
食事摂取基準は、衛生の中でも特に「必須問題で1点を取りに行ける」単元です。理由は単純で、問われ方がほぼ固定しているから。
出るパターンは3つしかありません。
- グラフのどこを指しているか(第109回でそのまま出題)
- 生活習慣病の予防のために設定されている指標はどれか → 目標量(第103回)
- 耐容上限量/目標量が設定されているのはどの栄養素か(第99回・第106回・第107回・第110回・第111回)
つまり、1枚のグラフと、2つの「設定されている栄養素リスト」を押さえれば終わります。この記事ではその3点を、現行の2025年版に合わせて整理します。
数値の扱いについて:食事摂取基準は5年ごとに改定されます。現行は「日本人の食事摂取基準(2025年版)」で、2025年度(令和7年度)から2029年度まで使われます。過去問は当然、出題時点の版(2010年版/2015年版/2020年版)を前提にしているので、数値が変わった論点は本文中で明示します。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
5つの指標:1枚のグラフで全部言える

横軸が習慣的な摂取量、左の縦軸が不足のリスク、右の縦軸が過剰摂取によって健康障害が生じるリスクです。
左から順に並びます。
| 指標 | 位置 | 意味 |
|---|---|---|
| 推定平均必要量(EAR) | 不足リスク0.5 | 半数(50%)の人が必要量を満たす量 |
| 推奨量(RDA) | 不足リスク0.025 | 97.5%の人が満たされる量(2.5%の人は不足リスク) |
| 目安量(AI) | 不足リスクがほぼ0の平坦部 | 推定平均必要量が算定できないときに使う。「これくらい摂っていれば、ほぼ全員大丈夫だろう」という量 |
| 耐容上限量(UL) | 過剰リスクが立ち上がる直前 | ここまでなら過剰摂取による健康障害が生じない量 |
| 目標量(DG) | グラフに載らない | 生活習慣病の発症予防のために目指す量 |

グラフの縦軸の数字(0.5 と 0.025)がそのまま指標に対応していることに気づけば、EAR と RDA を取り違えません。0.5 = 半数 = 推定平均必要量、0.025 = 2.5% = 推奨量です。
目安量だけ性格が違うのもポイントです。推定平均必要量を算定するだけの科学的根拠が得られない栄養素について、代わりに置かれる指標です。だから「科学的根拠がない」という言い方で説明されます。
そして目標量だけがグラフの外にいます。目標量は「不足を防ぐ」でも「過剰を防ぐ」でもなく、生活習慣病を防ぐための指標だからです。
第103回・問16でそのまま「生活習慣病の発症及び重症化を予防するために設定されている栄養素の指標はどれか」→ 目標量が問われています。第98回では「推奨量は、生活習慣病の一次予防を目的として設定された指標である」という誤り選択肢が出ました。一次予防は目標量の仕事です。
注意:マインドマップの表では「推定必要量」と略されていますが、正式名称は「推定平均必要量」です。国試の選択肢は正式名称で並ぶので、「平均」を落とさないでください(誤記リストに登録済み)。
耐容上限量が設定されている栄養素
過剰摂取が問題になるもの、つまり体に溜まるものに設定されています。
ビタミン:
- 脂溶性ビタミン(ただしKを除く) … A・D・E
- 水溶性ビタミンのうち3つ … ナイアシン・ビタミンB₆・葉酸
ミネラル:
- ほとんどのミネラル。ただしナトリウムとカリウムには設定されていない
設定されていないものの理由が、そのまま問われます。
| 設定なし | 理由 |
|---|---|
| ナトリウム | 目標量(食塩相当量)で代用できるため |
| カリウム | 腎機能が正常なら余剰は尿中に排泄されるため |
| ビタミンK | 通常の食品からの過剰摂取で健康障害が報告されていない |
| 水溶性ビタミンの大半 | 尿中に排泄されるため |
第99回・問122では「耐容上限量が設定されているビタミンはどれか」が問われ、選択肢にビタミンA・ビタミンE(脂溶性)とビタミンB群・ビオチン・ビタミンC(水溶性)が並びました。脂溶性の側にULがあるという線引きがそのまま問われた形です。第110回では「ニコチン酸には耐容上限量が設定されていない」が誤り選択肢——ナイアシンには設定されています。
2025年版での変更:鉄の耐容上限量が削除されました。2020年版では成人男性50mg/日・女性40mg/日が設定されていましたが、2025年版では「食事由来の鉄過剰はヘプシジンによる吸収調節で防がれ、問題になるのは遺伝子異常がある場合に限られる」として設定が見合わされています。ただし「推奨量を大きく超える摂取は控えるべき」という注記はついています。
講義とマインドマップは2020年版以前を前提にしています。「ミネラルは(Na・Kを除いて)耐容上限量が設定されている」という覚え方をするなら、鉄は例外として付け足してください(誤記リストに登録済み)。
目標量が設定されている栄養素
生活習慣病を防ぐための指標なので、生活習慣病に直結する栄養素に設定されます。方向が「減らす」ものと「増やす」ものの両方があるのが特徴です。
| 栄養素 | 方向 | 成人の目標量(2025年版) |
|---|---|---|
| ナトリウム(食塩相当量) | 減らす | 男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満(重症化予防では男女とも6.0g/日未満) |
| カリウム | 増やす | 男性3,000mg/日以上、女性2,600mg/日以上 |
| 食物繊維 | 増やす | 成人で男性20〜22g/日以上、女性17〜18g/日以上(年齢区分によって異なる) |
| たんぱく質 | 範囲 | 13〜20%エネルギー |
| 脂質 | 範囲 | 20〜30%エネルギー(飽和脂肪酸にも目標量あり) |
| 炭水化物 | 範囲 | 50〜65%エネルギー |
食塩は「未満」、カリウムは「以上」。この向きの違いが問われます。理由は前の記事(ミネラル)で見たとおりで、腎臓でNaとKは共に排泄されるため、Kを多く摂るとNaの排泄が増えるからです。高血圧対策として、塩は減らしてカリウムは増やす。
日本人の食塩摂取量の平均は1日あたり9.6g(男性10.5g・女性8.9g、令和6年国民健康・栄養調査)で、目標量をかなり上回っています。だから「減塩しましょう」という話になります。
第111回・問19では「摂取量を増やすことを目指す栄養素として目標量が設定されているのはどれか」が問われ、答えはカリウムでした(ナトリウムは「減らす」側、ナイアシン・ビオチン・リンには目標量がない)。第106回・問20は逆に「日本人の平均摂取量が目標量よりも多いのはどれか」という聞き方で、選択肢は炭水化物・飽和脂肪酸・コレステロール・カリウム・食物繊維。目標量を超えているのは飽和脂肪酸です(炭水化物は範囲内、カリウムと食物繊維はむしろ足りていない、コレステロールは2015年版で目標量が削除されている)。
食物繊維に目標量が設定されていることも、第107回でそのまま正しい記述として出ています。
2025年版での変更:食物繊維の目標量が年齢区分ごとに見直されました。測定法がプロスキー変法から AOAC.2011.25 法に変わったことが背景にあり、たとえば男性は30〜64歳で22g/日以上、18〜29歳で20g/日以上となっています。区分によって上がったところも下がったところもあるので、数値を丸暗記するより「何年版か」を意識してください。
エネルギー産生栄養素バランスと、日本人の食生活の変化
たんぱく質13〜20%、脂質20〜30%、炭水化物50〜65%(成人、%エネルギー)。これをエネルギー産生栄養素バランス(PFCバランス)といいます。
そして、ここが保健統計・生活習慣病の話とつながるところです。

1945年から現在までで、総エネルギー量自体はほとんど変わっていません。変わったのは中身の割合です。
- 糖質(炭水化物)の割合が減った(おおむね55%程度へ)
- 脂質の割合が増えた(おおむね25〜30%へ)
- たんぱく質の量は横ばいだが、中身が植物性から動物性へシフトした
「総エネルギーは変わらず、脂質の割合だけが増えた」——これが食生活の欧米化の中身であり、生活習慣病(特に脂質異常症・大腸がん)が増えた背景として説明されます。グラフの形ごと覚えておくと、疫学の問題で効いてきます。
制度としての位置づけ
- 健康増進法に基づいて厚生労働大臣が定める
- 5年ごとに改定される
第111回では「日本人の食事摂取基準は、国民の栄養摂取の改善に向け、食育基本法に基づいて定められている」という誤り選択肢が出ました。食育基本法ではなく健康増進法です。似た名前の法律が並ぶので、ここは根拠法とセットで覚えてください。
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第109回・問19 | グラフ中のAが示す指標はどれか | グラフの位置と指標名の対応。0.5=推定平均必要量、0.025=推奨量 |
| 第103回・問16 | 生活習慣病の発症・重症化予防のための指標 | 目標量 |
| 第111回・問19 | 摂取量を増やすことを目指す目標量 | カリウム |
| 第106回・問20 | 平均摂取量が目標量より多いのはどれか | 飽和脂肪酸(カリウム・食物繊維は不足側、コレステロールは目標量が削除済み) |
| 第99回・問122 | 耐容上限量が設定されているビタミン | 脂溶性のA・E(水溶性のB群・ビオチン・Cと並べて問われた) |
| 第110回・問120 | ナイアシンの記述 | 「ニコチン酸に耐容上限量が設定されていない」は誤り |
| 第107回・問127 | 食物繊維 | 目標量が設定されているは正しい |
| 第98回・問129 | 推奨量の位置づけ | 「推奨量は生活習慣病の一次予防を目的として設定」は誤り(それは目標量) |
| 第111回・問123 | 保健施策の根拠法 | 「食事摂取基準は食育基本法に基づく」は誤り(健康増進法) |
必須問題で出る率が高い単元です。グラフ1枚と、「目標量=生活習慣病」「耐容上限量=過剰症」という対応。この2つで大半が解けます。
まとめ
- 指標は5つ。EAR(半数が満たす=0.5)→ RDA(97.5%が満たす=0.025)→ AI(目安量)→ UL(耐容上限量)、そしてグラフの外に DG(目標量)
- 目標量だけが「生活習慣病の予防」のための指標。推奨量ではない
- 目安量は、推定平均必要量が算定できないときに使う
- 耐容上限量があるのは、A・D・E(Kは除く)、ナイアシン・B₆・葉酸、大半のミネラル。Na(目標量で代用)とK(腎から出る)にはない
- 2025年版で鉄の耐容上限量が削除された
- 目標量は食塩=減らす(男7.5g未満/女6.5g未満)、カリウム=増やす(男3,000mg以上/女2,600mg以上)、食物繊維=増やす
- PFCバランスはたんぱく質13〜20%・脂質20〜30%・炭水化物50〜65%
- 日本人の食生活は総エネルギー量は横ばいで、脂質の割合が増え、たんぱく質が植物性から動物性へ
- 根拠法は健康増進法。5年ごとに改定、現行は2025年版
次は栄養価の評価法|生物価・正味タンパク質利用率・アミノ酸スコア・窒素平衡の違いを読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。