労働衛生

特殊健康診断と曝露バイオマーカー|金属・有機溶媒を尿中代謝物で覚える【薬剤師国家試験】

労働衛生のマインドマップ
労働衛生のマインドマップ

「有害物質 ─ バイオマーカー」の対応表を覚える単元です。正直、覚える量は多い。ですが、有機溶媒のほうは理屈で8割方導けます。

鍵になる考え方はこれです。尿中に出てくるということは、水に溶ける形に変わったということ。つまり、バイオマーカーは親化合物にOHやCOOHがついた、水溶性の高い代謝物になっています。この視点を持つと、表が「覚えるもの」から「読めるもの」に変わります。

そして、この単元最大の武器が「親化合物にメチルが付くと、代謝物にもメチルが付く」という対応です。トルエンとキシレンの関係がそのまま馬尿酸とメチル馬尿酸の関係になっている。構造の対応が、そのまま表の対応になっているわけです。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

特殊健康診断とは

労働衛生の3管理の健康管理に当たるものです。定期健康診断とは別に、有害業務に従事する労働者に対して実施が義務づけられています。

内容
実施義務のある業務 粉じん作業、潜函・潜水業務、放射線業務、特定化学物質の取扱い、鉛、四アルキル鉛、アスベスト、特定の有機溶剤などを扱う業務
検査項目 有害因子ごとに定められている(全員同じ項目ではない)
頻度 原則6か月以内ごとに1回

「有害因子ごとに検査がある」という点が本質です。鉛を扱う人には鉛用の検査、有機溶剤を扱う人には有機溶剤用の検査。そのために使うのが、これから見る曝露バイオマーカーです。

金属のバイオマーカー

有害物質 バイオマーカー
無機鉛 尿中δ-アミノレブリン酸(δ-ALA)、尿中コプロポルフィリン、血中鉛、赤血球中プロトポルフィリン
四アルキル鉛 血中鉛、尿中δ-アミノレブリン酸
無機水銀 尿中の水銀
アルキル水銀 尿・血液・毛髪中の水銀
カドミウム 尿蛋白(β₂-ミクログロブリン)
ヒ素 毛髪中のヒ素

注意:マインドマップでは「σ-アミノレブリン酸」と書かれていますが、正しくは「δ(デルタ)-アミノレブリン酸」です。国試の問題文も「δ-アミノレブリン酸」で出ます(第106回・問236-237)。 また、マインドマップは「無機鉛 → δ-ALA」「四アルキル鉛 → コプロポルフィリン」と割り振っていますが、これも正確ではありません。 尿中δ-ALAも尿中コプロポルフィリンも、どちらも鉛(無機鉛)曝露の指標です。実際、第106回では橋梁塗装作業者(無機鉛曝露)について「尿中のコプロポルフィリンを増加させる」が正しい記述として出題されています。四アルキル鉛健康診断でも、測るのは血中鉛と尿中δ-ALAです。

なぜ鉛でδ-ALAとコプロポルフィリンが増えるのか

理屈を知っておくと、選択肢の言い回しに強くなります。

鉛はヘム合成経路の酵素を複数阻害します。

  1. δ-ALA脱水酵素(ALAD)を阻害 → その手前のδ-ALAが行き場を失って蓄積し、尿中に出る
  2. フェロキラターゼを阻害(Fe³⁺→Fe²⁺への還元反応の阻害を含む) → プロトポルフィリンに鉄が入らず、赤血球中プロトポルフィリンが増える。上流のコプロポルフィリンも尿中に増える

つまり、ヘムが作れなくなって、その手前の材料が溜まる。だから鉛中毒では貧血が起こります。第103回でも「慢性毒性として成人では貧血、小児では中枢神経障害が問題となる」物質として無機鉛が出題されています。

コプロポルフィリンは、ピロール環が4つ環状につながった構造です(ポルフィリン骨格)。ヘムの前駆体だと理解しておけば、構造を見て選べます。

カドミウムとβ₂-ミクログロブリン

カドミウムは腎障害(近位尿細管障害)を起こします。その結果、低分子量タンパク質が再吸収されずに尿に出る。その代表がβ₂-ミクログロブリンです。

β₂-ミクログロブリンは、生物の免疫で出てくるMHCクラスIの構成成分と同じものです。名前を見て「どこかで聞いた」と思ったら、それで正解。イタイイタイ病の単元(四大公害病)ともつながります。

水銀:2つの違い

無機水銀は尿中、アルキル水銀(有機水銀)は尿・血液・毛髪中。

有機水銀のほうが脂溶性が高く、体内に広く分布して長く留まるので、測れる場所が多いと考えると筋が通ります。毛髪は過去の曝露履歴を反映するので、ヒ素と水俣病(メチル水銀)で使われるという共通点もあります。

有機溶媒のバイオマーカー:ここが本番

有害物質 尿中バイオマーカー
ベンゼン フェノール
トルエン 馬尿酸
キシレン メチル馬尿酸
n-ヘキサン 2,5-ヘキサンジオン
トリクロロエチレン
テトラクロロエチレン
トリクロロ酢酸
スチレン マンデル酸

覚え方①:メチルが付いたら、メチルが付く

これがこの単元の目玉です。

トルエンはベンゼンにメチル基(CH₃)が1つ付いたもの。キシレンはさらにもう1つメチル基が付いたもの。

そして代謝物側を見ると:

  • トルエン → 馬尿酸
  • キシレン → メチル馬尿酸

親化合物にメチルが1つ増えたら、代謝物にもメチルが1つ増える。 構造の対応が、そのまま代謝物の名前の対応になっています。

馬尿酸は、安息香酸とグリシンが結合したもの(ベンゾイルグリシン)です。トルエンのメチル基が酸化されてCOOHになり、そこにグリシンが抱合された形。キシレンなら、もう1つのメチル基がそのまま残るので「メチル馬尿酸」。

「トルエン・キシレンはセットで覚える」——バラバラに暗記するより、この対応で覚えるほうが圧倒的に落ちにくいです。

覚え方②:油っぽさから水っぽさへ

バイオマーカーは尿中で測ります。ということは、水に溶ける形になっているはずです。表を眺め直すと、全部そうなっています。

親化合物 → 代謝物 付いたもの
ベンゼン(ただのベンゼン環) フェノール OH
トルエン(CH₃) 馬尿酸 COOH+グリシン
キシレン(CH₃×2) メチル馬尿酸 COOH+グリシン(メチルは残る)
トリクロロエチレン トリクロロ酢酸 COOH
スチレン マンデル酸 OH+COOH
n-ヘキサン 2,5-ヘキサンジオン ケトン×2

OHかCOOHが付いている。 それだけです。脂溶性の有機溶媒を、水に溶ける形に変えて尿から捨てるという体の設計が、そのまま表になっています。

マンデル酸という名前だけは語呂が効かないので覚えるしかありませんが、構造を見ればOHとCOOHが付いているのが分かります。スチレン(ビニルベンゼン)の二重結合が酸化されて、という流れです。

トリクロロエチレンとテトラクロロエチレンは同じ

どちらもトリクロロ酢酸です。塩素の数が違っても、代謝の最終形は同じところに来る。2つまとめて1つ覚えればいいので、ここは得です。

国試ではこう問われる

回 問われ方 ポイント
第106回・問236-237 橋梁塗装作業者、特殊健康診断で尿中δ-アミノレブリン酸 5.5mg/L 原因物質は鉛。解毒薬はジメルカプロールとエデト酸カルシウムナトリウム。問237では「体内でメチル化されて有害作用を示す」が誤り(鉛はメチル化されない)。「尿中のコプロポルフィリンを増加させる」「δ-アミノレブリン酸脱水酵素を阻害する」「フェロキラターゼを抑制する」はいずれも正しい
第97回・問131 曝露により尿中の馬尿酸濃度が上昇するもの(2つ) トルエンとベンジルアルコール。アニリン・ニトロベンゼン・フェノールは違う
第109回・問18 特殊健康診断の実施義務がある業務 石綿(アスベスト)の粉じんを発散する場所における業務
第103回・問22 慢性毒性として成人では貧血、小児では中枢神経障害 無機鉛
第111回・問125 特殊健康診断の実施は3管理のどれか 健康管理
第102回・第108回ほか 有機溶剤・重金属の毒性と代謝 化学物質の毒性の単元と重なって出題される

第97回・問131は面白い出題です。「馬尿酸が上がるもの」を2つ選ばせるのですが、答えはトルエンとベンジルアルコール。ベンジルアルコールも酸化されて安息香酸になり、グリシン抱合を受けて馬尿酸になるからです。「ベンゼン環+炭素1つの側鎖 → 馬尿酸」という理屈が分かっていれば、表にない物質でも答えられます。

なお、曝露バイオマーカーの物質そのものの毒性(ベンゼンの造血障害、n-ヘキサンの末梢神経障害など)は、化学物質の毒性の単元で改めて扱います。ここでは「どの物質を、何で測るか」に集中してください。

同じ表を毒性の機序の側から——つまり「なぜその代謝物が尿に出るのか」を代謝経路つきで並べた一覧が、有機溶剤②芳香族炭化水素と曝露指標|尿中代謝物とセットで暗記にあります。労働衛生の問題を解いているときはこの記事、化学物質の毒性の問題を解いているときはあちら、と使い分けてください。

まとめ

  • 特殊健康診断は3管理のうち健康管理。有害因子ごとに検査項目が決まり、6か月以内ごとに1回
  • 鉛は尿中δ-アミノレブリン酸・尿中コプロポルフィリン・血中鉛。ヘム合成経路の酵素(ALAD・フェロキラターゼ)を阻害するため前駆体が溜まる。成人では貧血、小児では中枢神経障害
  • 無機水銀は尿中水銀、アルキル水銀は尿・血液・毛髪中水銀
  • カドミウムは尿蛋白(β₂-ミクログロブリン)。腎(近位尿細管)障害の指標
  • ヒ素は毛髪中のヒ素
  • ベンゼン→フェノール、トルエン→馬尿酸、キシレン→メチル馬尿酸。親化合物にメチルが付けば代謝物にもメチルが付く
  • n-ヘキサン→2,5-ヘキサンジオン、トリクロロエチレン/テトラクロロエチレン→トリクロロ酢酸、スチレン→マンデル酸
  • 全部に共通するのは、OHやCOOHが付いて水に溶ける形になっていること

次は職業病と労災の統計|減圧症・騒音性難聴・じん肺と業務上疾病の傾向を読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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