
五類の3本目は、ウイルス以外の顔ぶれです。原虫(クリプトスポリジウム)・細菌(破傷風・百日咳)・性感染症(クラミジア・梅毒)・プリオン病。
バラバラに見えますが、ここに並ぶ疾患はどれも「なぜ五類なのか」より「どこが他と違うのか」で問われます。塩素が効かない原虫、ワクチンで抑え込んだ細菌、ワクチンが無い性感染症、加熱が効かない病原体——それぞれの例外性が出題ポイントです。そこだけ拾っていきましょう。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
全体像:5疾患の「例外」を先に置く
| 疾患 | 病原体 | 感染経路 | ワクチン | 例外として問われる点 |
|---|---|---|---|---|
| クリプトスポリジウム症 | 原虫 | 経口(水系) | なし | 塩素が効かない |
| 破傷風 | 細菌 | 外傷 | あり(トキソイド) | ヒト→ヒト感染しない |
| 百日咳 | 細菌 | 飛沫・接触 | あり(不活化) | DPTの「P」 |
| クラミジア | 細菌 | 性交・産道 | なし | 日本で最多の性行為感染症 |
| 梅毒 | 細菌(スピロヘータ) | 性交・経胎盤 | なし | 全数把握・急増中 |
| プリオン病 | タンパク質 | 医原性など | なし | 核酸を持たない・耐熱性 |
クリプトスポリジウム:塩素が効かない原虫
クリプトスポリジウム原虫は、牛や豚の腸管に寄生する原虫です。細菌ではなく原虫である点を、まず取り違えないでください。
この疾患の一点突破のポイントは、塩素に抵抗性があることです。
- 症状は水様の下痢・腹痛・嘔吐・発熱
- 経口感染。汚染された水道水から感染するため、大規模な集団感染に発展しやすい
- 原水(利根川など)から検出されたら給水停止、対応は煮沸消毒
上水道の消毒は塩素が主役です。その塩素が効かない病原体が原水に入ると、通常の浄水処理では素通りしてしまう。だから給水を止めるという判断になります。塩素が効かないぶん、オゾン処理や活性炭による高度処理、あるいは家庭での煮沸で対応することになります。浄水側の話は浄水の高度処理と水道水の問題物質|トリハロメタン・カビ臭で扱っています。
第110回・問17では「再興感染症はどれか」という問題の選択肢にクリプトスポリジウム症が並びました(正解は結核)。水系感染症の代表として名前を覚えておくことが、まずやるべきことです。
破傷風:外傷から入って、エビ反りになる
破傷風菌による感染症です。感染経路が特徴的で、外傷から感染します。ヒトからヒトへはうつりません。
毒素の効き方が薬理とつながります。
- 傷口の嫌気的な環境で破傷風菌が増え、神経毒素を産生する
- 毒素は運動神経末端から中枢の運動神経へ移動する
- 抑制性シナプスを遮断する
- 抑制が外れるので筋肉が収縮しっぱなしになり、後弓反張(エビ反り)を起こす
抑制を止めているから収縮する——ここが理解の肝です。ストリキニーネと同じ作用と覚えておくと、毒性学の側から聞かれても答えられます。
予防はDPT-IPV混合ワクチンで、これにより年100人ほどまで抑えられています。破傷風のワクチンはトキソイドです(理由は次の記事で扱います)。
百日咳:けいれん性の咳発作、DPTの「P」
百日咳菌による感染症で、飛沫感染・接触感染です。症状は名前のとおりけいれん性の咳発作。
予防は破傷風と同じDPT-IPV混合ワクチンですが、百日咳のワクチンはトキソイドではなく不活化ワクチンです。DPTの3つのうち、トキソイドはジフテリアと破傷風の2つだけ。ここは毎年のように狙われる区別なので、予防接種法とワクチンの分類|A類B類・救済制度・生/トキソイド/不活化とセットで固めてください。
クラミジア:日本で最も多い性行為感染症
クラミジア・トラコマチスによる感染症です。五類の性感染症は、ここではクラミジアと梅毒の2つだけを扱います(性感染症全体は母子保健の単元で改めて整理します)。
- 性交で子宮頸管に感染 → 産道から新生児に感染という2段構えの経路
- 症状は、成人では尿道炎・子宮頸管炎、新生児では結膜炎・肺炎
- 予防はコンドーム、治療はアジスロマイシンなどの抗生剤
- 日本で最も多い性行為感染症
覚えるべきは最後の1行、「最多はクラミジア」です。梅毒が急増しているというニュースの印象で、つい梅毒を最多と答えてしまう人がいます。報告数そのものはクラミジアが圧倒的に多い——ここが引っ掛けどころです。
梅毒:経胎盤感染し、ワクチンが無く、急増している
梅毒トレポネーマ(スピロヘータの一種)による感染症です。
感染経路が2つあります。
- 性交感染:粘膜や小さな傷から感染する
- 母子感染:経胎盤感染
母子感染の経路は疾患ごとに違います(経胎盤・経産道・経母乳)。梅毒は経胎盤。ここは母子保健の単元でまとめて問われるので、今のうちに紐づけておいてください。
症状は時期で3つに分かれる
| 時期 | 症状 |
|---|---|
| 成人 | しこり → ただれ → 発疹、または無症状のまま進行し、10年後くらいに心疾患・神経疾患を発症 |
| 胎児梅毒 | 胎児期に発症 → 死産・流産 |
| 乳児梅毒 | 生後〜2歳までに発症 → 骨軟化症など |
無症状のまま10年かけて進行するという時間感覚が、梅毒の怖さであり、出題されるポイントでもあります。
ワクチンは無い。治療はペニシリンG高用量
梅毒のワクチンは実用化されていません。 治療はペニシリンGの高用量です。抗菌薬が効くのに感染者が増えている、というのがいまの状況です。
第110回・問124では、性感染症報告数の年次推移のグラフから、梅毒・性器クラミジア・淋菌の3つを読み分ける問題が出ました。梅毒は感染症法で全数把握(クラミジアと淋菌は定点把握)という区別も一緒に問われています。五類のうち全数把握なのはどれかという形で繰り返し出るので、梅毒は「全数把握・急増中」でセットにしてください。
プリオン病:核酸を持たない病原体

最後はプリオン病です。ヒトにかかるのがクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ウシにかかるのが牛海綿状脳症(BSE)。五類感染症に指定されているのはCJDのほうです。
病原体が「タンパク質」
プリオン病がすべての感染症の中で例外なのは、病原体が核酸を持たないタンパク質である点です。
- 耐熱性の異常プリオン(核酸を有していないタンパク質)
- 感染能を持つのに免疫応答が起こらない
- 極めて安定で、脳内に蓄積して神経細胞を障害する
免疫が反応しないのでワクチンも作れず、核酸が無いので核酸を狙う薬も効かない。通常の滅菌でも失活しにくい——ここが医療現場での問題につながります。
症状と感染経路
症状は脳組織の海綿(スポンジ)状変性と、それによる初老期痴呆です。
感染経路は医原性が中心で、CJD患者からの角膜や硬膜の移植、脳手術器具の汚染による感染例が報告されています。器具の汚染が経路になるのは、異常プリオンが通常の滅菌操作に耐えるからです。
そして現在問題になっているのが、BSEからヒトに感染する変異型CJDです。ウシのプリオン病がヒトにも感染する形に変化したもので、BSE問題が食品衛生の話につながる理由がここにあります。
まとめ
- クリプトスポリジウムは原虫で、塩素に抵抗性。経口(水系)感染で大規模化しやすく、原水で検出されたら給水停止・煮沸消毒
- 破傷風は外傷から感染。嫌気的環境で神経毒素を産生し、抑制性シナプスを遮断してエビ反り(ストリキニーネと同じ作用)
- 百日咳はけいれん性の咳発作。破傷風と同じDPT-IPVで予防するが、百日咳だけ不活化ワクチン(トキソイドはジフテリアと破傷風)
- クラミジアは日本で最も多い性行為感染症。性交 → 子宮頸管 → 産道で新生児へ。新生児は結膜炎・肺炎
- 梅毒は経胎盤感染。ワクチンは無く、治療はペニシリンG高用量。全数把握で、いま急増している
- プリオン病の病原体は核酸を持たない耐熱性の異常タンパク質。免疫応答がなく、角膜・硬膜移植や手術器具の汚染で医原性感染。ヒトはCJD、ウシはBSE、五類はCJD
次は予防接種法とワクチンの分類|A類B類・救済制度・生/トキソイド/不活化を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
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