
前回、重金属が腎臓を壊す理由は「タンパク質のSH基と結合するから」でした。
だったら、体の側がSH基だらけのタンパク質を用意して、先に金属を捕まえてしまえばいい。そのために実際に体が持っているのがメタロチオネインです。
数字がいくつも出てくるので暗記科目っぽく見えますが、「SH基をたくさん持つ」という1点から全部が説明できます。出題も5年に1回は必ず来る、コスパの高い論点です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
メタロチオネインとは何か
金属(metallo-)と、硫黄(thio-)を持つタンパク質(-nein)。名前がそのまま正体を言っています。
重金属が体に入ってきたときに、肝臓・腎臓・小腸で合成が誘導され、その金属を捕まえて毒性を下げるタンパク質です。存在する場所は細胞質(サイトゾル)。
普段は仕事がないので、亜鉛と結合しておとなしくしています。つまり平常時は亜鉛の貯蔵庫として働いていて、有害な金属が入ってきたら持ち場を明け渡す、という設計になっています。
構造 ― アミノ酸61個、うち20個がシステイン
ここが国試で数字を問われるところです。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 構成アミノ酸数 | 61個 |
| システインの数 | 20個(全体の約1/3) |
| 分子量 | 約6,000〜7,000 |
| 芳香族アミノ酸 | 含まない |
システインが1/3を占める、という比率で覚えてください。第103回の必須問題では、まさに「メタロチオネインの構成アミノ酸のうち、約1/3を占めるのはどれか」という形で出ています。
芳香族アミノ酸を含まない = 280nmに吸収がない
これが最頻出の引っかけです。
タンパク質の定量で280nmの吸光度を測るのは、チロシン・トリプトファンといった芳香族アミノ酸のベンゼン環がそこを吸収するからです。メタロチオネインにはそれが入っていないので、280nmに吸収極大を持ちません。
第99回では「分子量は6,000〜7,000で、280nmに極大吸収をもつ」という選択肢が出ました。前半は正しく、後半が誤りです。数字だけ合っている選択肢で引っかけにくるので、必ずセットで覚えてください。
3つの働き
①重金属の毒性を下げる
SH基のローンペアが金属イオンと結合します。しかも1分子で複数の金属イオンを捕まえられるのが強みです。
捕まえる相手は2価の金属だけではありません。ここも引っかけで、第99回に「亜鉛やカドミウムなどの2価の金属とは結合するが、1価や3価の金属とは結合しない」という誤りの選択肢が出ています。実際には1価の銀なども結合します。
②活性酸素を消去する(抗酸化作用)
SH基の硫黄は、電子を渡すのが得意です。だから活性酸素に電子を渡して無害化できます。
第107回では、有機リン中毒の症例に続いて「この中毒の原因となった物質の解毒にはたらく生体分子はどれか」という形で、カタラーゼ・グルタチオンペルオキシダーゼ・CYP・メタロチオネインが並べて出されました。活性酸素を消す酵素群と同じ土俵で問われるので、活性酸素と生体防御|SOD・カタラーゼ・GSH-Pxが含む金属とセットで見ておいてください。
③亜鉛の貯蔵
平常時の仕事です。ここは軽くでかまいません。
誘導されるもの・存在する場所
発現を誘導する金属は、無機水銀・カドミウム・亜鉛・銅・銀など。
存在する場所は、肝臓・腎臓・小腸の細胞質です。「入ってくる場所(小腸)と、溜まる場所(肝・腎)に置いてある」と考えると自然です。
「解毒されているのに腎障害が起こる」のはなぜか
ここが、理解していないと矛盾に見えるところです。
メタロチオネインがカドミウムを捕まえた複合体(Cd-メタロチオネイン)は、ほぼ無害です。ところが、この複合体は腎臓に沈着して、なかなか排泄されません。
つまりメタロチオネインがやっているのは「毒を消すこと」ではなく、「毒を無害な形に包んで腎臓に置いておくこと」です。曝露が続いて置き場所の容量を超えると、包みきれなかったカドミウムが近位尿細管を壊しにかかります。これが慢性カドミウム中毒の実体です。
だから第98回では「体内に吸収されたカドミウムは、メタロチオネインと結合することにより毒性が高まる」という選択肢が誤りとして出ました。結合すれば毒性は下がります。下がったうえで、腎臓に溜まっていくのです。
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第99回・問134 | メタロチオネインに関する記述のうち正しいもの | 280nmに極大吸収をもつ→誤り。Cd・無機水銀で発現誘導→正しい。2価としか結合しない→誤り。重金属の毒性軽減+活性酸素消去→正しい |
| 第103回・必須 | 構成アミノ酸の約1/3を占めるもの | システイン(グリシン・メチオニンが引っかけ) |
| 第98回・問133 | カドミウムに関する記述 | メタロチオネインとの結合で毒性は下がる(高まる、は誤り) |
| 第107回・問241 | 解毒にはたらく生体分子 | 活性酸素消去系の酵素と並べて問われる |
| 第97回 | 必須問題で用語として登場 | 15年で5回出題。安定して出る |
まとめ
- メタロチオネインはSH基だらけのタンパク質。ここから全部の性質が出てくる
- アミノ酸61個、うち20個(約1/3)がシステイン、分子量約6,000〜7,000
- 芳香族アミノ酸を含まない → 280nmに吸収なし。ここが最頻出の引っかけ
- 働きは3つ:重金属の毒性低下・活性酸素の消去・亜鉛の貯蔵
- 1価や3価の金属とも結合する(2価限定ではない)
- 無機水銀・Cd・Zn・Cu・Agで発現が誘導され、肝・腎・小腸の細胞質にある
- 複合体は無害だが腎臓に沈着する。だから慢性曝露では腎障害が起こる
次は活性酸素と生体防御|SOD・カタラーゼ・GSH-Pxが含む金属を読んでみてください。生体防御因子のもう1つの柱、活性酸素を消す酵素の話です。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
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