
この単元は、引っ掛けポイントがはっきりしているのが救いです。定義の中に「含むもの」と「含まないもの」の線が引かれていて、そこを外すと選択肢が切れません。
そして全体像はこうです。死因統計で見たとおり、がん・心疾患・脳血管疾患は死因の上位を占めています。その土台になっているのが生活習慣病。だから、生活習慣病を減らせば上位の死亡率が下がる。しかも生活習慣病は、見つけて治せる。ここが、国がこの分野に力を入れる理由です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
定義:何が含まれて、何が含まれないか
生活習慣病とは、食習慣・運動習慣・休養・喫煙・飲酒等がその発症に関与する疾患群。加齢、遺伝子因子も関与する。
まず、加齢と遺伝子因子も関与するという一文を見落とさないでください。「生活習慣だけが原因」ではありません。生活習慣も関与する、という書き方です。
そのうえで、含まないものが2つあります。

精神疾患と感染症は、生活習慣病に含まれない。
これが1つめの引っ掛けです。そして2つめ。
| 含まれる | 含まれない |
|---|---|
| がん、心疾患、脳血管疾患、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、メタボリックシンドローム、COPD など | 1型糖尿病、精神疾患、感染症 |
糖尿病は2型だけです。1型糖尿病は自己免疫機序による膵β細胞の破壊が原因で、生活習慣とは関係ありません。選択肢に「糖尿病」とだけ書いてあるときは文脈で判断しますが、「1型糖尿病は生活習慣病である」と書いてあれば誤りです。
参考までに、患者数では2型が圧倒的多数です。令和5(2023)年の患者調査では、糖尿病で治療を受けている総患者数は552万2,000人、高血圧性疾患は1,609万2,000人、脂質異常症は401万人。「1型のほうが多い」という選択肢が出たら即座に誤りです。
目標は健康寿命

図の出典:厚生労働省「健康日本21(第二次)」の概念図。赤字の番号と書き込みは講師によるもの。現在は令和6(2024)年度から健康日本21(第三次)に移行していますが、「健康寿命の延伸・健康格差の縮小」を最終目標とする構造は引き継がれています。
生活習慣病対策の目標は、健康日本21と同じで健康寿命を長くすることです。単に寿命を延ばすのではなく、健康上の問題で日常生活が制限されない期間を延ばす。
この最終目標の下に、①健康寿命の延伸・健康格差の縮小 → ②生活習慣病の発症予防・重症化予防 → ③社会生活機能の維持・向上 → ④健康のための資源へのアクセス改善 → ⑤生活習慣および社会環境の改善という階層が並びます。生活習慣病対策は、この②に当たるというのが図の読み方です。
疾患ごとのリスク因子
「どの生活習慣が、どの疾患に効くか」の対応を作る節です。ここは丸暗記より、理屈で結びつけるほうが速いです。
部位別のがん
| がん | リスク因子 |
|---|---|
| 食道がん | 過度な飲酒・喫煙・熱い飲食物の摂取 |
| 胃がん | 塩分の過剰摂取・喫煙・ヘリコバクターピロリ |
| 結腸がん | 動物性脂肪の多い食事 |
食道がんは「通り道が焼ける」イメージです。熱いもの、アルコール、煙——食道の粘膜を直接刺激するものが並びます。咽頭がんも同じ理屈です。
胃がんは塩とピロリ菌。塩分は胃粘膜を傷つけ、ピロリ菌が慢性炎症を起こす。日本の胃がん死亡率が高かったのは、塩蔵食品の文化が背景にあります。
結腸がんは動物性脂肪。逆に、魚由来のEPA(エイコサペンタエン酸)などを多く摂ると、大腸がんのリスクが下がるとされています。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
「肺の生活習慣病」とも呼ばれます。
- リスク因子は喫煙と受動喫煙
- 潜在患者は500万人以上、一方で治療を受けている人は17万人程度
- 認知度が低いことが長く課題とされてきた
ここは数字が動いているので注意が必要です。
講義とマインドマップでは「死因順位8位」「認知度28%を80%に」としていますが、これは健康日本21(第二次)当時の記述です。 令和7(2025)年の人口動態統計(概数)では、COPDは男性の死因順位10位(死亡13,427人、男性の死亡率は人口10万対23.2)で、女性では上位10位に入っていません。ひとつ前の令和6(2024)年(確定数)は、死亡16,629人(男性13,950人・女性2,679人)、死亡率は人口10万対13.8で、男女とも10位の外でした。 また、健康日本21(第三次)では「認知度80%」という目標は引き継がれず、「COPDの死亡率(人口10万人あたり)を10.0まで減少させる」(令和14年度まで/基準値は令和3年の13.3)という目標に変わりました。 試験では「喫煙・受動喫煙がリスク因子」「肺の生活習慣病」という定性的な論点が中心なので、数字に振り回されないでください。
脳血管疾患
戦後の日本で、数字が最も劇的に動いた疾患です。
- 脳内出血のリスク因子:過労、寒冷刺激、高血圧
- 脳梗塞のリスク因子:高血圧 → 動脈硬化、喫煙など
1950年代、日本は脳出血がきわめて多い国でした。塩分摂取量が多く、タンパク質摂取が少なく、国民の血圧が高かったためです。それが1960年代以降、減塩の普及・栄養状態の改善・降圧薬の登場によって国民の高血圧が改善し、脳出血が急減しました。
一方で、相対的に脳梗塞の割合が上がりました。高齢化と動脈硬化が背景です。死因統計の推移のグラフで、脳血管疾患全体は下がりながら、内訳が出血から梗塞へ入れ替わった——この形を覚えてください。
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第108回・問124 | 生活習慣病に関する記述(2つ) | 正しいのはメタボの診断基準(腹囲+2項目以上)と糖尿病は虚血性心疾患・脳梗塞のリスクファクター。「1型のほうが多い」「受動喫煙はCOPDのリスクにならない」「HDL-Cは脂質異常症の診断基準に含まれない」はすべて誤り |
| 第110回・問125 | この20年間の生活習慣病(2つ) | 「糖尿病患者のほとんどは1型」「COPDの総死亡者数は減少傾向」「脳血管疾患で粗死亡率が最も高いのは脳内出血」はいずれも誤り。脳血管疾患では脳梗塞が最多 |
| 第111回・問124 | リスク要因別の関連死亡者数(2019年)の上位5位と予防対策(2つ) | 喫煙・高血圧・高血糖などのリスク要因ごとに、有効な予防策を選ぶ |
| 第106回・問120 | 健康日本21に関する記述で誤っているもの | 健康増進法との関係、目標項目、第二次の位置づけ |
| 第97回・問18 | 二次予防に該当するもの | 集団検診。予防区分は生活習慣病対策とセットで問われる |
| 第98回・問301 | 喫煙がリスクファクターとされていない疾患 | 食道がん・膀胱がん・自然気胸・慢性気管支炎はリスク。潰瘍性大腸炎は喫煙者で発症リスクが低いとされる |
第110回・問125の「脳血管疾患で粗死亡率が最も高いのは脳内出血」が誤り、という点は特に重要です。1960年代を境に、脳出血中心から脳梗塞中心へ入れ替わったという歴史を知っていれば即答できます。
まとめ
- 生活習慣病は食習慣・運動習慣・休養・喫煙・飲酒等が発症に関与する疾患群。加齢・遺伝子因子も関与する
- 精神疾患と感染症は含まない。糖尿病は2型のみ、1型は含まない
- 目標は健康寿命の延伸。がん・心疾患・脳血管疾患という死因上位の土台を崩す発想
- 食道がん=飲酒・喫煙・熱い飲食物、胃がん=塩分・喫煙・ピロリ、結腸がん=動物性脂肪(EPAはリスクを下げる)
- COPDは肺の生活習慣病。喫煙・受動喫煙がリスク因子。潜在患者は500万人以上だが受療者は17万人程度
- 脳出血は1960年代以降、高血圧の改善により急減。現在は脳梗塞が脳血管疾患の中心
次は特定健診とメタボリックシンドローム|健診の基準値と診療の診断基準の違いを読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。