
乱用薬物の1本目は、モルヒネ系の3つです。
この単元がありがたいのは、3つとも骨格がまったく同じだという点です。違うのは3位と6位に何がついているかだけ。つまり、フェナントレン骨格を1つ描いて、上(3位)と下(6位)を見るという作業を覚えれば、3つの化合物も、代謝経路も、尿検査のやり方も、全部そこから出てきます。
逆に言うと、3位と6位を取り違えた瞬間に全部崩れます。 ここだけは図で頭に入れてください。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
まず骨格 ── 3位が上、6位が下

モルヒネの骨格はフェナントレン骨格です。芳香環に近い側のOHが3位、反対側のOHが6位。この位置関係だけ、図のまま覚えてしまってください。
モルヒネは3位と6位の両方がOHです。ここを基準にして、残り2つを差分で覚えます。
3つの違いは、3位と6位の置換基だけ
| 化合物 | 3位 | 6位 | 別名・性格 |
|---|---|---|---|
| モルヒネ | OH | OH | ケシ由来のアルカロイド |
| コデイン | OCH₃(メチルエーテル) | OH | モルヒネの3位がメチル化された形 |
| ヘロイン | OCOCH₃(アセチル) | OCOCH₃(アセチル) | ジアセチルモルヒネ。合成品 |
ヘロインの本名は「ジアセチルモルヒネ」です。名前のとおり、モルヒネにアセチル基が2つついた形。名前が構造をそのまま言っているので、ここは名前から思い出せます。
ヘロインは「アルカロイド」ではない
細かいようですが、講義でわざわざ念を押している論点です。
アルカロイドは植物など自然界に存在する含窒素塩基性化合物を指します。ヘロインは人が合成したものなので、アルカロイドとは呼びません。
モルヒネとコデインはケシから得られるのでアルカロイド、ヘロインは合成品なのでアルカロイドではない。同じ骨格でも出自が違うという区別です。
代謝経路は、この1枚で終わる

図の真ん中にモルヒネを置き、左からヘロイン、右からコデインが流れ込んでくる構造になっています。矢印はすべてモルヒネに向かっています。
ヘロイン → モルヒネ(ほぼ100%)
カルボキシエステラーゼによる加水分解です。アセチル基が2つとも外れて、モルヒネに戻ります。
「ほぼ100%」というのがポイントで、ヘロインを摂取した人の体内は、実質モルヒネになります。エステル結合が加水分解を受ける、という第Ⅰ相反応の代表パターンそのものです(加水分解とアルコール代謝)。
コデイン → モルヒネ(一部・CYP2D6)
コデインは3位がメチルエーテルでした。ここがCYP2D6によってO-脱メチル化されると、3位がOHに戻る。つまりモルヒネになります。
分子種はCYP2D6。 講義では「コデインのDと2D6のD」でそろえる覚え方を使っています。CYP2D6は必須問題で正面から問われた実績があるので、ここは数字まで確実に。
ただしこれは「一部」です。コデインの主たる代謝はグルクロン酸抱合で、モルヒネへの変換は脇道にすぎません。
O-脱メチル化そのものは第Ⅰ相の酸化反応、CYPの分子種の話はCYP(シトクロムP450)とはにあります。
グルクロン酸抱合 ── モルヒネは3位、コデインは6位
ここがこの単元でいちばん問われるところです。
モルヒネ …… 主に3位がグルクロン酸抱合 → モルヒネ-3-グルクロニド 一部は6位が抱合されて モルヒネ-6-グルクロニド コデイン …… 3位はメチルでふさがっているので、6位が抱合 → コデイン-6-グルクロニド(尿中)
モルヒネは6位のOHより3位のOHのほうが抱合されやすい、という順番をマインドマップは「6位OH < 3位OH」と書いています。
コデインのほうは迷う余地がありません。 3位がメチルエーテルでふさがっている以上、抱合できるのは6位だけです。「コデインは6位」は丸暗記ではなく、構造から必然的にそうなると理解しておくと崩れません。
抱合反応そのものはグルクロン酸・硫酸・アセチル・アミノ酸抱合で扱っています。
尿検査で、なぜβ-グルクロニダーゼを使うのか

モルヒネを使ったかどうかを尿で調べる場面を考えます。
尿の中に入っているのは、未変化体のモルヒネと、グルクロン酸抱合体(モルヒネ-3-グルクロニド)です。ところが、抱合体は水溶性が高い。有機溶媒で抽出しようとしても、水層に残ってしまいます。
そこで、先に抱合を切ってからモルヒネ単体に戻すという前処理をします。
① β-グルクロニダーゼで酵素的に加水分解する ② または 酸を加えて加熱する
どちらかで抱合が外れると、モルヒネは分子型になって脂溶性が上がり、有機溶媒で抽出できるようになります。
「抱合を切る → 水溶性が下がる → 有機溶媒に移る」という流れは、このあとの覚せい剤で出てくる「アルカリ性にして分子型にしてから抽出する」とまったく同じ考え方です。抽出したい物質は分子型にする、が共通ルールだと思ってください。
β-グルクロニダーゼは、グルタチオン抱合とメルカプツール酸や腸肝循環の話でも出てきます。腸内細菌のβ-グルクロニダーゼが抱合を切って、アグリコンが再吸収されるという文脈です。同じ酵素が、片方では体内動態の話、片方では検査の前処理の話として出てくる、という整理をしておくと混ざりません。
国試ではこう問われる
① 代謝経路の向き(第105回 問132)
「モルヒネ及びその類似化合物が生体内で受ける代謝」について正しいものを2つ選ばせる問題でした。正解は次の2つです。
- コデインは、O-脱メチル化されてモルヒネになる
- ヘロインは、加水分解されてモルヒネになる
誤り選択肢として置かれていたのが「モルヒネはアセチル化されてヘロインになる」「モルヒネはメチル化されてコデインになる」です。
矢印の向きを逆にしただけで誤り選択肢が作れてしまう、というのがこの単元の出題の型です。図の矢印がすべてモルヒネに向かっていることを、絵として覚えておいてください。モルヒネから外向きの矢印は、生体内では起こりません。
② 分子種を直接聞く(第107回 問44・必須)
「コデインからモルヒネへの代謝に関与する酵素はどれか」。選択肢はCYP1A2・CYP2C9・CYP2D6・CYP3A4・UGT1A1で、答えはCYP2D6です。
必須問題でここが出る、ということは分子種の番号までが必修範囲だということです。
③ 法律上の位置づけとの組合せ(第109回 問145)
指定薬物に関する問題で「ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)は指定薬物に該当する」という選択肢が誤りとして出ています。ヘロインは麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」であって、指定薬物ではありません。
ジアセチルモルヒネ=ヘロインという別名の対応がそのまま問題文に使われているので、別名は法規側でも効いてきます(麻薬及び向精神薬取締法における「麻薬」の定義)。
まとめ
- 3つともフェナントレン骨格。違うのは3位と6位の置換基だけ
- モルヒネ=3位OH・6位OH / コデイン=3位OCH₃ / ヘロイン=3位と6位がアセチル(=ジアセチルモルヒネ)
- ヘロインは合成品なのでアルカロイドではない
- ヘロイン→モルヒネはカルボキシエステラーゼによる加水分解でほぼ100%
- コデイン→モルヒネは一部、CYP2D6によるO-脱メチル化。主たる代謝はグルクロン酸抱合
- グルクロン酸抱合はモルヒネが3位(>6位)、コデインは6位。コデインの3位はメチルでふさがっているので構造から必然
- 尿検査はβ-グルクロニダーゼ、または酸+加熱で抱合を切ってから有機溶媒で抽出する
- 国試は代謝の矢印を逆向きにして誤り選択肢を作る。矢印はすべてモルヒネに向かう
次は覚せい剤と覚せい剤原料を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。