化学物質の毒性

ヒ素とその他の重金属|六価クロム・有機スズ・セシウム・マンガン【薬剤師国家試験】

重金属のマインドマップ
重金属のマインドマップ

重金属の最後です。主役のヒ素と、単独では1記事にならないけれど確実に出る六価クロム・スズ・セシウム・マンガンをまとめて片づけます。

記事の終わりに、金属の解毒薬・拮抗薬の一覧表を置いてあります。重金属の単元全体の締めとして使ってください。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

ヒ素 ― 毒性の強さは「3価 > 5価 > 有機ヒ素」

ヒ素の形は3つに分けて考えます。

形 例 毒性
無機ヒ素・3価 亜ヒ酸(As³⁺) 最も強い
無機ヒ素・5価 ヒ酸(As⁵⁺) 中くらい
有機ヒ素 アルセノベタイン、メチルアルソン酸 弱い

無機が強く、有機が弱い。無機のなかでは3価が強い。この2段階で覚えてください。

マインドマップの表記について。マインドマップには「3価(亜ヒ酸)>5価(ヒ酸)>無機ヒ素」と書いてありますが、3番目は有機ヒ素の誤りです。3価も5価も無機ヒ素なので、このままだと並列になりません。記事では正しい順で説明しています。

ヒ素の代謝 ― 毒性が上がってから下がる

ヒ素の代謝
ヒ素の代謝

図のとおり、3段階です。

亜ヒ酸(As³⁺) ↓ メチル化 メチル化体(As³⁺) ← ここがいちばん毒性が強い ↓ 酸化 メチルアルソン酸・ジメチルアルソン酸(As⁵⁺) ← 毒性が弱い ↓ 尿中排泄

いったん毒性が上がってから下がるのがポイントです。「代謝=解毒」という思い込みが通用しない、代謝活性化の一例になっています(エポキシ化と酸化的脱硫|代謝で毒性が強くなる代表パターン)。

なお、ヒ素はメチル化される金属です。鉛と取り違えないでください(第106回で「鉛が体内でメチル化される」という誤りの選択肢が出ています)。

環境中のヒ素 ― アルセノベタイン

海産の魚介類・海藻には、アルセノベタインという形でヒ素が存在します。これは5価の有機ヒ素で、毒性が低い。

そして重要なのが、体内ではアルセノベタインにはならないという点です。体内でできるのはメチルアルソン酸・ジメチルアルソン酸。アルセノベタインは環境中(魚介類の中)でできているものです。

この区別は15年で3回(第102・103・109回)問われています。「魚を食べると尿中ヒ素が増えるが、それは毒性の低い有機ヒ素である」という文脈で出ます。

症状 ― 急性と慢性

症状
急性 コレラ様の激しい下痢、嘔吐、皮膚炎
慢性 黒皮症(色素沈着)、角化症、皮膚がん・肺がん、末梢神経障害

無機ヒ素化合物はIARCグループ1(ヒトに対して発がん性がある)です。カドミウム・六価クロムと同じ区分で、重金属のグループ1はこの3つとまとめて覚えられます。

排泄は尿中ですが、爪と毛髪にも蓄積します。だから慢性曝露の証拠として毛髪や爪が使われます(ナポレオンの毛髪からヒ素が検出された、という話が有名です)。

2つのヒ素事件

事件 原因物質 結果
森永ヒ素ミルク事件(1955年) ヒ酸ナトリウム(無機ヒ素)が乳製品に混入 食品添加物公定書の作成につながった
ヒ素カレー事件(1998年) 亜ヒ酸 意図的な混入による事件

混入した物質が違うのがポイントです。森永はヒ酸ナトリウム、カレー事件は亜ヒ酸。

語呂は「ヒ素カレー事件、あ〜悲惨」。「あ〜ひさん」= 亜ヒ酸です。

森永ヒ素ミルク事件のほうは、食品添加物公定書という制度を生んだ事件として、食品衛生の単元でも出てきます。「事件 → 制度」の対応で覚えてください。

六価クロム ― 鼻中隔穿孔

Cr⁶⁺は強い酸化力を持っています。ここから症状が全部出てきます。

  • 鼻中隔穿孔 ― 左右の鼻の穴を隔てる壁に穴が開く。粉じんを吸い込む職場で起こる
  • 皮膚炎(クロム潰瘍)
  • 肺がん ― IARCグループ1

「クロムといえば鼻中隔穿孔」は1対1で覚えてかまいません。15年で六価クロムは2回(第110・111回)——直近2年連続で出ています。

なお、三価クロム(Cr³⁺)は必須微量元素です。糖代謝に関わります。同じクロムでも価数で毒か必須かが変わるのが引っかけどころです。

スズ ― 有機スズと無機スズ

有機スズ ― 船底塗料とイボニシ

トリブチルスズ(TBT)などが、船底の防汚剤として使われていました。海に溶け出して、イボニシ(巻貝)のメスに雄性生殖器ができるという内分泌撹乱を引き起こしました(内分泌撹乱物質(環境ホルモン)|受容体別に覚える)。

法規制上の区分が、国試の定番の引っかけです。

物質 化審法の区分
TBTO(ビス(トリブチルスズ)=オキシド) 第一種特定化学物質
TBT化合物(TBTO以外) 第二種特定化学物質

2026年9月時点で、第一種特定化学物質は40物質、第二種特定化学物質は24物質が指定されています。第二種の24物質のうち13物質がトリブチルスズ化合物(トリフェニルスズ化合物は7物質)で、この一群が「第二種」の中心です。

「Oが付いたTBTOだけ第一種」と覚えると間違えません。第一種のほうが規制が厳しく、難分解性・高蓄積性・長期毒性が指定要件です(PCBとカネミ油症事件|化審法ができるまで)。

無機スズ ― 缶詰のメッキ

缶詰の内側には、かつてブリキ(鉄にスズをメッキしたもの)が使われていました。スズは鉄より水に溶け出しにくいので、内面材として合理的な選択でした。

ところが、硝酸イオンを含む食品(添加物由来など)が入っていると、メッキのスズが溶け出す。これを摂取して嘔吐・下痢が起きる事故がありました。対策として、缶の内側をコーティングするようになっています。

セシウム・マンガン

金属 押さえどころ
セシウム(Cs) カリウムに似た挙動をとり、筋肉など軟組織に分布。解毒はプルシアンブルー
マンガン(Mn) 過剰曝露でパーキンソン様症状。SODの構成金属でもある

セシウムはプルシアンブルー、マンガンはパーキンソン様。この2つだけ覚えれば十分です。セシウムは第111回で出題されています。

講義の補足。講義動画では「セシウムは筋肉に蓄積されて動脈硬化」と説明していますが、マインドマップにその記載はなく、公的資料でも確認できませんでした。動脈硬化は覚えなくて大丈夫です。セシウムは「筋肉(軟組織)に分布、プルシアンブルーで排泄促進」で押さえてください。

【一覧】金属の解毒薬・拮抗薬

重金属の単元の締めです。「どの薬がどの金属に効くか」は、症例問題の最後の1問として必ず出ます。

解毒剤・拮抗薬 対象となる中毒物質 機序
ジメルカプロール(BAL) 水銀、ヒ素、鉛、銅 SH基と金属とのキレート形成
EDTA(エデト酸Ca・Na) 鉛、鉄、亜鉛、カドミウムなど 安定なキレート形成による排泄促進
D-ペニシラミン 銅、鉛、水銀、亜鉛 安定なキレート形成による排泄促進
デフェロキサミンメシル酸塩 鉄 キレート形成による排泄促進
プルシアンブルー タリウム、セシウム 結合による排泄促進

覚え方のコツは「BALはSH基でつかまえる」です。だからSH基と結合したがる金属——水銀・ヒ素・鉛・銅——に効きます。

一方、カドミウムにBALは使いません。BAL-カドミウム複合体が腎毒性を強めるためです。カドミウムはEDTAを使います。

デフェロキサミンは鉄だけ、プルシアンブルーはタリウムとセシウムだけ、と限定が効いているので取りこぼさないでください。

国試ではこう問われる

回 問われ方 ポイント
第110回・第111回 六価クロム 直近2年連続。鼻中隔穿孔・肺がん
第110回 トリブチルスズ イボニシの雄化、化審法の区分
第111回 セシウム プルシアンブルー
第102・103・109回 アルセノベタイン 海産物中の低毒性の有機ヒ素。体内では生成しない
クロム 15年で15回(全回に登場) 三価は必須、六価は毒。価数で区別
EDTA 15年で8回 鉛・カドミウム
ジメルカプロール 15年で7回(直近5年で4回) 水銀・ヒ素・鉛・銅
D-ペニシラミン 15年で7回 銅(ウィルソン病)から出ることも
ヒ素 15年で5回(直近5年で3回) 3価>5価、メチル化、アルセノベタイン

まとめ

  • ヒ素の毒性は3価(亜ヒ酸) > 5価(ヒ酸) > 有機ヒ素
  • 代謝は亜ヒ酸 → メチル化体(毒性最強) → メチル/ジメチルアルソン酸 → 尿。いったん強くなる
  • アルセノベタインは魚介類中の低毒性の有機ヒ素。体内では生成しない
  • 急性はコレラ様下痢、慢性は黒皮症・皮膚がん・肺がん。爪と毛髪に蓄積
  • 森永ヒ素ミルク事件=ヒ酸ナトリウム → 食品添加物公定書、ヒ素カレー事件=亜ヒ酸(「あ〜悲惨」)
  • 六価クロム=鼻中隔穿孔・肺がん(IARCグループ1)。三価は必須微量元素
  • TBTOだけ第一種、他のTBT化合物は第二種特定化学物質
  • 無機スズは缶詰のメッキから溶出(硝酸イオンで促進) → 嘔吐・下痢
  • セシウム=プルシアンブルー、マンガン=パーキンソン様症状
  • BALはSH基 → 水銀・ヒ素・鉛・銅。カドミウムには使わない

次は有機リン系・カルバメート系殺虫剤|機序の違いと2-PAMが効く/効かないを読んでみてください。ここから農薬に入ります。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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