労働衛生

職業病と労災の統計|減圧症・騒音性難聴・じん肺と業務上疾病の傾向【薬剤師国家試験】

労働衛生のマインドマップ
労働衛生のマインドマップ

この単元は2階建てになっています。1階が疾病分類——業務上疾病を「何が原因か」で仕分ける枠組み。2階が統計——実際にどの疾病が多いのか。

そして国試は、その両方から出ます。分類のほうは「レイノー病は物理的要因か化学的要因か」といった線引き、統計のほうは「業務上疾病で最も多いのはどれか」という一問一答。どちらも覚える量は少ないのに配点は同じなので、取りこぼすともったいない単元です。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

疾病分類:原因で仕分ける

業務上疾病は、原因となった要因で分類されます。

分類 疾病
負傷に起因 災害性腰痛
物理的要因 減圧症、騒音性難聴、振動障害(白ろう病)、熱中症
化学的要因(がんは含まず) 粉じんによるもの(じん肺・けい肺・アスベスト肺)、有機溶剤中毒・金属中毒
作業態様(作業条件) 頸肩腕症候群、職業性腰痛
病原体 新型コロナウイルス感染症など
過度な業務による脳・心臓疾患等
強い心理的負荷を伴う精神障害
がん (別枠。職業がんで扱う)

注目すべきは、粉じんが「化学的要因」に入っていることです。直感的には物理的な刺激に思えますが、第107回・問126で「けい肺や石綿肺は、粉じんの曝露による化学的要因により発症する」が正しい記述として出題されています。マインドマップの分類どおりです。

そして「化学的要因にがんは含まない」。職業がんは別枠で扱われます。

物理的要因の職業病

減圧症(潜函病・ケーソン病)

高圧環境から急速に常圧へ戻ることで起こります。

  • 深いところ(高圧)では、窒素が血液に溶け込みやすくなる
  • 急に浮上すると、溶けていた窒素が泡になる
  • その泡が血行障害を起こす

潜水作業、スキューバダイビング、潜函(ケーソン)工法で起こります。「高圧 → 急速に常圧復帰 → 窒素の泡 → 血行障害」——この4段階で説明できれば十分です。物理のヘンリーの法則(気体の溶解度は分圧に比例)がそのまま効いている現象です。

騒音性難聴

高音域から聞こえなくなり、次第に低音域も聞こえづらくなるのが特徴です。

「高音域が先」という順番が問われます。4,000Hz付近の聴力低下(c⁵ dip)から始まるためです。

振動障害(白ろう病)

チェーンソーや削岩機など、振動する工具を使う作業で起こります。

  • 別名白ろう病。レイノー現象(レイノー症候群)が特徴
  • 指が白くなる(血管攣縮による血流障害)

第107回・問126では「レイノー病は、電離放射線の曝露による物理的要因により発症する」が誤りとして出題されました。 要因の分類としては物理的要因で正しいのですが、電離放射線ではなく振動が原因です。誤りの作り方が細かいので、原因そのものまで押さえてください。

熱中症

著しく暑熱な場所での作業で起こります。物理的要因に分類されます。

熱中症の指標であるWBGT(暑さ指数)は、感覚温度と補正感覚温度の単元で扱っています。WBGTは第110回・第111回で2年連続、計算問題として出題されているので、そちらも確認しておいてください。

粉じんによる疾病:5μmの境目

ここは数字が出るので、丁寧に見ます。

粒径 疾患 内容
5μm以下 じん肺 線維性粉じんの長期吸入による
けい肺 二酸化ケイ素(シリカ)の吸入による
5μm以上 アスベスト肺 アスベスト(石綿)の吸入による。肺がん・悪性中皮腫につながる

5μm以下の粒子は肺の奥(肺胞)まで到達するというのが基本の考え方です(粒子状物質でも同じ話が出ます)。

一方で、アスベストは「5μm以上」の側に置かれています。これは、アスベストが繊維状だからです。WHOの計数基準では長さ5μm以上・幅3μm未満・アスペクト比3:1以上の繊維をアスベスト繊維として数えます。細くて長い針のような形なので、長さは5μmを超えても、細いために空気の流れに乗って肺胞まで届いてしまう。

そして、細くて刺さるような形なので、肺から排出されず長期間とどまって炎症を起こし続ける。それが肺がん・悪性中皮腫につながります。アスベストの詳細は粒子状物質で扱っています。

「アスベストは特定粉じん」という点も押さえてください。大気汚染防止法で特定粉じんに指定されているのはアスベストです(第100回・第97回)。

作業態様による疾病

  • 頸肩腕症候群:VDT作業(モニターを長時間見る作業)で起こる。いわゆる肩こり・首腕の障害
  • 職業性腰痛:重い物を扱う作業で起こる。災害性腰痛(ぎっくり腰のような突発的なもの)とは区別される

第97回・問19で「VDT作業従事者に多くみられる健康障害」として頸肩腕症候群が出題されています。

統計:業務上疾病で最も多いのは

業務上疾病の発生状況(令和2年)
業務上疾病の発生状況(令和2年)

図の出典:厚生労働省「令和2年 業務上疾病発生状況」を基に作成。これは新型コロナ流行期の特殊な年のデータです(後述)。

平常時の姿

平常時の業務上疾病は、次の形をしています。

  • 負傷に起因する疾病が全体の約7割
  • そのうち災害性腰痛が約6割(全体に対して)
  • 残りその他が約1割
  • 病原体による疾病は1〜2%程度

つまり、業務上疾病の過半数は腰痛です。工場の化学物質中毒でもアスベストでもなく、腰痛。ここが試験で狙われます。

令和5(2023)年のデータでも、負傷に起因する疾病が7,483件、うち災害性腰痛が6,132件で、この構造は変わっていません。

コロナ期のイレギュラー

令和2〜4(2020〜2022)年は例外です。

新型コロナウイルス感染症が業務上疾病として認定されたことで、通常1〜2%しかない「病原体による疾病」が、腰痛を抜いて最多になりました(上の図がその年のものです)。

講義では「青本もあえて令和元(2019)年のデータを載せている。試験側も出したくないだろうから、当面は出ないと見ている」と説明しています。実際、第108回・問17では2017〜2021年のグラフが示され、病原体による疾病が急増する様子を見せたうえで、Aに該当する疾病(=災害性腰痛)を答えさせるという出題になりました。コロナの山を見せながら、答えは平常時の主役という作りです。

覚え方は単純です。平常時の姿(負傷7割・腰痛6割)を覚えておき、コロナ期だけ例外だったと知っておく。 これで両方の出題に対応できます。

労災認定の傾向:脳・心臓疾患と精神障害

傾向
脳・心臓疾患 高い水準で推移。長時間労働との関連性が強い
精神障害 増加傾向。過重労働防止が課題

これは過労死等の労災補償状況として毎年公表されています。令和7(2025)年度の数字(2026年7月公表)を挙げておきます。

  • 脳・心臓疾患:請求1,254件、支給決定217件
  • 精神障害:請求4,958件、支給決定1,082件(前年度の1,055件を上回り、過去最多を更新)
  • 精神障害の出来事別で最多は上司等からのパワーハラスメント

「脳・心臓疾患は高い水準、精神障害は増加傾向」という定性的な傾向は、何年経っても変わっていません。数字そのものより、この2文を覚えてください。

そして過重労働(長時間労働)の防止が、両方に共通する対策です。長時間労働と脳・心臓疾患の関連性が強いというデータが、労災認定基準(いわゆる過労死ライン)の根拠になっています。

国試ではこう問われる

回 問われ方 ポイント
第103回・問20 業務上疾病のうち疾病者数が最も多いのはどれか 災害性腰痛。選択肢はレイノー病・胆管がん・酸素欠乏症・潜函病
第108回・問17 2017〜2021年の業務上疾病発生状況のグラフでAに該当する疾病 災害性腰痛。病原体による疾病(新型コロナ)の急増を見せたうえで問う
第107回・問126 職業性疾病と有害要因の組合せで誤っているもの 「レイノー病は電離放射線の曝露による物理的要因」が誤り(原因は振動)。「けい肺や石綿肺は粉じんの曝露による化学的要因」「頸肩腕症候群はVDT作業による作業態様要因」は正しい
第97回・問19 VDT作業従事者に多くみられる健康障害 頸肩腕症候群
第100回・問25/第97回・問133 大気汚染防止法で特定粉じんに指定されている物質 石綿(アスベスト)。アスベストは「酸やアルカリに耐性」「特定粉じんに指定」が正しい
第107回・問322-323 アスベストによる悪性中皮腫の健康相談 潜伏期間は長い(数十年)。飛沫感染はしない。公費負担医療制度の対象になりうる
第110回・問22 非電離放射線のうちガラス工白内障を引き起こすもの 赤外線。職業病の一つとして出題

第103回と第108回は、どちらも「最も多いのは災害性腰痛」を聞いています。必須問題でも一般問題でも出る、確実に取りに行くべき一問です。

まとめ

  • 業務上疾病は原因で分類される。負傷に起因/物理的/化学的/作業態様/病原体/脳・心臓疾患/精神障害
  • 粉じん(じん肺・けい肺・アスベスト肺)は「化学的要因」に分類される。がんは化学的要因に含まない
  • 減圧症は高圧→急速常圧復帰で窒素が泡になり血行障害
  • 騒音性難聴は高音域から。振動障害(白ろう病)はレイノー現象、原因は振動(放射線ではない)
  • 5μm以下の粉じんがじん肺・けい肺。アスベストは繊維状で、肺に留まり肺がん・悪性中皮腫を起こす。大気汚染防止法の特定粉じん
  • 頸肩腕症候群はVDT作業、職業性腰痛は重量物
  • 業務上疾病で最も多いのは災害性腰痛。平常時は負傷に起因が約7割、うち腰痛が約6割
  • 令和2〜4年は新型コロナで病原体による疾病が最多という例外的な年だった
  • 労災認定は脳・心臓疾患が高い水準、精神障害が増加傾向。長時間労働との関連が強い

次は職業がんと原因物質の覚え方を読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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