
「どの物質が、どこのがんを起こすか」の一対一対応を覚える単元です。衛生で最も出題頻度が高い対応表のひとつで、化学物質の毒性の単元からも同じ内容が問われます。
そして、覚えにくさも折り紙つきです。ベンジジン、β-ナフチルアミン、ビス(クロロメチル)エーテル、塩化ビニルモノマー……名前だけ並べられても定着しません。
そこで、構造のイメージで引っ掛ける方法を使います。マインドマップに書き込まれている「玉が2つ+アンモニア」「肺は2つ」という覚え方です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
原因物質と部位の対応
職業がんは、原因物質が現場で何に使われていたかを思い浮かべると覚えやすくなります。染料の原料だったベンジジンとβ-ナフチルアミンは膀胱がん、断熱材のアスベスト(石綿)は中皮腫、塩化ビニルモノマーは肝血管肉腫、印刷工場の洗浄剤(1,2-ジクロロプロパン・ジクロロメタン)は胆管がんです。ほかに、ビス(クロロメチル)エーテルが肺がん、ヒ素が皮膚がん、ベンゼンが白血病の原因として出ます。
がんの種類で数えると7つです。これだけ覚えれば足ります。
覚え方①:膀胱がんは「玉が2つ+アンモニア」
ベンジジンとβ-ナフチルアミン。どちらも膀胱がんです。
構造を見てください。
- ベンジジン:ベンゼン環が2つつながっていて、両端にNH₂
- β-ナフチルアミン:ナフタレン(ベンゼン環が2つ縮合したもの)にNH₂
どちらも「ベンゼン環が2つ+アミノ基」です。マインドマップではこれを「玉が2つ+アンモニア」と表現しています。丸い環が2つあって、そこにNが付いている形を見たら膀胱がん。
なぜ膀胱なのかにも理屈があります。芳香族アミンは肝臓でCYPによりN-ヒドロキシ化され、抱合を受けて尿中に排泄されます。その過程で膀胱上皮にニトレニウムイオンという反応性の高い中間体が生じ、DNAに結合する。尿が溜まる場所だから膀胱、というわけです。
実際、第107回・問23で「2-ナフチルアミンが生体内で代謝的活性化されてニトレニウムイオンを生じる過程において、最初に起こる代謝反応はどれか」が出題され、答えはN-ヒドロキシ化でした。代謝活性化の単元と直結しています。
覚え方②:肺がんは「肺は2つ」
ビス(クロロメチル)エーテル。構造は Cl-CH₂-O-CH₂-Cl で、酸素を挟んで左右に分かれている形です。
マインドマップの覚え方は2段構えです。
- エーテル → 吸入麻酔薬のイメージ → 吸入だから肺
- ビス(=2つ)、そして肺も左右に2つ
「エーテル」という語から吸入麻酔 → 肺と連想し、左右に分かれた構造を肺の左右と重ねる。強引ですが、そのぶん忘れません。
覚え方③:残りは素直に
- 胆管がん = ジクロロプロパン、ジクロロメタン(洗浄剤)
- 中皮腫 = アスベスト
- 肝血管肉腫 = 塩化ビニルモノマー
- 皮膚がん = ヒ素
- 白血病 = ベンゼン
アスベスト → 中皮腫は、職業病の分類でも粒子状物質でも出てくるので、繰り返し目にするうちに定着します。アスベストは肺がんと悪性中皮腫の両方を起こすという点に注意してください。
塩化ビニルモノマーは、重合してポリ塩化ビニル(プラスチック)になる物質です。家庭用エアゾルの噴射剤としても使われていました。肝血管肉腫という珍しいがんとセットで覚えます。
ヒ素 → 皮膚がんは、実験でも使われるほど確立した関係です(ラットにヒ素を塗って皮膚がんを作らせる、という使われ方がある)。ヒ素は慢性ヒ素中毒や毛髪中のヒ素(曝露バイオマーカー)でも登場します。
ベンゼン → 白血病は、骨髄毒性から来ています。ベンゼンは造血機能障害を起こし、再生不良性貧血から白血病に至ります。ベンゼンの曝露バイオマーカーは尿中フェノールでした。
間違えやすい組合せ
国試は入れ替えで誤り選択肢を作ります。実際に出たものを挙げます。
| 誤り選択肢 | 正しくは |
|---|---|
| 塩化ビニルモノマーは、膀胱がんを引き起こす | 肝血管肉腫(第106回・問131) |
| ベンジジンは、造血機能障害を引き起こす | 膀胱がん。造血機能障害はベンゼン(第106回・問131) |
| 塩化ビニルモノマーは、アセチルコリンエステラーゼの阻害により神経毒性を示す | 有機リン系農薬の記述(第108回・問132) |
「ベンジジン」と「ベンゼン」は名前が似ているのに、行き先が全然違う(膀胱がん vs 白血病)。ここが最大の落とし穴です。
ベンジ「ジン」は環が2つ → 膀胱。ベンゼンは環が1つ → 白血病。 環の数で切ってください。
そして、塩化ビニルモノマーは膀胱がんではなく肝血管肉腫。この入れ替えは第106回で実際に使われました。
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第106回・問131 | 化学物質の主な有害作用(2つ) | 正しいのはアスベストは肺がんや悪性中皮腫の原因とシアン化水素はシトクロムオキシダーゼを阻害。「塩化ビニルモノマーは膀胱がん」「ベンジジンは造血機能障害」は誤り |
| 第111回・問236-237 | 45歳男性、21〜30歳に化学工場で化学物質を取扱い、膀胱がんと診断 | 曝露されていた可能性が高い化学物質を構造式から2つ選ぶ。膀胱がん=芳香族アミンの対応が分かっていれば構造で選べる |
| 第107回・問23 | 2-ナフチルアミンが代謝的活性化されてニトレニウムイオンを生じる過程の最初の代謝反応 | N-ヒドロキシ化 |
| 第106回・問135 | 発がん物質の代謝活性化(2つ) | 「ビス(クロロメチル)エーテルはグルタチオン抱合により活性化される」は誤り。スチレン→スチレンオキシド、サイカシンは正しい |
| 第108回・問132 | 化学物質の毒性(2つ) | 塩化ビニルモノマーにアセチルコリンエステラーゼ阻害を結びつける誤り選択肢 |
| 第107回・問322 | アスベストによる悪性中皮腫 | 潜伏期間が長いこと、感染性がないこと |
第111回・問236-237は、この単元の到達点です。「化学工場で働いていた人が膀胱がんになった。曝露していた可能性が高い物質は?」——選択肢は構造式で示されます。名前ではなく構造で選ばせる。「ベンゼン環が2つ+アミノ基を探す」という見方ができれば、名前を知らなくても選べます。
まとめ
- 膀胱がん = ベンジジン、β-ナフチルアミン。「玉が2つ+アンモニア」(ベンゼン環2つ+アミノ基)
- 芳香族アミンはN-ヒドロキシ化 → ニトレニウムイオンで活性化。尿が溜まる膀胱でがんを起こす
- 肺がん = ビス(クロロメチル)エーテル。「エーテル→吸入→肺」「ビス=2つ、肺も2つ」
- 胆管がん = 1,2-ジクロロプロパン、ジクロロメタン(洗浄剤)
- 中皮腫 = アスベスト(肺がんも起こす)
- 肝血管肉腫 = 塩化ビニルモノマー(プラスチック・エアゾル噴射剤)
- 皮膚がん = ヒ素、白血病 = ベンゼン
- ベンジジン(環2つ)は膀胱がん、ベンゼン(環1つ)は白血病。名前が似ているので環の数で切る
次は学校保健|学校薬剤師の職務と学校環境衛生基準の数値を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
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