化学物質の毒性

有機リン系・カルバメート系殺虫剤【薬剤師国家試験】

頻出の農薬のマインドマップ
頻出の農薬のマインドマップ

ここから農薬に入ります。

農薬は量が多く見えますが、国試に出るところは決まっています。なかでもいちばんよく出るのが有機リン系です。そしてカルバメート系は、有機リン系と機序がそっくり。だから、この2つは別々に覚えるのではなく、最初から並べて、違うところだけを押さえるのがいちばん早い。

違いは、結局ここ1点に集約されます。

有機リン剤は不可逆、カルバメート系は可逆。だから解毒薬が変わる。

この1行から、国試で問われることのほとんどが導けます。順番に見ていきましょう。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

有機リン系殺虫剤がやっていること|アセチルコリンエステラーゼを止める

有機リン系・カルバメート系の作用点
有機リン系・カルバメート系の作用点

まず全体像です。

副交感神経の終末からアセチルコリン(ACh)が放出され、ムスカリン受容体に作用します。放出されたAChは、コリンエステラーゼ(ChE)によってコリンと酢酸に分解され、シグナルが終わります。

有機リン系殺虫剤は、このコリンエステラーゼを止めます。分解役がいなくなるので、AChがシナプス間隙にたまりっぱなしになり、ムスカリン受容体が刺激されつづける。これが中毒症状の正体です。

図の右上を見てください。チオン(P=S)がP450で脱硫されてオキソン(P=O)になるという流れが書き込まれています。この「オキソン型」が、コリンエステラーゼを止める本体です。そして図の右下、カルバメート系も同じコリンエステラーゼを狙っている──矢印が2本とも同じところを指している、というのがこの図の言いたいことです。

サリンと農薬は同じ系統

有機リン系は、もともとドイツで軍事用の神経剤として開発されたものです。地下鉄サリン事件のサリンも、この系統にあたります。

戦後、これを農業に転用したのがパラチオンなどの初期の有機リン系殺虫剤でした。ただし初期の有機リン剤には昆虫と哺乳類を区別する力(選択毒性)がなく、人にもそのまま効いてしまった。実質的に化学兵器と変わらないほど危険だったため、パラチオンなどの初期の有機リン剤は現在は使われていません。

いま使われているのは、昆虫にだけ強く効くように改良されたものです。このあたりの改良の系譜は、次の記事有機リン剤7つの構造の見分け方でマラチオンを例に詳しく見ます。

①「〜チオン」が「〜オキソン」になると危ない

パラチオンの代謝的活性化と解毒
パラチオンの代謝的活性化と解毒

パラチオンを例に、体の中で何が起きるかを見ます。分かれ道が2本あります。

上の道:代謝的活性化(毒性が強くなる)

肝ミクロソームのシトクロムP450が、酸化的脱硫化を行います。リンについているSがOに置き換わり、パラオキソンができる。これがP=O型(オキソン型)で、毒性が強い。コリンエステラーゼを阻害するのはこちらです。

酸化的脱硫は、エポキシ化と酸化的脱硫で「代謝で毒性が強くなる代表パターン」として出てきた反応そのものです。第Ⅰ相反応の知識が、そのまま農薬の毒性につながっている。

下の道:解毒(毒性がなくなる)

血漿中のエステラーゼが加水分解すると、結合が切れてp-ニトロフェノールができます。これは無毒で、尿中に排泄されます。

つまり、パラチオンは同じ分子が2方向に代謝され、一方は毒に、もう一方は無毒になる。「酸化なら毒、加水分解なら解毒」と対にして覚えてください。

なお、尿中に出てくるp-ニトロフェノールは、パラチオンに曝露したかどうかの指標(曝露バイオマーカー)にもなります。代謝物の名前が曝露指標になるという構図は、有機溶剤のところと同じ考え方です。

②オキソン型がコリンエステラーゼを「不可逆的に」止める

パラオキソンのChE阻害とPAMによる解毒
パラオキソンのChE阻害とPAMによる解毒

コリンエステラーゼの活性中心には、大きく2つのパーツがあります。

  • 陰イオン部位(⊖) …… AChの四級アンモニウム(N⁺)を引きつける場所
  • エステル分解部位の セリン残基のOH …… 実際に切る場所

パラオキソンは、この2つに同時にはまり込みます。図の左を見てください。

  1. パラオキソンのニトロ基側(⊕を帯びた部分)が陰イオン部位に引きつけられ、分子の向きが決まる
  2. セリンのOHがリン原子を攻撃し、p-ニトロフェノールが外れる
  3. セリンにリン酸エステル結合ができる ── これが不可逆

AChなら、切ったあとセリンはすぐ元に戻ります。しかしリン酸化されたセリンは、そう簡単には外れない。酵素が働けなくなったまま固定されるわけです。

その結果、AChが分解されずにたまり、ムスカリン受容体に刺激が行きっぱなしになります。

解毒はPAMとアトロピン、役割がまったく違う

有機リン中毒の解毒薬は2-PAM(プラリドキシムヨウ化物)とアトロピン。国試では「どちらが何をしているか」が問われます。

PAM:酵素そのものを助ける

図の中央を見てください。PAMは、セリンにくっついたリン酸エステルを引きはがす薬です。リンを横から奪い取ることで、セリンのOHが復活し、コリンエステラーゼが元どおり働くようになる。図の右端の「回復!!」がそれです。

PAMは原因に効く薬。アトロピンは症状を抑える薬。

ただしPAMには弱点があります。リン酸化された酵素は、時間がたつと構造が変化してPAMでも外せなくなる(エージングと呼ばれます)。だからPAMは中毒の早い段階で使わないと効きません。

アトロピン:受容体を守る

アトロピンは抗コリン薬で、ムスカリン受容体を遮断します。AChがどれだけたまっていても、受容体側にフタをしてしまえば刺激は伝わらない。酵素は止まったままですが、症状は抑えられます。

カルバメート系は「可逆的」だから、2-PAMが効かない

カルバメート系の3剤
カルバメート系の3剤

カルバメート系殺虫剤も、狙っているのは同じコリンエステラーゼです。やっていることもほとんど同じ。違うのは残り方です。

カルバメート系は、構造の中にカルバモイル基(-O-CO-NH-CH₃)をもっています。これがコリンエステラーゼのセリン残基のOHをカルバモイル化します。

ここが分かれ道です。

  • 有機リン剤 …… セリンをリン酸化 → 不可逆的阻害
  • カルバメート系 …… セリンをカルバモイル化 → 可逆的阻害

カルバモイル化された酵素は、放っておいても加水分解されて元に戻ります。だからカルバメート系のほうが毒性は弱く、回復も早い。

そして解毒です。

カルバメート中毒に2-PAMは使わない。アトロピンのみ。

PAMは「リン酸エステルをはずす」ことに特化した薬です。カルバモイル化された酵素にはリンがないので、PAMは手が出せません。一方アトロピンは受容体側で働くので、原因がどちらであっても症状には効きます。

カルバメート系で覚えるのは3つだけです。

カルバリル / メソミル / フェノブカルブ(BPMC)

語呂で処理しづらい並びなので、講義でも「ここは頑張って覚えて」と言っています。「カルバ」「カルブ」という系統名が名前の中に入っているもの(カルバリル・フェノブカルブ)は入口として使えるので、メソミルだけを別枠で覚えるのが現実的です。

2系統を並べて比較する

有機リン系殺虫剤 カルバメート系殺虫剤
代表薬 パラチオン、フェニトロチオン、マラチオン、ジクロルボス、クロルピリホス、ダイアジノン、メタミドホス カルバリル、メソミル、フェノブカルブ(BPMC)
標的 アセチルコリンエステラーゼ アセチルコリンエステラーゼ(同じ)
修飾のしかた セリン残基をリン酸化 セリン残基をカルバモイル化
阻害の様式 不可逆的 可逆的
毒性の強さ 強い 有機リン剤より弱い
代謝的活性化 「〜チオン」型はP450による酸化的脱硫が必要 不要(そのままカルバモイル化できる)
解毒薬 2-PAM + アトロピン アトロピンのみ(2-PAMは無効)

中毒症状は、AChがたまることで起きるムスカリン様症状 ── 縮瞳・徐脈・流涎・気道分泌増加・発汗などが代表です。散瞳・頻脈・口渇はむしろ逆(抗コリン性)なので、ここは引っかけに使われます。

国試ではこう問われる

  • 第107回 問132「農薬に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ」。選択肢1「フェニトロチオンは、シトクロムP₄₅₀による酸化的脱硫反応により代謝的活性化を受けてアセチルコリンエステラーゼを阻害する」と、選択肢2「メソミルは、アセチルコリンエステラーゼの活性中心を可逆的にカルバモイル化する」が正答です。この記事の内容がそのまま2つ並んでいます。

  • 第101回 問236-237(実践)。農機具小屋でうずくまっていた77歳男性。コリンエステラーゼ活性が著しく低下していたことから原因物質を選ばせる問題で、正答は4「メソミル」(カルバメート系)。誤答選択肢にパラコート・グルホシネート・硫酸タリウム・クロルピクリンが並びます。「ChE低下 → 有機リン系かカルバメート系」という判断ができるかどうかだけの問題です。

  • 第99回 問135「農薬とその急性中毒に対する処置・解毒法の組合せのうち、正しいのはどれか」。正答は2「ジクロルボス ── アトロピンの投与」。注目してほしいのは誤答の3「カルバリル ── プラリドキシムヨウ化物(PAM)の投与」です。カルバメート系にPAMを組み合わせると誤り、というのがそのまま出題されています。

  • 第111回 問132の選択肢に「散瞳、頻脈、口渇が認められる場合は、中毒原因物質を有機リン系化合物と推定して初期の治療を開始することがある」という記述があります。有機リン中毒は縮瞳・徐脈なので、これは誤りです。症状の向きを逆にする引っかけは定番です。

  • 第103回 問21「ほ乳動物の体内で、有機リン系農薬マラチオンを代謝して無毒化する酵素はどれか」。正答はカルボキシエステラーゼ。これは次の記事で扱います。

まとめ

  • 有機リン系・カルバメート系は、どちらもアセチルコリンエステラーゼ阻害。ACh蓄積 → ムスカリン受容体の過剰刺激
  • 「〜チオン(P=S)」はそのままでは効かない。P450による酸化的脱硫で「〜オキソン(P=O)」になって初めて阻害する(代謝的活性化)
  • 加水分解されたほうはp-ニトロフェノールなどになり、無毒化されて尿中排泄。曝露指標にもなる
  • 有機リン剤はセリン残基をリン酸化して不可逆阻害。カルバメート系はカルバモイル化して可逆阻害
  • 解毒は、有機リン剤が2-PAM(酵素を再生)+アトロピン(受容体を遮断)、カルバメート系はアトロピンのみ
  • PAMは早期でないと効かない(エージング)
  • カルバメート系はカルバリル・メソミル・フェノブカルブ(BPMC)の3つ
  • 中毒症状は縮瞳・徐脈・流涎。散瞳・頻脈は逆

次は有機リン剤7つの構造の見分け方|命名ルールで覚えるを読んでみてください。名前を見ただけでSがあるかPがあるかが分かるようになります。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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