
「このタンパク質は栄養価が高い」と言うとき、その測り方は3通りあります。
- 生物学的な評価法 … 実際に動物に食べさせて、窒素がどれだけ体に残ったかを見る
- 化学的な評価法 … 食べさせずに、アミノ酸の組成を分析して比べる
- 窒素平衡 … その人が今、体をつくっている側か、削っている側かを見る
この3つは測っているものが違うので、混ぜると必ず崩れます。とくに生物価と正味タンパク質利用率の関係は、毎回そこを突かれます。違いはたった一つ、消化吸収率を考慮しているかどうかです。
この記事では、生物価 → 正味タンパク質利用率 → アミノ酸スコア → 窒素平衡の順に、どの分母で何を割っているのかを確定させます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
生物学的な評価法①:生物価

生物価 = 体内保留窒素量 ÷ 吸収窒素量 × 100
分母が「吸収した窒素」であることがすべてです。つまり、吸収されたあと、どれだけ体に留まったかしか見ていません。
言い換えると、生物価は消化吸収率を考慮していない。いくら消化が悪い食品でも、「吸収されたぶんが体に残りやすい」なら生物価は高く出ます。
生物学的な評価法②:正味タンパク質利用率
正味タンパク質利用率(NPU) = 生物価 × 消化吸収率
生物価に消化吸収率をかけたもの。だから分母が変わります。
正味タンパク質利用率 = 体内保留窒素量 ÷ 摂取窒素量 × 100
| 分母 | 消化吸収率 | |
|---|---|---|
| 生物価 | 吸収窒素量 | 考慮しない |
| 正味タンパク質利用率 | 摂取窒素量 | 考慮する |
「吸収」か「摂取」か。この1文字の違いが全部です。食べた量から見るほうが、当然きびしい評価になります。
だから正味タンパク質利用率 ≦ 生物価 が常に成り立ちます。
第99回・問121では、この関係がわざと逆向きに書かれて出題されました。
「生物価に対する正味タンパク質利用率の割合が消化吸収率である。」
式に直すと正味タンパク質利用率 ÷ 生物価 = 消化吸収率。NPU = 生物価 × 消化吸収率を移項しただけなので、これは正しい記述です(この年の正解の1つ)。
一方、同じ問題の「生物価が高いタンパク質ほど正味タンパク質利用率も高い」は誤りとされました。NPUは生物価に消化吸収率をかけたものなので、生物価が高くても消化吸収率が低ければNPUは低くなるからです。
式の形を持っていれば、どちら向きに書かれても判断できます。丸暗記ではなく NPU = 生物価 × 消化吸収率 の1本で処理してください。
計算問題として出ることもあります。第97回・問122では、ラットの実験データから正味タンパク質利用率を計算させました。
- 摂取窒素量 500mg
- 被検食品摂取時の糞中窒素量 120mg / 無タンパク質食のとき 20mg
- 被検食品摂取時の尿中窒素量 50mg / 無タンパク質食のとき 10mg
無タンパク質食のときの値(内因性の損失)を差し引くのがポイントです。
- 体内保留窒素量 = 500 −(120 − 20)−(50 − 10)= 500 − 100 − 40 = 360mg
- 正味タンパク質利用率 = 360 ÷ 500 × 100 = 72%
「無タンパク質食のときの糞中・尿中窒素は、食べた食品とは関係なく出ていく分(内因性)だから引く」——この考え方さえ持っていれば、数字が変わっても解けます。
化学的な評価法:アミノ酸スコア
食べさせずに、アミノ酸組成の分析だけで評価する方法です。

有名な「桶(おけ)」の図です。桶の板の1枚1枚が必須アミノ酸で、一番短い板の高さまでしか水は溜まらない。つまり、一番足りないアミノ酸のところで、タンパク質合成が止まる。
この一番足りないアミノ酸を「第一制限アミノ酸」といいます。

アミノ酸スコア = 食品中タンパク質における第一制限アミノ酸の量 ÷ アミノ酸評点パターン中の当該アミノ酸の量 × 100
分母は「アミノ酸評点パターン」——ヒトが必要とする必須アミノ酸の理想的な構成比(FAO/WHO/UNUが定めたもの)です。これと比べて、一番割合が低いアミノ酸がどれだけあるかを見ます。
制限アミノ酸が1つもなければ、アミノ酸スコアは100です。
| アミノ酸スコア | 第一制限アミノ酸 | |
|---|---|---|
| 動物性タンパク質(鶏卵・牛乳・肉) | 100 | なし |
| 白米・小麦などの穀類 | 50前後 | リジン |
穀類の第一制限アミノ酸はリジン——これは頻出です。白米ばかり食べているとリジンが足りない。桶の図で、リジンの板だけ短く描かれているのはそのためです。
注意:第一制限アミノ酸は「含量が最も少ないアミノ酸」ではありません。評点パターンと比べて比率が最も低いアミノ酸です。第99回で「タンパク質中の必須アミノ酸の中で、含量が最も少ないアミノ酸を第一制限アミノ酸という」という誤り選択肢が出ています。絶対量ではなく比率。
第110回・問127では、アミノ酸評点パターンと3つの食品のアミノ酸含量を並べたグラフから、第一制限アミノ酸とアミノ酸スコアを読み取らせる問題が出ました。グラフから「評点パターンに対する比が一番小さいアミノ酸」を探し、その比を100倍する——手順はそれだけです。
窒素平衡:今、体をつくっているか
窒素平衡 = 窒素の摂取量 − 排泄量
タンパク質の約16%が窒素なので、窒素の出入りを見ればタンパク質の出入りがわかります。
| 状態 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 正(+) | 摂取 > 排泄。体のタンパク質が増えている | 成長期、妊娠期、回復期、運動によるトレーニング期 |
| ゼロ | 摂取 = 排泄。維持されている | 健康な成人 |
| 負(−) | 摂取 < 排泄。体のタンパク質が削られている | タンパク質・エネルギー低栄養状態(PEM)、飢餓、外傷・熱傷、消耗性疾患 |
たとえば、窒素を16g摂って7g排泄したなら、16 − 7 = +9。9g分の窒素が体に取り込まれてタンパク質になったということです。
成長期は正、PEMは負。第100回で「タンパク質・エネルギー低栄養状態が長期に続くと、体内の窒素平衡は正となる」という誤り選択肢が出ています。負です。体のタンパク質を削ってエネルギーにしているのだから、出ていくほうが多い。
3つの評価法の違い、まとめて
| 何を測るか | 分母 | 特徴 | |
|---|---|---|---|
| 生物価 | 生物学的 | 吸収窒素量 | 消化吸収率を考慮しない |
| 正味タンパク質利用率 | 生物学的 | 摂取窒素量 | = 生物価 × 消化吸収率 |
| アミノ酸スコア | 化学的 | アミノ酸評点パターン中の当該アミノ酸量 | 食べさせずに分析だけで出せる。穀類はリジンが第一制限アミノ酸 |
| 窒素平衡 | 出入りの収支 | — | 摂取 − 排泄。成長期は正、PEMは負 |
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第99回・問121 | タンパク質とその栄養価(2つ) | 正しいのは「生物価に対する正味タンパク質利用率の割合が消化吸収率」と「尿中窒素量からタンパク質の体内での燃焼量を推定できる」。「100gに含まれる窒素は平均6.25g」は誤り(約16g。6.25は窒素係数)、「生物価が高いほどNPUも高い」「含量が最も少ないアミノ酸が第一制限アミノ酸」も誤り |
| 第97回・問122 | 正味タンパク質利用率の計算 | 無タンパク質食のときの糞中・尿中窒素を差し引く。答えは72% |
| 第110回・問127 | グラフから第一制限アミノ酸とアミノ酸スコアを読む | 評点パターンに対する比が最小のアミノ酸を探す |
| 第100回・問227 | 栄養素及び栄養状態 | PEMが長期に続くと窒素平衡は負(「正となる」は誤り) |
「タンパク質100g中の窒素は16g、窒素1gあたりのタンパク質は6.25g」——この2つの数字を逆にした選択肢が繰り返し出ます。16%と6.25(=100÷16)は、同じことを逆から言っているだけです。次の記事で詳しく扱います。
まとめ
- 生物価 = 体内保留窒素量 ÷ 吸収窒素量 × 100。消化吸収率を考慮しない
- 正味タンパク質利用率 = 生物価 × 消化吸収率 = 体内保留窒素量 ÷ 摂取窒素量 × 100。分母が「摂取」に変わる
- 計算問題では無タンパク質食のときの糞中・尿中窒素(内因性損失)を差し引く
- アミノ酸スコア = 第一制限アミノ酸の量 ÷ アミノ酸評点パターン中の当該アミノ酸の量 × 100
- 第一制限アミノ酸は「絶対量が最少」ではなく「評点パターンに対する比が最小」。穀類はリジン
- 窒素平衡 = 摂取 − 排泄。成長期は正、PEM(タンパク質・エネルギー低栄養状態)は負
次は呼吸商と基礎代謝|糖質1.0・脂質0.71の理由とNPRQ・Atwater係数を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
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