
五類の2本目は、小児に多いウイルス感染症です。麻疹・風疹・水痘・手足口病・ヘルパンギーナ、そしてインフルエンザ。
この並びで押さえるべき軸は2つあります。ひとつは感染経路(とくに空気感染するかどうか)、もうひとつはワクチンがあるか、あるなら生か不活化か。この2軸で表にすると、混ざりやすい4疾患がきれいに分かれます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
まず2軸で並べる
| 疾患 | 感染経路 | ワクチン | 届出 |
|---|---|---|---|
| 麻疹 | 空気感染・飛沫・接触 | 生ワクチン(MR)・2回 | 全数把握 |
| 風疹 | 飛沫・接触 | 生ワクチン(MR)・2回 | 全数把握 |
| 水痘 | 空気感染・飛沫・接触 | 生ワクチン(定期接種) | 定点把握 |
| 手足口病 | 飛沫・接触 | なし | 定点把握 |
| ヘルパンギーナ | 飛沫・接触 | なし | 定点把握 |
| インフルエンザ | 飛沫・接触 | 不活化(HAワクチン) | 定点把握 |
空気感染するのは麻疹と水痘。前の記事で扱った結核と合わせて、結核・麻疹・水痘の3つが空気感染です。ここは「空気感染するのはどれか」という形で直接問われます。
全数把握は麻疹と風疹だけ、残りは定点把握。これも表のまま覚えてしまってください。
麻疹:空気感染で、マスクでは防げない
麻疹ウイルス(RNAウイルス)による感染症です。
- 空気感染・飛沫感染・接触感染。感染力は強烈
- 一度感染すると一生免疫が続く
- 予防は弱毒生ワクチンの2回接種
ITMZに「空気感染するのでマスクでは無理」と明記されています。ここが麻疹の肝です。飛沫感染なら通常のマスクである程度防げますが、空気中を漂う飛沫核は防げない。だからワクチンしかない、という論理です。
2回接種になった経緯
2007年に10代・20代で大流行しました。大学が休講になるほどの規模です。原因は、その世代がワクチンを1回しか打っていなかったこと。1回では免疫が十分につかない人が一定数いるためです。
これを受けて2008年から、中学1年生と高校3年生に2回目の接種機会が設けられ、その後激減しました。
「なぜ2回打つのか」=「1回では免疫がつかない人がいるから」。この理由まで押さえておくと、風疹の2回接種にもそのまま応用できます。
風疹:妊婦が罹ると先天性風疹症候群
風疹ウイルス(RNAウイルス)による感染症で、飛沫感染と接触感染です。麻疹と違って空気感染はしません。ここが2つを分ける決定的な違いです。
風疹の最大の問題は、妊娠初期(20週まで)に妊婦が初感染すると、経胎盤感染により先天性風疹症候群(CRS)を起こすことです。
先天性風疹症候群の三徴:難聴・心奇形・白内障
予防は1歳と5〜6歳のときに計2回、弱毒生ワクチン(MRワクチン)を接種します。
MRワクチンの「R」は風疹
MRワクチンは、Measles(麻疹)とRubella(風疹)の混合ワクチンです。
第103回・問128では「麻疹及び流行性耳下腺炎の予防接種には、MRワクチンが用いられている」という選択肢が誤りとして出ました。流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)はMRには含まれません。MR=麻疹+風疹です。
同じ問題で「先天性風疹症候群の予防のために、妊娠する前に予防接種により風疹に対する免疫を獲得しておくことが望まれる」は正しい記述でした。妊娠中は生ワクチンを接種できないので、妊娠前に済ませておく必要がある——という背景も合わせて理解しておいてください。
水痘:ヘルペスウイルス科で、空気感染する
ヘルペスウイルス科の水痘・帯状疱疹ウイルス(DNAウイルス)による感染症です。
- 症状は水疱や盛り上がった赤い発疹
- 空気感染(飛沫核感染)・飛沫感染・接触感染
- 予防接種(定期接種)がある。生ワクチン
同じウイルスが、小児では水痘として、成人以降では再活性化して帯状疱疹として現れます。1つのウイルスに2つの顔があるのが水痘・帯状疱疹ウイルスです。
手足口病とヘルパンギーナ:どちらもコクサッキー
手足口病は、コクサッキーウイルスとエンテロウイルスによるもので、飛沫感染・接触感染です。
名前のとおり口腔内、手のひら、足裏などに2mmくらいの水疱性発疹が出ます。罹患はほぼ5歳以下の小児。
ヘルパンギーナはコクサッキーウイルスによるもので、口の中に現れる水疱性の発疹が特徴の、小児の急性ウイルス性咽頭炎です。
2つの違いは発疹が出る場所です。
ヘルパンギーナは口の中だけ。手足口病は、口+手のひら+足裏。
名前が答えを教えてくれているので、ここは取りこぼさないでください。どちらもワクチンはなく、定点把握です。
インフルエンザ:HAとNAの意味
オルトミクソウイルス科のインフルエンザウイルス(RNAウイルス)です。
構造:エンベロープ表面のHAとNA
- HA(ヘマグルチニン):ウイルスが細胞に感染するときに必要
- NA(ノイラミニダーゼ):複製されたウイルスを感染細胞から放出するときに必要
A型ではHAが16種類、NAが9種類あるため、16×9=144通りの亜型が存在します。H1N1のような表記は、この組み合わせを表しています。
NAが放出に関わることを押さえておくと、オセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬が「細胞からの放出を止める薬」であることが理解できます。薬理とつながる場所です。
過去の大流行
| 名称 | 年 | 型 |
|---|---|---|
| スペインかぜ | 1918年 | A型H1N1 |
| 香港かぜ | 1968年 | A型H3N2 |
ワクチンは不活化
予防は不活化ワクチンであるHAワクチンです。ウイルス粒子からHAを取り出した成分ワクチンで、生ワクチンではありません。
麻疹・風疹・水痘が生ワクチンなのに対して、インフルエンザだけ不活化。この記事で扱った疾患の中では例外的な位置にいるので、混ぜないよう注意してください。ワクチンの分類そのものは予防接種法とワクチンの分類|A類B類・救済制度・生/トキソイド/不活化で詳しく扱います。
まとめ
- 空気感染するのは麻疹と水痘(+二類の結核)。風疹・手足口病・ヘルパンギーナ・インフルエンザは飛沫と接触
- 全数把握は麻疹と風疹だけ。水痘・手足口病・ヘルパンギーナ・インフルエンザは定点把握
- 麻疹は感染力が強烈で空気感染するためマスクでは防げない。一生免疫が続く。2007年の10〜20代の大流行を受けて2回接種になった
- 風疹は妊娠初期(20週まで)の初感染で先天性風疹症候群(難聴・心奇形・白内障)を起こす。妊娠前にワクチンで免疫を獲得しておく
- MRワクチン=麻疹+風疹。流行性耳下腺炎は含まれない
- 水痘はヘルペスウイルス科の水痘・帯状疱疹ウイルス(DNA)。再活性化すると帯状疱疹になる
- ヘルパンギーナは口の中だけ、手足口病は口+手のひら+足裏。どちらもコクサッキーウイルス
- インフルエンザはHAで感染し、NAで放出される。A型は16×9=144亜型。ワクチンは不活化のHAワクチン
次は五類感染症③|破傷風・百日咳・梅毒・クラミジア・プリオン病を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。