化学物質の毒性

ジピリジリウム系除草剤パラコート【薬剤師国家試験】

頻出の農薬のマインドマップ
頻出の農薬のマインドマップ

ここで系統が変わります。

有機リン系・カルバメート系は殺虫剤で、標的はコリンエステラーゼでした。ここから扱うジピリジリウム系は除草剤で、毒性の出し方がまったく違います。

そして、この単元がこわいのはここです。

パラコート中毒には、有効な治療法がありません。

意識ははっきりしたまま、肺が線維化していって呼吸ができなくなる。しかも酸素を吸わせると、かえって悪化します。なぜそうなるのかを、機序からたどれば全部つながります。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

構造は「メガネ」──2つのピリジンでジピリジリウム

ジピリジリウム系の構造
ジピリジリウム系の構造

名前をそのまま分解してください。

ジ(2つ)+ ピリジン → ジピリジリウム

ピリジン環が2つつながった構造をしています。図のように丸で囲むとメガネに見える。この形が思い出せれば、名前も出てきます。

この系統の代表が2つです。

  • パラコート …… 2つのピリジンがパラ位(4位どうし)でつながり、両方の窒素にメチル基
  • ジクワット(ダイコート) …… 2つのピリジンがオルト位(2位どうし)でつながり、窒素どうしがエチレン鎖で橋かけされている

どちらも窒素がプラスに荷電した四級アンモニウムになっています。この+の電荷が、次に出てくる「電子を受け取りやすい」性質の正体です。

そして用途。

ジピリジリウム系は除草剤です。殺虫剤ではありません。

系統と用途の組合せを入れ替える出題があるので、ここは声に出して確認しておいてください。

活性酸素で肺がやられる仕組み

パラコートの毒性発現機構
パラコートの毒性発現機構

パラコートは、それ自体が細胞を壊すわけではありません。体内で活性酸素を作り出すサイクルを回してしまうのが問題です。

図を左から追ってください。

① 1電子還元されてパラコートラジカルになる

細胞内の還元系(NADPHなど)から電子を1個受け取り、パラコートラジカルになります。四級アンモニウムの+電荷があるので、電子を受け取りやすい。

② 酸素に電子を渡してスーパーオキシドを生じる

パラコートラジカルは不安定なので、受け取った電子を酸素(O₂)に渡して、自分は元のパラコートに戻ります。電子を渡された酸素はスーパーオキシドアニオン(O₂⁻)になる。

ここが重要です。パラコート自身は元に戻るので、減りません。同じ分子が何度でも①②を繰り返し、活性酸素を作りつづけます。このぐるぐる回る反応をレドックスサイクリングと呼びます。

③ 過酸化水素、そしてヒドロキシラジカルへ

O₂⁻はSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)によって過酸化水素(H₂O₂)になります。ここまでは体の防御反応です。

ところが、H₂O₂は鉄イオン(Fe²⁺)があるとヒドロキシラジカル(·OH)に変わってしまう(図の Fe²⁺ → Fe³⁺ の矢印がこれです)。

·OHは活性酸素のなかで最も反応性が高く、手当たり次第に脂質・タンパク質・DNAを壊します。

④ 肺線維症

こうして肺の細胞が壊され、修復のなかで線維化が進み、肺線維症になります。肺がかたくなって酸素を取り込めなくなり、呼吸不全に至ります。

なぜ「肺」なのか

全身に回るのに、なぜ肺だけが特異的にやられるのか。理由は2つあります。

  1. パラコートは肺胞上皮細胞に選択的に取り込まれ、濃縮される
  2. 肺は体のなかでいちばん酸素濃度が高い臓器

②のサイクルは酸素がないと回りません。薬が濃く、酸素も多いという条件がそろうのが肺です。だから肺が標的臓器になります。

治療法がない、そして酸素は禁忌

パラコート中毒には解毒薬がありません。

できるのは吸収を防ぐことだけです。胃洗浄、活性炭の投与、下剤といった、体に入る量を減らす処置が中心になります。いったん吸収されてしまうと、止める手立てがない。

そして、いちばん国試に出るのがここです。

酸素投与は禁忌。

呼吸が苦しいのだから酸素を、と考えたくなります。しかし上で見たとおり、酸素はレドックスサイクリングの材料です。酸素を足すことは、活性酸素を作る材料を追加で与えることになり、肺障害をさらに進めてしまう。

「呼吸困難 → 酸素投与」という反射が、この薬に限っては逆になる。ここが試験に出る理由です。

日本での規制

パラコートは1980年代に中毒事故が相次いだため、製剤の濃度が段階的に引き下げられました。1986年以降、日本で流通しているのは「パラコート5%+ジクワット7%」の混合液剤に整理されています(高濃度の単剤は販売されていません)。

「パラコートとジクワットが同じ製品に入っている」という現実が、この2つを同じ系統として一緒に覚える理由にもなっています。

国試ではこう問われる

  • 第99回 問135「農薬とその急性中毒に対する処置・解毒法の組合せのうち、正しいのはどれか」。選択肢1が「パラコート ── 酸素吸入」で、これは誤りです。酸素投与が禁忌であることが、そのまま誤答選択肢として使われています(この問題の正答は「ジクロルボス ── アトロピンの投与」)。

  • 第107回 問132の選択肢3「パラコートは、神経の電位依存性Na⁺チャネルに作用する」は誤り。Na⁺チャネルに作用するのはピレスロイド系です。逆に同じ問題の選択肢4「アセタミプリドは、1電子還元されてラジカルを生成し、スーパーオキシドアニオンを生じる」も誤りで、こちらの機序こそパラコートのもの。機序だけを別の薬にすげ替えるという、この単元の典型的な作り方です。

  • 第106回 問22(必須)「代謝物が、主としてメトヘモグロビン血症を引き起こすのはどれか」の選択肢1にパラコートが入っています(正答はアニリン)。パラコートはメトヘモグロビン血症ではなく肺線維症、という区別です。

  • 第101回 問237(実践)では、コリンエステラーゼ活性が低下した中毒患者の原因物質を選ぶ問題で、パラコートが誤答選択肢に入っています(正答はメソミル)。パラコートはChEを阻害しません。

過去問を並べると、パラコートは「正答」よりも「もっともらしい誤答」として使われる回数のほうが多いことがわかります。だからこそ、機序・標的臓器・解毒の3点を他の農薬と混ぜないのが、この記事でいちばん持ち帰ってほしいことです。

まとめ

  • ジピリジリウム系は除草剤。パラコートとジクワット(ダイコート)。ピリジン環が2つ=メガネの形
  • 体内で1電子還元されてパラコートラジカルになり、酸素に電子を渡してスーパーオキシド(O₂⁻)を生じる。パラコート自身は元に戻るので、反応が延々と繰り返される(レドックスサイクリング)
  • O₂⁻ →(SOD)→ H₂O₂ →(Fe²⁺)→ ヒドロキシラジカル(·OH) → 細胞障害 → 肺線維症
  • 標的が肺なのは、肺に選択的に取り込まれて濃縮されることと、肺の酸素濃度が高いことの2つが重なるため
  • 解毒薬はない。処置は胃洗浄・活性炭・下剤など吸収を防ぐもの
  • 酸素投与は禁忌(活性酸素の材料を与えることになる)
  • 日本ではパラコート5%+ジクワット7%の混合液剤に整理されている

次は有機塩素系農薬と枯葉剤|POPsとダイオキシンが不純物になる理由を読んでみてください。ここからは「毒性が強い」ではなく「環境に残りつづける」ことが問題になる農薬に移ります。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

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