化学物質の毒性

有機溶剤①|メタノール中毒とハロゲン化炭化水素の肝障害【薬剤師国家試験】

有害化学物質のマインドマップ
有害化学物質のマインドマップ

有機溶剤は、衛生でいちばん「覚えることが多そう」に見える単元です。物質が10以上出てきて、それぞれに症状と曝露指標が付いてくるからです。

でも実際は、3つのグループに分けると急に見通しがよくなります。

  1. 脂肪族アルコール ― メタノール、n-ヘキサン
  2. ハロゲン化炭化水素 ― Clが付いたもの。肝障害
  3. 芳香族炭化水素 ― ベンゼン環があるもの。曝露指標が主役

この記事では1と2を扱います。3は次の記事です。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

脂肪族アルコール ― メタノール

なぜ失明するのか

メタノールは、体内で2段階の酸化を受けます。

メタノール → (ADH) → ホルムアルデヒド → (ALDH) → ギ酸

問題はこのギ酸(蟻酸)です。ギ酸が視神経に対して毒性を持つので、視覚障害が起こり、進行すると失明します。加えて、ギ酸が体内に溜まることで代謝性アシドーシスになります。

お酒(エタノール)と分子が1つ違うだけなのに、ここまで違う。エタノールは酢酸になって無害、メタノールはギ酸になって視神経を壊す。この対比で覚えてください。

ホメピゾールはどこを止めるのか

解毒薬はホメピゾール(4-メチルピラゾール)です。

止めるのはアルコール脱水素酵素(ADH)。つまり入口でせき止めて、ギ酸ができるのを遅らせるわけです。その間に、メタノールそのものを腎臓や血液浄化で体外に出してしまう。

国試では「アルデヒド脱水素酵素(ALDH)を阻害する」という誤りの選択肢が出ます(第106回・問235)。ADHであってALDHではない、ここは必ず押さえてください。

ちなみに、ホメピゾールがない状況ではエタノールを投与するという古典的な方法もあります。ADHをエタノールに占領させて、メタノールが代謝される順番を後回しにする——同じ発想です。

エチレングリコール中毒の解毒薬も、まったく同じホメピゾールです(標的臓器で覚える化学物質の毒性)。どちらも「ADHで代謝されて毒になる」型だからです。

n-ヘキサン ― 軸索を壊すのは代謝物

シンナーや接着剤に含まれる溶剤です。

n-ヘキサン → 2,5-ヘキサンジオン

この代謝物が軸索障害を起こし、手足のしびれ(多発性神経炎)が出ます。曝露指標も同じ2,5-ヘキサンジオンです。

ここで面白いのは、曝露指標そのものが毒性の正体だという点です。ふつう曝露指標は「解毒されて出てきた無害な代謝物」なのに、n-ヘキサンだけは違います。だから記憶に残りやすい。

構造の話をすると、ヘキサン(C6)のω-1位(端から2番目)が2か所酸化されてケトンが2つできた形です。「ケトンが2つ」と覚えておけば、名前を思い出せます。

ハロゲン化炭化水素は肝障害 ― 機序は2つに分かれる

Clが付いた有機溶剤は肝臓。これは前回やった大原則です。ただし壊し方は2種類あり、ここで分かれます。

ラジカル型 ― 四塩化炭素(CCl₄)

第Ⅰ相の還元反応でやった脱ハロゲン化が、そのままここに出てきます。

CCl₄ → (CYPによる還元的脱ハロゲン化) → ・CCl₃(トリクロロメチルラジカル) → 肝障害

CYPが酸化ではなく還元をやる、珍しいパターンです。できたラジカルが脂質過酸化を起こして肝細胞を壊します。中心静脈周辺(小葉中心性)の壊死が典型です。

語呂は「かっかっかっか!」。CCl₄ → ・CCl₃ → 肝障害、と Cで始まる音が続くイメージです。還元反応の側からの説明は第Ⅰ相の還元反応|四塩化炭素と腸内細菌によるニトロ・アゾ還元にあります。

エポキシド型 ― トリクロロエチレン・テトラクロロエチレン

テトラクロロエチレンの構造
テトラクロロエチレンの構造

こちらはC=Cの二重結合を持っているのがポイントです。二重結合があるとCYPが酸素を1個つけてエポキシドにします。エポキシドは反応性が高く、DNAやタンパク質に飛びつくので、肝障害だけでなく発がん性も持ちます。

  • トリクロロエチレン:ドライクリーニング・金属の脱脂洗浄に使用
  • テトラクロロエチレン(パークロロエチレン):同じくドライクリーニング

この2つは曝露指標が同じ「尿中トリクロロ酢酸」です。まとめて1つとして覚えてかまいません。

エポキシドの反応性についてはエポキシ化と酸化的脱硫|代謝で毒性が強くなる代表パターンで詳しくやりました。

塩化ビニルモノマー ― 肝血管肉腫

塩化ビニル(CH₂=CHCl)も二重結合を持つので、同じくエポキシド型です。

特徴的なのは、できるがんが肝血管肉腫という珍しいものだという点。職業がんの代表例として、膀胱がん(ベンジジン・2-ナフチルアミン)や中皮腫(アスベスト)と並んで問われます(職業がんと原因物質の覚え方)。

15年分の過去問で塩化ビニルは11回登場します。物質名と「肝血管肉腫」のセットは、確実に取れるようにしてください。

曝露指標は次の記事にまとめてあります

有機溶剤の曝露指標は、重金属のものと一緒に1枚の表にしてあります。有機溶剤②芳香族炭化水素と曝露指標|尿中代謝物とセットで暗記を見てください。

表を暗記しようとする前に、この記事の「なぜその代謝物になるのか」を先に理解しておくと、覚える手間が半分になります。

国試ではこう問われる

回 問われ方 ポイント
第106回・問234-235 不凍液の誤飲(エチレングリコール) ホメピゾールはADHを阻害。「ALDHを阻害」は誤り
塩化ビニル 15年で11回 肝血管肉腫。職業がんの単元と横断
メタノール 15年で10回 ギ酸 → 視神経毒性。解毒はホメピゾール
n-ヘキサン 15年で9回(直近5年で4回) 2,5-ヘキサンジオン、軸索障害
四塩化炭素 15年で5回 還元的脱ハロゲン化 → トリクロロメチルラジカル
トリクロロエチレン 15年で4回 エポキシド経由、尿中トリクロロ酢酸

まとめ

  • 有機溶剤は脂肪族アルコール・ハロゲン化炭化水素・芳香族炭化水素の3グループに分ける
  • メタノール → ホルムアルデヒド → ギ酸。ギ酸が視神経毒性とアシドーシス
  • 解毒はホメピゾール。止めるのはADH(ALDHではない)。エチレングリコールと同じ
  • n-ヘキサン → 2,5-ヘキサンジオン。軸索障害。曝露指標が毒性の本体
  • ハロゲン化炭化水素は肝障害。機序は2つ
    • ラジカル型:四塩化炭素(CYPによる還元、「かっかっかっか!」)
    • エポキシド型:トリクロロ/テトラクロロエチレン、塩化ビニルモノマー(C=Cがある)
  • トリクロロエチレンとテトラクロロエチレンは曝露指標が同じ(尿中トリクロロ酢酸)
  • 塩化ビニルモノマー = 肝血管肉腫

次は有機溶剤②芳香族炭化水素と曝露指標|尿中代謝物とセットで暗記を読んでみてください。この単元のいちばんの山場です。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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