
ここから五類感染症を3本に分けて見ていきます。1本目は血液・体液を介して感染する3つ——HIV/AIDS、B型肝炎、C型肝炎です。
この3つは感染経路が重なっていて、性行為・血液製剤・母子感染という共通の軸で並べられます。並べて比べると、それぞれの「ここだけ違う」がくっきりします。まずは五類そのものの定義から確認しましょう。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
五類感染症とは
五類は、国が発生状況を調査し、国民や医療機関に情報を提供するための類型です。ヒトからヒトへの感染はありますが、入院勧告や就業制限といった強い措置はとられません。
届出の方法が2つに分かれるのが五類の特徴です。
| 届出 | 対象 | 理由 |
|---|---|---|
| 全数把握 | 麻疹、風疹、AIDS、B型肝炎、C型肝炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、梅毒など | 数が限られ、動向を正確に追う必要がある |
| 定点把握 | インフルエンザ、手足口病、ヘルパンギーナ、水痘など | 数が多すぎて全数把握が現実的でないため、指定医療機関の報告から推計する |
この記事で扱うHIV/AIDS・B型肝炎・C型肝炎は、いずれも全数把握です。
HIV/AIDS
病原体は、レトロウイルス科のHIV(ヒト免疫不全ウイルス、RNAウイルス)です。
まず言葉の整理から。HIVに感染しただけではAIDSではありません。HIV感染によって免疫不全が進み、指標となる疾患を発症した状態がAIDS(後天性免疫不全症候群)です。「感染=発症」ではない、という区別が問われます。
感染経路は3つ
| 経路 | 内容 |
|---|---|
| ① 性的接触 | 8割以上を占める |
| ② 血液製剤由来 | 薬害エイズ。血友病患者の約4割(約2千人)がHIVに感染した |
| ③ 母子感染 | 妊婦が感染者の場合、経胎盤・産道・母乳を介して感染しうる |
母子感染のところで、経胎盤・経産道・経母乳の3経路すべてがありうるのがHIVの特徴です。後で出てくるB型肝炎(主に経産道)や梅毒(経胎盤)と比べると、違いがはっきりします。
国試ではこう問われる
第107回・問123の性感染症の問題では、「我が国における後天性免疫不全症候群の患者数は、異性間よりも同性間の性的接触によるものが多い」が正しい記述として出ています。日本のHIV感染は同性間の性的接触によるものが多い、という点は繰り返し問われます。
同じ問題で、「尖圭コンジローマは、ヒト単純ヘルペスウイルスを原因とする」が誤りでした。尖圭コンジローマの原因はヒトパピローマウイルス(HPV)です。これは第106回・問121でも正しい記述として出題されており、HPV=尖圭コンジローマ&子宮頸がんはセットで押さえてください。
B型肝炎
病原体は、ヘパドナウイルス科のHBV(DNAウイルス)です。
ここは名前で覚えられます。ヘパ=肝(hepato-)、ドナ=DNA。ヘパドナウイルスだからDNAウイルス。肝炎ウイルスの中でDNAウイルスはB型だけなので、この1点だけでも設問を1つ潰せます。
症状は慢性肝炎・肝硬変・肝がんへと進みうるものです。
感染経路
血液・体液を介して感染します。
- 母子感染:経産道感染で、HBVキャリアの母から生まれた新生児は9割程度がキャリア化し、そのうち約10%がB型肝炎を発症する
- 性行為感染
- 注射器の使い回し(過去の集団予防接種によるもの)
- 輸血・血液製剤:現在は検出技術の向上でほぼゼロ
予防:B型肝炎母子感染防止対策
キャリア化を防ぐために、出生した新生児に対して次の2つを行います。
- 抗HBsヒト免疫グロブリンの投与
- B型肝炎ワクチンの接種
国試ではこう問われる
第103回・問19(必須)は、この流れをそのまま問題にしています。
母子感染防止事業の徹底により母子感染は激減したが、小児における水平感染が問題となったため、予防接種法における定期接種の対象に新たに加えられたウイルスはどれか
正解はB型肝炎ウイルスです。母子感染(垂直感染)対策はうまくいった → 次は水平感染 → 全員に定期接種、という流れで覚えてください。B型肝炎ワクチンは現在、A類疾病の定期接種に入っています。
C型肝炎
病原体は、フラビウイルス科のHCV(RNAウイルス)です。
感染経路は血液を介した感染が中心で、B型と違って性行為感染や母子感染の比率は高くありません。
いちばん問われるのが経過の数字です。
感染後、2割が完治し、8割がキャリア化 → 慢性肝炎 → 肝硬変 → 肝がん
8割がキャリア化するという高さがC型の特徴です。B型の母子感染(9割キャリア化)の数字と混ざりやすいので、B型の9割は「母子感染したとき」、C型の8割は「感染した人全般」と条件ごと覚えてください。
また、肝がんによる死亡の7割以上がC型肝炎由来とされてきました。ただしこれは講義当時までの数字で、近年は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の普及でC型肝炎由来の肝がんは減少傾向にあります。「肝がんの最大の原因はC型肝炎」という関係を押さえ、割合の数字は目安と考えておくのが安全です。
3つを並べて比べる
| HIV/AIDS | B型肝炎 | C型肝炎 | |
|---|---|---|---|
| 病原体 | レトロウイルス科 HIV(RNA) | ヘパドナウイルス科 HBV(DNA) | フラビウイルス科 HCV(RNA) |
| 主な感染経路 | 性的接触(8割以上) | 血液・体液(性行為・母子・注射針) | 血液 |
| 母子感染 | 経胎盤・産道・母乳 | 経産道が中心 | 少ない |
| 慢性化 | — | 母子感染では9割キャリア化 | 感染者の8割キャリア化 |
| ワクチン | なし | あり(A類定期接種) | なし |
| 届出 | 五類・全数把握 | 五類・全数把握 | 五類・全数把握 |
いちばん下から2行目、ワクチンがあるのはB型肝炎だけ。この一行は確実に押さえてください。
まとめ
- 五類は発生動向の調査と情報提供が目的。全数把握(麻疹・風疹・AIDS・B型/C型肝炎・CJD・梅毒)と定点把握(インフルエンザ・手足口病など)に分かれる
- HIVはレトロウイルス科のRNAウイルス。感染=AIDSではない。感染経路は性的接触が8割以上、血液製剤(薬害エイズで血友病患者の約4割)、母子感染は経胎盤・産道・母乳の3経路すべて
- 日本のHIVは異性間より同性間の性的接触によるものが多い
- B型肝炎ウイルスはヘパドナウイルス科のDNAウイルス。肝炎ウイルスでDNAなのはB型だけ
- B型の母子感染は経産道感染で、新生児の9割がキャリア化、うち約10%が発症。抗HBsヒト免疫グロブリン+B型肝炎ワクチンで防ぐ
- B型肝炎ワクチンは水平感染対策として定期接種に追加された(第103回・問19)
- C型肝炎ウイルスはフラビウイルス科のRNAウイルス。感染後8割がキャリア化し、慢性肝炎→肝硬変→肝がんへ進む
- ワクチンがあるのはB型肝炎だけ。HIVとC型肝炎にはない
次は五類感染症②|麻疹・風疹・水痘・手足口病を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
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