
薬の ADME(吸収・分布・代謝・排泄)は薬剤分野でやりますが、食品にも ADME があります。
衛生でこのパートが問われるとき、聞かれるのはほぼ2点に絞られます。
- 糖質は、どこで単糖になって、どの輸送体で入るのか(管腔内消化と膜消化の違い)
- 脂質は、吸収されたあとどこへ行くのか(リンパか、門脈か)
この2つは、選択肢の方向をひっくり返すだけで誤り選択肢が作れるので、毎回そこを突かれます。この記事では、糖質 → 脂質 → 脂肪組織の内分泌機能の順に、その2点を軸に整理します。
この記事の素材について:講義では「消化・吸収のところは生物でやる」として触れるだけで終わっているパートです。マインドマップ自体にも「生物で」という注記が3か所あります。本記事はマインドマップと過去問を根拠に構成しています。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
糖質:管腔内消化では単糖にならない
ここが一番の急所です。

消化は2段階に分かれます。
| どこで | 何が起きるか | |
|---|---|---|
| 管腔内消化 | 消化管の中(唾液・膵液のアミラーゼ) | デンプン → デキストリン・マルトース。完全に単糖までは分解されない |
| 膜消化 | 小腸粘膜上皮細胞の微絨毛にある酵素 | ここで単糖になり、そのまま吸収される |
「膜消化で単糖になって吸収される」——この一文が本体です。第97回で「糖質の膜消化では、単糖と二糖が生じる」という誤り選択肢が出ました。膜消化の産物は単糖だけです。

図のとおり、微絨毛の表面に消化酵素と輸送担体が並んでいて、分解した瞬間に隣の輸送体が拾うという作りになっています。だから二糖が管腔に放り出されることがない。
膜消化を担う酵素と基質:
| 酵素 | 基質 | 産物 |
|---|---|---|
| マルターゼ | マルトース | グルコース×2 |
| イソマルターゼ | イソマルトース(デキストリンの分岐部) | グルコース |
| ラクターゼ | ラクトース(乳糖) | グルコース+ガラクトース |
| スクラーゼ | スクロース(ショ糖) | グルコース+フルクトース |
吸収の輸送体:
- SGLT1(Na⁺依存性グルコース輸送担体)… グルコースとガラクトース
- GLUT5(グルコース輸送体ファミリー)… フルクトース
ラクトースを構成する2つの単糖(グルコースとガラクトース)は、どちらもSGLT1で吸収される。第97回で「ラクトースを構成する2種の単糖の吸収は、同じトランスポーターによって行われる」が正しい記述として出ています。一方、スクロースの2つ(グルコースとフルクトース)は別の輸送体です。ラクトースは同じ、スクロースは別。この対比で覚えてください。
乳糖不耐症
ラクターゼの活性が低い人では、乳糖が分解されずに腸管内に残ります。
乳糖が停滞 → 腸管内の浸透圧が上がる → 水が引き込まれて下痢。さらに腸内細菌による異常発酵が起こります。
「酵素がないから吸収できない」だけでなく、「残ったものが浸透圧性下痢を起こす」という2段構えで説明できるようにしておくと、病態の問題にも対応できます。
脂質:リンパか門脈かで分かれる
ここが脂質パートの唯一にして最大の論点です。
普通のルート(長鎖脂肪酸)
- 膵リパーゼがトリアシルグリセロール(TG)のエステル結合を切る → 長鎖脂肪酸+2-モノアシルグリセロール
- 胆汁酸とミセルを形成して小腸から吸収される
- 上皮細胞内でTGに再合成される
- キロミクロンに取り込まれ、リンパ管(胸管)へ → 鎖骨下静脈から血中へ
キロミクロンはリンパへ。門脈ではありません。第97回で「脂質は、吸収された後にキロミクロンとなり、主に門脈から肝臓を経て全身へ送られる」という誤り選択肢が出ています。門脈を通らないから、脂質は肝臓の初回通過を受けない——ここが薬剤分野の「坐剤・舌下錠は門脈を避ける」という話と同じ理屈です。
例外ルート(短鎖・中鎖脂肪酸)
炭素数10以下の短鎖・中鎖脂肪酸は、胆汁酸を必要とせず、そのまま門脈へ入ります。
第97回で「中鎖脂肪酸の吸収は、胆汁酸を必要としない」が正しい記述として出ています。
MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)が、胆汁分泌が落ちた患者や消化吸収障害のある患者の栄養剤に使われるのは、この性質のためです。
| 胆汁酸 | 行き先 | |
|---|---|---|
| 長鎖脂肪酸 | 必要 | キロミクロン → リンパ |
| 短鎖・中鎖脂肪酸(C10以下) | 不要 | そのまま門脈 → 肝臓 |
タンパク質
タンパク質も管腔内消化(ペプシン・トリプシン・キモトリプシンなど)でオリゴペプチドまで分解され、膜消化(ペプチダーゼ)でアミノ酸・ジペプチド・トリペプチドになって吸収されます。糖質と同じ「2段階」の型です。マインドマップでも「詳しくは生物で」とされている部分なので、衛生としては「膜消化の型が同じ」ことを押さえれば十分です。
脂肪組織は内分泌器官でもある
マインドマップの「脂質」の枝には、脂肪組織の役割として重要な内容が入っています。メタボリックシンドロームの記事と直結する部分です。
脂肪組織はTGの貯蔵庫であると同時に、アディポサイトカインを分泌する内分泌器官です。皮下脂肪と内臓脂肪から放出されます。
| 物質 | 働き | |
|---|---|---|
| 善玉 | アディポネクチン | 動脈硬化を抑制 |
| 善玉 | レプチン | 食欲を抑制 |
| 悪玉 | TNF-α | インスリン抵抗性↑、動脈硬化↑ |
内臓脂肪が増えると、アディポネクチンが減りTNF-αが増える → インスリン抵抗性が上がる、という流れがメタボリックシンドロームの病態そのものです。
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第97回・問121 | 栄養素の消化・吸収(2つ) | ラクトースの2種の単糖は同じトランスポーターで吸収、中鎖脂肪酸の吸収は胆汁酸を必要としないが正しい。「膜消化で単糖と二糖が生じる」は誤り |
| 第97回・問112 | 消化・吸収の全体像 | 「キロミクロンとなり主に門脈から肝臓を経て全身へ」は誤り(正しくはリンパ)。「空腸と結腸の上皮細胞から吸収」も誤り |
| 第102回・問229 | 脂肪乳剤 | 脂質1gあたり約9kcal、必須脂肪酸のリノール酸・α-リノレン酸を含むが正しい |
| 第111回・問111 | 小腸上皮細胞の機能 | キロミクロンを合成して分泌するのは小腸上皮細胞 |
| 第104回・第109回 | リポタンパク質の役割 | キロミクロン=食事由来の脂質を運ぶ。末梢→肝はHDL、肝→末梢はLDL |
「膜消化」と「リンパか門脈か」。この2つを言い切れれば、このパートは取れます。
まとめ
- 消化は管腔内消化 → 膜消化の2段階。単糖になるのは膜消化であって、管腔内消化では単糖まで分解されない
- 膜消化の酵素:マルターゼ、イソマルターゼ、ラクターゼ、スクラーゼ
- 輸送体:グルコースとガラクトースはSGLT1(Na⁺依存)、フルクトースはGLUT5。ラクトースの2つは同じ輸送体、スクロースの2つは別
- 乳糖不耐症は、残った乳糖で腸管内の浸透圧が上がって下痢+異常発酵
- 長鎖脂肪酸は胆汁酸とミセル → TGに再合成 → キロミクロン → リンパ(門脈ではない)
- 炭素数10以下の短鎖・中鎖脂肪酸は胆汁酸不要でそのまま門脈へ
- 脂肪組織は内分泌器官でもある:アディポネクチン(動脈硬化抑制)・レプチン(食欲抑制) vs TNF-α(インスリン抵抗性↑)
次は食事摂取基準|5つの指標の違いと目標量・耐容上限量が設定されている栄養素を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。