
「変質」という言葉は、栄養成分が変化してしまうことを指します。そして、何が変質したのかで呼び名が変わります。

| 変質した成分 | 呼び名 |
|---|---|
| タンパク質 | 腐敗 |
| 油脂(脂質) | 変敗 |
| (関連して扱う) | 褐変 |
ここを取り違えると、あとの油脂の話がまるごとズレます。タンパク質なら腐敗、油脂なら変敗。まずこれだけ固定してください。
この記事では腐敗と褐変を扱います。変敗は次の記事です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
腐敗はアミノ酸の反応で追いかける
腐敗はタンパク質の変質なので、中身はアミノ酸がどう反応するかの話になります。追いかけるのは3つです。
- 脱炭酸反応(COOHが取れる)
- 脱アミノ反応(NH₂が取れる)
- 腐敗臭(においの原因物質ができる)
① 脱炭酸反応|ヒスチジン→ヒスタミンが最重要

食品衛生でいちばん大事な脱炭酸反応がこれです。
ヒスチジン → (ヒスタミン生成菌の出すヒスチジン脱炭酸酵素) → ヒスタミン + CO₂
ヒスチジンはイミダゾール環+アラニンという構造をしていて、そのアラニン部分のCOOHが外れて(CO₂として抜けて)ヒスタミンになります。触媒するのはモルガン菌などのヒスタミン生成菌が持つヒスチジン脱炭酸酵素です。
できたヒスタミンがアレルギー様食中毒を起こします。原因食品はヒスチジンを多く含む赤身魚——イワシ・サンマ・マグロです。
「アレルギー様」であって「アレルギー」ではないのがポイントです。第105回に「ヒスタミンによるアレルギー様食中毒は、IgE抗体を産生しやすい体質の人にしか起こらない」という選択肢が出ました。誤りです。これは抗原抗体反応ではなく、ヒスタミンという化学物質を直接食べたことによる中毒なので、体質に関係なく誰にでも起こります。
第108回(問121)でも「食品が腐敗するとヒスタミンが生成する」が選択肢として登場しています。
その他の脱炭酸の例として、トリプトファン → トリプタミンも同じ形の反応です。
② 脱アミノ反応
こちらはシンプルです。
アミノ酸 → α-ケト酸 + アンモニア(NH₃)
アミノ酸からアミノ基が抜けてアンモニアになり、残りがα-ケト酸になります。腐ったものがツンとくるのは、このアンモニアのせいです。
③ 腐敗臭|3つの経路を名前で覚える
腐敗臭の原因物質は、どのアミノ酸から、何ができるかで3つに整理できます。
(1) トリプトファンの分解

トリプトファン → スカトール(+NH₃+CO₂) → インドール
スカトールは便臭の原因物質です(語源は「スカトロ」)。構造としてはインドール骨格の3位にCH₃がついたもので、そのCH₃が取れるとインドールになります。
(2) 含硫アミノ酸の分解

システイン → メルカプタン / 硫化水素(H₂S)
硫黄を含んでいるから臭い。ここは理屈で押せます。
(3) トリメチルアミンオキシドの還元
トリメチルアミンオキシド → トリメチルアミン
魚の腐敗臭の原因物質がトリメチルアミンです。ここは反応式よりも言葉の順番をそのまま覚えてください。もとは無臭のトリメチルアミンオキシドで、還元されて臭いトリメチルアミンになる——この向きです。
第105回に、この向きを逆にしたひっかけが出ました。「魚に含まれるトリメチルアミンが空気に触れて酸化されることにより、魚臭さの原因物質であるトリメチルアミンN-オキシドが生成する」→ 誤り。臭いのはトリメチルアミンのほうで、N-オキシドが還元されてできます。矢印の向きだけの問題なので、必ず取りたい1問です。
腐敗の識別法4つ
腐っているかどうかをどう判定するか。4つです。
- トリメチルアミンの測定(魚の腐敗臭)
- ヒスタミンの測定(アレルギー様食中毒に直結するため)
- 感覚試験(色・におい・味)
- 生菌数の測定
褐変|酵素的か、非酵素的か
褐変は「茶色くなる」現象です。酵素が関わるか、関わらないかで2つに分かれます。この切り分けがそのまま国試になります。
酵素的褐変|リンゴの切り口が茶色くなるやつ

オルトジフェノール類 →(ポリフェノールオキシダーゼ + O₂)→ オルトキノン体 →(重合)→ メラニン色素
リンゴ・バナナ・じゃがいもなどの細胞の中には、オルトジフェノール類とポリフェノールオキシダーゼが別々に入っています。包丁で切ると細胞が壊れて両者が出会い、酸化が進んでメラニン色素ができる。これが切り口が茶色くなる正体です。
りんごジュースを作るときも同じことが起きるので、アスコルビン酸(ビタミンC)などの還元剤を加えて防ぎます。
なお、緑茶が紅茶になる反応も同じ酵素的褐変です。茶葉のカテキンが酸化して色と風味が変わる——こちらは褐変を利用している例になります。
非酵素的褐変|メイラード反応

還元糖 + アミノ酸 → シッフ塩基 → α-ジカルボニル化合物 → (重合) → メラノイジン(褐色)
酵素を使わない褐変の代表がメイラード反応です。パンを焼いたときの焼き色、砂糖水を加熱したときの茶色。加熱で起こる褐変はこちらだと思ってください。
流れの中に出てくる名前を順に押さえます。
- シッフ塩基……還元糖のカルボニル基とアミノ酸のアミノ基が縮合してできる中間体
- α-ジカルボニル化合物……そこから進んでできる中間体
- ストレッカー分解……α-ジカルボニル化合物が加熱でCO₂とアルデヒドを出す反応。香気成分の発生に関わる
- メラノイジン……最終的に重合してできる褐色色素
副作用もあります。リシンのε-アミノ基がメイラード反応に使われてしまうと、そのリシンは利用できなくなるため、タンパク質の栄養価が低下します。
メイラード反応は第103回(問122)でまるごと1問になりました。「誤っているもの」を選ぶ問題で、選択肢はこうです。
- トーストしたパンの褐変や、香気成分の生成に関わる → 正
- メラノイジンは抗酸化作用を有している → 正
- リシンのε-アミノ基がこの反応を受けると、栄養価は低下する → 正
- リンゴの皮をむいて空気中に放置すると、この反応により褐変する → 誤(これが答え。酵素的褐変)
- ポテトチップス製造時におけるアクリルアミドの生成にも関与している → 正
「リンゴ=酵素的、加熱=メイラード」。これだけで取れます。
まとめ
- 変質は栄養成分の変化。タンパク質なら腐敗、油脂なら変敗
- 脱炭酸の最重要はヒスチジン→ヒスタミン。モルガン菌などのヒスタミン生成菌が持つヒスチジン脱炭酸酵素による。イワシ・サンマ・マグロでアレルギー様食中毒
- アレルギー様食中毒はIgEを介さないので、体質に関係なく誰でも起こる(第105回)
- 脱アミノ反応はアミノ酸→α-ケト酸+アンモニア
- 腐敗臭は3経路。トリプトファン→スカトール・インドール、システイン→メルカプタン・硫化水素、トリメチルアミンオキシド→トリメチルアミン(魚)
- トリメチルアミンは「還元されてできる」。酸化でN-オキシドができるという記述は誤り(第105回)
- 腐敗の識別はトリメチルアミン・ヒスタミン・感覚試験・生菌数の4つ
- 酵素的褐変=オルトジフェノール類+ポリフェノールオキシダーゼ→オルトキノン体→メラニン色素。リンゴの切り口
- 非酵素的褐変=メイラード反応。還元糖+アミノ酸→シッフ塩基→α-ジカルボニル化合物→メラノイジン。ストレッカー分解で香気成分、リシンのε-アミノ基が消費されて栄養価低下
- リンゴ=酵素的、加熱=メイラード。第103回・第108回で2回問われた切り分け
次は油脂の変敗の反応機構|ラジカル連鎖反応で覚えるを読んでみてください。同じ「変質」でも、油脂のほうは反応が一本道でつながっているので、覚え方がまったく違います。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。