
ここから「食品衛生」の単元に入ります。最初に来るのが変質を防ぐ側の話です。
食品を傷ませないためにできることは、大きく2つしかありません。微生物が増えられない状態にしておくこと(=水分活性を下げる)と、工程のどこで危ないことが起きるかを先回りして見張っておくこと(=HACCP)。前者はモノの話、後者は仕組みの話です。国試でもこの2つは別々に問われるので、頭の中でも別の引き出しに入れておいてください。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
水分活性とは|「水の量」ではなく「自由に使える水の割合」
食品の中の水は、2種類に分かれています。
- 自由水……食品中を自由に動ける水。微生物が利用できる
- 結合水……食品中の成分(糖やタンパク質など)と結合している水。微生物は利用できない
微生物が使えるのは自由水だけです。だから「水分が何%あるか」ではなく、「自由に使える水がどれくらいあるか」で腐りやすさが決まります。これを表す指標が水分活性(Aw)です。
純水の水分活性は1で、そこから下がっていきます。水分活性が高い食品とは、自由水が多く、結合水が少ない食品のことです。
定義式は蒸気圧で書ける(第108回で出題)
講義では「食品水分中の自由水の占める割合」と説明していますが、国試では式で問われたことがあります。
第108回の必須問題(問18)では、P を食品を入れて密封した容器内の水蒸気圧、P₀ をその温度における純水の飽和蒸気圧として、水分活性を表す式を選ばせました。答えは次のとおりです。
水分活性 Aw = P ÷ P₀
「自由水の割合」という言葉のイメージと、P/P₀ という式、この2つはセットで覚えておいてください。片方しか知らないと必須問題を落とします。
微生物が増えるのに必要な水分活性

| 微生物 | 増殖に必要な水分活性 |
|---|---|
| 細菌 | 約 0.9 |
| 酵母 | 約 0.88 |
| カビ | 約 0.8 |
細菌 > 酵母 > カビ の順で、必要な水分活性が下がっていきます。つまりカビがいちばん乾いた環境でも生きられるということです。パンやジャムにまずカビが生えるのは、これが理由です。
そして、いちばん大事な数字がこれです。
水分活性0.6以下では、すべての微生物が繁殖できない。
食品の水分活性の目安も、あわせて押さえておきましょう。
| 水分活性 | 食品の例 |
|---|---|
| 1.0 に近い | 生鮮食品 |
| 0.85〜0.6(中間水分食品) | ジャム、干物、ドライフルーツ |
| 0.6〜0.5 | チョコレート、はちみつ |
| 0.5 以下 | 乾物(ビスケットなど) |
第105回の理論問題に、「カビは、食品の水分活性の値が1.0のときに最も増殖しやすくなる」という選択肢が出ました。カビは水分活性0.8程度でも増殖できる=乾いた環境に強いのが特徴なので、この記述は誤りです。表の並びを覚えていれば即答できます。
水分活性を下げる4つの方法

変敗を防ぐ保存法は4つあります。「水分活性を下げているのはどれか」という聞かれ方をするので、原理とセットで覚えてください。
| 保存法 | 原理 | ポイント |
|---|---|---|
| ① 塩蔵法・糖漬法 | 水分活性を下げる | 浸透圧を利用して自由水を除く |
| ② 酢漬け法 | 増殖の最適pH以下に保つ | 水分活性は下げていない |
| ③ くん煙法 | くん煙中のアルデヒド・フェノール類による殺菌作用 | 特有の風味も加わる |
| ④ 食品添加物の利用 | 殺菌料・保存料・防かび剤 | 対象食品を限定して使用 |
水分活性を下げているのは①だけです。これがそのまま国試になっています。
第100回の必須問題(問17)は、「水分活性を低下させることにより食品の腐敗を防止する方法はどれか」。選択肢は冷凍・糖漬・酢漬・加熱・真空包装で、答えは糖漬です。冷凍や加熱は微生物の活動を止めますが、水分活性そのものは下げていないという切り分けが問われています。
第105回でも「塩辛などの塩蔵品は、水分活性を低くすることで腐敗しにくくしている」という正しい選択肢が出ています。
HACCPとは|「最後に抜き取る」から「途中で見張る」へ

図は厚生労働省「【リーフレット】HACCPを理解いただくために」をもとに作成されたものです。
ここからは仕組みの話です。HACCP(ハサップ)は、次のように定義されます。
食品の生産管理・流通・消費の過程で危害を及ぼす可能性をあらかじめ分析し、危害を防止するための重要管理点(CCP)を特定して継続的に監視・記録し、速やかに危害の発生を検出して被害の拡大を防ぐ手法。
もともとアメリカで宇宙食を作るときに考えられた方式です。
従来方式との違いがすべて
図の上段が従来方式です。「原料→入荷→保管→加熱→冷却→包装→出荷」と進んで、出荷前に抜き取り検査をします。しかしこれには決定的な弱点があります。全部は検査できない。抜き取ったサンプルがたまたま大丈夫でも、残りが安全だとは言い切れません。
図の下段がHACCP方式です。工程全体を見渡して、どこがいちばん危ないかを先に考えます。この例なら加熱と包装。加熱では温度や時間の管理、包装では異物の検出を、継続的に監視・記録します。この危ないポイントがCCP(Critical Control Point:重要管理点)です。
「最終製品の抜き取り検査」ではない。ここが国試の急所です。
HACCPは3回出題を確認しました。しかも聞かれ方がほぼ同じです。
- 第101回(問124)・第106回:「HACCPとは、食品製造における最終製品の抜き取り検査による衛生管理の方法である」→ 誤り。抜き取り検査は従来方式のほうです
- 第110回(問130):「HACCPに沿った衛生管理では、都道府県が作成した衛生管理計画に基づいて衛生管理を実施しなければならない」→ 誤り。衛生管理計画を作るのは食品等事業者自身です
同じ論点が10年で3回。「抜き取り検査ではない」「計画を作るのは事業者」、この2つを言い切れるようにしておけば取れます。
HACCPは義務です(2021年6月から完全施行)
2018年(平成30年)の食品衛生法改正でHACCPに沿った衛生管理が制度化され、2020年6月1日に施行、1年の経過措置を経て2021年(令和3年)6月1日から原則すべての食品等事業者に義務づけられています(食品衛生法第51条)。
ただし全員が同じことをするわけではなく、規模と業種で2つに分かれます。
- HACCPに基づく衛生管理……と畜場・食鳥処理場、および大規模事業者。コーデックスのHACCP7原則に沿って計画を作る
- HACCPの考え方を取り入れた衛生管理……従業員50人未満の小規模事業者、飲食店など。業界団体の手引書を使って簡略化した運用ができる
第110回の出題が「都道府県が作成した計画」を誤りとしていたのは、計画を作る主体が事業者であるというこの制度設計を問うたものです。
まとめ
- 水分活性は食品中の自由水の割合。純水で1、0.6以下ですべての微生物が繁殖できない
- 定義式は Aw = P/P₀(食品の水蒸気圧 ÷ 同温度の純水の飽和蒸気圧)。第108回の必須問題で式が問われた
- 増殖に必要な水分活性は細菌0.9 > 酵母0.88 > カビ0.8。カビがいちばん乾燥に強い
- 中間水分食品(0.85〜0.6)はジャム・干物・ドライフルーツ。0.6以下はチョコレート・はちみつ、0.5以下は乾物
- 保存法4つのうち、水分活性を下げているのは塩蔵法・糖漬法だけ(浸透圧による自由水の除去)。酢漬けはpH、くん煙は殺菌成分、添加物は薬剤
- HACCPは「あらかじめ危害を分析してCCPを継続監視・記録する」方式。最終製品の抜き取り検査ではない
- 衛生管理計画を作るのは食品等事業者自身。2021年6月から原則義務化。50人未満の小規模事業者は「考え方を取り入れた衛生管理」でよい
次は食品の腐敗と褐変|脱炭酸・脱アミノとメイラード反応を読んでみてください。防ぐ側を押さえたら、次は実際に何が起きているのかという機序の話に進みます。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。