
フロンの略号は4つ出てきます。CFC・HCFC・HFC・PFC。アルファベットが似ていて、丸暗記しようとすると必ず混ざります。
ところがこの4つ、構造を見れば違いは一目です。しかも「なぜその構造にしたのか」には開発の歴史がそのまま反映されているので、順番に追っていけば覚える必要すらほとんどありません。この記事ではその流れを追いかけます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
オゾン層は何をしているのか

太陽光のうち、波長200〜400nmが紫外線です。紫外線はさらに3つに分かれます。
- UVC(短波長・最も有害)
- UVB(中波長)
- UVA(長波長)
オゾン層は、このうち最も有害なUVCを吸収してくれています。 だから地上に届いているのはUVBとUVAだけ。
つまりオゾン層が薄くなると、本来届かないはずのUVCが地上に降ってくる。これが健康被害につながるので問題になっているわけです。皮膚がん・白内障・免疫低下などが挙げられます。
紫外線そのものの生体影響(サンバーンとサンタン、チミンダイマーなど)は、放射線・紫外線の単元で扱います。
フロンはどうやってオゾンを壊すのか

冷蔵庫やエアコンの冷媒として使われたフロンが大気中に放出されると、化学的に安定なので分解されないまま、時間をかけて成層圏まで上がっていきます。
成層圏で強い紫外線を浴びると、ようやく分解が起こります。このとき外れるのが塩素原子(塩素ラジカル Cl・)です。
ここからが連鎖反応です。
- Cl・ + O₃ → ClO・ + O₂ (オゾンが酸素分子に分解される)
- ClO・ + O → Cl・ + O₂ (Cl・が再生される)
2でCl・が戻ってくるので、また1に入れます。塩素ラジカルは減らないまま、オゾンだけが壊され続ける。触媒として働いてしまうわけです。
その結果、塩素ラジカル1個で、オゾンおよそ1万個が分解されるといわれています。ごく微量のフロンでも影響が甚大になるのは、この連鎖のためです。
悪者はCl(塩素)。ここを掴んでおくと、このあとの構造の話が全部つながります。
フロンが便利だった理由と、まずかった理由
フロンの性質は2つだけ押さえます。
- 圧力をかけると液化し、気化するときに熱を奪う → だから冷蔵庫・エアコンの冷媒に使える
- 化学的にとても安定 → 扱いやすく安全。毒性も低い
当時は理想的な物質でした。ところが「安定」は「環境中で分解されずに残り続ける」の裏返しです。分解されないまま成層圏まで到達してしまう。便利さの理由と問題の理由が、まったく同じ性質から来ているところがこの話の面白さです。
4つのフロンを構造で見分ける
特定フロン:CFC(クロロフルオロカーボン)

最初に大量に使われたのがこれです。C(炭素)・Cl(塩素)・F(フッ素)だけでできています。水素を含みません。
- 水素がない → 分解されにくい → 成層圏まで届く
- 塩素がある → オゾン層を破壊する
最悪の組合せです。これが「特定フロン」として規制対象になりました。
代替フロン:HCFC・HFC・PFC

CFCの問題を解決するには、やることは2つしかありません。
- ① 水素(H)を入れて、成層圏に届く前に分解されやすくする
- ② 塩素(Cl)を外して、そもそもオゾンを壊さないようにする
この2つの手当てを、どこまでやったかで名前が変わります。
| 略号 | 正式名称 | H | Cl | オゾン層破壊 | 温室効果 |
|---|---|---|---|---|---|
| CFC | クロロフルオロカーボン | なし | あり | あり(大) | あり |
| HCFC | ハイドロクロロフルオロカーボン | あり | あり | あり(小) | あり |
| HFC | ハイドロフルオロカーボン | あり | なし | なし | あり |
| PFC | パーフルオロカーボン | なし | なし | なし | あり |
読み方さえ分かれば表は要りません。
- Hydro(ハイドロ)= 水素が入っている → 分解されやすい
- Chloro(クロロ)= 塩素が入っている → オゾン層を壊す
- Per(パー)= 全部フッ素。講義では「パーフェクトにF」と説明しています
だから、
- HCFC = Hydro + Chloro + Fluoro + Carbon → 水素は入れたが塩素が残っているので、オゾン層破壊作用はまだある(CFCよりは小さい)
- HFC = Hydro + Fluoro + Carbon → 塩素がないのでオゾン層破壊作用なし。ただし温室効果はある
- PFC = PerFluoroCarbon → 塩素なしなのでオゾン層破壊作用なし。ただし水素もないので分解されにくく、温室効果が強い
HFCとPFCの差は水素の有無だけです。どちらもオゾン層は壊しませんが、PFCのほうが分解されにくいぶん厄介、と整理しておいてください。
規制の流れ:ウィーン条約 → モントリオール議定書 → キガリ改正

- ウィーン条約(1985年) ― オゾン層保護の枠組みを決める
- モントリオール議定書(1987年) ― 具体的にオゾン層破壊物質を規制。CFC・HCFC・四塩化炭素・ハロン・臭化メチルなどが対象
- 代替フロン(HCFC・HFC・PFC)が開発される
- ところが代替フロンは温室効果が強い → 京都議定書(1997年)でHFC・PFC・SF₆が規制対象に
- モントリオール議定書キガリ改正(2016年採択) ― HFCを、オゾン層保護の枠組みのほうでも規制対象に追加
5番目のキガリ改正は、第111回の必須問題で出題されています。オゾン層は壊さないのに、温暖化を抑えるためにキガリ改正で規制対象になった物質が問われ、答えはHFC(ハイドロフルオロカーボン)でした。
「オゾン層を守るための議定書なのに、オゾン層を壊さないHFCを規制している」という一見ねじれた話ですが、オゾン層を守るために作らせた代替品が、今度は温暖化を進めてしまったからという経緯を知っていれば、むしろ自然に見えるはずです。
国試ではこう問われる
このテーマは必須問題での出題が非常に多い単元です。過去15年から直球の3問を挙げます。
- 第100回・問23 温室効果はあるが、オゾン層は壊さない物質 → パーフルオロカーボン(PFC)
- 第106回・問23 オゾン層を壊し、温室効果もある物質 → ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)
- 第111回・問24 オゾン層は壊さないが、温暖化対策としてキガリ改正で規制対象になった物質 → ハイドロフルオロカーボン(HFC)
3問とも、聞かれているのは「塩素を含むかどうか」だけです。選択肢に臭化メチルやハロンが混ざることもありますが、これらも臭素(Br)を持つオゾン層破壊物質として同じ枠で処理できます。
理論問題では、第101回でハロアルカン類を「オゾン層破壊効果の強弱で3群に分類」し、該当する構造式を選ばせる問題が出ています。ここでも見るのはClがあるか、Hがあるかの2点です。
まとめ
- オゾン層は最も有害なUVCを吸収している。破壊されるとUVCが地上に届く
- フロンは成層圏で紫外線により分解され、塩素ラジカル Cl・ を出す。Cl・は触媒として働き、1個でオゾン約1万個を分解する
- フロンが便利だった理由(安定)と問題になった理由(分解されず残る)は同じ性質
- Hydro=水素あり(分解されやすい)、Chloro=塩素あり(オゾンを壊す)、Per=すべてフッ素
- CFC(H無・Cl有)→ オゾン層破壊が最大。HCFC(H有・Cl有)→ 破壊作用は残る。HFC(H有・Cl無)→ 破壊なし・温室効果あり。PFC(H無・Cl無)→ 破壊なし・分解されにくい・温室効果あり
- 規制はウィーン条約 → モントリオール議定書 → キガリ改正(HFC追加)の流れ
次は地球温暖化と温室効果ガス|強さの順番と京都議定書からパリ協定へを読んでみてください。代替フロンが今度は温暖化の原因になる、という続きの話です。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。