
この記事が、化学物質の毒性の得点源です。
芳香族炭化水素は4つしかありません。そして国試が聞いてくるのは、ほぼ「この物質の曝露指標は何か」の1点です。組み合わせを覚えるだけで点が取れる、数少ない単元です。
しかも、覚え方が2つ用意してあります。語呂と、構造からの理屈。両方載せるので、自分に合うほうを使ってください。
記事の後半に、重金属と有機溶剤の曝露指標を1枚にまとめた表を置いてあります。この単元のどの記事からも、ここへ戻ってくるつもりで使ってください。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
芳香族炭化水素は4つだけ
ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン。この4つです。
構造で見ると、全部ベンゼン環に何かが付いただけの兄弟です。
- ベンゼン:何も付いていない
- トルエン:CH₃が1つ
- キシレン:CH₃が2つ
- スチレン:ビニル基(CH=CH₂)が1つ
付いているものが違うだけなので、代謝されてできるものも素直に対応します。これが後半の「理屈で覚える」の中身です。
語呂「メキシコのスッチー満員で馬車、遅延」

2文字ずつ、物質と曝露指標のペアになっています。
| 語呂 | 意味 |
|---|---|
| メキシコの | メチル馬尿酸 ← キシレン |
| スッチー満員で | スチレン → マンデル酸 |
| 馬車、遅延 | 馬尿酸 ← トルエン |
メキシコ行きの飛行機、客室乗務員、満員、馬車、遅延——1枚の情景でつながっているので、思い出しやすいはずです。
ベンゼンだけ語呂に入っていませんが、これは「ベンゼン → フェノール」があまりに素直だからです。OHが1個付くだけなので、語呂に頼る必要がありません。
ベンゼン ― 急性と慢性で症状が違う
ベンゼンは15年分の過去問で15回すべてに登場する、衛生の最頻出物質の1つです。
| 症状 | |
|---|---|
| 急性中毒 | 頭痛、めまい、精神錯乱(中枢神経抑制) |
| 慢性中毒 | 造血機能障害 ― 白血球減少、血小板減少、再生不良性貧血、白血病 |
覚えどころは慢性の造血障害です。骨髄が標的なので、ベンゼンは職業がん(白血病)の原因物質としても出てきます(職業がんと原因物質の覚え方)。
曝露指標は尿中フェノール。CYPで酸化されてOHが1つ付いただけ、と考えれば忘れません。
トルエン・キシレン ― グリシン抱合で馬尿酸になる

トルエンはシンナーの主成分です。代謝の道すじはこうです。
トルエン → (CH₃が酸化) → 安息香酸 → (グリシン抱合) → 馬尿酸

図を見ると、ベンゼン環にC(=O)-NH-CH₂-COOHが付いています。後半のNH-CH₂-COOHがグリシンそのものです。アミノ酸抱合(グリシン抱合)の代表例で、グルクロン酸・硫酸・アセチル・アミノ酸抱合|4つの抱合の使い分けとまっすぐつながっています。
キシレンはトルエンにCH₃がもう1つ付いた形です。だから片方のCH₃だけが酸化されて、もう1つは残る。結果はメチル馬尿酸。
「メチルが付いていたから、メチルが付いたまま出てくる」——この対応が、キシレンを覚える唯一のコツです。
スチレン ― マンデル酸

ビニル基(CH=CH₂)が付いています。二重結合があるので、まずエポキシドができ、そこから酸化が進んでマンデル酸(ベンゼン環-CH(OH)-COOH)になります。
つまりOHとCOOHが1個ずつ付いた形。ポリスチレン(発泡スチロール)の原料として使われる物質です。
なお、スチレンの曝露指標にはフェニルグリオキシル酸もあります。国試ではマンデル酸で出ることがほとんどです。
アニリン・ニトロベンゼン ― メトヘモグロビン血症
芳香族でも、窒素が付いたものは毒性の系統が違います。
アニリン(ベンゼン環-NH₂)とニトロベンゼン(ベンゼン環-NO₂)は、どちらも代謝されてフェニルヒドロキシルアミンになり、これがメトヘモグロビン血症を起こします。
「Nが付いていたらメトヘモグロビン」。この反射を作っておいてください。詳しくはメトヘモグロビン血症とシアン中毒|解毒にわざとメトHbを作る理由で扱います。
【一覧】曝露指標 全部入り表
この単元のどの記事からも、ここに戻ってきてください。重金属と有機溶剤を1枚にしてあります。
右端の「なぜそれが出るのか」の列が、この表の本体です。丸暗記する前に、ここを読んでください。
| 物質 | 体内で起きていること | 尿中の指標 | なぜそれが出るのか |
|---|---|---|---|
| 無機鉛 | δ-ALA脱水酵素とフェロキラターゼを阻害 | δ-アミノレブリン酸 コプロポルフィリン |
ヘムが作れず材料が余るから |
| カドミウム | 近位尿細管を傷害 | β₂-ミクログロブリン | 本来再吸収されるはずのものが漏れる |
| 無機水銀 | 近位尿細管を傷害 | 水銀 | 腎に蓄積した分が出てくる |
| メチル水銀 | システインと結合して全身へ | 毛髪中の水銀 | ケラチンのSH基に捕まるから |
| ヒ素 | メチル化 → 酸化で5価へ | ヒ素(毛髪・爪にも蓄積) | 毒性の低い5価になって捨てられるから |
| ベンゼン | CYPで酸化 | フェノール | OHが1個付いただけ |
| トルエン | 酸化 → グリシン抱合 | 馬尿酸 | COOH+グリシン |
| キシレン | 同上(メチルは残る) | メチル馬尿酸 | COOH+グリシン、メチルはそのまま |
| スチレン | エポキシド経由で酸化 | マンデル酸 | OHとCOOHが1個ずつ |
| n-ヘキサン | ω-1位の酸化が2か所 | 2,5-ヘキサンジオン | ケトンが2個。これ自体が軸索を壊す |
| トリクロロエチレン テトラクロロエチレン |
エポキシド → 転位 | トリクロロ酢酸 | COOH。2つは同じ指標 |
| メタノール | ADH → ALDH | ギ酸 | ギ酸そのものが視神経毒 |
縦に見ると2つの例外が浮かぶ
この表は横に読むだけでなく、縦に見ると急所が見えます。
ほとんどの指標は「解毒されて無害になった姿」です。ところが、
- n-ヘキサンの2,5-ヘキサンジオン
- メタノールのギ酸
この2つだけは、指標そのものが毒性の正体です。だから「代謝されたから安心」が通じない。この2つは別枠として覚えておくと、引っかけ問題で止まれます。
特殊健康診断との関係
同じ表を、健診制度の側から見た記事もあります。特殊健康診断と曝露バイオマーカー|金属・有機溶媒を尿中代謝物で覚えるです。
- 労働衛生の問題を解いているとき → 特殊健康診断の記事(何を、いつ測るか)
- 化学物質の毒性の問題を解いているとき → この記事(なぜそれが出るか)
同じ内容を2つの角度から2回通ることになりますが、国試はどちらの単元からも出してくるので、両方から引けるようにしておくのが結局いちばん速い道です。
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第97回・問131 | 曝露により尿中の馬尿酸濃度が上昇するもの(2つ) | トルエンとベンジルアルコール。アニリン・ニトロベンゼン・フェノールは違う |
| ベンゼン | 15年で15回(全回) | 慢性=造血障害。指標=フェノール |
| トルエン | 15年で9回(直近5年で5回) | 馬尿酸。直近の出題が濃い |
| スチレン | 15年で7回 | マンデル酸 |
| キシレン | 15年で4回 | メチル馬尿酸 |
| アニリン | 15年で6回 | メトヘモグロビン血症の原因物質として |
物質 → 指標だけでなく、指標 → 物質の向きでも引けるようにしてください。症例問題は必ず指標の側から入ってきます。
まとめ
- 芳香族炭化水素はベンゼン・トルエン・キシレン・スチレンの4つ
- 語呂は「メキシコのスッチー満員で馬車、遅延」
- ベンゼン → フェノール、慢性中毒は造血機能障害(白血病)
- トルエン → 馬尿酸(グリシン抱合)、キシレン → メチル馬尿酸
- スチレン → マンデル酸(OHとCOOHが1個ずつ)
- アニリン・ニトロベンゼン → メトヘモグロビン血症(犯人はフェニルヒドロキシルアミン)
- 曝露指標は「どの官能基が付いたか」で出せる。丸暗記しない
- n-ヘキサンとメタノールだけは、指標そのものが毒
次はメトヘモグロビン血症とシアン中毒|解毒にわざとメトHbを作る理由を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。