
遺伝子組換え食品の定義はこうです。
ある生物の有用な遺伝子を植物中に組み込んだ農作物およびその加工食品。
メリットは2つ。迅速な改良が可能なことと、種を超えた遺伝子の導入が可能なことです。従来の交配による品種改良では何世代もかかりますし、そもそも別の種の性質は持ち込めません。
この単元は「誰にとって都合がいいか」で世代を分けるのと、安全性審査の5項目の2本立てです。表示の話は次の記事で扱います。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
第一世代と第二世代|「生産者向けか、消費者向けか」
分類の軸はこれ1つです。
- 第一世代 = 生産者(作る人)にとって都合がいい
- 第二世代 = 消費者(食べる人)にとって都合がいい
作物名を丸暗記するのではなく、「これは作る人が楽になる話か、食べる人が嬉しい話か」で振り分けてください。
第一世代の例①|害虫抵抗性トウモロコシ
トウモロコシに、Bt菌(Bacillus thuringiensis)由来の毒素タンパク(Btタンパク)を作る遺伝子を組み込んだものです。
- Btタンパクを緑色組織(人が食べない部分)に発現させる
- 蛾や蝶の幼虫がそこを食べると、幼虫の腸内で分解されて活性化し、害虫が死ぬ
- ヒトでは活性化しないので影響がない
結果、農薬を減らしてもトウモロコシが守られる。育てやすくなるのは生産者なので第一世代です。
第一世代の例②|除草剤耐性ダイズ

グリホサートという除草剤は、植物に特有のアミノ酸合成を阻害します。普通の植物はタンパク質を作れなくなって枯れてしまう。
そこで大豆に、バクテリア由来の合成酵素の遺伝子を入れておきます。すると植物特有の経路が止まっても、バクテリア由来の酵素でアミノ酸を合成できるので、グリホサートを撒いても枯れません。
畑にグリホサートを撒けば雑草だけが枯れて大豆は残る。これも生産者が楽になる話です。
第二世代の例|高オレイン酸ダイズ
大豆油にはリノール酸・リノレン酸・オレイン酸が含まれています。リノール酸やリノレン酸は二重結合が複数ある多価不飽和脂肪酸で、酸化されやすい。一方オレイン酸は二重結合が1つだけなので、比較的酸化に強い。
そこでオレイン酸の割合を高めた大豆を作る。揚げ物に使っても酸化安定性が高い——これは食べる人にとってのメリットなので第二世代です。
油脂の変敗で出てきた「二重結合が多いほど酸化されやすい」が、そのままここで効いてきます。
安全性審査|食品衛生法で義務化されている

図は厚生労働省パンフレット「遺伝子組換え食品の安全性について」をもとに作成されたものです。
根拠法は食品衛生法。2001年(平成13年)4月1日から安全性審査が義務化されており、審査を受けていない遺伝子組換え食品の製造・輸入・販売は禁止されています。
流れを図で追います。審査の窓口は、2024年4月に厚生労働省から消費者庁へ移りました。図と過去問は厚生労働省の時代のものなので、「厚生労働省」を「消費者庁」に読み替えてください。
- 申請者 → 消費者庁に申請
- 消費者庁 → 内閣府の食品安全委員会に評価を依頼
- 食品安全委員会が遺伝子組換え食品等専門調査会に付議し、食品健康影響評価を実施
- 専門調査会 → 食品安全委員会に報告
- 食品安全委員会 → 消費者庁に評価を通知
- 消費者庁が官報掲載で公表
評価するのは食品安全委員会(内閣府)、審査・承認するのは消費者庁(2024年3月までは厚生労働省)という役割分担がポイントです。食品安全委員会はBSE問題をきっかけに内閣府に設置された組織でした。
安全性の確認の考え方
確認するのは次の2つです。
- 付加されるすべての性質の安全性
- それに起因して発生するその他の影響の可能性
審査項目5つ

① 挿入遺伝子の安全性 ② 挿入遺伝子により産生されるタンパク質の有害性の有無 ③ そのタンパク質のアレルギー誘発性の有無 ④ 挿入遺伝子が間接的に他の有害物質を産生する可能性の有無 ⑤ 遺伝子挿入により成分に重大な変化を起こす可能性の有無
図の形で覚えるのが速いです。「DNAを挿入する」を中心に置いて、
- 上へ:このDNA自体は安全か(①)
- 下へ(発現):タンパク質ができる → このタンパクの有害性は(②) → アレルギー誘発性の有無(③)
- 右へ(間接的作用):他の有害物質は産生されないか(④)
講義では「よく出るのは上の4つ」と明言されています。⑤は成分変化の話です。
第105回(問125)「安全性の評価には、挿入遺伝子の遺伝子産物によるアレルギー誘発性に関する知見が必要である」→ 正。③がそのまま出題されました。
輸入時のモニタリング検査

図は厚生労働省パンフレット「遺伝子組換え食品の安全性について」より。
日本の制度はポジティブリスト方式です。日本で安全性が確認されたものでなければ、輸入して販売することはできません。
- 貨物船で到着、輸入者が検疫所に輸入届出書を提出
- 検疫所の指示で命令検査・モニタリング検査(サンプリング)
- 輸入食品・検疫検査センターや登録検査機関で検査(PCRなどを用いる)
- 問題なければOK。安全性未確認のものを検出したら廃棄・回収などの措置
第105回(問125)「輸出国で安全性に関する審査を受けた遺伝子組換え食品は、日本国内で審査を受けることなく流通・販売が可能である」→ 誤り。日本国内での審査が必要です。この検疫の仕組みがあることを知っていれば即座に切れます。
同じ問題の「遺伝子組換え農作物の商業的栽培は許可されていない」も誤りです。
カルタヘナ議定書とカルタヘナ法|こちらは「環境」の話
ここまでは人が食べる安全性の話でした。環境に対する影響は別の枠組みで扱います。
- カルタヘナ議定書……生物多様性条約に基づく国際的な取り決め。遺伝子組換え生物が生物の多様性に及ぼす悪影響を防止するための措置を規定
- カルタヘナ法……議定書を日本国内で運用するための法律。環境中に放出されないように管理する
第100回(問135)「カルタヘナ議定書は、遺伝子組換え技術により改変された生物による、生物の多様性の保全に及ぼす悪影響を防止するための措置を規定している」→ 正
第110回(問137)「生物の多様性に関する条約カルタヘナ議定書では、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引が規制されている」→ 誤り。これはワシントン条約(CITES)の説明です。
条約名の入れ替えは衛生の定番なので、環境保全の国際条約とまとめて確認しておくと安全です。
まとめ
- 遺伝子組換え食品=ある生物の有用な遺伝子を植物中に組み込んだ農作物およびその加工食品。迅速な改良と種を超えた遺伝子導入が可能
- 第一世代=生産者にとって都合がいい……害虫抵抗性トウモロコシ(Btタンパクを緑色組織に発現、幼虫の腸内で活性化、ヒトでは活性化しない)、除草剤耐性ダイズ(グリホサート耐性、バクテリア由来の合成酵素を導入)
- 第二世代=消費者にとって都合がいい……高オレイン酸ダイズ(二重結合が1つなので酸化安定性が高い)
- 安全性審査は食品衛生法が根拠。2001年4月から義務化され、未審査品の製造・輸入・販売は禁止
- 流れは申請者→消費者庁→(評価依頼)→食品安全委員会(内閣府)→評価通知→官報掲載。評価は食品安全委員会、審査・承認は消費者庁(2024年4月に厚生労働省から移管)
- 審査項目は5つ。①挿入遺伝子の安全性 ②産生タンパクの有害性 ③アレルギー誘発性 ④間接的な有害物質産生 ⑤成分の重大な変化。よく出るのは①〜④
- 輸入時はポジティブリスト方式。検疫所への輸入届出書→モニタリング検査(PCR等)→未確認品は廃棄・回収
- 輸出国で審査済みでも、日本で審査を受けないと流通できない(第105回)
- 環境影響はカルタヘナ議定書/カルタヘナ法。生物多様性の確保が目的。ワシントン条約と混同させる出題に注意(第110回)
次は遺伝子組換え食品の表示|IPハンドリングと表示義務・表示免除を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
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