
前の記事で、水道の原水には地表水と地下水があり、水質にはっきり差があることを見ました。今回はその原水を、どうやって飲める水に変えていくかという「浄化方法」の話です。
この単元は、覚えることが多そうに見えて、実は「きれいな原水はゆっくり、汚い原水は速く」という1本の軸で全部つながっています。この軸さえ通っていれば、4m/日と120m/日という数字も、生物膜があるかないかも、土地が広く要るか要らないかも、全部そこからぶら下げて覚えられます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
原水から給水までの流れをまず通しで見る

細かい話に入る前に、全体の流れを通しで押さえます。2つのルートがありますが、前半と後半は共通です。
原水 → スクリーン → 沈砂池 → 着水井 → 沈殿 → ろ過 → 消毒 → 配水池 → 給水
それぞれの工程が何をしているかを一言で言うと、こうなります。
| 工程 | やっていること |
|---|---|
| スクリーン | 大きなゴミを取り除く |
| 沈砂池 | 砂や砂利など細かいものを除去する |
| 着水井 | 水位の調整をする |
| 沈殿池 | 浮遊物質を沈める |
| ろ過池 | 砂の層などを通して水をきれいにする |
| 消毒 | 塩素で消毒する(必ず行う) |
分岐するのは沈殿とろ過の部分だけです。ここが「普通沈殿→緩速ろ過」なのか「薬品凝集沈殿→急速ろ過」なのかで、2つのルートに分かれます。逆に言えば、それ以外の工程は共通なので、覚えるべき対比はこの1か所に集中しています。
普通沈殿→緩速ろ過:きれいな原水を、ゆっくり、おいしく

まず良質な原水のときに使うルートです。
原水がもともときれいなので、薬品を加えなくても、普通の沈殿池に置いておくだけで浮遊物質が沈んでくれます。その上澄みを緩速ろ過池に送ります。
緩速ろ過池の主役は、砂利層の表面にできる好気性の生物膜です。ここに住みついた微生物が、有機物・微生物・マンガン・アンモニアなどを分解して取り除いてくれます。ろ過というと物理的にこすだけのイメージがありますが、緩速ろ過は物理的作用に加えて生物学的作用でもきれいにしているのがポイントです。
- ろ過速度は4〜5m/日程度(ゆっくり)
- 生物膜のはたらきで、おいしい水になる
- ただし、ろ過が遅いぶん広大な土地が必要
「全部これでやれたらいいけれど、東京近郊のように土地がないところでは厳しい」というのが現実的な制約です。味がよくても、必要な量を作れなければ水道になりません。
薬品凝集沈殿→急速ろ過:汚れた原水を、速く

こちらは都市近郊の汚濁が進んだ原水のときに使うルートで、特徴は緩速ろ過のちょうど裏返しです。
- ろ過速度は120〜150m/日程度(速い)
- ろ過池の面積が小さくて済む
- 生物膜がないので、おいしい水にはならない
数字で比べると、4〜5m/日と120〜150m/日で、およそ30倍の差があります。裏を返すと、緩速ろ過で同じ供給量をまかなおうとすれば30倍の面積が要る、ということです。都市部が急速ろ過を選ぶ理由がここにあります。
そしてこの制約があるため、日本で最も多く使われている浄化方式は「薬品凝集沈殿→急速ろ過」のほうです。ゆっくりおいしく作る緩速ろ過が主流ではない、という点は取り違えやすいので気をつけてください。
薬品凝集沈殿のしくみ
では、汚れた水をどうやって短時間で沈めるのか。ここで出てくるのが凝集剤です。
水中の汚れは、基本的にマイナスに帯電したコロイドの状態で漂っています。同じマイナスどうしなので反発し合い、いつまでもまとまりません。
そこで加えるのがアルミニウムの塩です。ここは「凝集剤といえばアルミニウム」とだけ覚えておけば十分で、具体的には硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウムが使われます。
加えたアルミニウム塩は水中のアルカリ分と反応して、水酸化アルミニウムのゲル(プラスに帯電したコロイド)になります。このプラスがマイナスの汚れを電気的に中和してくれるので、反発がなくなり、汚れどうしがくっついてフロックという大きな塊になります。大きくなれば、あとは重力で沈んでいくというわけです。
ここで注意してほしいのは、加えるのはアルミニウムの塩で、水酸化アルミニウムは水の中でできるものだということです。順番を逆に覚えていると、機序を問う問題でつまずきます。
急速混和池で凝集剤を混ぜ、フロック形成池でフロックを育て、薬品沈殿池で沈め、上澄みを急速ろ過池に送る——これが急速ろ過ルートの中身です。
2つを並べて覚える
| 項目 | 普通沈殿→緩速ろ過 | 薬品凝集沈殿→急速ろ過 |
|---|---|---|
| 使う場面 | 良質な原水 | 都市近郊の汚濁が進んだ原水 |
| ろ過速度 | 4〜5m/日程度 | 120〜150m/日程度 |
| 生物膜 | あり(好気性) | なし |
| 味 | おいしい | おいしくない |
| 必要な土地 | 広大な土地が必要 | 面積は小さくてよい |
| 薬品 | 不要 | アルミニウムの塩(硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム) |
表の1行目さえ思い出せれば、残りの行は「きれいな水はゆっくり丁寧に、汚い水は薬品で一気に」という発想から順に出てきます。
まとめ
- 浄水処理の流れはスクリーン→沈砂池→着水井→沈殿→ろ過→消毒→配水池→給水。分岐するのは沈殿とろ過だけ
- 普通沈殿→緩速ろ過は良質な原水向け。4〜5m/日とゆっくりだが、好気性の生物膜が有機物・微生物・Mn・アンモニアを除いてくれるので味がよい。ただし広大な土地が必要
- 薬品凝集沈殿→急速ろ過は汚濁した原水向け。120〜150m/日と速く、面積も小さくて済むが、生物膜がないので味はよくない。日本で最も多く使われているのはこちら
- 薬品凝集沈殿は「凝集剤といえばアルミニウム」。加えるのは硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウムで、それが水中で水酸化アルミニウムのゲル(プラス)になり、マイナスの汚れを電気的に中和してフロックにする
- 速度の差はおよそ30倍。都市部が急速ろ過を選ぶのはこの差が理由
次は遊離残留塩素と結合残留塩素の違い|次亜塩素酸のpH依存性を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
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