
前の記事で沈殿とろ過まで終わりました。残る工程は消毒です。
この消毒のパートは、衛生の中でもかなり得点源になりやすいところです。というのも、聞かれることが「遊離残留塩素とは何か」「結合残留塩素とは何か」「なぜ基準値が0.1と0.4で違うのか」という、化学式とグラフを1回理解すれば全部つながる内容だからです。次の記事で扱う不連続点塩素処理法も、この記事の内容がそのまま土台になります。ここは丁寧に行きましょう。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
出発点は水道法の1行
まず、法律が何を要求しているかを押さえます。水道法では、
蛇口(給水栓)から遊離残留塩素0.1mg/L以上(結合残留塩素の場合は0.4mg/L以上)を保持するように塩素消毒せよ
と決められています。ここで注目してほしいのは2点です。ひとつは「塩素消毒は必ず行わなければならない」ということ。もうひとつは、遊離なら0.1でいいのに、結合だと0.4必要=4倍という差がついていることです。
この4倍の差の理由が、これから説明する内容そのものです。
塩素を水に入れると何が起きるか

消毒に使うのは塩素(Cl₂)です。これを水に入れると、次の2段階の平衡反応が起こります。
Cl₂ + H₂O ⇄ HClO + H⁺ + Cl⁻
HClO ⇄ H⁺ + ClO⁻
式を丸暗記する必要はありません。右側にH⁺があることに注目して、ルシャトリエの原理どおりに考えればいいだけです。
- 強酸性条件(H⁺が多い):1つ目の式が左に寄る → Cl₂のまま
- 弱酸性条件:1つ目の式が右に寄って、2つ目はまだ左 → HClO(次亜塩素酸)が主役
- アルカリ条件(H⁺が少ない):2つ目の式も右に寄る → ClO⁻(次亜塩素酸イオン)が増える
つまり、水の中に塩素をどんな形で存在させられるかは、pHが決めているということです。
pHと存在割合、そして殺菌力の順番

横軸にpH、縦軸にHClOの存在割合をとると、山なりのグラフになります。pH4〜5付近でHClOの割合が最大になり、そこからpHが上がるにつれてHClOは減り、代わりにClO⁻が増えていきます。
そして、このHClOとClO⁻をまとめて遊離残留塩素と呼びます。
ここが一番大事なところです。殺菌力と安定性は、きれいに逆の順番になります。
| HClO(次亜塩素酸) | ClO⁻(次亜塩素酸イオン) | クロラミン(結合残留塩素) | |
|---|---|---|---|
| 殺菌力 | 強 | 中 | 弱 |
| 安定性 | 小 | 中 | 大 |
なぜ殺菌力と安定性が逆になるのか
HClOは酸化力で菌を殺します。相手を酸化するということは、自分は還元されるということ。つまりよく反応する=安定性が低いわけです。逆に、反応しにくいものは長持ちしますが、そのぶん菌も殺せません。殺菌力と安定性が逆になるのは、この一点から説明がつきます。
この表を覚えるのではなく、「殺菌力が強い=自分がよく反応する=安定じゃない」という一文を覚えてください。並び順はそこから作れます。
結合残留塩素(クロラミン)はどうやってできるか

遊離残留塩素 + 水中のアミン類 ⇄ 結合残留塩素(クロラミン)
水の中にアンモニアなどのアミン類があると、遊離残留塩素がそれと結合してクロラミンになります。塩素が1個ずつ置き換わっていく形で、3種類できます。
- NH₃ + HClO ⇄ NH₂Cl + H₂O(モノクロラミン)
- NH₂Cl + HClO ⇄ NHCl₂ + H₂O(ジクロラミン)
- NHCl₂ + HClO ⇄ NCl₃ + H₂O(トリクロラミン)
この3つをまとめてクロラミン、すなわち結合残留塩素と呼びます。NH₃のHが1つずつClに置き換わっていくだけなので、式は自分で書けるようにしておくと安心です。
なぜ基準値が0.1と0.4で違うのか
ここまで来れば、冒頭の「4倍の差」の理由が見えてきます。
理由1:クロラミンは殺菌力が弱い
さきほどの表のとおり、殺菌力はHClO > ClO⁻ > クロラミンの順です。弱いものでやるなら、そのぶん量が要ります。
理由2:クロラミンはさらに反応して消えてしまう
クロラミンは安定性が高いとはいえ、塩素が加わっていくと最終的に窒素(N₂)になって気体として飛んでいってしまいます。
NH₂Cl + HClO → N₂↑ + HCl
窒素として抜けてしまえば、残留塩素としての効果はなくなります。消えてしまう可能性があるものに頼るなら、多めに入れておくしかないわけです。
以上から、水道水の消毒では「結合残留塩素ではなく、遊離残留塩素を多く保ちたい」というのが基本方針になります。この方針を実現する方法が、次の記事で扱う不連続点塩素処理法です。
まとめ
- 水道法は遊離残留塩素0.1mg/L以上(結合残留塩素なら0.4mg/L以上)を給水栓で保持するよう定めている
- 塩素は水中でCl₂ ⇄ HClO ⇄ ClO⁻と平衡にあり、どの形をとるかはpHが決める。HClOはpH4〜5付近で最大
- HClOとClO⁻をまとめて遊離残留塩素という
- 殺菌力はHClO > ClO⁻ > クロラミン、安定性はその逆。「殺菌力が強い=よく反応する=安定じゃない」で説明がつく
- 遊離残留塩素+アミン類 → クロラミン(結合残留塩素)。NH₂Cl・NHCl₂・NCl₃の3種類
- クロラミンは殺菌力が弱く、さらに反応するとN₂になって飛んでしまうため、基準値が4倍必要になる
次は不連続点塩素処理法の覚え方|塩素要求量と塩素消費量を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
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