感染症の予防

母子感染と性行為感染症|3経路・母子免疫・全数把握と定点把握【薬剤師国家試験】

母子保健のマインドマップ
母子保健のマインドマップ

母子感染は、経路が3つしかない単元です。経胎盤・経産道・経母乳。疾患名を丸暗記するのではなく、「その病原体はどこにいるのか」から逆算すると、ほとんど覚えずに答えが出ます。

そして後半の性行為感染症は、五類感染症③で扱った疾患を行政の届出区分(全数把握か定点把握か)という別の切り口で並べ直したものです。同じ疾患を2回やることになりますが、問われ方が違うので、ここで整理しておく価値があります。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

母子感染の3経路

① 経胎盤感染

胎盤を通って胎児に入る経路です。胎盤を越えて胎児に届く病原体は、2つのタイプに分けて覚えます。

1つは母体の血液に乗っているウイルスで、HIV(AIDS)・B型肝炎・C型肝炎がこれにあたります。母体の血液が胎盤を通るので、そのまま胎児へ。3つとも血液感染するウイルスそのものです。

もう1つは胎児に奇形や障害を残しやすいグループで、風疹・梅毒・トキソプラズマ・サイトメガロウイルス。産婦人科でTORCH(トーチ)症候群とまとめて呼ばれる病原体の中心メンバーです。風疹なら先天性風疹症候群(白内障・心奇形・難聴)、トキソプラズマなら水頭症・脈絡網膜炎。

予防策として押さえるのはB型肝炎です。新生児に抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)とB型肝炎ワクチンを投与する。免疫グロブリンで今すぐ中和し(受動免疫)、ワクチンで長期の防御をつくる(能動免疫)、という二段構えです。

② 経産道感染

産道を通るときに感染する経路です。これも2通りあります。

1つは産道にいる細菌がそのまま赤ちゃんに移るもので、淋菌・クラミジア・B群溶血性連鎖球菌(GBS)です。淋菌とクラミジアは新生児に結膜炎・肺炎を起こします(五類感染症③で扱ったとおり)。GBSは新生児髄膜炎・敗血症の原因になります。

もう1つは出産時の出血で母体の血液に触れる場合で、また血液系の3つ(HIV・B型肝炎・C型肝炎)。産道にも母体の血液があるので、経胎盤と同じ顔ぶれが出てきます。

③ 経母乳感染

母乳に含まれて感染する経路です。

  • AIDS、成人T細胞白血病(ATL)、B型肝炎
  • 予防策は断乳(粉ミルクで育てる)

ここでも血液の中にいるものという共通点が効きます。母乳にはリンパ球が含まれるので、細胞の中に潜むウイルスが移りうるわけです。

3経路のまとめ方

病原体 経胎盤 経産道 経母乳
AIDS(HIV) ○ ○ ○
B型肝炎 ○ ○ ○
C型肝炎 ○ ○ —
成人T細胞白血病(HTLV-1) (○) — ○
風疹・梅毒・トキソプラズマ・サイトメガロ ○ — —
淋菌・クラミジア・GBS — ○ —

血液の中にいるもの(HIV・HBV・HCV)は3経路とも通る。胎盤で増えるもの(TORCH)は経胎盤だけ。産道にいる細菌は経産道だけ。この3行で整理できます。

成人T細胞白血病(ATL)

単独で問われるので、まとめておきます。

  • 感染している母親の母乳から感染する
  • 妊婦健診でスクリーニングして陽性なら、粉ミルクで育てる
  • 病原体はレトロウイルス科のHTLV-1
  • 新興感染症の1つ(感染症をめぐる法制度を参照)

病態の詳細は病態・薬物治療の血液の単元で扱われます。衛生では「母乳感染」「HTLV-1」「断乳」の3点で十分です。

母子免疫:生後2〜3か月が一番弱い理由

ここはロジックがそのまま問題になるところです。

IgGは分子サイズが比較的小さく、胎盤を通過して母から胎児へ移行できる唯一の免疫グロブリンです。一方IgAは母乳(特に初乳)に含まれ、赤ちゃんの喉や消化管の粘膜での感染防御を担います。

では、なぜ生後2〜3か月が弱いのか。

  1. 母からもらったIgGの半減期は約4週間。生まれた時点をピークに、4週ごとに半分になっていく
  2. 一方、新生児自身の抗体産生能力が立ち上がるのは生後3か月ごろから
  3. つまり、もらったIgGが尽きるタイミングと、自分で作り始めるタイミングの間に谷ができる

この谷が生後2〜3か月ごろです。「移行抗体が減る」と「自己産生が始まる」のグラフが交差する直前が最低点——この理屈で覚えてください。数字(半減期4週間・産生開始3か月)を2つ持っていれば、谷の位置は自分で導けます。

だから、母乳のIgAが意味を持ちます。IgGの谷を、母乳のIgAが粘膜側で埋める。 「母乳で育てるのがいい」と言われる免疫学的な根拠のひとつです。

性行為感染症(STI)

特徴で問われるのは次のあたりです。性器クラミジア感染症は性感染症の中で報告数がいちばん多く、淋病とともに男性の尿道炎・女性の子宮頸管炎の原因になります。梅毒は全身に広がるとバラ疹が出る病気で、近年は報告数が急増しています。尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(HPV)によるイボ状の盛り上がり、性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルスによる潰瘍が目印で、HIVは感染から10年ほどたってAIDSを発症します。

病原体の種類で分けられるかが問われます。ウイルスは尖圭コンジローマ(HPV)・性器ヘルペス(HSV)・HIV・B型肝炎。細菌は梅毒トレポネーマ・淋菌・軟性下疳菌。クラミジアは細菌に分類される独自のグループです。

なお、HPVは子宮頸がんの原因でもあり、HPVワクチンは予防接種法のA類疾病に位置づけられています。

全数把握と定点把握

行政が数を把握する方法が2通りあります。すべての医師が届け出るのが全数把握、指定された医療機関(定点)だけが届け出るのが定点把握です。

区分 疾患
全数把握 梅毒、ウイルス性肝炎、AIDS(後天性免疫不全症候群)
定点把握 性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症

覚え方はシンプルです。定点把握は「性器クラミジア・性器ヘルペス・尖圭コンジローマ・淋菌感染症」の4つだけ。これを覚えて、残り(梅毒・ウイルス性肝炎・AIDS)は全数把握とすれば済みます。

なぜこの分け方なのかを考えると忘れにくくなります。梅毒・肝炎・AIDSは重篤で、1例ずつ追う価値がある。一方クラミジアや淋菌は報告数が多すぎて全数は現実的でないので、定点で流行の傾向をつかむ。制度の設計意図がそのまま分類になっています。

年次推移:ここは要注意

数値と傾向が動いている論点です。教材の記述が古くなりやすいので、現状を整理しておきます。

  • 性器クラミジア感染症・淋菌感染症:2002年をピークに減少し、2015年ごろを底にして再び増加に転じています
  • 梅毒:2000年代は年間500〜900件程度でしたが2010年代から急増し、2023年に15,058件で過去最多、2024年も14,829件と高止まりしています(いずれも確定値)

つまり、「2002年をピークに減少傾向」は途中までしか正しくありません。2015年以降は増加しています。試験で「クラミジアは減少し続けている」といった断定的な選択肢が出たら、疑ってかかるのが正解です(第106回で「淋菌感染症は平成25年以降は感染の報告がない」という明らかな誤り選択肢が出ています)。

梅毒の増加傾向だけは、どの教材でも一致しています。ここは確実に押さえてください。

国試ではこう問われる

回 問われ方 ポイント
第108回・問125 母子感染する疾患の病原体と主な感染経路の組合せ(2つ) 風疹=ウイルス・経胎盤、トキソプラズマ症=原虫・経胎盤が正しい。淋菌を「ウイルス」、ATLを「細菌」とする誤り選択肢に注意
第107回・問232-233 HBs抗原陽性の妊婦から出生した児への予防処置の時系列 生後12時間以内に抗HBsヒト免疫グロブリン+B型肝炎ワクチン、以後ワクチンを1か月・6か月に
第103回・問19 母子感染防止事業で激減したが水平感染が問題となり定期接種に追加されたウイルス B型肝炎ウイルス
第106回・問121 我が国の性感染症(2つ) 尖圭コンジローマ=HPV、B型肝炎は母子感染に加え性的接触でも起こるが正しい。「淋菌感染症は平成25年以降報告がない」は誤り
第108回・問123 STI報告数のグラフで急増している疾患を選ぶ 梅毒。グラフの立ち上がりを見れば分かる
第110回・問124 STIの表から病原体・感染経路・届出区分を判定 全数把握か定点把握かが選択肢に入る
第97回・問130 性行為感染症のうち病原体がウイルスであるもの(2つ) 尖圭コンジローマとB型肝炎
第109回・問17 予防接種が勧奨されている子宮頸がんのリスク要因 ヒトパピローマウイルス
第100回・第101回・第107回 垂直感染する病原体(必須問題) 経路の3分類がそのまま問われる

第108回の問125は、この記事の表がそのまま解答根拠になります。「淋菌はウイルスか細菌か」「ATLは細菌かウイルスか」——病原体の種類まで込みで覚えるのが、この単元の要求水準です。

まとめ

  • 母子感染の経路は経胎盤・経産道・経母乳の3つ
  • 血液の中にいるもの(HIV・HBV・HCV)は3経路を通る。胎盤で増えるTORCH(風疹・梅毒・トキソプラズマ・サイトメガロ)は経胎盤、産道の細菌(淋菌・クラミジア・GBS)は経産道
  • B型肝炎の母子感染予防は、新生児に抗HBsヒト免疫グロブリン+ワクチン
  • 成人T細胞白血病は経母乳感染。病原体はHTLV-1、予防は断乳
  • IgGは胎盤を通過(半減期約4週間)、IgAは母乳で粘膜を守る。自己産生は生後3か月からなので、生後2〜3か月が免疫の谷
  • 定点把握は性器クラミジア・性器ヘルペス・尖圭コンジローマ・淋菌感染症の4つ。梅毒・ウイルス性肝炎・AIDSは全数把握
  • クラミジア・淋菌は2002年をピークに減ったが2015年ごろから再増加。梅毒は2023年に15,058件で過去最多

次は生活習慣病とは|定義と、部位別がん・COPD・脳血管疾患のリスク因子を読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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