感染症の予防

感染症をめぐる法制度|新興・再興感染症、検疫法、感染症法【薬剤師国家試験】

感染症の予防のマインドマップ
感染症の予防のマインドマップ

感染症の単元でいちばん最初につまずくのが、似た名前の分類が2系統あることです。新興感染症・再興感染症はWHOが言っていること、一類〜五類感染症は日本の感染症法が決めていること。講義でも「意識して分けておいてください」と明言されている、ここは最初に線を引いておく場所です。

この記事では、その2系統の整理に加えて、水際で止める検疫法と、国内での対応を定める感染症法の骨格を扱います。個々の疾患の各論は次の記事以降に回して、まずは枠組みを作ってしまいましょう。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

WHOの分類と感染症法の分類は別物

最初に、混ざりやすい言葉を並べて整理します。

言葉 誰が決めているか 中身
新興感染症・再興感染症 WHO 感染症の発生動向についての概念
一類〜五類感染症 日本の感染症法 危険度に応じた法的な類型
新感染症・指定感染症 日本の感染症法 類型に収まらない場合の受け皿
検疫感染症 日本の検疫法 水際で止める対象

新興感染症と新感染症は、字面が似ているのに出どころがまったく違います。前者はWHOの概念、後者は感染症法の類型です。この2つを入れ替えた選択肢は実際に出題されています。

再興感染症:いったん減ったのに、また増えてきたもの

再興感染症は、既知の感染症で、いったん発生数が減ったものの、近年また増加してきて将来的に問題になりそうなものを指します。

代表例は次の4つです。

  • 結核
  • マラリア
  • デング熱
  • 劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症

結核が典型です。1930〜40年代には国民病と呼ばれるほど多かったものが、その後大きく減少し、近年また注目されている。世界的にはHIVの蔓延で免疫力の落ちた人が増え、その人たちが結核にかかるという構図があります。

国試ではこう問われる

  • 第110回・問17(必須):「再興感染症はどれか」→ 結核。誤り選択肢にクリプトスポリジウム症、SARSなど新興感染症が並びます
  • 第104回・問18(必須):「原虫を病原体とする再興感染症はどれか」→ マラリア。病原体の種類まで条件に加えた形です。クリプトスポリジウム症(原虫だが新興)とSARS(ウイルスで新興)が誤り選択肢

この2問を並べると、出題のパターンが見えます。再興は結核とマラリアを軸に覚え、それ以外はだいたい新興という当たりの付け方で十分戦えます。

新興感染症:1970年以降に新しく見つかったもの

新興感染症は、1970年以降に新たに発見された病原体、または以前は不明だった病原体による、公衆衛生上問題となる感染症です。

分類 疾患
細菌性 レジオネラ症、カンピロバクター感染症、腸管出血性大腸菌感染症、胃・十二指腸潰瘍(ヘリコバクター・ピロリ)
原虫性 クリプトスポリジウム症
ウイルス性 エボラ出血熱、E型肝炎、C型肝炎、AIDS、SARS、鳥インフルエンザ、成人T細胞白血病

「胃潰瘍が感染症?」と思うところですが、ピロリ菌が発見されたのが1980年代で、これも新興感染症に含まれます。

レジオネラ症は空調設備の冷却塔や加湿器で増えた菌がエアロゾルとして吸い込まれることで起こります。室内環境の単元と直結するので、室内環境と健康|シックハウス症候群・レジオネラ・ハウスダストもあわせて確認してください。

クリプトスポリジウムは塩素に抵抗性があるのが最大のポイントで、水道水の汚染につながります。こちらは浄水の高度処理と水道水の問題物質|トリハロメタン・カビ臭と結びつけて覚えてください。

検疫感染症:水際で止める

検疫感染症の根拠法は検疫法です。目的は、国内に常在しない感染症の病原体が、船舶や航空機を介して国内に侵入することを防ぐこと。つまり水際対策です。

対象になった場合、入国停止・隔離・停留・消毒などの措置がとられます。

語呂で覚える

検疫感染症の語呂「まじで待て!ちっちゃい新型の鳥!」
検疫感染症の語呂「まじで待て!ちっちゃい新型の鳥!」

まじで待て!ちっちゃい 新型の鳥!

  • ま → MERS
  • じ → ジカ熱
  • で → デング熱(とマラリア)
  • 待て → マラリア・デング熱
  • ちっちゃい → チクングニア熱
  • 1類全て → 一類感染症すべて
  • 新型 → 新型インフルエンザ等感染症
  • の鳥 → 鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)

一類感染症は丸ごと全部が検疫感染症、という点が特に大事です。

国試ではこう問われる

第107回・問122が、この単元をそのまま問うた問題です。誤っているものを選ぶ形式で、正解(=誤りの記述)は「新興感染症は、すべて検疫感染症に含まれる」でした。新興感染症はWHOの概念、検疫感染症は検疫法の指定であって、両者に包含関係はありません。

一方、同じ問題の「検疫感染症には感染症法に定める一類感染症が含まれる」「新型インフルエンザ等感染症が含まれる」はどちらも正しい記述でした。語呂がそのまま得点になる問題です。

なお、検疫感染症の顔ぶれは法改正で入れ替わります。新型コロナウイルス感染症は五類に移行した時点で検疫感染症からも外れました。流動的な部分なので、細かい増減より枠組みを優先してください。

感染症法の骨格

感染症法の正式名称は長いのですが、そのまま出題されます。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

「予防」と「患者に対する医療」の両方が入っているのがポイントで、取り締まる法律ではなく、患者の医療を保障する法律でもある、という性格がここに表れています。

基本理念は人権尊重

感染症法の基本理念は、人権の尊重と、国際的動向を踏まえた施策です。

この理念が制度の形に現れているのが入院勧告制度です。強制的に入院させるのではなく、十分な説明と同意に基づいた入院を期待するという建て付けになっています。名前が「勧告」であること自体が、人権尊重という理念の反映だと理解してください。

病原体は4種類に分類される

感染症法は、感染症そのものだけでなく病原体の管理も定めています。病原体は一種〜四種に分類され、規制の強さが変わります。

病原体 規制
一種病原体等 所持は原則禁止。取り扱いはBSL-4の施設で
二種病原体等 許可制
三種病原体等 届出制
四種病原体等 基準の遵守

一種は原則禁止でBSL-4、二種は許可制。ここまで押さえておけば十分です。

対物措置と対人措置

感染症法の措置は、人に対するもの(入院勧告、就業制限)と、物に対するもの(消毒、ねずみ等の駆除、物件の廃棄)に分かれます。

第105回・問19(必須)では「病原体に汚染された場所に消毒等の対物措置が必要とされる感染症はどれか」が問われ、正解は腸管出血性大腸菌感染症(三類)でした。麻しんやヘルパンギーナといった五類が誤り選択肢に並びます。類型が上がるほど措置が強くなるという原則を知っていれば選べます。

個々の類型に何が入るか、どんな措置がとられるかは、次の記事で詳しく扱います。

まとめ

  • 新興感染症・再興感染症はWHOの概念、一類〜五類は感染症法の類型。別系統なので混ぜない
  • 再興感染症は「いったん減ってまた増えた」もの。結核・マラリア・デング熱・劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症
  • 新興感染症は1970年以降に新しく発見された病原体によるもの。レジオネラ症、腸管出血性大腸菌感染症、クリプトスポリジウム症、エボラ出血熱、AIDS、SARSなど
  • 検疫感染症の根拠法は検疫法。語呂は「まじで待て!ちっちゃい新型の鳥!」で、一類感染症は丸ごと全部含まれる
  • 新興感染症がすべて検疫感染症に含まれるわけではない(第107回で出題)
  • 感染症法の正式名称は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」、基本理念は人権尊重、制度として入院勧告がある
  • 病原体は一種〜四種に分類。一種は所持原則禁止でBSL-4、二種は許可制

次は感染症類型 一類〜五類の違い|入院・就業制限の措置と語呂を読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

-感染症の予防

© 2026 マインドマップ薬学 Powered by AFFINGER5