食品機能と食品衛生

食品中の発がん物質|N-ニトロソ化合物・アクリルアミド・ヘテロサイクリックアミン【薬剤師国家試験】

食品中の発がん物質のマインドマップ
食品中の発がん物質のマインドマップ

食品中の発がん物質は、5つのグループで押さえます。

  1. N-ニトロソ化合物
  2. アクリルアミド
  3. ヘテロサイクリックアミン
  4. 植物中のもの(ソテツの実のサイカシン、ワラビのプタキロシド)
  5. ベンゾ[a]ピレン

覚えるときのコツは、「どこで、何と何が出会ってできるのか」を先に決めることです。発がんの機序そのもの(代謝活性化の詳細)は「化学物質と発がん」の単元でやるので、ここでは生成条件を中心に固めます。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

① N-ニトロソ化合物|胃の中で作られる

N-ニトロソ化合物の生成
N-ニトロソ化合物の生成

これは体の外から入ってくるのではなく、胃の中で作られるのが特徴です。流れを追います。

  1. 野菜に含まれる硝酸塩(ほうれん草、チンゲンサイなど)を食べる
  2. 口腔内細菌によって還元され、亜硝酸塩になる
  3. 一方、獣肉・魚肉に含まれる第二級アミン(ジメチルアミンなど)がある
  4. この2つが胃の中の酸性条件で反応 → ニトロソアミン(N-ニトロソ化合物)が生成
  5. ニトロソアミンが代謝を受けてメチルカチオン(CH₃⁺)になり、DNAを化学修飾して発がん性を示す
N-ニトロソ化合物の構造
N-ニトロソ化合物の構造

構造はアミンの窒素にニトロソ基(-N=O)がついたもの。R=CH₃ならジメチルニトロソアミンです。

亜硝酸塩は発色剤としても食品添加物に使われますが、講義では「メインは野菜由来のほうが量が多い」と説明されています。

阻害因子と促進因子

ここが国試の頻出ポイントです。

  • 生成を阻害する……ビタミンC(アスコルビン酸)、タンニン
  • 生成を促進する……アルデヒド、アルコール

「ビタミンCが止める」は必ず覚えてください。

第98回(問123)「亜硝酸と二級アミンからのニトロソアミンの生成は、pHが7付近で最も起こりやすい」→ 誤り。生成の場は胃の中の酸性条件です。

第108回(問129)「ジメチルニトロソアミンは、酸性下において、亜硝酸とジメチルアミンとの反応により生成する」→ 正。まったく同じ論点が、10年のあいだに向きを変えて2回出ています。

第101回(問123)にも「魚に含まれる2級アミンが胃の中で塩酸と反応することにより、ニトロソアミンが生じる」という選択肢があります。反応相手は塩酸ではなく亜硝酸なので誤り。「酸性条件で」と「塩酸と反応して」は違う、という細かい読み分けです。

② アクリルアミド|じゃがいも+高温加熱

アクリルアミドの生成と毒性
アクリルアミドの生成と毒性

じゃがいもに含まれるアミノ酸「アスパラギン」+還元糖 →(高温加熱・メイラード反応)→ アクリルアミド

ポテトチップスやフライドポテトなど、でんぷん質の食材を高温で揚げる・焼くとできます。メイラード反応の副産物、という位置づけです。

体内ではCYP2E1によって代謝的に活性化され(代謝物はグリシドアミド)、変異原性を示します。

神経障害について(原本より補足) 講義とマインドマップでは「視神経障害」となっていますが、農林水産省の資料では、アクリルアミドの神経毒性は「中枢神経及び末梢神経の障害(筋力低下、感覚異常、知覚麻痺、歩行異常等)」と説明されています。記事では公的資料に合わせて末梢神経障害を含む神経障害と記載します。発がん性はIARC分類でグループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)です。

アクリルアミドは10年で3回以上出ています。

  • 第101回(問123)「ポテトチップスを製造する際の加熱時に、じゃがいもに多く含まれるアスパラギンが糖と反応してアクリルアミドが生じる」→ 正
  • 第103回(問122)「ポテトチップス製造時におけるアクリルアミドの生成にも、メイラード反応が関与している」→ 正
  • 第98回(問123)「ジャガイモを揚げたときなどに生成するアクリルアミドは、ヘテロサイクリックアミンの一種である」→ 誤り。アクリルアミドはヘテロサイクリックアミンではありません

「アスパラギン+糖+高温」の3点セットと、ヘテロサイクリックアミンとは別物という線引きを押さえれば全部取れます。

③ ヘテロサイクリックアミン|焼け焦げのアミノ酸由来

タンパク質やアミノ酸を高温で加熱分解するとできます。温度が高く、加熱時間が長いほど生成量が増えるのが特徴です。

種類は由来するアミノ酸で2つに分かれます。

由来 名前 骨格
トリプトファン由来 Trp-P-1、Trp-P-2 インドール骨格 + ピリジン環
グルタミン酸由来 Glu-P-1、Glu-P-2 イミダゾール環の左右にピリジン環
Glu-P-1の構造
Glu-P-1の構造

P-1とP-2の違いはCH₃がついているかどうかです。CH₃がないほうがP-2と覚えてください。

構造の呼び方について(原本より訂正) マインドマップと講義では、Trp-P-1のインドールに縮環した6員環を「ピリミジン」と呼んでいますが、この環の窒素は1個なのでピリジンです。Trp-P-1の正式名は3-アミノ-1,4-ジメチル-5H-ピリド[4,3-b]インドールで、「ピリド」=ピリジンです。Glu-P-1側の図では正しく「ピリジン」と書かれているので、そちらに揃えてください。

発がんの機序

芳香族アミン類 →(P450でN-水酸化)→ 芳香族ヒドロキシルアミン →(アセチル化 or 硫酸抱合)→ 活性なエステル → ニトレニウムイオン → DNA修飾

ヘテロサイクリックアミンは芳香族アミンなので、この経路をたどります。最終的に悪さをするのはニトレニウムイオンです。詳しくは化学物質と発がんの単元で扱います。

第98回(問123)「タンパク質を加熱したときに生成するGlu-P-1は、エポキシ体に代謝されて変異原性を示す」→ 誤り。エポキシ体になるのはアフラトキシンやベンゾ[a]ピレンのほうで、Glu-P-1はN-水酸化 → ニトレニウムイオンです。

第108回(問129)「Trp-P-1は、高温での加熱調理により食品中の核酸から生成する」→ 誤り。核酸ではなくアミノ酸(トリプトファン)からです。

第101回(問123)「魚の焼け焦げの部分に含まれるトリプトファン由来の変異原性物質は、トリプタミンである」→ 誤り。トリプタミンは腐敗の脱炭酸反応で出てくる物質で、ここでの答えはTrp-P-1です。

④ 植物中の発がん物質|サイカシンとプタキロシド

食中毒の植物性自然毒と重複する内容ですが、発がん物質としての側面をここで確認します。

ソテツの実:サイカシン

サイカシン →(腸内細菌のβ-グルコシダーゼで分解)→ 吸収 → さらに分解 → メチルカチオン(CH₃⁺)→ 肝臓・腎臓・腸管に腫瘍

酵素名が2回狙われています。

  • 第98回(問123)「サイカシンは、体内でβ-グルコシダーゼによって代謝されたのちメチルカチオンを生じる」→ 正
  • 第108回(問129)「サイカシンは、β-グルクロニダーゼにより加水分解されて発がん作用を示す」→ 誤り

β-グルコシダーゼ(配糖体を切る酵素)であって、β-グルクロニダーゼではない。1文字違いで正誤が入れ替わります。

ワラビ:プタキロシド

プタキロシドは水溶性なので、あく抜きで除去できます。ここが試験のポイントです。

⑤ ベンゾ[a]ピレン|多環芳香族炭化水素

ベンゾ[a]ピレンの構造
ベンゾ[a]ピレンの構造

タバコの煙、焼いた肉、燻煙などに含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)です。

代謝はエポキシ化 → エポキシドヒドロラーゼで加水分解 → さらにエポキシ化と進み、最終的にできるエポキシドが発がん性を示します。

第98回(問123)「ベンゾ[a]ピレンは、食品の焦げた部分などに含まれる多環芳香族炭化水素の一種である」→ 正

第108回(問129)「ベンゾ[a]ピレンは、高温での加熱調理により食品中のアミノ酸から生成する」→ 誤り。アミノ酸から生成するのはヘテロサイクリックアミンです。ベンゾ[a]ピレンは不完全燃焼によって生じます。

「アミノ酸由来ならヘテロサイクリックアミン、燃焼由来ならベンゾ[a]ピレン」。この入れ替えが定番のひっかけです。

5つを1枚に

発がん物質 どこで・何から 活性種・特徴
N-ニトロソ化合物 野菜の硝酸塩→(口腔内細菌)→亜硝酸塩 + 獣肉・魚肉の第二級アミン、胃内の酸性条件 メチルカチオン。ビタミンC・タンニンが阻害、アルデヒド・アルコールが促進
アクリルアミド じゃがいものアスパラギン+糖を高温加熱(メイラード反応) CYP2E1で活性化(グリシドアミド)、神経障害・変異原性
ヘテロサイクリックアミン アミノ酸の加熱分解(高温・長時間ほど増加) Trp-P-1/2(トリプトファン由来)、Glu-P-1/2(グルタミン酸由来)。N-水酸化→ニトレニウムイオン
サイカシン/プタキロシド ソテツの実/ワラビ サイカシンはβ-グルコシダーゼ→メチルカチオン。プタキロシドはあく抜きで除去可
ベンゾ[a]ピレン タバコ、焼いた肉、燻煙(不完全燃焼) 多環芳香族炭化水素。エポキシドが発がん性

まとめ

  • N-ニトロソ化合物は胃の中の酸性条件で、亜硝酸塩+第二級アミンからできる。亜硝酸塩のもとは野菜の硝酸塩が口腔内細菌で還元されたもの
  • ビタミンC・タンニンが生成を阻害、アルデヒド・アルコールが促進。「pH7付近で最も起こりやすい」は誤り(第98回)
  • アクリルアミドはじゃがいものアスパラギン+糖+高温加熱(メイラード反応)。CYP2E1で活性化され変異原性を示す。ヘテロサイクリックアミンではない
  • ヘテロサイクリックアミンはアミノ酸の加熱分解から。Trp-P-1/2(トリプトファン由来)・Glu-P-1/2(グルタミン酸由来)、CH₃がないほうがP-2
  • ヘテロサイクリックアミンの活性種はニトレニウムイオン。エポキシ体ではない(第98回)
  • サイカシンはβ-グルコシダーゼで分解されメチルカチオンに。β-グルクロニダーゼではない(第108回)
  • プタキロシドは水溶性→あく抜きで除去可能
  • ベンゾ[a]ピレンは多環芳香族炭化水素で、不完全燃焼由来。アミノ酸由来と書いてあったら誤り

次は遺伝子組換え食品とは|第一世代・第二世代の違いと安全性審査5項目を読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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