
覚せい剤の単元は、構造式1つですべて説明がつきます。
アンフェタミンとメタンフェタミンの違いは窒素にメチル基が1個ついているかどうかだけ。ところが、そのメチル基1個が呈色反応の陽性・陰性を分け、日本で多いのはどちらかを分け、覚せい剤原料との関係まで決めています。
そして、「塩基性である」という1点から、抽出の条件も、中毒時の処置も、全部導けます。暗記する項目に見えて、じつは2つの事実の帰結でしかありません。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
違いはメチル基1個

| 窒素まわり | アミンの級数 | |
|---|---|---|
| アンフェタミン | NH₂ | 1級アミン |
| メタンフェタミン | NH-CH₃ | 2級アミン |
メタンフェタミンは、アンフェタミンのアミノ基がメチル化されたもの。「メタン(メチル)がついているほうがメタンフェタミン」で、名前がそのまま構造です。
この級数の違いが、このあと出てくる呈色反応をすべて決めます。1級か2級かだけ、絶対に外さないでください。
語呂 ── メタン・ニホン・シモン

講義で使っている語呂です。語尾の「ン」でそろえます。
メタンフェタミン → ニホン(日本で多い) → シモン反応(陽性)
日本で乱用が多いのはメタンフェタミンのほう、そしてシモン反応で検出されるのもメタンフェタミンのほう。「ン」の3連で一気に結びつきます。
シモン反応は2級アミンだけが陽性

定性反応は2つあります。
| アンフェタミン(1級) | メタンフェタミン(2級) | |
|---|---|---|
| ① p-ニトロベンゼンジアゾニウムクロライド | 陽性 | 陰性 |
| ② シモン反応 | 陰性 | 陽性 |
シモン反応は2級アミンが陽性。 メタンフェタミンはきれいに反応が出ます。 ①のほうは試薬名を覚える必要はありません。「1級アミンを検出するほう」と分かっていれば足ります。
ここで気をつけてほしいのが、「アンフェタミン及びメタンフェタミンの検出にはシモン反応が用いられる」という言い方は誤りだという点です。シモン反応で捕まるのは2級アミンであるメタンフェタミンだけ。実際にこの形で誤り選択肢が作られています(後述)。
「塩基性である」から全部が出てくる

アンフェタミンもメタンフェタミンも、窒素をもつ塩基性の化合物です。ここから2つの操作が正反対の向きに決まります。
抽出したいとき → アルカリ性にする
塩基性の物質は、アルカリ性にするとイオン型から分子型に戻ります。 分子型になれば脂溶性が上がるので、有機溶媒に移ります。
抽出は、アルカリ性にして分子型にしてから有機溶媒へ。
体外に出したいとき → 尿を酸性にする
逆に、尿を酸性にすると塩基性薬物はイオン型になります。イオン型は脂溶性が低いので、尿細管で再吸収されにくくなり、そのまま尿中に排泄されます。
尿の酸性化 → 再吸収↓ → 尿中排泄↑
目的が逆だから、pHも逆。 この一行で両方とも思い出せます。「アルカリ性か酸性か」を丸暗記しようとするとどちらか必ず崩れるので、「取り出したいのか、追い出したいのか」を先に決める癖をつけてください。
中毒時の処置
① ジアゼパムで鎮静する ② 尿を酸性化して排泄を促す
覚せい剤中毒では中枢が興奮しています。だからまず落ち着かせる。そして上で見たとおり、尿を酸性にして体外へ追い出す。この2つです。
依存の性質についても押さえておきましょう。覚せい剤は精神依存が強く、身体依存は弱い。摂取を中断したあとに、使用時と同じ精神症状がぶり返すフラッシュバックが起こりうるのも特徴です。「中断すると身体依存が強く現れる」という言い方は誤りで、実際にこの形で出題されています。
代謝と尿検査 ── 検出対象は未変化体
メタンフェタミンの代謝はシンプルです。
主に未変化体のまま尿中に出る。一部はCYPによるN-脱メチル化でアンフェタミンになる。
つまり、尿の検査で捕まえるのは未変化体そのものです。このあとのコカイン・大麻・幻覚剤では逆に未変化体がほとんど出ない物質を扱うので、覚せい剤が「未変化体が出る側」の代表だと位置づけておいてください。
N-脱メチル化の反応そのものは第Ⅰ相の酸化反応にあります。
覚せい剤原料

覚せい剤そのものとは別に、覚せい剤原料という区分があります。酸性・中性・塩基性のものがありますが、国試で覚えるのは塩基性の3つです。
エフェドリン / メチルエフェドリン / セレギリン
エフェドリンの構造を見てください。メタンフェタミンのベンジル位にOHが1つ増えただけです。だから原料になる。構造が近いから原料なのだと分かっていれば、3つとも覚えやすくなります。
セレギリンはパーキンソン病治療薬(MAO-B阻害薬)で、代謝されるとメタンフェタミン・アンフェタミンを生じます。医薬品でありながら覚せい剤原料という立ち位置なので、法規側の取扱いとセットで問われます(覚せい剤取締法)。
もう1つ、過去問には フェニルプロパノールアミン(PPA) が覚せい剤原料として出題された実績があります(第100回 問75で正解)。マインドマップには載っていませんが、「覚せい剤原料はどれか」という形で直接問われたので、名前だけ足しておくと安全です。
医薬品である覚せい剤原料の薬局での取扱い(かぎをかけた保管、処方箋に基づく調剤と譲渡など)は法規の範囲です。衛生側は「何が原料か」「なぜ原料なのか(構造)」までで十分です。
国試ではこう問われる
① 構造式からシモン反応陽性を選ばせる(第109回 問21・必須)
「シモン反応によって確認できる薬物はどれか」。選択肢は構造式だけで、名前は書かれていません。窒素にメチル基が1個ついた2級アミン(=メタンフェタミン)を選びます。
名前を覚えていても解けません。 構造式を見て「NにCが2本=2級アミン」と判断できるかどうかが問われています。
② 2つの条件を重ねる(第99回 問132)
「A:覚せい剤取締法により覚せい剤に指定されている / B:シモン反応陽性である」の両方を満たす薬物を選ばせる問題です。法規の区分と衛生の呈色反応を同時に聞いてくる形式で、エフェドリン(原料であって覚せい剤ではない)などが誤り選択肢に並びます。
③ 「及び」で範囲を広げてくる(第111回 問132)
「アンフェタミン及びメタンフェタミンの検出には、シモン反応が用いられる」という選択肢が誤りとして出ています。シモンで陽性になるのは2級アミンのメタンフェタミンだけなので、「及びアンフェタミン」が余計です。
④ 依存の性質(第106回 問132)
覚せい剤について誤っているものを選ぶ問題で、「摂取を中断すると、身体依存性が強く現れる」が誤りでした。精神依存が強く、身体依存は弱い。フラッシュバックの記述のほうは正しい選択肢として置かれています。
⑤ 覚せい剤原料そのもの(第100回 問75・必須)
「次の物質の原体のうち、覚醒剤原料として規制されているのはどれか」で、フェニルプロパノールアミンが正解でした。アンフェタミン(覚せい剤そのもの)、リゼルギン酸、サフロール、無水酢酸が誤り選択肢です。「覚せい剤原料」と「覚せい剤」と「麻薬向精神薬原料」を混ぜてくる形なので、区分ごとに整理しておいてください。
まとめ
- アンフェタミン=1級アミン / メタンフェタミン=2級アミン。違いはNのメチル基1個
- 語呂は「メタン・ニホン・シモン」。メタンフェタミンが日本で多く、シモン反応陽性
- シモン反応は2級アミンが陽性 → メタンフェタミン。1級アミン(アンフェタミン)はp-ニトロベンゼンジアゾニウムクロライド
- 塩基性だから、抽出はアルカリ性(分子型にして有機溶媒へ)、排泄促進は尿の酸性化(イオン型にして再吸収させない)。目的が逆だからpHも逆
- 中毒時はジアゼパムで鎮静 + 尿の酸性化。精神依存が強く身体依存は弱い。フラッシュバックあり
- 代謝は主に未変化体、一部がN-脱メチル化でアンフェタミンに
- 覚せい剤原料(塩基性)はエフェドリン・メチルエフェドリン・セレギリン。フェニルプロパノールアミンも出題実績あり
- 必須問題では構造式のまま問われる。名前ではなくアミンの級数で判断する
次はコカイン・大麻・幻覚剤を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。