
変敗は油脂(脂質)の変質です(腐敗はタンパク質の変質)。
この単元、暗記量が多そうに見えますが、実は反応が一本道です。「トリアシルグリセロールが加水分解される → ラジカルができる → 連鎖反応が回る → 最後に低級脂肪酸になる」という1本の流れがあって、その流れのどこを測っているかが5つの変質試験になっている。だから反応機構を先に押さえると、試験5つは勝手に整理されます。
この記事では反応機構だけをやります。5つの試験は次の記事です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
ステップ0|まず加水分解で遊離脂肪酸が出る

油脂の正体はトリアシルグリセロール(TG)です。グリセロールに脂肪酸が3本、エステル結合でぶら下がっています。
トリアシルグリセロール →(加水分解)→ 遊離脂肪酸 + グリセロール
まずここで遊離脂肪酸が切り出されます。この遊離脂肪酸のCOOHを測っているのが酸価です。反応の起点で覚えておいてください。
ステップ1〜3|ラジカル連鎖反応が本体

ここからが変敗(酸化・酸敗)の本体です。図を上から順に追います。
① 開始:不飽和脂肪酸から水素が抜ける
出発点はRH(不飽和脂肪酸)。この段階では二重結合がたくさん残っているので、ヨウ素価は高い状態です。
ここに熱や光が当たると、二重結合のとなりのHが引き抜かれて、
RH →(熱・光)→ R•(脂肪酸ラジカル) + H
脂肪酸ラジカル(R•)ができます。
② 酸素がつく:ペルオキシラジカル
R• + O₂ → ROO•(ペルオキシラジカル)
ラジカルは反応性が高いので、空気中の酸素とすぐ結合します。
③ 連鎖:ほかの脂肪酸から水素を奪う
ペルオキシラジカルは「電子が欲しい」状態なので、別の不飽和脂肪酸(RH)からHを奪います。
ROO• + RH → ROOH(ヒドロペルオキシド) + R•
ここがこの単元の核心です。奪われた側は新しい脂肪酸ラジカル(R•)になり、そのR•がまた酸素とくっついてペルオキシラジカルになり、またHを奪う——止まらない連鎖反応が始まります。図の右側に「連鎖反応」と2か所書かれているのは、この2つのループのことです。
そして自分自身はROOH(ヒドロペルオキシド)になる。これが過酸化物価で測っている物質です。
この連鎖をどこで止めるか(食品添加物とつながる)
連鎖反応の止め方が2つ、図に書き込まれています。ここは酸化防止剤の単元と直結します。
- ラジカル捕捉剤……ビタミンE(トコフェロール)など。ペルオキシラジカルを捕まえて自分がトコキノンなどになり、連鎖を断つ
- 金属封鎖剤(キレート剤)……ヒドロペルオキシドの分解を進めてしまう金属を捕まえて除去する
第103回(問123)に「食品添加物として添加したビタミンEは、不飽和脂肪酸を含む油脂の過酸化物価の上昇を抑制する」という正しい選択肢が出ています。ラジカル捕捉剤が連鎖を止める=ヒドロペルオキシドができにくくなる、という筋がそのまま問われました。
ステップ4|分解して最終産物へ
ヒドロペルオキシド(ROOH)は中間体です。金属の触媒作用で分解が進み、
ROOH →(金属)→ マロンジアルデヒド / カルボニル化合物 → 低級脂肪酸
と進みます。
- マロンジアルデヒド……チオバルビツール酸(TBA)試験値で測る物質
- カルボニル化合物……カルボニル価で測る物質
- 低級脂肪酸……鎖が切れて短くなった脂肪酸。酸価が上がる原因
長い不飽和脂肪酸の途中にOOHが入って、そこで鎖が切れる。だから長鎖脂肪酸1分子が、短い低級脂肪酸2分子に分かれるイメージです。
反応の流れと5つの試験の対応表
反応の順番に沿って並べると、こうなります。この表を頭に入れてから次の記事に進んでください。
| 反応段階 | 現れる物質 | 対応する試験 |
|---|---|---|
| 出発点 | 不飽和脂肪酸(二重結合が多い) | ヨウ素価 |
| 加水分解 | 遊離脂肪酸 | 酸価 |
| 連鎖反応の中間 | ヒドロペルオキシド | 過酸化物価 |
| 分解 | マロンジアルデヒド | チオバルビツール酸(TBA)試験値 |
| 分解 | カルボニル化合物 | カルボニル価 |
| 最終 | 低級脂肪酸 | 酸価(さらに上がる) |
国試ではこう問われる
反応機構そのものより、「酸化されやすいのはどっちか」という形で問われます。
第103回(問123)「油脂の変敗に関する記述のうち、正しいのはどれか」
- 「オレイン酸のみを含む油脂より、リノール酸のみを含む油脂の方が酸化されやすい」→ 正
理由は反応の起点にあります。ラジカルは二重結合のとなりのHが引き抜かれてできるので、二重結合が多い(=不飽和度が高い)ほど酸化されやすい。オレイン酸は二重結合1つ、リノール酸は2つ。だからリノール酸のほうが酸化されやすい。
第107回(問128)でも、コーン油とオリーブ油の保存実験を題材に「コーン油はオリーブ油よりも開封直後のヨウ素価が大きい」ことから何が言えるかが問われました。ヨウ素価が大きい=不飽和脂肪酸が多い=酸化されやすい。ここを「飽和脂肪酸を多く含む」と書いた選択肢が誤りです。
「二重結合が多い=ヨウ素価が高い=酸化されやすい」。この一本の筋を通しておけば、計算も暗記も要りません。
まとめ
- 変敗は油脂の変質。まずトリアシルグリセロールが加水分解されて遊離脂肪酸とグリセロールになる(→酸価)
- 酸化の本体はラジカル連鎖反応。RH →(熱・光)→ R• → (O₂) → ROO• → (RHからH奪取) → ROOH + 新しいR•
- 連鎖が回るのは、ROO•が別のRHからHを奪って新しいR•を作るから。ここが単元の核心
- ビタミンEなどのラジカル捕捉剤が連鎖を断ち、金属封鎖剤(キレート剤)がヒドロペルオキシドを分解する金属を除く
- ヒドロペルオキシド(ROOH)は中間体。金属の作用でマロンジアルデヒド・カルボニル化合物になり、最後は低級脂肪酸に
- 対応は、不飽和度→ヨウ素価/遊離脂肪酸→酸価/ヒドロペルオキシド→過酸化物価/マロンジアルデヒド→TBA試験値/カルボニル化合物→カルボニル価
- 二重結合が多いほど酸化されやすい(オレイン酸 < リノール酸)。第103回・第107回で問われた考え方
次は油脂の変質試験5つの違い|経時変化で覚えるを読んでみてください。「上がる/下がる/上がってから下がる」——この3パターンに落とし込めば、5つの試験は1枚のグラフで終わります。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
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