疾病の予防

学校保健|学校薬剤師の職務と学校環境衛生基準の数値【薬剤師国家試験】

疾病の予防(学校保健)のマインドマップ
疾病の予防(学校保健)のマインドマップ

薬剤師の仕事として、国試に最も頻繁に登場する「職場」が学校です。過去15年分を見ると、学校薬剤師は必須問題でも実践問題でも繰り返し出ています。しかも実践問題では、衛生と実務にまたがる連問として出る。取りこぼしの影響が大きい単元です。

そして、この単元は覚え方に大きなコツがあります。学校環境衛生基準の数値を単独で暗記しないこと。上水道の水質基準や室内環境の基準と比べて、「同じか、緩いか、厳しいか」で覚える。講義でも「室内環境と上水道をやってから、それと比べてどうかを見てほしい」と強調されています。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

学校保健安全法と学校薬剤師の配置

学校薬剤師は、学校保健安全法に基づいて配置されます。

大学以外の学校に、学校薬剤師を置く。

ポイントは2つです。

配置 理由
幼稚園 置く 学校だから(文部科学省管轄)
小・中・高・特別支援学校 置く 学校だから
大学 置かない 条文で除かれている
保育所 置かない 学校ではない(こども家庭庁/旧厚生労働省の所管)

幼稚園と保育所の違いが、この単元の名物です。

講義の説明がそのまま覚え方になります。保育所は0歳児・1歳児から預かる。「保育」=育てることなので福祉の所管。一方、幼稚園は3歳から。「教育」の場なので文部科学省の所管で、学校教育法上の学校です。

学校かどうか → 学校薬剤師を置くかどうか。 管轄が分かれば配置も分かる、という構造になっています。

大学が除かれているのも要注意です。「学校なのに置かない」例外なので、そのまま選択肢になります(第107回・問80)。

学校薬剤師の職務

学校薬剤師の職務
学校薬剤師の職務
  • 学校保健計画・学校安全計画の立案に参加すること
  • 環境衛生検査に従事すること
  • 学校の衛生環境に必要な指導・助言を行うこと
  • 健康相談・保健指導に従事すること

そして、やらないことも同じくらい重要です。

学校薬剤師は、学校で調剤しない。

「保健室内での調剤」は職務ではありません(第110回・問86でそのまま誤り選択肢になっています)。同様に、救急時の一般用医薬品の販売もワクチンの投与も職務ではありません。

一方、薬物乱用防止のための教育は職務に含まれます(第110回・問86の正解)。「保健指導に従事する」の一部として位置づけられます。

やること=計画・検査・指導助言・相談。やらないこと=調剤・販売・投与。 この線引きで切ってください。

学校環境衛生基準①:教室等の環境

教室等の環境に係る基準
教室等の環境に係る基準
検査項目 基準 設定の意図
換気(二酸化炭素) 1,500ppm(0.15%)以下が望ましい 室内環境(建築物衛生法)の0.1%より少し緩い
温度 18℃以上28℃以下が望ましい 室内環境の指標にも設定されている項目
相対湿度 30%以上80%以下が望ましい 同上
気流 0.5m/秒以下が望ましい 同上
浮遊粉じん 0.10mg/m³以下 同上
一酸化炭素(CO) 6ppm以下 ストーブの使用を想定
二酸化窒素(NO₂) 0.06ppm以下が望ましい ストーブの使用を想定
揮発性有機化合物(VOC) ホルムアルデヒド100μg/m³以下ほか6物質 室内環境のシックハウス症候群と同じ
ダニ又はダニアレルゲン 100匹/m²以下 室内環境のハウスダストと同じ

CO₂の1,500ppm:なぜ緩いのか

建築物衛生法(いわゆるビル管法)の室内環境基準は0.1%(1,000ppm)です。学校は1,500ppm(0.15%)。学校のほうが緩い。

理由は講義のとおりです。教室は子どもが密に詰め込まれているので、1,000ppmでは現実的に達成できない。だから少し緩めに設定されている。

「学校 > 室内環境」という大小関係さえ覚えておけば、どちらの数字か迷いません。必要換気量と換気回数の計算でこの数値を使うので、計算単元と合わせて確認してください。

COとNO₂は「ストーブ」

なぜ教室でCOとNO₂を測るのか。 答えは石油ストーブ・ファンヒーターの使用を想定しているからです。開放型の燃焼器具は、不完全燃焼でCOを、燃焼でNO₂を出します。

第111回・問242-243では、まさに「暖房設備が故障し、一時的に石油ファンヒーターを使用している教室」が舞台になりました。測定すべき項目は一酸化炭素と二酸化窒素。そしてNO₂の基準0.06ppmを使った換気回数の計算まで問われています。

VOCとダニは「室内環境と同じ」

揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド・トルエン・キシレン・パラジクロロベンゼン・エチルベンゼン・スチレン)とダニは、室内環境と健康で扱うシックハウス症候群・ハウスダストの基準とそろえてあります。新しく覚え直す必要はありません。

学校環境衛生基準②:飲料水

飲料水等の基準
飲料水等の基準

学校の飲料水の基準は、水道法の水質基準と同じです。

  • 大腸菌:検出されないこと
  • 遊離残留塩素が0.1mg/L以上、または結合残留塩素が0.4mg/L以上

大腸菌を測る理由を押さえておいてください。病原性があるから危険なのではなく、大腸菌が検出されること自体が「し尿汚染の可能性がある」というサインだからです。指標菌としての役割です(水道水の水質基準)。

残留塩素0.1mg/Lは、そのまま水道法の基準と同じ値です。

学校環境衛生基準③:水泳プール

水泳プールの基準
水泳プールの基準
検査項目 基準
遊離残留塩素 0.4mg/L以上であること。また、1.0mg/L以下が望ましい
pH値 5.8以上8.6以下
大腸菌 検出されないこと
一般細菌 200コロニー(個)/mL以下
有機物等 過マンガン酸カリウム消費量12mg/L以下
総トリハロメタン 0.2mg/L以下が望ましい
濁度 2度以下

飲料水との比較で覚える

プールの基準は、飲料水と比べると覚えやすくなります。

飲料水(水道) プール 関係
遊離残留塩素 0.1mg/L以上 0.4mg/L以上 プールは4倍
一般細菌 100コロニー/mL以下 200コロニー/mL以下 プールは2倍(緩い)
大腸菌 検出されないこと 検出されないこと 同じ
pH 5.8以上8.6以下 5.8以上8.6以下 同じ

塩素は4倍、細菌は2倍、大腸菌とpHは同じ。 これで全部言えます。

塩素が4倍なのは、人が入るから。一般細菌が2倍なのも、人が入るから(飲むわけではないので緩めてよい)。理由が同じなので、セットで覚えられます。

結合残留塩素がない理由

プールの基準には遊離残留塩素しかありません。飲料水には「結合残留塩素0.4mg/L以上」という代替基準があるのに、です。

理由は結合残留塩素(クロラミン)は殺菌効果が弱いから。プールは汚染負荷が大きいので、効果の強い遊離残留塩素でなければ管理できない、という考え方です(遊離残留塩素と結合残留塩素の違い)。

語呂:パコパコH

pH 5.8〜8.6 の覚え方です。

「パコパコH」= 8585 → だいたい pH 5.8〜8.6

パ=8、コ=5、パ=8、コ=5。数字の並びは8585で、pHは7の前後だと分かっているので、5.8と8.6に並べ替えられる、という使い方です。厳密な語呂ではなく「だいたいこの数字」を思い出すための引っかかりです。

水道水のpHも同じ5.8〜8.6なので、1つ覚えれば2か所で使えます。

過マンガン酸カリウム消費量とは

水中の有機物の量を示す指標です。過マンガン酸カリウムは酸化剤なので、有機物が多いほど多く消費される。

プールでは、入泳者の汗・皮脂・毛髪などが有機物になります。 だから入泳者数が多いほど、入水前のシャワーが不十分なほど、消費量が増える。そして有機物が多ければ、塩素と反応してトリハロメタンが生成しやすくなるという連鎖も起こります。

第111回・問240では、この過マンガン酸カリウム消費量の滴定計算がそのまま出題されました。残留塩素・塩化物イオン・硬度の測定法と合わせて確認してください。

測定のときの注意:2つ

マインドマップに書かれている、測り方の注意です。

  • 光及び照明:白衣を脱いで測定する(白衣が光を反射して、照度を実際より高く測ってしまうため)
  • 騒音レベル:子どもがいないときに測定する(体育の時間などで教室が空いているときに測る)

どちらも「測定者や在室者の存在が測定値を歪める」という同じ発想です。地味ですが、実務寄りの選択肢として出ることがあります。

なお照度の基準は、教室の下限300lx、教室・黒板とも500lx以上が望ましいです。

国試ではこう問われる

回 問われ方 ポイント
第107回・問80 学校薬剤師の設置が法律で義務付けられていないのはどれか 大学。幼稚園・小中学校・高校・特別支援学校には置く
第110回・問86 学校薬剤師の職務はどれか 薬物乱用防止のための教育。保健室内での調剤・一般用医薬品の販売・ワクチンの投与・校内土壌の放射能汚染検査はいずれも職務ではない
第109回・問196-197 教室の二酸化炭素濃度が1,600ppm。学校薬剤師の対応 基準は1,500ppm以下が望ましい。検知管法の原理(pH指示薬の色の変化)も問われる
第111回・問242-243 石油ファンヒーター使用教室で測定すべき項目と換気回数の計算 測定項目は一酸化炭素と二酸化窒素。NO₂の基準0.06ppmを使って換気回数を計算
第107回・問244-245/第104回・問244-245 改築した教室で目・鼻・のどの刺激 → 原因物質と測定法 ホルムアルデヒドとキシレン(第107回)。ホルムアルデヒドはDNPH誘導体化HPLC、キシレンはGC-MS
第111回・問240-241 プール水の過マンガン酸カリウム消費量の滴定計算と助言 入泳者数やシャワー不足で消費量が増える。大腸菌が検出されたら遊泳させない
第110回・問204-207 プール水の遊離残留塩素とpHの測定、消毒剤と凝集剤の誤混合 次亜塩素酸ナトリウム+ポリ塩化アルミニウム → 塩素ガス。測定はプール内の対角線上ほぼ等間隔の3か所
第109回・問242-243 浸水被害後の学校の飲料水の臨時検査 一般細菌の検出、遊離残留塩素0.05mg/Lは基準(0.1mg/L以上)を満たさないので飲料に適さない
第111回・問244-245 学校給食施設のWBGT(暑さ指数)の計算 屋内は 0.7×湿球+0.3×黒球。屋外は0.7×湿球+0.2×黒球+0.1×乾球

学校薬剤師は、過去15年で21回分のファイルにヒットします。これだけ繰り返し出る題材は他にありません。実践問題では必ず「学校薬剤師が○○を測定した」という設定で出るので、基準値とその根拠を押さえておけば、衛生と実務の両方を取れます。

まとめ

  • 学校薬剤師は学校保健安全法に基づき、大学以外の学校に置く。幼稚園は置く(学校)、保育所は置かない(学校ではない)。管轄は幼稚園=文部科学省、保育所=福祉
  • 職務は計画立案への参加・環境衛生検査・指導助言・健康相談と保健指導。調剤・販売・投与はしない
  • 教室のCO₂は1,500ppm以下が望ましい(室内環境の0.1%より緩い)。COとNO₂はストーブの使用を想定
  • VOCとダニは室内環境の基準と同じ
  • 飲料水は水道法と同じ。遊離残留塩素0.1mg/L以上、大腸菌は検出されないこと
  • プールは遊離残留塩素0.4mg/L以上(飲料水の4倍)、一般細菌200個/mL以下(水道の2倍)、大腸菌不検出・pH5.8〜8.6は同じ
  • 結合残留塩素は効果が弱いのでプールの検査項目に入っていない
  • pHの語呂は「パコパコH」= 8585 → 5.8〜8.6
  • 有機物は過マンガン酸カリウム消費量で測る(プールは12mg/L以下)
  • 照度は白衣を脱いで、騒音は子どもがいないときに測る

次は疾病の予防まとめ|22記事で全体像をつかむで、Bブロック全体を俯瞰してみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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