分子間相互作用

静電相互作用:クーロン力・誘電率とポテンシャルエネルギー【薬剤師国家試験】

6つの相互作用のマインドマップ
6つの相互作用のマインドマップ

6つの相互作用も、いよいよ大詰めです。静電相互作用の中身は、高校物理でも出てきたクーロン力そのものです。

ただ、この記事では式を1つ覚えて終わりにしません。ポテンシャルエネルギーという考え方を、ここで一度きちんと通しておきます。理由は2つあります。

1つは、このあと熱力学で「仕事と熱とエネルギーの関係」を扱うからです。「した仕事が、そのままポテンシャルエネルギーになる」という感覚が先にあると、熱力学の入りが格段に楽になります。

もう1つは、薬剤学で必ず学ぶ DLVO理論の土台がここだからです。コロイドが安定して分散していられるのか、それとも沈殿するのか——その判断は、静電反発力とファンデルワールス力のポテンシャルエネルギーのせめぎ合いで決まります。

まずは覚えるべき2本の式から確認して、そのあと「なぜそうなるのか」を追いかけます。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。

この単元で覚える要点は2つだけ

先に結論を置きます。この範囲で暗記が必要なのは、次の2本だけです。

  • クーロン力 — r の2乗分の「電荷 × 電荷」
  • ポテンシャルエネルギー — r 分の「電荷 × 電荷」

分母の次数が 2 と 1 で違う、ここだけです。ファンデルワールス相互作用が距離の6乗に反比例するのとセットで、「6乗・2乗・1乗」を並べて覚えてしまってください。

クーロン力

F = k · QQ′ / r²

プラスの電荷とマイナスの電荷があるとき、その間に働く力です。読み方は素直で、

  • 電荷 Q と Q’ が大きいほど、力は大きい(積に比例)
  • 距離 r が離れるほど、力は小さい(2乗に反比例)

これだけです。

比例定数 k の中身:誘電率

式の頭にある k が、ただの定数ではないところがポイントです。

k = 1 / (4πε)

この ε(イプシロン)が誘電率です。ざっくり言うと、その環境が、電荷どうしの力をどれだけ邪魔するかを表しています。

考えてみてください。同じ2つの電荷でも、真空中にあるのか、水の中にあるのかで、力の伝わり方は違いますよね。水の中なら、周りの水分子が電荷の影響を弱めます。この「邪魔の程度」が誘電率です。

式を見ると ε は分母にあります。つまり、

邪魔をするもの(ε)が大きければ、力は小さくなる。 誘電率と力は反比例の関係です。

水の誘電率は大きいので、水中では電荷どうしの静電的な力が弱まります。イオンが水中でバラバラになれるのも、この効果が効いています。

ポテンシャルエネルギーとは何か:重力で考える

ここから、式の意味の話に入ります。いきなりクーロン力でやると分かりにくいので、重力で考えます。

質量 M の物体が机の上にあります。これを手で高さ H まで持ち上げました。手を離すと、物体はストンと落ちますよね。落ちることができる=何かを持っている状態です。これがポテンシャルエネルギー、文字通り「潜在的な能力」です。

では、その大きさはいくつか。

物体には下向きに Mg(質量 × 重力加速度)の力がかかっています。これを持ち上げるには、逆向きに Mg + ほんの少しの力をかければいい。0.001 でもプラスされていれば、じりじりと上がっていきます。

その力を、距離 H だけかけ続けた。このとき私がした仕事は、

W = Mg × H

です。そして、この仕事がそのまま物体のポテンシャルエネルギーになります。

グラフで見ると「面積」になる

ここが一番大事なところです。縦軸に力、横軸に距離をとってグラフを描いてみてください。

重力は距離によらず一定なので、高さ Mg の横一直線になります。0 から H まで、この直線の下側の面積は——長方形の面積 = Mg × H ですね。

力 × 距離 = グラフの面積 = 仕事 = ポテンシャルエネルギー。 この対応が見えていることが、この先ずっと効いてきます。

同じことをクーロン力でやる

では本題に戻ります。クーロン力の場合はどうなるか。

重力と違って、クーロン力は距離によって変わります。 近ければ大きく、遠ざかれば小さい。だからグラフは横一直線ではなく、右肩下がりの曲線になります(距離が 0 に近づくと無限大に発散してしまうので、そこは考えないでおきます)。

さて、電荷 Q が作る「場」の中に、別の電荷 Q’ を置くことを考えます。同じ符号どうしなら、Q’ は反発力で無限遠まですっ飛んでいこうとします。

そこで、力が 0 である無限遠から、外から力を加えて、ゆっくりと距離 r の位置まで運んでくることを考えます。重力のときと同じ発想です。このとき外から加えた仕事の総量が、その地点でのポテンシャルエネルギーになります。

グラフでいえば、曲線の下の面積です。曲線なので長方形では求まらず、積分することになります。

U = k · QQ′ / r

k、Q、Q’ は定数なので外に出して、1/r²(つまり r⁻²)を積分します。 積分すると次数が1つ上がって r⁻¹ になる——ここだけ押さえれば十分です。

つまり、分母が r² だったクーロン力を積分すると、分母が r のポテンシャルエネルギーになる。 「2乗」と「1乗」の違いは、ここから来ています。丸暗記ではなく、積分で次数が1つ変わった結果だと分かっていれば、取り違えません。

この先どこで効いてくるか:DLVO理論の入口

最後に、ここで学んだポテンシャルエネルギーが何の役に立つのかを見ておきます。

コロイド粒子が水中にたくさん浮かんでいるとします。粒子どうしは、近づきたいのか、離れたいのか。 実は、2つの力が綱引きをしています。

  • ファンデルワールス力 — 引力。距離の6乗に反比例して働く。近づきたい
  • 静電反発力 — コロイド粒子が同じ符号に帯電していれば、クーロン力で反発する。離れたい
静電反発力とファンデルワールス力のポテンシャルエネルギーの合計
静電反発力とファンデルワールス力のポテンシャルエネルギーの合計

この2つを、力のままではなくポテンシャルエネルギーに直して足し合わせると、上の図のような1本の曲線になります。粒子間距離ごとに「どちらへ行きたいのか」が、この合計曲線を見れば判断できる。山があるということは、そこを越えないと粒子は合体できない、ということです。だからコロイドは安定に分散していられるわけですね。

ここに電解質(塩)を加えると、静電反発力のポテンシャルエネルギーが下がって、合計曲線の山が低くなります。 山が越えられるようになれば、粒子は集まって沈殿します。

これがDLVO理論の骨格です。

どこまでやるか。 DLVO理論そのものは、薬剤師国家試験の物理の分野では問われません。 ここでやってほしいのは、「クーロン力でも重力でもファンデルワールス力でも、力がかかっている状態を積み上げるとポテンシャルエネルギーになる」という感覚をつかむことだけです。

DLVO理論の中身——電解質を加えていったときの3段階、凝析と塩析、保護コロイド、コアセルベーション——は、製剤の凝析・塩析・コアセルベーション・保護コロイド・DLVO理論で正面から扱っています。コロイドそのものの性質はコロイド分散系の共通性質と疎水コロイド・親水コロイドにまとめてあります。薬剤をやるときに「あ、物理であれやったな」と思い出せれば、それで十分です。

まとめ

  • 静電相互作用の本体はクーロン力。F = k · QQ′ / r² で、距離の2乗に反比例する
  • 比例定数は k = 1 / (4πε)。ε が誘電率で、「その環境が電荷どうしの力をどれだけ邪魔するか」を表す。ε が大きいほど力は弱まる(反比例)
  • ポテンシャルエネルギーとは「した仕事」そのもの。 重力なら W = MgH で、グラフ(縦軸:力、横軸:距離)の面積にあたる
  • クーロン力は距離で変わるので、無限遠から r まで積分する。r⁻² を積分すると r⁻¹ になり、U = k · QQ′ / r
  • 覚える要点は2つ。クーロン力は r の2乗分の「電荷×電荷」、ポテンシャルエネルギーは r 分の「電荷×電荷」
  • コロイドの安定性は、静電反発力とファンデルワールス力のポテンシャルエネルギーのせめぎ合いで決まる(DLVO理論)。物理の国試では問われないので、入口だけ押さえて製剤で回収する

次は電荷移動相互作用:ヨウ素デンプン反応を大学レベルで理解するを読んでみてください。6つ目、最後の相互作用です。

物理を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。

物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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