
ミネラル(無機質)は元素が10個以上並ぶので、覚え方を持たないまま突っ込むと必ず溶けます。
順番はこうです。まず「多量か微量か」で2つに割る。次に、微量元素は「どの酵素・どのタンパク質に入っているか」で覚える。欠乏症はそこから出てくる。
たとえば亜鉛。インスリンの構成成分であり、アルコールデヒドロゲナーゼの活性中心であり、細胞増殖に必要——だから欠乏すると味覚障害と創傷治癒の遅れが起こります。味覚細胞は入れ替わりが速いので、細胞増殖が止まると真っ先に困るわけです。
この記事では、多量/微量の線引き → Ca・Pの吸収と調節 → Na/Kの関係 → 微量元素7つの順に整理します。
この記事の素材について:講義では「定義だけとりあえずやろうか」と言って多量/微量の区分だけを扱い、中身は「生物でやる」と飛ばされているパートです。本記事はマインドマップと過去問を根拠に構成しています。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
まず「100mg」で2つに割る

1日あたりの必要量が100mg以上か、100mg以下かで分けます。
| 元素 | |
|---|---|
| 多量元素(100mg以上) | Ca、P、Na、K、Mg、Cl、S |
| 必須微量元素(100mg以下) | Fe、Cu、Co、Zn、I、Mo、Se、Mn、F など |
多量側は7つ。Ca・P・Na・K・Mg・Cl・S——「体液と骨をつくる、おなじみの面々」です。それ以外は全部微量と考えて構いません。
注意:マインドマップの表題は「必須元素と微量元素」ですが、上段(100mg以上)を指す正式な呼び方は「多量元素」です。講義の文字起こしでは「必須塩素」と聞こえますが、これは「必須元素」の聞き間違いです(音声の誤認識)。
カルシウムとリン:吸収と調節が本体
吸収
Ca も P も、活性型ビタミンDによって発現するCa結合タンパクを介して小腸から吸収されます。
| 因子 | |
|---|---|
| 促進 | 活性型ビタミンD₃、カゼイン(乳製品。Caを可溶化する=カゼインホスホペプチド) |
| 阻害 | シュウ酸(ほうれん草・コーヒー)、フィチン酸(とうもろこし・大豆) |
シュウ酸とフィチン酸は「阻害」です。第103回で「腸管からのCaの吸収は、シュウ酸やフィチン酸により亢進する」という誤り選択肢が出ています。キレートを作って吸収を妨げるので、方向は必ず「阻害」。
カゼインは促進側です。第103回では「腸管からのCaの吸収は、カゼインホスホペプチドにより阻害される」という誤り選択肢も出ました。乳製品はCaの吸収を助ける——直感どおりです。
体内分布
Ca も P も、大部分はヒドロキシアパタイト(リン酸カルシウム塩)として骨と歯にあります。「遊離イオンの状態で骨に存在する」は誤り(第103回)。リンは血液中では細胞内外の緩衝作用にも働きます。
血中Ca濃度の調節
ここは方向を取り違えやすいので、対で覚えます。
| 血中Caが | 出るホルモン | 何をするか | 結果 |
|---|---|---|---|
| 下がる | 副甲状腺ホルモン(PTH/パラトルモン) | 骨吸収↑、腎でのCa再吸収↑、ビタミンD活性化 | 血中Ca↑ |
| 上がる | カルシトニン(甲状腺) | 骨吸収↓、骨形成↑、Ca再吸収↓ | 血中Ca↓ |
PTHは上げる係、カルシトニンは下げる係。だからPTHが過剰に分泌されれば高Ca血症になります(第103回で正しい記述として出題)。
欠乏症はビタミンDと同じで、くる病(小児)・骨軟化症(成人)です。
ナトリウムとカリウム:腎臓で一緒に出ていく
Naは細胞外液、Kは細胞内液に多い——これが土台です。
- Na:過剰で高血圧。だから食事摂取基準では「減らす」目標量(成人男性7.5g未満、女性6.5g未満/日、食塩相当量)
- K:新鮮な野菜・果物・肉類に多い。高血圧予防のため「増やす」目標量(成人男性3,000mg以上、女性2,600mg以上/日)
なぜ逆向きなのか。腎臓でNaとKは共に排泄される関係にあるため、Kを多く摂るとNaの排泄が増えるからです。だからKは高血圧対策として「たくさん摂ったほうがいい」。
ただし腎機能が低下している人はKを排泄できず高K血症になるので、腎不全患者では逆に制限します。Kに耐容上限量が設定されていない理由も「腎機能が正常なら勝手に出ていくから」です。
微量元素:どの酵素に入っているかで覚える
鉄(Fe)
- 体内に約3g
- 吸収:Fe³⁺(非ヘム鉄)をFe²⁺に還元してから小腸上部で吸収。還元するのが胃酸とビタミンC
- 輸送はトランスフェリン、貯蔵はフェリチン、酸素運搬はヘモグロビン(体内鉄の約65%)
- ほかにCYP・カタラーゼ・シトクロムオキシダーゼの構成成分
- 欠乏症は鉄欠乏性貧血
第100回で「非ヘム鉄の小腸からの吸収は、ビタミンCにより促進される」が正しい記述として出ています。逆に第97回では「ヘム鉄の吸収はビタミンCによって促進される」が誤り選択肢でした。ビタミンCが効くのは非ヘム鉄です。ヘム鉄はもともとFe²⁺の形でそのまま吸収されるので、還元する必要がありません。
2025年版の更新:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」で、鉄の耐容上限量が削除されました。理由は、食事由来の鉄過剰はヘプシジンによる吸収調節で防がれ、問題になるのは遺伝子異常がある場合に限られるためです。2020年版では成人男性50mg/日・女性40mg/日が設定されていました。過去問を解くときは、その問題が何年版を前提にしているかを確認してください。
亜鉛(Zn)
- インスリンの構成成分
- アルコールデヒドロゲナーゼなど多くの酵素の活性中心
- 細胞増殖に必要(褥瘡の治療など)
- スーパーオキシドを分解する酵素(Cu,Zn-SOD)の構成成分
- 欠乏症:味覚障害、創傷治癒の遅延、皮膚障害
亜鉛欠乏 → 味覚障害は、第105回でそのまま正しい記述として出ています。実践問題でも定番です。
過剰の亜鉛は銅の吸収を阻害する(第100回で正しい記述)。メタロチオネインの取り合いが起こるためで、亜鉛製剤の長期投与で銅欠乏が問題になります。
銅(Cu)
- セルロプラスミン(銅の輸送タンパク)、シトクロムオキシダーゼ、ヘム合成に関与
- 代謝異常:ウィルソン病(銅の排出障害 → 肝・脳に蓄積)
マンガン(Mn)
- ピルビン酸カルボキシラーゼ(糖新生)の成分
- 過剰症:パーキンソン病様症状
- 大豆などの植物性食品に多い
ヨウ素(I)
- 甲状腺ホルモン(T₄:チロキシン、T₃:トリヨードチロニン)の成分
- 海藻・魚介に多い
- 欠乏症:クレチン症、甲状腺腫、甲状腺機能低下症
- 過剰症:甲状腺腫、バセドウ病
ヨウ素は欠乏でも過剰でも甲状腺腫になる——ここが引っかけポイントです。
セレン(Se)
- グルタチオンペルオキシダーゼの構成成分 → 抗酸化作用(過酸化水素の分解)
- 欠乏症:克山(ケシャン)病(心筋障害)
- 必要量と耐容上限量が近いので注意が必要
クロム(Cr)
- Cr³⁺に耐糖能の改善作用 → 欠乏で耐糖能異常
- (毒性で問題になるのはCr⁶⁺のほう。こちらは化学物質の毒性で扱います)
微量元素の一覧
| 元素 | 主な入り先 | 欠乏症 | 過剰症 |
|---|---|---|---|
| Fe | ヘモグロビン、フェリチン、CYP | 鉄欠乏性貧血 | (2025年版でUL削除) |
| Zn | インスリン、ADH、SOD | 味覚障害、創傷治癒遅延 | 銅の吸収阻害 |
| Cu | セルロプラスミン、シトクロムオキシダーゼ | 貧血、骨異常 | ウィルソン病(排出障害) |
| Mn | ピルビン酸カルボキシラーゼ | — | パーキンソン病様症状 |
| I | T₃・T₄ | クレチン症、甲状腺腫 | 甲状腺腫、バセドウ病 |
| Se | グルタチオンペルオキシダーゼ | 克山病 | 必要量と上限が近い |
| Cr | 耐糖能因子 | 耐糖能異常 | (Cr⁶⁺は毒性) |
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第103回・問229 | カルシウムに関する記述(2つ) | オステオカルシンはCaと結合する、PTHの過剰分泌で高Ca血症が正しい。「遊離イオン状態で骨に存在」「カゼインホスホペプチドで阻害」「シュウ酸・フィチン酸で亢進」は誤り |
| 第100回・問227 | 栄養素及び栄養状態(2つ) | 銅の吸収は過剰な亜鉛で阻害される、非ヘム鉄の吸収はビタミンCで促進されるが正しい |
| 第105回・問122 | 栄養素の欠乏症 | 亜鉛欠乏 → 味覚障害 |
| 第97回・問121 | 栄養素の消化・吸収 | ヘム鉄の吸収がビタミンCで促進されるは誤り(効くのは非ヘム鉄) |
ミネラルは単独の大問になるより、Ca・骨代謝・貧血・NSTの実践問題の中で1〜2肢として混ざってくるのが典型です。「どの酵素・どのタンパク質に入っているか」さえ言えれば、欠乏症は自力で出せます。
まとめ
- 1日100mg以上が多量元素:Ca・P・Na・K・Mg・Cl・S。それ以外が必須微量元素
- CaとPは活性型ビタミンD依存で吸収。促進=カゼイン、阻害=シュウ酸・フィチン酸
- 体内分布はヒドロキシアパタイトとして骨・歯に大部分
- 血中Ca↓ → PTH(上げる係)、血中Ca↑ → カルシトニン(下げる係)
- Naは減らす目標量、Kは増やす目標量。腎臓でNaとKは共に排泄されるから
- Fe:非ヘム鉄はビタミンCで還元されて吸収↑。輸送=トランスフェリン、貯蔵=フェリチン。2025年版で耐容上限量が削除
- Zn:インスリン・SOD・細胞増殖 → 味覚障害・創傷治癒遅延。過剰で銅の吸収を阻害
- Cu=セルロプラスミン/ウィルソン病、Mn=糖新生/パーキンソン病様症状、I=甲状腺ホルモン/欠乏も過剰も甲状腺腫、Se=グルタチオンペルオキシダーゼ/克山病、Cr³⁺=耐糖能
次は食品のADME|糖質・タンパク質・脂質の消化と吸収を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。