
鉛は、15年分の過去問で14回——ほぼ毎年出ています。重金属のなかで最頻出です。
しかも、曝露指標を丸暗記しなくていいという、ありがたい性質を持っています。ヘム合成の経路を1本引いて、鉛が止める場所に印をつければ、なぜδ-アミノレブリン酸とコプロポルフィリンが尿に出るのかが自動的に説明できるからです。
この記事の目的は、その1本の線を引くことです。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
先にヘム合成を1本の線にしておく

図の左がポルフィリン、右が真ん中に鉄が入ったヘムです。ヘムは、この形を組み立てて、最後に鉄をはめ込んで完成します。
経路はこうです。
グリシン + スクシニルCoA ↓ δ-アミノレブリン酸(δ-ALA) ↓ ← δ-ALA脱水酵素(ALAD) ポルフォビリノーゲン ↓ コプロポルフィリン ↓ プロトポルフィリン ↓ ← フェロキラターゼ(ヘム合成酵素)がFe²⁺をはめ込む ヘム
材料(グリシンとスクシニルCoA)から始まって、環を作り、最後に鉄を入れる。この流れだけ頭に置いてください。
鉛が止めるのは2か所
鉛は、この経路の2か所をブロックします。
| 止める場所 | 酵素 | 何が起きるか |
|---|---|---|
| ①δ-ALA → ポルフォビリノーゲン | δ-ALA脱水酵素(ALAD) | δ-ALAが手前で渋滞する |
| ②プロトポルフィリン + Fe²⁺ → ヘム | フェロキラターゼ(ヘム合成酵素) | プロトポルフィリンとコプロポルフィリンが手前で渋滞する |
入口と出口の両方を止める、と覚えるとイメージしやすいはずです。
結果、ヘムが作れない → ヘモグロビンが作れない → 貧血。これが鉛中毒で貧血になる理由です。
だから「材料が余って尿に出る」
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
工場のラインを想像してください。途中の機械が2か所止まると、その手前に部品が積み上がります。積み上がった部品は、行き場がないので外に押し出される。
体でも同じことが起きます。渋滞したδ-アミノレブリン酸とコプロポルフィリンが血中にあふれ、尿中に排泄される。だからこの2つが鉛の曝露指標になるわけです。
| 曝露指標 | 測る場所 |
|---|---|
| δ-アミノレブリン酸(δ-ALA) | 尿中 |
| コプロポルフィリン | 尿中 |
| 鉛 | 血中 |
| プロトポルフィリン | 赤血球中(遊離プロトポルフィリン) |
赤血球中の遊離プロトポルフィリンが増えるのも同じ理屈です。鉄が入れられなかったプロトポルフィリンが、赤血球の中に取り残されるからです。
覚えるのではなく、線を引いて詰まった場所を指させるようにしてください。そうすれば、どの指標を聞かれても答えが出ます。
表記について。正しくはδ(デルタ)-アミノレブリン酸です。マインドマップでは「σ-アミノレブリン酸」、講義では「γ-アミノレブリン酸」と言っている箇所がありますが、どちらもδの誤りです。国試の問題文では「d-アミノレブリン酸」と印字されることもあります(δの代用)。
症状は年齢で変わる
| 主な症状 | |
|---|---|
| 成人 | 貧血、腹部疝痛、伸筋麻痺(垂れ手) |
| 小児 | 中枢神経障害(鉛脳症)、発達への影響 |
第103回では「慢性毒性として成人では貧血、小児では中枢神経障害」という記述で無機鉛が問われました。この対比はそのまま出ます。
小児で中枢神経障害が前に出るのは、血液脳関門が未熟で、吸収率も高いからです。塗料をなめる、玩具を口に入れるといった経路が実際の事故につながります。
四エチル鉛は別物
無機鉛と四エチル鉛(有機鉛)は分けてください。
四エチル鉛は有機化されているので脂溶性が高く、脳に入ります。だから症状は中枢神経障害が中心です。かつてガソリンのアンチノック剤として使われていました。
ただし、国試で聞かれる主役は無機鉛のほうです。四エチル鉛は「脂溶性↑で脳へ」だけ押さえれば十分です。
また、鉛はメチル化されません。第106回で「体内でメチル化されて有害作用を示す」という選択肢が誤りとして出ています。メチル化されるのはヒ素です。この取り違えを狙ってくるので注意してください。
解毒
| 薬 | 機序 |
|---|---|
| EDTA(エデト酸カルシウムナトリウム) | 安定なキレートを作って排泄促進 |
| ジメルカプロール(BAL) | SH基と金属でキレート形成 |
| D-ペニシラミン | 安定なキレートを作って排泄促進 |
鉛は3種類とも使える、珍しい金属です。第110回の症例問題では、EDTAカルシウム二ナトリウムとジメルカプロール(BAL)の2つが正解になりました。
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第110回・問240-241 | 2歳8ヶ月女児。鉛を含む金属製アクセサリーを舐める癖。尿中δ-ALA 10mg/L、赤血球遊離プロトポルフィリン180ng/dL、血中鉛75ng/dL | 解毒薬はEDTAカルシウム二ナトリウムとジメルカプロール。問241はヘム生合成経路の図で、阻害される反応を2つ選ばせる(=ALADとフェロキラターゼ) |
| 第106回・問236-237 | 44歳男性、橋梁塗装作業者。特殊健康診断で尿中δ-ALA 5.5mg/L | 鉛。「体内でメチル化されて有害作用」は誤り。「尿中コプロポルフィリン増加」「δ-ALA脱水酵素を阻害」「フェロキラターゼを抑制」はいずれも正しい |
| 第103回・問22 | 成人では貧血、小児では中枢神経障害 | 無機鉛 |
| 出題実績 | 鉛は15年で14回、δ-ALAは4回、コプロポルフィリンは2回 | 重金属で最頻出 |
第110回のように、ヘム合成経路の図そのものを見せて「どこが止まるか」を選ばせる形式が出ています。経路を線で書けるようにしておくと、こういう問題で確実に取れます。
まとめ
- 鉛は重金属で最頻出(15年で14回)
- ヘム合成は グリシン+スクシニルCoA → δ-ALA → ポルフォビリノーゲン → コプロポルフィリン → プロトポルフィリン →(Fe²⁺)→ ヘム
- 鉛が止めるのは2か所:δ-ALA脱水酵素(ALAD)とフェロキラターゼ(ヘム合成酵素)
- 止まるからヘムが作れず貧血、そして手前で渋滞した材料が尿に出る
- 曝露指標は尿中δ-ALA・尿中コプロポルフィリン・血中鉛・赤血球遊離プロトポルフィリン
- 症状は成人=貧血、小児=中枢神経障害
- 四エチル鉛は脂溶性が高く中枢神経障害
- 鉛はメチル化されない(メチル化されるのはヒ素)
- 解毒はEDTA・BAL・D-ペニシラミンの3つとも使える
次はヒ素とその他の重金属|六価クロム・有機スズ・セシウム・マンガンを読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
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