
前の記事で、疎水コロイドは電気二重層で、親水コロイドは電気二重層+水和層で安定している、というところまで見ました。
ここからは応用編です。
- DLVO理論:疎水コロイドが凝析していく様子を、エネルギーのグラフで追う
- 保護コロイド:凝析しやすい疎水コロイドを守る技術
- コアセルベーション:安定すぎる親水コロイドに、あえて負荷をかけてマイクロカプセルを作る技術
グラフが出てくるので身構えるところですが、段階を追って読めば難しくありません。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
凝析と塩析:まずここを固める

応用に入る前に、前の記事の結論をもう一度確認しておきます。
| 対象のコロイド | 必要な電解質の量 | |
|---|---|---|
| 凝析 | 疎水コロイド(水和層なし) | 少量 |
| 塩析 | 親水コロイド(水和層あり) | 大量 |
疎水コロイドは電気的なバリアだけで守られているので、電解質を少し入れるだけで中和されて沈殿します。一方、親水コロイドは水和層という第二のバリアがあるので、大量の電解質で水和層ごと奪わないと沈殿しません。
「塩析といえば親水コロイド」をセットで覚えれば、残りは自動的に決まります。
DLVO理論:2つの力のせめぎ合い

DLVO理論は、疎水コロイドが近づくか離れるかを、2つの力のバランスで説明する理論です。
| 力 | 向き |
|---|---|
| 静電反発力 | 粒子どうしを遠ざける(プラス側) |
| ファンデルワールス力(分子間力) | 粒子どうしを引き寄せる(マイナス側) |
グラフは、横軸が粒子間の距離、縦軸がポテンシャルエネルギー。上向きが反発、下向きが引力です。そして描かれている曲線は、この2つを足し合わせた合計です。
読み方は簡単で、「遠くから近づいてくる粒子が、その距離でどちらの力に支配されるか」を見るだけです。
①電解質なし:安定に分散
静電反発力が強いので、合計のエネルギーには高い山(エネルギー障壁)ができます。
近づこうとする粒子は、この山を越えられません。つまり反発が勝って近づけない。だから安定に分散したままです。
②電解質を少しだけ加える:ゆるく凝集

電解質を少し加えると、静電反発力のポテンシャルエネルギーが下がります。ファンデルワールス力のほうは変わりません。その結果、合計のグラフの山が低くなります。
すると何が起こるか。
- 遠い距離では、わずかに引力が勝つので、粒子はそろそろと近づいていく
- ある程度近づいたところで、今度は静電反発力が勝つので、それ以上は寄れない
結果として、少し距離を保ったまま集まった状態になります。これがゆるい凝集です。まだ完全にはくっついていないので、可逆的です。
③電解質をさらに加える:不可逆的な凝析
さらに電解質を加えると、静電反発力のエネルギーはぐっと下がり、山が消えてしまいます。ファンデルワールス力は相変わらず同じです。
こうなると、遠くにいた粒子は引力に引かれて一直線に近づき、くっついてしまいます。ここまで来ると元には戻せません。これが不可逆的な凝析です。
3段階でストーリーとして覚える
電解質なし → 高い山があって近づけない(安定) 少量の電解質 → 山が低くなり、少し近づいて止まる(ゆるい凝集・可逆) さらに電解質 → 山が消えてくっつく(凝析・不可逆)
グラフの形を丸暗記するのではなく、この3段階のストーリーで追えば確実に再現できます。
保護コロイド:疎水コロイドを守る

疎水コロイドは少量の電解質で凝析してしまう——それなら、凝析しにくいように守ってあげようというのが保護コロイドの発想です。
保護コロイド = 疎水コロイドに対して使う言葉
やり方はシンプルで、疎水コロイドに大量の親水コロイドを添加します。
すると、疎水コロイドのまわりを親水コロイドが取り囲むように配置され、全体として水和層を持った状態になります。こうなれば、親水コロイドと同じように安定です。取り巻きをたくさん連れた疎水コロイドどうしは、近づくことができません。
「保護コロイドは疎水コロイドを守る」——対象を取り違えないように注意してください。
コアセルベーション:親水コロイドにあえて負荷をかける

保護コロイドとは逆の発想です。安定すぎる親水コロイドに、あえて軽い負荷をかけて2層に分離させるのがコアセルベーションです。
定義は次のとおり。
親水コロイドに親水性の溶媒やほかのコロイドを添加し、高濃度溶液と低濃度溶液の2相に分離させる現象
何の役に立つのか:マイクロカプセル
コアセルベーションの目的は、マイクロカプセルを作ることです。マイクロカプセルは、中に薬を封じ込めることで薬の放出制御や安定化に使われます。
作り方をイメージで追ってみましょう。
- ゼラチンのような親水コロイドは、電気二重層と水和層の両方を持って安定している
- そこにエタノールなどの親水性の溶媒を加えて、水和層を少しだけ削る
- 水和層が減ったぶん粒子どうしが近づきやすくなり、集まってくる(ただし沈殿はしない)
- 集まってできた高濃度の部分に、油っぽい薬を取り込ませる
- 薬を取り囲む形で膜ができ、マイクロカプセルの完成
ポイントは、「沈殿させる」のではなく「ちょっと分離させる」という力加減です。塩析のように完全に沈殿させてしまってはカプセルになりません。
「コアセルベーション = 親水コロイド = マイクロカプセル」の3点セットで覚えてください。
まとめ
- 凝析=疎水コロイド+少量の電解質、塩析=親水コロイド+大量の電解質
- DLVO理論は静電反発力(遠ざける)とファンデルワールス力(引き寄せる)の合計で読む
- 電解質なし → 高い山 → 安定
- 少量の電解質 → 山が低い → ゆるい凝集(可逆)
- さらに電解質 → 山が消える → 凝析(不可逆)
- 保護コロイドは疎水コロイドに対して使う。大量の親水コロイドを加えて水和層をまとわせ、安定化させる
- コアセルベーションは親水コロイドに対して使う。親水性の溶媒などを加えて2相に分離させ、マイクロカプセルを作る
コロイド分散系はここまでです。次は粗大分散系に進みます。懸濁剤とStokesの式(沈降を防ぐ製剤的な工夫)へ進んでください。コロイドの基礎はコロイド分散系の共通性質と疎水コロイド・親水コロイド、全体像は製剤化のサイエンスとは?で確認できます。
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