
衛生の「栄養」は、生物で一度やった内容がもう一度出てくる単元です。だから講義でも「詳しくは生物で」と飛ばされる部分が多い。でも、衛生の試験で問われる切り口は生物とは違います。
衛生が聞いてくるのは、「体で作れるのか、作れないのか」という一点です。作れないものだけが「必須」と名前がつき、食事から摂る必要が生まれ、そこから食事摂取基準・栄養価の評価へと話がつながっていきます。
この記事では、五大栄養素の定義 → 必須栄養素という考え方 → 必須アミノ酸9個の語呂 → 必須脂肪酸のn-3系/n-6系 → 栄養素ではないのに効く食物繊維、の順に整理します。最初の入口なので、用語の線引きを正確に押さえてください。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
五大栄養素と三大栄養素の関係
まず定義から。
| 中身 | |
|---|---|
| 三大栄養素 | 糖質・脂質・タンパク質 |
| 五大栄養素 | 三大栄養素 + ミネラル + ビタミン |
三大栄養素はエネルギーになるもの、そこに足されたミネラルとビタミンは、エネルギーにはならないが体の働きを回すために要るものです。この「足し算」の形で覚えておくと、あとで出てくるエネルギー産生栄養素バランス(PFCバランス)が三大栄養素だけの話であることが自然につながります。
「必須」がつくものは、体で作れないもの
必須栄養素の定義は、体内で合成できない(または十分量を作れない)栄養素です。これだけです。
- 必須アミノ酸
- 必須脂肪酸
- ビタミン・無機質(ミネラル) … 基本的に合成できない
ただしビタミンには例外が2つあります。
- ビタミンD … 皮膚の7-デヒドロコレステロールに紫外線が当たって作られる
- ナイアシン(ニコチン酸) … トリプトファンから一部が体内で合成される
この2つは「ビタミンなのに体内で作れる」ので、例外として名指しで問われます。
用語の注意:マインドマップでは「ニコチン酸」と書かれていますが、国試の選択肢ではナイアシンという総称で出ることが多いです。ナイアシン=ニコチン酸+ニコチンアミドの総称、と対応させておいてください。
必須アミノ酸9個:「トロリーバス不明、必要」
ヒトの必須アミノ酸は9個。マインドマップ薬学ではこの語呂で覚えます。

| 語呂 | アミノ酸 |
|---|---|
| ト | トリプトファン |
| ロ | ロイシン |
| リ | リジン |
| バ | バリン |
| ス | スレオニン |
| フ | フェニルアラニン |
| メ | メチオニン |
| イ | イソロイシン |
| ヒ | ヒスチジン |
「トロリーバス不明、必要」——トロリーバスの行方がわからない、でも必要だ、という語呂です。
ヒスチジンが入っていることに注意してください。ヒスチジンは乳児では必須という文脈で語られることがあり、古い教材では8個で覚えさせるものもあります。国試は9個(ヒスチジンを含む)で扱ってください。
逆に、必須ではないアミノ酸の名前も一緒に押さえます。プロリン・グルタミン・セリン・アスパラギン・アラニン・グリシン・システイン・チロシン・アスパラギン酸・グルタミン酸・アルギニンは非必須です(アルギニンは小児で準必須とされます)。
アミノ酸20種を「描く順番」で覚える
講義のもう一つの目玉が、アミノ酸の構造を1枚の地図としてたどるやり方です。合成経路ではありません。あくまで「こうつなげると描きやすい」という覚え方です。

出発点はアラニン(Ala)。一番単純な、側鎖がCH₃だけのアミノ酸です。ここから枝を伸ばします。
- 分岐鎖に伸ばす:アラニン → バリン(Vになる) → 長くしてロイシン → 枝の位置を変えてイソロイシン(「イソ=ちょっと違う」)
- 環をつける:アラニン+ベンゼン環 = フェニルアラニン、そこにOHを足してチロシン
- OHをつける:アラニン+OH = セリン、さらにCを足してスレオニン(トレオニン)
- 酸性側へ:アラニンの「ア」からアスパラギン酸、鎖を伸ばしてグルタミン酸。それぞれをアミド化するとアスパラギン・グルタミン
- Sを入れる:アラニン+S = システイン、そのSをCで挟むとメチオニン
- 塩基性側へ:長いリジン(「リジン=長い」)、それより短いアルギニン(末端にグアニジノ基)
- 複素環:イミダゾール環+アラニン = ヒスチジン、インドール環+アラニン = トリプトファン、ぐるっと環にしたのがプロリン
ヒスチジンは「なくなるとヒスタミン」——脱炭酸でヒスタミンになるので、後で出てくるアレルギー様食中毒(ヒスタミン中毒)とつながります。
原本の注意:マインドマップのメチオニンの構造は、硫黄が「SH」と書かれています。メチオニンの硫黄はチオエーテル(-S-)で、その先にCH₃がつくのでSHではありません。SHで終わるのはホモシステインです。図の「SをCで挟む」という考え方は正しいので、書くときはSHのHを取ると覚えてください(誤記リストに登録済み)。
必須脂肪酸:n-3系とn-6系は「Aがつくほうが良い者」
脂肪酸はメチル末端から数えて何番目のCに最初の二重結合があるかで、n-3系・n-6系に分けます。

| 代表例 | 過剰摂取によって | |
|---|---|---|
| n-6系 | アラキドン酸、リノール酸、γ-リノレン酸 | 血栓形成、血圧上昇傾向 |
| n-3系 | α-リノレン酸、EPA、DHA | 血栓溶解、血圧低下傾向 |
覚え方は「Aがつく → エースは良い者」。α-リノレン酸・EPA・DHA と、n-3系にはAが入ります。n-3系は魚(サバなどの青魚)に多い油で、体にとっては good 側。一方のn-6系は普通の植物油に多く、摂りすぎると血液がドロドロ側に傾く。
ややこしいポイント:n-6系のアラキドン酸にもAが入っています。語呂は「n-3系の3つが全部A始まり/A入り」として使い、アラキドン酸はn-6系の代表として別枠で覚えてください。
必須脂肪酸として国試で名指しされるのは、リノール酸(n-6)とα-リノレン酸(n-3)です。第102回では「脂肪乳剤中の油脂には必須脂肪酸のリノール酸及びα-リノレン酸が含まれている」が正しい記述として出ています。
栄養素ではないのに効くもの
マインドマップには「非栄養素」という枝があります。エネルギーにも体の材料にもならないのに、健康に効くものたちです。
食物繊維
定義は「ヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分」。
- 水で膨潤してゲル化し、食物塊をつくる → 脂肪や糖の吸収を遅らせる(食後血糖の上昇がゆるやかになる)
- 排便を促進する
水溶性と不溶性があること、セルロースは多糖だがリグニンは多糖ではない(フェノール性高分子)こと、動物性由来のもの(キチン・キトサンなど)もあることが、そのまま国試の選択肢になります。
また、ヒトの消化酵素では消化されないが、腸内細菌によっては分解される——ここも引っかけです。「腸内細菌によっても分解されない」は誤りです。
食事摂取基準では目標量が設定されている栄養素でもあります(詳しくは食事摂取基準の記事で)。
カプサイシン
唐辛子の辛味成分。副腎からのアドレナリン分泌を促進し、糖代謝・脂質代謝を促進します。「非栄養素なのに代謝に効く」例として押さえておけば十分です。
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第99回・問16 | ヒトの必須アミノ酸はどれか | 選択肢はL-プロリン/L-グルタミン/L-セリン/L-アスパラギン/L-リシン。リシン(リジン)だけが必須。語呂の「リ」 |
| 第102回・問229 | 脂肪乳剤に用いられる脂質 | 必須脂肪酸のリノール酸及びα-リノレン酸が含まれているが正しい。脂質1gあたり約9kcalも正しい |
| 第107回・問127 | 食物繊維に関する記述(2つ) | 水溶性のものと不溶性のものがある、食事摂取基準で目標量が設定されているが正しい。「腸内細菌によっても分解されない」「セルロースとリグニンはどちらも多糖」「動物性由来のものはない」は誤り |
| 第105回・問122 | 栄養素の欠乏症 | 亜鉛欠乏 → 味覚障害が正しい。ナイアシン欠乏はペラグラであって壊血病ではない |
必須アミノ酸は「必須問題」で1問まるごと出ることがあります。語呂で9個を即答できる状態にしておけば、確実に1点です。
必須脂肪酸は臨床寄りの実践問題(脂肪乳剤・経腸栄養)の中で顔を出すのが定番です。n-3系=EPA/DHA=魚=血栓溶解という一本の線でつないでおいてください。
まとめ
- 三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)+ミネラル+ビタミン = 五大栄養素
- 「必須」がつくのは、体内で合成できないもの。例外はビタミンD(紫外線)とナイアシン(トリプトファンから)
- 必須アミノ酸は9個、語呂は「トロリーバス不明、必要」(ト・ロ・リ・バ・ス・フ・メ・イ・ヒ)。ヒスチジンを含める
- アミノ酸の構造はアラニンを起点に枝を伸ばすと覚えやすい(合成経路ではない)
- 必須脂肪酸はリノール酸(n-6)とα-リノレン酸(n-3)。n-3系は「Aがつく良い者」で血栓溶解・血圧低下、n-6系は血栓形成・血圧上昇傾向
- 食物繊維は消化酵素では消化されないが腸内細菌は分解する。水溶性/不溶性があり、リグニンは多糖ではない。目標量が設定されている
次は脂溶性ビタミン「DAKE」の覚え方|A・D・E・Kの作用と欠乏症・過剰症を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。