻ + 2ATP →(酵素)→ 活性硫酸(PAPS)
PAPSの正式名称は3’-ホスホアデノシン5’-ホスホ硫酸(3’-ホスホアデニリル硫酸)。硫酸イオンのままでは反応性がないので、ATPを2分子使って活性化しています。まさに「高嶺の花=供与体が活性化されている」パターンの典型です。

活性化された硫酸に対して、異物(フェノールのOHなど)の電子が攻撃して硫酸抱合体ができ、水溶性が上がって排泄されます。基質は水酸基・アミノ基。酵素は細胞質にあります。
グルクロン酸抱合との違いは、硫酸抱合はCOOHには手を出さないことと、供与体の量に限りがある(硫酸源が枯渇しやすい)ことです。アセトアミノフェン中毒で硫酸抱合・グルクロン酸抱合が飽和すると、余った分がCYPに回ってNAPQIができる──という話につながります。
アセチル抱合|NAT2とイソニアジド、そして「水溶性が下がる」

- 供与体:アセチルCoA
- 酵素:N-アセチルトランスフェラーゼ(NAT)
- 場所:細胞質
- 基質:アミノ基・水酸基など
代表例:イソニアジド

結核治療薬のイソニアジドのNH₂が、NAT2によってアセチル化されます。
覚え方は図にあるとおり、名前の「ニ」で結ぶのがいちばん早いです。
イソ「ニ」アジド ←→ NAT「2」
遺伝子多型に人種差がある
NATには遺伝子多型があり、日本人は代謝能力が高い人が多く、欧米人は低い人が多いという、CYPとは逆向きの人種差があります。
代謝が遅い人(slow acetylator)では、イソニアジドが体内に残りやすく、末梢神経障害などの副作用が出やすくなります。遺伝子多型そのものの考え方は薬剤の薬物代謝酵素の遺伝子多型(プアーメタボライザー)で扱っています。
水溶性が下がる
ここが最大の注意点です。アセチル基がついても水溶性は上がりません。下がります。
極性のあるNH₂に、極性のないアセチル基でフタをするのですから、当然といえば当然です。「抱合=水溶性アップ」の唯一の例外グループ(もう1つはメチル抱合)として、必ず覚えてください。
アミノ酸抱合|トルエン → 馬尿酸

面食いパターン、つまり異物のほうが活性化される唯一の抱合です。トルエンの例で、第Ⅰ相から通しで追います。
第Ⅰ相反応(ここまでは酸化)
- トルエン → CYPでベンジル位が酸化 → ベンジルアルコール
- ベンジルアルコール →(ADH)→ ベンズアルデヒド
- ベンズアルデヒド →(ALDH)→ 安息香酸(COOHができた)
第Ⅱ相反応(ここからアミノ酸抱合)
- 安息香酸 + ATP + CoA →(酸:CoAリガーゼ)→ ベンゾイルCoA(=異物が活性化された)
- ベンゾイルCoA + グリシン →(アシルCoA:アミノ酸N-アシルトランスフェラーゼ)→ 馬尿酸
2段目と3段目にADHとALDHが出てくるのが面白いところです。加水分解とアルコール代謝でやったエタノールの経路と、まったく同じ酵素が同じ順番で使われています。
馬尿酸はトルエンの曝露指標
できた馬尿酸は尿中に排泄され、トルエンの曝露指標(生物学的モニタリング)として使われます。健康診断でトルエンを扱う作業者の尿を調べるときの項目です。
キシレンならメチル馬尿酸になります。この対応は労働衛生の単元でも使うので、セットで覚えてください。
なお、ヒトのアミノ酸抱合は主にグリシン、一部グルタミンです。酵素はミトコンドリアにあります(4つの抱合のうち、ここだけミトコンドリア)。
国試ではこう問われる
グルクロン酸抱合はこの単元で最も出題される抱合です。
- 第100回 問43「グルクロン酸抱合反応に関する記述のうち、誤っているのはどれか」。正答は2「シトクロムP450による酸化的代謝物にのみ起こる」。もともとOHを持つ薬は第Ⅰ相を飛ばして直接抱合されるので誤りです。ほかの選択肢(UDP-グルクロン酸転移酵素が触媒する/UDP-グルクロン酸が必要/フェノール性水酸基にも起こる/主にミクロソーム画分)はすべて正しい記述で、そのまま知識の確認リストになっています。
- 第103回 問131「グルクロン酸抱合に関する記述のうち、正しいのはどれか」。正答は2「UDP-グルクロン酸転移酵素は小胞体膜に局在する」。誤りの選択肢には「ウリジン二リン酸-β-D-グルクロン酸を補酵素とする」(正しくはα)、「UDP-グルクロン酸転移酵素に酵素誘導は起こらない」(誘導される)、「胆汁中の抱合体は小腸上皮細胞のβ-グルクロニダーゼで加水分解される」(正しくは腸内細菌)が並びます。αとβの区別が、そのまま正誤判定に使われています。
- 第102回 問43「ヒドロキシ基を有する薬物(R-OH)のグルクロン酸抱合体を示す化学構造はどれか」。構造式そのものを選ばせる出題です。
- 第101回 問43「一般に、薬物の水溶性が低下する代謝反応はどれか」。正答は5「アセチル抱合」。
- 第103回 問130(労働衛生)では「クロロホルムへの曝露により、尿中へのメチル馬尿酸の排泄量が増加する」という誤りの選択肢が出ています。メチル馬尿酸はキシレンの指標であって、クロロホルムのものではありません。曝露物質と尿中代謝物の対応が狙われます。
まとめ
- グルクロン酸抱合:供与体はUDP-α-D-グルクロン酸、生成物はβ-グルクロニド。αで来てβで終わる。酵素はUGTでミクロソーム画分(小胞体膜)
- 硫酸抱合:供与体は活性硫酸(PAPS)。SO₄²⁻+2ATPから作られる。基質はOH・NH₂、酵素は細胞質
- アセチル抱合:供与体はアセチルCoA、酵素はNAT。イソ「ニ」アジド=NAT「2」。日本人は代謝能が高い人が多い。水溶性は下がる
- アミノ酸抱合:異物側が活性化される唯一の抱合。トルエン→(CYP・ADH・ALDH)→安息香酸→ベンゾイルCoA→グリシン抱合→馬尿酸。馬尿酸=トルエン、メチル馬尿酸=キシレンの曝露指標。酵素はミトコンドリア
次はグルタチオン抱合とメルカプツール酸を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
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衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
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