
固形材料が終わったら、次は半固形・液状材料です。軟膏やシロップのような「流れるもの」の性質を扱う分野で、その中心にあるのが流動とレオロジーです。
この単元は、次の順で積み上げるときれいに整理できます。
- ニュートンの粘性法則(基礎) ← この記事
- 動粘度(定義) ← この記事
- 非ニュートン流動(5種類) ← この記事
- 測定法と粘弾性モデル ← 次の記事
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
ニュートンの粘性法則:登場人物は3つだけ

上下に平行な板があり、そのあいだに測りたい液体がはさまっている装置を思い浮かべてください。上の板を横に押すと、液体が変形して平行四辺形になります。
平行四辺形になるということは、
- 上のほうと下のほうで移動速度が違う
- しかも、深さあたりの速度の差がどこでも一定(でないと平行にならず、グニャリと曲がってしまう)
この「一定の速度勾配」がせん断速度 Dです。
一方、上の板を押す力を板の面積で割ったもの、つまり単位面積あたりの力がせん断応力 Sです。面積が小さければ小さい力で同じ変形が得られるので、面積で割って揃えている、というだけの話です。

力をたくさん加えればせん断速度も大きくなります。つまりSとDは比例する。その比例定数が液体ごとに決まっていて、これが粘度 ηです。
S = η・D(せん断応力 = 粘度 × せん断速度)
この関係が成り立つ流動がニュートン流動です。
グラフの軸の向きに注意

ここで一つ、つまずきポイントがあります。
式の形からすると縦軸S・横軸Dで描きたくなりますが、国試のグラフは縦軸D・横軸Sで描かれます。この向きだと、直線の傾きは1/ηになります。
傾き = 1/η。傾きが大きい = 粘度が小さい = サラサラ
ちなみに1/ηは流動率と呼ばれます。言葉自体が問われることは多くありませんが、「傾きが大きいほどよく流れる」という読み方ができると、次の非ニュートン流動のグラフが一気に読めるようになります。
動粘度:粘度を密度で割ったもの
動粘度 ν は、粘度を密度で割った値です。
ν = 粘度 ÷ 密度
つまり、同じ粘度でも密度が大きいほど動粘度は小さくなる。
イメージしにくいところなので、斜面に液体を置いて流す場面で考えてみてください。同じネバネバ具合なら、重いほうが速く流れ落ちます。速く流れる=流れにくさが小さい=動粘度が小さい、という関係です。
「粘度は液のネバネバ具合そのもの、動粘度は密度まで含めた実際の流れにくさ」と整理しておけば混乱しません。
非ニュートン流動:5種類をグラフで覚える

S = η・D が成り立たない流動が非ニュートン流動です。全部で5種類あり、名前・グラフの形・代表例の3点セットで覚えます。
グラフはどれも縦軸D・横軸S。点線がニュートン流動なので、そこからどうズレているかを読めば判断できます。
| 種類 | グラフの特徴 | 代表例 |
|---|---|---|
| 塑性流動 | 降伏値を持ち、それを超えると直線 | 軟膏剤、チンク油 |
| 準粘性流動 | 原点から上に曲がる(力をかけると柔らかくなる) | 高分子1%水溶液 |
| 擬塑性流動 | 降伏値を持ち、その後は上に曲がる | 高分子2〜3%水溶液 |
| ダイラタント流動 | 上に凸の曲線(力をかけると硬くなる) | 高濃度デンプン水性懸濁液 |
| チキソトロピー | 往路と復路がズレる(ヒステリシスループ) | 点鼻薬など |
塑性流動:降伏値を持つ
力を1、2、3と加えてもまったく動かない。でも4を超えたところで急に動き出し、そこからは一定の傾きで流れる——この動き出す境目の力が降伏値です。
代表例は軟膏剤やチンク油。チューブから出すとき、ある程度の力を入れないと出てこないけれど、出始めるとスッと出る。あの感覚がそのまま塑性流動です。
準粘性流動:力をかけると柔らかくなる
グラフは原点から出て、だんだん傾きが急になる曲線を描きます。傾き(1/η)が大きくなる=粘度が下がる=柔らかくなる、ということです。
これは高分子の水溶液で起こります。代表的なのは次の3つ。
- アルギン酸ナトリウム
- メチルセルロース
- カルメロースナトリウム
しくみはこうです。最初、高分子は糸くずのように絡まり合っています。そこに力を加えると整列して絡まりがほどける。だから流れやすくなる、というわけです。
なおこれらは製剤の添加剤としても登場します。アルギン酸ナトリウムは粘稠剤に、メチルセルロースやカルメロースナトリウムは結合剤などに使われる物質です。
擬塑性流動:塑性流動の「曲がるバージョン」
同じ高分子水溶液でも、濃度を2〜3%と濃くしていくと降伏値を持つようになります。降伏値を超えてからは、準粘性流動と同じように曲がって(柔らかくなって)いく。
つまり塑性流動 + 準粘性流動の合わせ技です。「塑性流動っぽいけれど曲がる」ので擬塑性流動、と覚えてください。
ダイラタント流動:力をかけると硬くなる
準粘性流動とは逆で、力をかけると粘度が上がって硬くなる流動です。グラフは上に凸で、傾き(1/η)がだんだん小さくなっていきます。
代表例は高濃度デンプン水性懸濁液。バラエティ番組で「水面の上を走れるか」という企画を見たことがあるかもしれません。あれがまさにダイラタント流動で、弱い力ではただの液体なのに、人の体重という強い力がかかった瞬間に硬くなるから走れる、というしくみです。
チキソトロピー:力を抜くと元に戻る
最後がチキソトロピーです。往路(力をかけていく)と復路(力を抜いていく)でグラフがズレて、ループを描くのが特徴です。
最初は傾きが小さく(硬く)て動きにくいのですが、力をかけると柔らかくなる。そして力をかけるのをやめると、時間をかけて元の硬さに戻る。
これは製剤で積極的に利用されています。代表例が点鼻薬です。アレルギー用の点鼻薬は、鼻の粘膜にとどまってほしい=粘度が高いほうがいい。でも粘度が高いままでは噴霧できません。
そこでチキソトロピーの出番です。よく振ることで一時的にサラサラにして噴霧し、粘膜に着いたら元の硬さに戻ってとどまる。「点鼻薬はよく振ってから使ってください」という服薬指導には、こういう理屈があります。
まとめ
- ニュートンの粘性法則は S = η・D。せん断応力・粘度・せん断速度の3つだけ
- 国試のグラフは縦軸D・横軸S。傾きは1/η(流動率)で、傾きが大きいほどサラサラ
- 動粘度 ν = 粘度 ÷ 密度。同じ粘度なら密度が大きいほど動粘度は小さい
- 非ニュートン流動は5種類。降伏値の有無と柔らかくなるか硬くなるかで仕分ける
- 降伏値あり → 塑性流動(直線)、擬塑性流動(曲線)
- 降伏値なし → 準粘性流動(柔らかくなる)、ダイラタント流動(硬くなる)
- 力を抜くと戻る → チキソトロピー
- 代表例は軟膏剤/高分子水溶液/高濃度デンプン水性懸濁液/点鼻薬をセットで
次は測定法と粘弾性モデルです。粘弾性モデルと局方の粘度測定法へ進んでください。ひとつ前の固形材料は粉体の性質②充填性・流動性・吸湿性、全体像は製剤化のサイエンスとは?で確認できます。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
薬剤のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。