
ここからが6つの相互作用の本体です。そして最初に扱うファンデルワールス相互作用が、残り5つを理解するための土台になります。ここを雑に済ませると、あとで必ず戻ってくることになるので、丁寧にいきましょう。
前の記事では、相互作用する側の分子そのものを見てきました。結合の極性、双極子モーメント、極性分子と無極性分子。今回はそこから一歩進んで、分子と分子の間にどんな力が働くのかを整理します。
この単元で覚えることは、実はそれほど多くありません。①距離の6乗に反比例すること ②双極子が3種類あること ③その組み合わせに名前がついていること——この3つだけです。逆に言うと、この3つを人に説明できるようになれば、この単元は終わりです。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
名前の話を先に片づける
教科書によって「ファンデルワールス力」と書いてあったり「ファンデルワールス相互作用」と書いてあったりします。この2つは同じ意味です。
「ファンデルワールス力」は言いやすく、古い教科書では慣用的にこちらが使われてきました。ただ、国際的な定義としては「ファンデルワールス相互作用」と呼ぶのが標準的なので、この記事でもそちらで統一します。試験でどちらが出てきても、同じものだと分かれば問題ありません。
定義はこうです。電荷のない中性の分子や原子の間に働く、引力・斥力の総称。 特に、分子間距離の6乗に反比例するものを指します。
「電荷のない」というところが効いてきます。あとで出てくるイオン-双極子間相互作用は、イオンが完全な電荷を持っているため、ファンデルワールス相互作用には含まれません。また水素結合も、かつてはファンデルワールス相互作用の一種と考えられていましたが、他と比べて強すぎるため現在は別分類です。「電荷を持たない分子どうしの、そこそこ弱い力」がファンデルワールス相互作用、と枠を作っておいてください。
最重要:距離の6乗に反比例する
この相互作用でまず覚えるのは、ここです。

ファンデルワールス相互作用 = K ÷ (距離)⁶
距離の6乗に反比例する。 指数が6であることが、この単元で一番問われやすいポイントです。あとで出てくるクーロン力は距離の2乗に反比例するので、両方を並べて覚えておくと取り違えません。
6乗というのは、距離が2倍になっただけで力が64分の1になるということです。つまり、ごく近い距離でしか効かない力だと理解しておいてください。
斥力もある
いま見たのは引力ですが、斥力(反発力)もあります。
近づきすぎるとどうなるか。分子の周りには電子雲があるので、その電子どうしが反発してしまうんですね。基本的には引き合うけれど、近づきすぎると反発する。これがファンデルワールス相互作用のもう一つの顔です。
原因になる双極子は3種類
では、この力はなぜ生じるのか。ここで前の記事でやった双極子が効いてきます。双極子には3種類あります。
① 永久双極子(単に「双極子」)

極性分子が持っている双極子のことです。HCl なら、電気陰性度の高い Cl が δ−、H が δ+ になっています。前の記事でやったものが、そのままこれです。
ここで一つ注意があります。「永久双極子」は、ふつう単に「双極子」と呼ばれます。 この先「双極子」とだけ書いてあったら永久双極子、つまり極性分子のことだと思ってください。これを知らないと、次の組み合わせの名前が読めなくなります。
② 誘起双極子

もともと無極性だった分子が、近くに来た極性分子などの電荷に影響されて(誘起されて)生じる双極子です。
極性分子は δ+ と δ− に分極していますよね。その δ+ の側が無極性分子に近づいてくると、無極性分子の電子が引き寄せられて、近い側がちょっと δ−、逆側がちょっと δ+ に偏る。自分では偏れないけれど、隣から偏らせてもらった双極子が誘起双極子です。
③ 瞬間双極子

無極性分子であっても、電子雲のゆらぎによって瞬間的に生じる双極子です。
無極性分子の電子雲は、平均すれば均等に分布しています。でも電子は動いているので、ある瞬間だけ片側に寄ることがある。そのとき、一瞬だけ δ− と δ+ が生まれます。時間平均すればゼロですが、瞬間的には偏っている。 これが瞬間双極子です。
3つの組み合わせと、その名前
この3種類の双極子の組み合わせで、ファンデルワールス相互作用は分類できます。組み合わせは3つです。
| 組み合わせ | 力の名前 | 起こっていること |
|---|---|---|
| 双極子 − 双極子 | 配向力 | 極性分子どうしが向きを揃えて引き合う |
| 双極子 − 誘起双極子 | 誘起力 | 極性分子が、無極性分子に双極子を誘起して引き合う |
| 瞬間双極子 − 誘起双極子 | 分散力(ロンドン力) | 一瞬の偏りが、隣にも偏りを誘起して引き合う |
名前が「そのまんま」であることに気づいたでしょうか。双極子-双極子間相互作用で働く力が配向力、双極子-誘起双極子間相互作用で働く力が誘起力。 組み合わせの名前さえ言えれば、力の名前は素直についてきます。問題は3つ目だけです。
双極子-双極子間相互作用(配向力)

極性分子である双極子と双極子が、配向力という力で引き合います。δ+ の側と δ− の側が向き合うように並ぶので「配向」です。
双極子-誘起双極子間相互作用(誘起力)

双極子(極性分子)が隣の無極性分子に双極子を誘起し、その誘起双極子との間で引き合います。ここで働くのが誘起力です。
瞬間双極子-誘起双極子間相互作用(分散力・ロンドン力)

3つの中で、これが一番大事です。 ここで働く力を分散力、またはロンドン力と言います。
なぜ一番大事なのか。これだけが、極性分子がまったくない状況でも働くからです。
配向力も誘起力も、極性分子がいないと成り立ちません。ところが、極性分子がない世界にも分子間力は存在します。たとえばベンゼン。ベンゼンは無極性分子ですよね。もし分子間に何の力も働いていなかったら、分子どうしがバラバラに飛び散って、液体でいられないはずです。 でも実際のベンゼンは常温で液体です。
その答えがこれです。熱によるゆらぎで瞬間双極子が生じ、それが隣の無極性分子にも誘起双極子を作る。それらが互いに引き合っている。無極性分子だけの世界でも凝集相(液体や固体)を作れるのは、この分散力のおかげです。だから分子間力の中で最も普遍的な相互作用であり、試験でも一番問われます。
ロンドン力の名前の由来について。 解説動画では「オランダのロンドンさんが見つけた」と説明していますが、これは誤りです。ロンドン力の名前の由来は、ドイツ生まれ(のちにアメリカへ渡った)の物理学者フリッツ・ロンドンです。オランダ出身なのはファンデルワールスのほう。名前が2つ並ぶ単元なので、覚えるときは「ロンドン=ドイツ、ファンデルワールス=オランダ」とセットにしておくと混ざりません。
まとめ
- ファンデルワールス力 = ファンデルワールス相互作用。同じもの。国際的には後者が標準
- 定義は「電荷のない中性分子・原子間に働く引力・斥力の総称」。イオンが絡むものも、水素結合も含まない
- 引力は距離の6乗に反比例する(K/距離⁶)。ここが最頻出。クーロン力の2乗と混ぜない
- 近づきすぎると電子雲どうしが反発して斥力になる
- 原因となる双極子は3種類。永久双極子(=極性分子。単に「双極子」)/ 誘起双極子(隣から偏らせてもらった)/ 瞬間双極子(電子雲のゆらぎ)
- 組み合わせと力の名前:双極子-双極子=配向力、双極子-誘起双極子=誘起力、瞬間双極子-誘起双極子=分散力(ロンドン力)
- 分散力が最重要。 極性分子がなくても働くため最も普遍的で、ベンゼンのような無極性分子が液体でいられる理由になっている
次は水素結合:なぜ水の沸点だけ異常に高いのかを読んでみてください。かつてはファンデルワールス相互作用の一種とされていたものが、なぜ別扱いになったのかという話です。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
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