
予防接種は、制度の話とワクチンの中身の話の2階建てです。
1階が制度。予防接種法に基づくかどうかでまず二分し、法に基づくもののうち定期接種をA類とB類に分ける。ここが分かれると、努力義務があるかも健康被害が起きたときにどの救済制度を使うかも自動的に決まります。
2階がワクチンの中身。生ワクチン・トキソイド・不活化ワクチンの3分類で、どの疾患がどれに入るかは語呂で一気に片づきます。
この2階建てを、この記事でまとめて通します。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
1階:予防接種法に基づくか、基づかないか
まず全体の枝分かれを頭に入れます。
| 種類 | 費用 | 健康被害の救済 | |
|---|---|---|---|
| 予防接種法に基づく | 定期接種(A類・B類)、臨時接種 | 無料が多い | 予防接種健康被害救済制度 |
| 予防接種法に基づかない | 任意接種 | 自己負担 | 医薬品副作用被害救済制度 |
臨時接種は、インフルエンザの流行時などに実施されるものです。新型コロナウイルスの接種も、これにあたる扱いで行われました。
任意接種の例は、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)・A型肝炎・狂犬病など。もうひとつ見落としやすいのが、定期接種の対象疾患でも、定められた時期を過ぎて打つと任意接種になるというパターンです。この場合は費用も自己負担になります。
救済制度の使い分けが最重要
この単元でいちばん問われるのがここです。
法定接種(定期・臨時)の健康被害 → 予防接種健康被害救済制度 任意接種の健康被害 → 医薬品副作用被害救済制度
任意接種は「予防接種法の外側」で打っているので、予防接種法の救済制度は使えません。普段の医薬品と同じ枠組みで救済される、と理解しておけば取り違えません。
A類疾病とB類疾病:目的が違えば、努力義務も違う
定期接種は、A類疾病とB類疾病に分かれます。違いは何のために打つのかです。
| A類疾病 | B類疾病 | |
|---|---|---|
| 目的 | 集団予防 | 個人予防 |
| 努力義務 | あり | なし |
| 主な対象 | 小児 | 高齢者 |
| 代表例 | Hib、小児用肺炎球菌、B型肝炎、ロタ、DPT-IPV(2024年4月からはHibと合わせた5種混合)、BCG、MR、水痘、日本脳炎、HPV、RSウイルス(妊婦・2026年4月から) | インフルエンザHAワクチン(65歳以上に毎年1回)、肺炎球菌感染症(65歳以上)、新型コロナ(2024年4月から)、帯状疱疹(2025年4月から) |
B類の新型コロナ(2024年4月から)と帯状疱疹(2025年4月から)、A類のRSウイルス(妊婦に打つ母子免疫ワクチン、2026年4月から)は、講義収録のあとに加わったものです。
理屈で押さえてください。A類はみんなが打たないと意味がない——集団の中に免疫を持たない人が残ると流行が起きてしまうタイプです。だから努力義務がある。
一方のB類は、その人自身を守るために打つもの。高齢者がインフルエンザや肺炎球菌にかかると命に関わるから打つ、という発想です。個人のための接種なので、努力義務はありません。
肺炎球菌は、A類にもB類にもいる
引っ掛けとして出やすいのがここです。肺炎球菌感染症は、小児用がA類、高齢者用がB類と、両方に登場します。対象年齢でA類かB類かが変わるので、「肺炎球菌=B類」と単純に覚えると外します。
A類疾病のワクチンと時期
数字まで問われやすいものを抜き出しておきます。
- Hib感染症・小児用肺炎球菌:生後2ヶ月〜5歳未満。どちらも髄膜炎の予防が目的
- B型肝炎:生後2ヶ月〜1歳未満(水平感染の予防)
- ポリオ:IPV(不活化ポリオワクチン)
- 結核:BCGを生後12ヶ月までに1回
- 麻疹・風疹:MR(麻疹風疹混合ワクチン)。1期は1〜2歳に1回、2期は小学校入学1年前〜前日
- ヒトパピローマウイルス感染症:子宮頸がん予防ワクチン。小学6年〜高校1年
注意:接種スケジュールは年度ごとに変わります。 記事中の内容は講義収録時点のものです(2024年4月からは、DPT-IPVとHibが5種混合ワクチンにまとまっています)。受験年の最新版は、国立健康危機管理研究機構(JIHS)の「日本の予防接種スケジュール」で必ず確認してください(国立感染症研究所は2025年4月にJIHSへ統合されました)。
過去問で確認する
第109回・問125「予防接種に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ」では、次の3つが誤りの選択肢として並びました。
- 「予防接種法におけるA類疾病については、接種の努力義務はない」→ A類は努力義務あり
- 「予防接種法におけるB類疾病の予防接種は、個人予防よりも集団予防を主な目的としている」→ B類は個人予防が主目的
- 「予防接種法に定められた予防接種による健康被害は、医薬品副作用被害救済制度により救済される」→ 法定接種は予防接種健康被害救済制度
この記事でここまで扱った3点が、そのまま3つの誤り選択肢になっています。A類=集団予防=努力義務あり、B類=個人予防=努力義務なし、法定接種は予防接種健康被害救済制度。この3つを言えるようにしておけば正解できます。
なお、正しい選択肢は「予防接種で得られる免疫は、人工能動免疫に含まれる」と「予防接種によって免疫能を獲得することは、宿主に対する疾病予防である」でした。自分の体に抗体を作らせるから能動免疫、人の手で行うから人工。抗体そのものを投与する血清療法は人工受動免疫です。
2階:ワクチンの3分類
ここからは中身の話です。生ワクチン・トキソイド・不活化ワクチンの3つに分かれます。
| 分類 | 中身 | 免疫 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 弱毒性生ワクチン | 弱毒化させた生きた病原体 | 細胞性免疫+体液性免疫 | 増殖能あり。副反応は出やすいが効果が高い |
| トキソイド | 菌が作る毒素を無毒化したもの | 体液性免疫 | 毒素が悪さをするタイプの菌に使う |
| 不活化ワクチン | 病原体を殺して成分を取り出したもの | 体液性免疫 | 上記以外はここ |
生ワクチンだけが増殖能を持ち、細胞性免疫も獲得できる——これが3分類の軸です。生きたまま体の中で増えるぶん効果は高いものの、副反応も出やすく、妊婦には接種できません。
生ワクチンの語呂:おお水っぽい生でびっくりマロニー豆腐

お(おたふく)・お(黄熱)・水っぽい(水痘)・生で(生ワクチン)・びっくり(BCG)・マ(麻疹)・ロニー(ロタウイルス)・豆(痘瘡)・腐(風疹)
生ワクチンはおたふくかぜ・黄熱・水痘・BCG・麻疹・ロタウイルス・痘瘡・風疹。この8つです。
麻疹+風疹=MR混合ワクチン。語呂の中の「マ」と「腐」が、そのままMRワクチンの正体になっています。
ここで注意してほしいのが、おたふくかぜは生ワクチンだが、定期接種ではない(任意接種)という点です。ワクチンの分類と制度上の位置づけは別の軸なので、混ぜないでください。
トキソイドの語呂:いっときの恥は百のはじ

いっ「とき」の「恥」は「百のはじ」 ・とき = トキソイド ・恥(はじ) = 破傷風・ジフテリア ・百のはじ = DPT3種混合(百日咳・破傷風・ジフテリア)
前半でトキソイドは破傷風とジフテリアの2つだと決め、後半でDPTの中身を確認する、という二段構えの語呂です。
ここから自動的に導けるのが、DPTのうち百日咳だけがトキソイドではないという結論です。百日咳は不活化ワクチン。DPTを「3つともトキソイド」と誤解するのが典型的な失点パターンなので、語呂の形で切り分けておいてください。
そしてトキソイドとは、菌が作る毒素を無毒化したものです。破傷風もジフテリアも、菌そのものより毒素が症状を起こす疾患でした(五類感染症③の破傷風の項を参照)。毒素が主役の病気だから、毒素に対する免疫をつける——という筋が通っています。
まとめ
- 予防接種は予防接種法に基づくもの(定期接種・臨時接種)と基づかないもの(任意接種)に分かれる
- 法定接種の健康被害は予防接種健康被害救済制度、任意接種は医薬品副作用被害救済制度。ここが最頻出
- A類疾病=集団予防が目的=努力義務あり(主に小児)。B類疾病=個人予防が目的=努力義務なし(65歳以上のインフルエンザHAワクチン・肺炎球菌。2024年4月から新型コロナ、2025年4月から帯状疱疹も加わった)
- 肺炎球菌は小児用がA類、高齢者用がB類。対象年齢で変わる
- Hib・小児用肺炎球菌は生後2ヶ月〜5歳未満、BCGは生後12ヶ月までに1回、MRは1期1〜2歳・2期は小学校入学1年前〜前日
- 生ワクチンだけが増殖能を持ち、細胞性免疫と体液性免疫の両方を獲得できる
- 生ワクチンは「おお水っぽい生でびっくりマロニー豆腐」=おたふく・黄熱・水痘・BCG・麻疹・ロタ・痘瘡・風疹
- トキソイドは「いっときの恥は百のはじ」=破傷風とジフテリアの2つだけ。DPTのうち百日咳は不活化ワクチン
- 接種スケジュールは年度で変わるので、受験年はJIHS(旧・国立感染症研究所)の最新版を確認する
次は滅菌法の種類と条件|高圧蒸気法・乾熱法・EOG・放射線滅菌を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。