
分散系材料の最後、粗大分散系に入ります。
コロイドの記事で見たとおり、粗大分散系(1 μm以上)の特徴は重力沈降することでした。だからこの単元は、ずっと「沈むのをどう防ぐか」という話になります。
粗大分散系には2種類あり、違いは分散している粒子が固体か液体かだけです。
| 分散している粒子 | 分散媒 | |
|---|---|---|
| 懸濁剤 | 固体粒子 | 液体 |
| 乳剤 | 液体粒子 | 液体 |
この記事では懸濁剤を扱います。乳剤は次の記事です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
沈降には2種類ある:再分散できるかどうか
懸濁剤は必ず沈みます。問題は、振ったら元に戻るかどうかです。ここで2つに分かれます。
| 何が起きているか | 再分散 | |
|---|---|---|
| 自由沈降 | 粒子が1つずつバラバラに沈み、底で押し固まる | できない |
| 凝集沈降 | 粒子がいくつか集まって二次粒子を作り、ふわっと積もる | できる |
自由沈降とケーキング
自由沈降では、粒子が1つずつ隙間なく積み重なっていくので、底に固い沈積体ができてしまいます。これがケーキングです。
覚え方は「ケーキ = 押し固まったもの」。ショートケーキのケーキと同じ由来で、「押し固める」という意味があります。こうなるともう振っても戻りません。
自由沈降の沈降速度は、あとで見るStokesの式に従います。
凝集沈降はなぜ再分散できるのか
凝集沈降では、粒子どうしがゆるく集まって二次粒子を作ってから沈みます。二次粒子はかさばるので、底にはふわっとした状態で積もります。隙間が多い分、振ればすぐにバラバラに戻る——だから再分散が可能です。
意外に思うかもしれませんが、製剤としては凝集沈降のほうが望ましいわけです。「沈まないようにする」のが理想ですが、どうしても沈むなら「振れば戻る沈み方」にしておく、という考え方になります。
懸濁化剤:懸濁を安定に保つための添加剤
懸濁化剤は、その名のとおり懸濁の状態を保つのを助ける添加剤です。働き方は2通りあります。
| 働き | 何をするか | 例 |
|---|---|---|
| 粘度アップ | 分散媒(水など)の粘度を上げて、沈みにくくする | カルメロースナトリウムなど |
| ぬれアップ | 界面活性剤で固体粒子のぬれをよくし、ダマになりにくくする | ポリソルベート80など |
ぬれアップのほうは、界面の性質でやった接触角・ぬれの話がそのまま効いてきます。粉が水をはじいてしまうとダマになりますが、界面活性剤を入れてぬれをよくすれば、粉がしっかり水になじんで均一に分散します。
粘度アップのほうは、次のStokesの式を見れば理由が一目で分かります。
Stokesの式:沈降速度を決める4つの要素

Stokesの式は、粉体の性質の沈降法でも登場した式です。同じ式が、ここでは「懸濁剤をどう安定化するか」という文脈で使われます。
一番大事なのは、前にも出てきたこれです。
沈降速度は粒子径(半径)の2乗に比例する
式の中身を言葉にすると、こうなります。
| 式の位置 | 要素 | 沈降速度への影響 |
|---|---|---|
| 分子 | 粒子の半径の2乗 | 大きいほど速く沈む |
| 分子 | 粒子と液体の密度差 | 大きいほど速く沈む |
| 分子 | 重力加速度 | (定数) |
| 分母 | 液体の粘度 | 大きいほどゆっくり沈む |
難しい式に見えますが、言っているのは「大きくて重いものは速く沈む、ネバネバの液の中ではゆっくり沈む」という当たり前のことです。
式から「安定化の3つの対策」がそのまま出てくる
沈降速度を小さくしたいのだから、式の各要素を逆向きに動かせばいい。それだけです。
| 対策 | 式のどこを動かすか | 実際の手段 |
|---|---|---|
| 粒子径(半径)を小さくする | 分子の r² を小さく | 粉砕して微細化する |
| 密度差を小さくする | 分子の(ρ粒子 − ρ液体)を小さく | 分散媒の選択など |
| 粘度を大きくする | 分母のηを大きく | 増粘剤(懸濁化剤)を加える |
懸濁化剤で粘度を上げるのは、この3番目そのものです。式を覚えていれば、なぜカルメロースナトリウムのような増粘剤を入れるのかが理屈で分かります。
なお、粒子径は2乗で効くので、対策としての効果はいちばん大きくなります。計算問題でもここが問われます。
まとめ
- 粗大分散系は懸濁剤(固体粒子)と乳剤(液体粒子)。どちらも重力沈降する
- 沈降は2種類:自由沈降(再分散できない・ケーキングを起こす)と凝集沈降(二次粒子を作る・再分散できる)
- ケーキング = 押し固まった沈積体。「ケーキ=押し固める」で覚える
- 懸濁化剤の働きは粘度アップ(カルメロースNaなど)とぬれアップ(界面活性剤・ポリソルベート80など)
- Stokesの式:沈降速度は粒子径(半径)の2乗に比例、密度差に比例、粘度に反比例
- 安定化の3対策:粒子径を小さくする・密度差を小さくする・粘度を大きくする
次は粗大分散系のもう一方、乳剤です。乳剤(Bancroftの経験則・型の判定・転相・分離現象)へ進んでください。コロイドとの違いはコロイド分散系の共通性質と疎水コロイド・親水コロイド、全体像は製剤化のサイエンスとは?で確認できます。
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