
固形材料の後半は「物質の溶解」です。式がいくつも出てきて身構えるところですが、実はやっていることは単純で、見ている場所が2つあるだけです。
ビーカーに薬の固体を入れて溶かす場面を思い浮かべてください。このとき、
- 溶液の濃度が上がっていくのを見る → Nernst-Noyes-Whitney式、Noyes-Whitney式
- 固体の質量が減っていくのを見る → Hixson-Crowell式
同じ現象を、液体側から見るか固体側から見るかの違いです。この構造さえ掴めば、あとは式を1つずつ潰すだけになります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
濃度で見る①:Nernst-Noyes-Whitney式

薬をビーカーに入れると、まず薬のすぐ周りに「もうこれ以上溶けない」濃さの層ができます。これが拡散層(飽和層)です。そこから遠くの薄いほうへ、じわじわ拡散していく——これが溶解という現象の中身です。
このとき、溶解速度を決めている一番大事な要素は「拡散層の濃度の傾き」です。薬のすぐそばが飽和濃度Cs、遠くが現在の濃度C。その差を拡散層の厚さσで割ったものが濃度勾配で、溶解速度はこれに比例します。
式の記号はこうです。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| D | 拡散係数 |
| S | 固体の表面積 |
| Cs | 飽和濃度(=溶解度) |
| C | そのときの溶液濃度 |
| V | 溶液の体積 |
| σ | 拡散層の厚さ |
溶解速度を上げる3つの方法
式の形が分かると、「どうすれば速く溶けるか」が自動的に読み取れます。
| やること | 式のどこが動くか |
|---|---|
| 粉砕する | 表面積 S が大きくなる |
| 温度を上げる/溶媒の粘度を下げる | 拡散係数 D が大きくなる |
| 溶解度を上げる | Cs が大きくなり、濃度差(Cs − C)が広がる |
温度と粘度はセットで動きます。温度を上げれば溶媒の粘度は下がり、分子が動きやすくなる=Dが大きくなる、という流れです。
そして「溶解度を上げる」というのが、前の記事で扱った塩結晶・共結晶・非晶質・包接化合物の話につながります。製剤の工夫は、結局この式のどこかを動かしているだけ、と考えると全体が1本につながります。
濃度で見る②:Noyes-Whitney式(簡略形)

Nernst-Noyes-Whitney式は記号が多くて扱いにくいので、拡散係数D・拡散層の厚さσ・溶液の体積V をまとめて1つの定数 k にしてしまおうと簡略化したのがNoyes-Whitney式です。
dC/dt = k・S・(Cs − C)
言葉にすると「溶解速度は、表面積と、溶解度との濃度差に比例する」。つまり濃度差が大きいほど溶け出しやすいということです。大事な部分だけがきれいに残っています。
シンク条件でさらに簡単になる
溶液がものすごく薄い状態、つまり C ≒ 0 とみなせる状態をシンク条件といいます。このときは(Cs − C)がほぼCsになるので、
dC/dt = k・S・Cs
溶解速度は 表面積 × 溶解度 × 定数 だけで決まる、というところまで単純化できます。
式を解くと直線になる

Noyes-Whitney式は、薬物動態でやった一次消失の式(dC/dt = −ke・C)とまったく同じ形をしています。なので解き方も同じで、積分すると対数を取れば直線になる式が出てきます。
縦軸を ln(Cs − C)、横軸を時間 t にしてプロットすると直線が引ける。その傾きから速度定数が求められる——という流れです。血中濃度の式の導出と半減期の求め方でやった手順がそのまま使えます。
濃度変化の測り方:回転円盤法

実際に溶解速度を測るときによく使われるのが回転円盤法です。
円盤の中に薬をはめ込んで、表に出ている面だけが溶けるようにするのがポイントです。こうすれば表面積Sを一定に保てるので、Sが刻々と変わってしまう問題を避けられます。あとは円盤を回転させながら、液の濃度を測っていくだけです。
質量で見る:Hixson-Crowell式(立方根則)

ここからは固体側の話です。式に3乗根が出てきて一気に難しそうに見えますが、理由が分かればむしろ覚えやすい式です。
なぜ3乗根なのか
まず、重さのまま(W₀ − W)でグラフを描くとどうなるか。
最初、固体は大きいので表面積も大きく、どんどん溶けます。ところが球形を保ったまま小さくなっていくと、表面積は一気に小さくなる。すると溶出速度もどんどん遅くなる。結果、グラフは直線にならず曲がってしまうわけです。
そこで発想を変えます。球の半径が減るスピードなら一定なのです。球の体積は半径の3乗に比例し、表面積は半径の2乗に比例する。だから体積(=重さ)を3乗根にしてやれば、半径と同じ単位に揃います。
重さのままだと曲線 → 3乗根にすれば「半径の目盛り」になり、直線になる
これがHixson-Crowell式の正体です。W₀^(1/3) − W^(1/3) を縦軸に取れば、時間に対してまっすぐな直線が引けます。
成立条件を必ずセットで覚える
この式には前提条件があり、国試ではここが問われます。
- シンク条件が成り立っていること(溶出速度が表面積に比例するため)
- 同一粒子径の球状粒子が、球形を保ちながら溶解すること
シンク条件が必要な理由は、Noyes-Whitney式まで戻れば分かります。dC/dt = k・S・(Cs − C) で、Cが小さければ(Cs − C)はCsという定数。変化するのは表面積Sだけになり、「溶出速度が表面積に比例する」が成り立つからです。
まとめ
- 物質の溶解は濃度で見る(溶液側)か質量で見る(固体側)かの2通り
- Nernst-Noyes-Whitney式:溶解速度は拡散層の濃度勾配に比例。D・S・Cs・C・V・σが登場
- 溶解速度を上げるには粉砕(S↑)・温度↑/粘度↓(D↑)・溶解度↑(Cs↑)
- Noyes-Whitney式:定数をkにまとめた形。シンク条件なら dC/dt = k・S・Cs
- 濃度変化の測定は回転円盤法(表面積を一定にできる)
- Hixson-Crowell式:重さを3乗根にすると直線になる。条件はシンク条件と球形を保ちながら溶解する同一粒子径の球状粒子
固形材料の残りは粉体です。粉体の性質①粒度分布と粒子径測定法へ進んでください。ひとつ前の構造状態の話は結晶と非晶質・結晶多形・溶媒和物・共結晶・包接化合物、全体像は製剤化のサイエンスとは?で確認できます。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
薬剤のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。