化学物質の毒性

有機塩素系農薬と枯葉剤【薬剤師国家試験】

農薬のマインドマップ
農薬のマインドマップ

ここまでの農薬は「急性毒性が強い」ことが問題でした。有機塩素系は違います。

有機塩素系農薬の問題は、毒性の強さではなく「消えないこと」です。

環境中で分解されず、生き物の体に濃縮され、何十年も残る。だから日本ではすでに製造も輸入も使用も禁止されているのに、いまだに国試に出てきます。規制の対象として出てくるのです。

そしてもうひとつ、この単元にはダイオキシンがどこから来たのかという話が入っています。枯葉剤の製造工程で、狙って作ったわけでもない物質が不純物として混ざった。その理由が構造から説明できる、というのがここのおもしろいところです。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

有機塩素系に共通する3つの性質

まず、個別の薬に入る前に共通項を押さえます。有機塩素系農薬は、どれもこの3つを持っています。

  1. 難分解性 …… 環境中で分解されにくく、残留期間が長い
  2. 高蓄積性 …… 脂溶性が高いため脂肪組織にたまり、食物連鎖で生物濃縮される
  3. 慢性毒性 …… 一度に大量に摂らなくても、長期間かけて影響が出る

この3つを持つ物質をPOPs(残留性有機汚染物質 / Persistent Organic Pollutants)と呼び、国際的にはストックホルム条約(POPs条約)で規制されています。国内法では化審法の第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入・使用が原則禁止です。

条約と国内法の対応は環境に関する国際条約の覚え方にまとめてあります。POPs条約=ストックホルム条約、という名前の対応だけでも先に確認しておいてください。

DDTとDDE ── 「遠足はダブルデートでいい感じ」

DDT・DDEの語呂
DDT・DDEの語呂

有機塩素系の代表がDDTです。語呂はこれ。

遠足はダブルデートでいい感じ 塩素系 D D T → E

「遠足(えんそ=塩素)」で塩素系であること、「ダブルデート」でDDT、そして「いい感じ(E)」でDDTが代謝されてDDEになることまでが1本でつながります。

DDTの構造
DDTの構造

構造は名前そのままです。DDT = ジクロロ・ジフェニル・トリクロロエタン。

  • ジフェニル …… ベンゼン環が2つ
  • ジクロロ …… その2つのベンゼン環に塩素が1つずつ(計2つ)
  • トリクロロ …… 上に飛び出したCCl₃

名前の3つのパーツが、図の3つの吹き出しにそのまま対応しています。DDTは、名前を分解すれば構造が描ける数少ない例です。

DDEはDDTの代謝物で、環境中にも生体内にも広く残っています。DDTとDDE、どちらも化審法の第一種特定化学物質です。

DDT・DDEには内分泌撹乱作用(環境ホルモン作用)があることでも知られています。環境ホルモンの単元でもう一度出てきます。

BHC ── 異性体で役割が分かれる

BHCの構造
BHCの構造

BHC(別名HCH:ヘキサクロロシクロヘキサン)は、シクロヘキサン環に塩素が6つついた構造です。

図を見てください。塩素が上向き(太い三角)と下向き(破線)に描き分けられています。この塩素の向きの組合せが違うものが異性体で、α体・β体・γ体などがあります。構造式としては同じなのに、性質と用途が違う。ここがBHCの問われどころです。

語呂で処理します。

ビーチでベタベタ、ガンガン殺虫 β体 = ベタベタ体内に蓄積 / γ体 = ガンガン殺虫

  • β体 …… 体内蓄積性が高い。残留が問題になるのはこちら
  • γ体 …… 殺虫作用が強い。殺虫剤として使われたのはこちら

そしてα体・β体・γ体はいずれも化審法の第一種特定化学物質です。

ドリン系とクロルデン類

ドリン系の関係
ドリン系の関係

ドリン系は、名前の語尾が「〜ドリン」でそろっています。

アルドリン →(CYP)→ ディルドリン →(異性体)→ エンドリン この向きに毒性が大きくなる

アルドリンは体内でシトクロムP450によって酸化され、ディルドリンになります。エンドリンはディルドリンの異性体です。図の青い矢印が示すとおり、右へ行くほど毒性が大きい。

ここも「代謝されて毒性が強くなる」というパターンで、エポキシ化と酸化的脱硫でやった代謝的活性化の考え方がそのまま効いています。

クロルデン類(クロルデン、ヘプタクロル)も同じ有機塩素系の殺虫剤です。

講義では「〜ドリンと来たら殺虫剤だな、と分かるくらいでOK」と言っています。国試での出題頻度も高くないので、名前の形で系統が言えれば十分です。

枯葉剤2,4-Dと2,4,5-T ── ダイオキシンが不純物になる理由

有機塩素系には除草剤もあります。ここが、この記事でいちばん深い論点です。

2,4-D = 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸 2,4,5-T = 2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸

名前を分解します。

  • フェノキシ酢酸 …… ベンゼン環に酸素が1つ、その先に酢酸(-CH₂COOH)
  • 2,4- / 2,4,5- …… 酸素のついた炭素を1位として、塩素がついている位置
  • ジ/トリ …… 塩素の数(2個/3個)

この2つは、ベトナム戦争で使われた枯葉剤(エージェント・オレンジ)の主成分です。そして戦後、散布された地域で催奇形性の被害が報告されました。ベトちゃん・ナムちゃんとして日本でも広く知られた事例です。

ダイオキシンは「作ろうとして作られた」わけではない

被害の原因は、除草剤そのものよりも不純物として混ざっていたダイオキシンでした。なぜ混ざったのか。原料の構造を見ると分かります。

2,4,5-Tの原料は2,4,5-トリクロロフェノールです。ベンゼン環に、OH(またはその塩)が1つと塩素が3つついた化合物。

製造工程では高温をかけます。すると、この原料が2分子どうしで結合してしまうことがある。

フェノールのO(酸素)が、相手の分子の塩素がついていた位置と結合する。 それが2か所で起きると、2つのベンゼン環が2本の酸素の橋でつながった構造ができる。

この「ベンゼン環2つが2つの酸素で環状につながった骨格」が、まさにダイオキシン骨格です。もとの塩素が残るので、塩素置換されたダイオキシン(2,3,7,8-TCDDなど)ができあがる。

つまり、

ダイオキシンは、意図して製造された物質ではなく、塩素化フェノールを原料に使ったときに副生する非意図的生成物です。

この「非意図的生成物」という言い方は、国試でそのまま使われます。ダイオキシン類の構造・発生源・TEQの計算はダイオキシン類|3物質の構造・発生源とTDI・TEF・TEQの計算で詳しく扱っているので、あわせて読んでください。

なお、有機塩素系の除草剤としてはほかにペンタクロロフェノール(PCP)もときどき出てきます。名前のとおりフェノールに塩素が5つ。これもPOPs条約の対象で、化審法の第一種特定化学物質です。

国試ではこう問われる

  • 第100回 問133「ダイオキシン類に関する記述のうち、正しいのはどれか」。選択肢1「ダイオキシン類は、コプラナーPCBを除き、有機化合物の燃焼時や2,4,5-Tなどの除草剤製造時の不純物として生成される非意図的生成物である」が正答です。この記事で見た「不純物として生成される」がそのまま文章になっています。

  • 第106回 問137の選択肢5「DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)及びその代謝物は、動物の脂肪組織に残留しやすい」が正答。DDTの正式名称が問題文にそのまま書かれているので、名前と構造の対応を知っていれば読み流せます。同じ問題では生物濃縮が主題で、「1-オクタノール/水分配係数が小さいほど濃縮されやすい」という誤り選択肢(正しくは大きいほど)も出ています。

  • 第99回 問21(必須)「化審法によって規制されている第一種特定化学物質はどれか」。正答はポリ塩化ビフェニル(PCB)。選択肢には塩化トリフェニルスズ、トリクロロエチレン、ポリ塩化ジベンゾフランが並びます。「難分解・高蓄積・長期毒性の3つがそろったものが第一種」という基準で判断します。

  • 第102回 問(化審法)では、PCBが油症事件の原因物質であり、化審法制定の契機になったことが選択肢になっています。有機塩素系の性質 → 化審法ができたという流れです。

  • 第97回 問では「ポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD)は第一種特定化学物質に指定されている」という選択肢が出ています。

この単元の出題は、農薬そのものよりも「化審法」「POPs条約」「生物濃縮」の側から来ます。個々の農薬名を暗記するより、「有機塩素系=難分解・高蓄積・慢性毒性 → 第一種特定化学物質・POPs条約」という1本の線を作っておくほうが点になります。

まとめ

  • 有機塩素系農薬の共通性質は難分解性・高蓄積性(生物濃縮)・慢性毒性。これがPOPs(残留性有機汚染物質)の定義に重なる
  • 国内では化審法の第一種特定化学物質として製造・輸入・使用が原則禁止、国際的にはストックホルム条約(POPs条約)で規制
  • DDTは「遠足はダブルデートでいい感じ」。ジクロロ・ジフェニル・トリクロロエタンで、代謝物がDDE。内分泌撹乱作用をもつ
  • BHC(HCH)は異性体で役割が分かれる。「ビーチでベタベタ、ガンガン殺虫」で、β体=蓄積、γ体=殺虫
  • ドリン系はアルドリン →(CYP)→ ディルドリン →(異性体)→ エンドリンの順に毒性が大きくなる
  • 枯葉剤は2,4-D(ジクロロフェノキシ酢酸)と2,4,5-T(トリクロロフェノキシ酢酸)
  • 2,4,5-Tの原料である塩素化フェノールが2分子結合すると、ダイオキシン骨格ができる。だからダイオキシンは不純物(非意図的生成物)として混入した

次はその他の農薬・殺鼠剤|ピレスロイド・ネオニコチノイド・グリホサートを読んでみてください。いま使われている農薬と、ネズミを殺す薬の話です。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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