
水溶性ビタミンは9種類あります。数が多いので、ここでも並べて覚えるのをやめるのが先決です。
水溶性ビタミンには、はっきりした共通の役割があります。ほぼ全部が「補酵素」になるということです。そしてどの代謝を助けるかが、そのまま欠乏症になって現れます。
- B₁は糖代謝 → 欠乏すると ATP が作れず、まず神経がやられる(脚気・ウェルニッケ脳症)
- B₆はアミノ酸代謝 → 欠乏すると皮膚炎
- B₁₂と葉酸は核酸合成 → 欠乏すると赤血球のDNAが作れず巨赤芽球性貧血
「何の補酵素か」が言えれば、欠乏症は思い出せます。逆に丸暗記すると、B群は数字が並ぶだけなので必ず混ざります。
この記事ではB群7つ+ビタミンCを、補酵素としての役割 → 欠乏症の順に整理します。
この記事の素材について:講義では「ここは生物でしっかりやるので、マインドマップをつけてあるくらいの感じで見ておいてください」と飛ばされているパートです。本記事はマインドマップと過去問を根拠に構成しています。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
水溶性ビタミンの共通ルール
- 脂溶性(DAKE)以外は全部水溶性
- 余分は尿中に排泄される → 重篤な過剰症は原則として知られていない
- ただし耐容上限量が設定されている水溶性ビタミンが3つだけある:ナイアシン・ビタミンB₆・葉酸
この「3つだけ例外」は食事摂取基準でそのまま問われるので、ここで先に押さえてください。
ビタミンB₁(チアミン):糖代謝の補酵素

構造の目印は「チオ」= 硫黄(S)を含むチアゾール環。名前の「チアミン」にSが入っています。
活性型はチアミンピロリン酸(TPP)。糖代謝の脱炭酸酵素の補酵素です。
| 場所 | 酵素 |
|---|---|
| 解糖系の出口 | ピルビン酸デヒドロゲナーゼ |
| TCA回路 | α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ |
どちらもATP産生の要です。だから欠乏するとATPが作れず、エネルギー要求の高い神経系が真っ先に障害されます。
| 欠乏症 | 特徴 |
|---|---|
| 脚気 | 末梢神経障害、浮腫、心不全 |
| ウェルニッケ・コルサコフ症候群 | 中枢性。眼球運動障害・失調・意識障害。慢性アルコール依存で頻発 |
アルコール多飲 → B₁欠乏 → ウェルニッケ脳症という流れは、実践問題で繰り返し出ます。第105回では「過剰なアルコール摂取によるビタミンB₆欠乏は、ウェルニッケ脳症の原因となる」という誤り選択肢が出ました。ウェルニッケはB₁です。B₆ではありません。
ビタミンB₂(リボフラビン):酸化還元の補酵素

活性型はFMN・FAD。電子伝達系などで酸化還元反応の補酵素として働きます。
欠乏症は、発育停止・眼精疲労・口内炎・皮膚炎(口角炎)。粘膜と皮膚に出る、と覚えます。
黄色い色素でもあり、食品添加物の着色料(リボフラビン)としても使われます。
ビタミンB₆:アミノ酸代謝の補酵素

活性型はピリドキサールリン酸(PLP)。
働きはアミノ酸代謝の補酵素で、中身は2つ。
- アミノ基転移反応(AST・ALTなど)
- アミノ酸の脱炭酸反応
欠乏症は皮膚炎。またイソニアジド(INH)がB₆と結合して排泄を促すため、結核治療中に末梢神経障害が起こる——この相互作用は薬理・実践でも頻出です。
原本の注意:マインドマップの図では、R基の違いを「ケトンで → ピリドキサール」「アミドで → ピリドキサミン」と説明していますが、正確にはピリドキサールは-CHO(アルデヒド)、ピリドキサミンは-CH₂NH₂(アミン)です。ケトンでもアミドでもありません(誤記リストに登録済み)。「アール = アルデヒド」「アミン = アミン」と名前どおりに覚えたほうが安全です。
ビタミンB₁₂(コバラミン)と葉酸:セットで核酸合成
この2つは必ずセットで覚えます。どちらが欠けても同じ貧血になるからです。
ビタミンB₁₂
- Coを含む → 「コ」バラミン。構造にコバルトが入っている唯一のビタミン
- 緑黄色野菜には存在しない(動物性食品にしかない) → 完全菜食で欠乏しうる
- 胃の内因子(キャッスル内因子)と結合して回腸から吸収される → 内因子に対する自己抗体ができて吸収できなくなったのが悪性貧血、胃全摘後にも欠乏する
- 働きはメチル基転移反応など
葉酸

- 働きは核酸(DNA)合成と転移反応
- 葉酸拮抗薬はメトトレキサート(ジヒドロ葉酸還元酵素を阻害)
- 妊娠初期の葉酸摂取は神経管閉鎖障害のリスクを下げる → トクホの「疾病リスク低減表示」が認められている2例のうちの1つ(もう1つはカルシウムと骨粗鬆症)
共通する欠乏症は巨赤芽球性貧血。赤血球のDNAが作れず、細胞質だけ大きくなるので「巨赤芽球」です。
上の図がきれいにまとまっています。ホモシステインは、B₁₂と葉酸があればメチオニンへ、B₆とセリンがあればシステインへ進みます。つまりこれらのビタミンが足りないとホモシステインが溜まる——高ホモシステイン血症が動脈硬化のリスクになる、という話につながります。B₁₂・葉酸 → メチオニン側、B₆ → システイン側。矢印の行き先で分けてください。
ナイアシン:トリプトファンから作れるビタミン

ナイアシンは、ニコチン酸とニコチンアミドの総称です。図のとおり、COOHならニコチン酸、CONH₂ならニコチンアミド。
- 体内でNAD⁺・NADP⁺になる → 酸化還元反応の補酵素
- トリプトファンから一部が合成できる(必須栄養素の例外)
- 欠乏症はペラグラ:皮膚炎・下痢・認知症(精神症状)の3D
トウモロコシを主食とする地域でペラグラが問題になるのは、トウモロコシのタンパク質がトリプトファンに乏しいうえ、ナイアシンが結合型で吸収されにくいためです。第110回でそのまま選択肢になっています。
ナイアシンには耐容上限量が設定されています。第110回で「ニコチン酸には耐容上限量が設定されていない」という誤り選択肢が出ました。設定されています。また、過剰症は皮膚の紅潮(フラッシング)や消化器症状であって、頭蓋内圧亢進はビタミンAです。ここも同じ問題で引っかけとして使われました。
パントテン酸・ビオチン・ビタミンC
パントテン酸
- CoA(補酵素A)の原料 → いろいろな酵素の補酵素になる
- 腸内細菌が合成するので欠乏症は少ない。起きるとエネルギー代謝異常
ビオチン

- カルボキシラーゼの補酵素(炭酸固定反応)
- 生卵白を大量に摂ると吸収が低下する:卵白のアビジンがビオチンと強く結合してしまうため
ビタミンC(アスコルビン酸)

ビタミンCは還元型(L-アスコルビン酸)と酸化型(L-デヒドロアスコルビン酸)を行き来します。図の青く囲まれた2つのOHが、-2Hで=Oになる——これが「強い還元力」の正体です。
働きは3つ。
- コラーゲンの合成:プロリンとリジンを水酸化する酵素の補酵素。コラーゲンの三重らせん構造を保つ
- 抗酸化:活性酸素の除去
- 鉄の吸収促進:消化管でFe³⁺ → Fe²⁺に還元して吸収を上げる
欠乏症は壊血病(コラーゲンが作れず血管が弱くなる、歯肉出血)。摂取源は新鮮な緑黄色野菜と果実。
なお、食品衛生の分野ではN-ニトロソ化合物の生成を阻害する成分としても登場します(タンニンと並んで)。ここでも「還元力」が働いています。
一覧表:何の補酵素で、欠けると何になるか
| 補酵素としての役割 | 欠乏症 | 耐容上限量 | |
|---|---|---|---|
| B₁ | 糖代謝(ピルビン酸DH、α-ケトグルタル酸DH) | 脚気、ウェルニッケ・コルサコフ症候群 | — |
| B₂ | 酸化還元(FMN・FAD) | 口角炎、皮膚炎、眼精疲労、発育停止 | — |
| B₆ | アミノ酸代謝(アミノ基転移・脱炭酸) | 皮膚炎、末梢神経障害 | あり |
| B₁₂ | メチル基転移。Co含有、内因子で吸収 | 巨赤芽球性貧血(悪性貧血) | — |
| 葉酸 | 核酸合成、転移反応 | 巨赤芽球性貧血、神経管閉鎖障害 | あり |
| ナイアシン | 酸化還元(NAD⁺・NADP⁺) | ペラグラ(皮膚炎・下痢・精神症状) | あり |
| パントテン酸 | CoAの原料 | まれ(エネルギー代謝異常) | — |
| ビオチン | カルボキシラーゼ | 皮膚炎(生卵白の大量摂取で誘発) | — |
| C | コラーゲン合成(Pro・Lysの水酸化)、抗酸化、鉄吸収促進 | 壊血病 | — |
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第110回・問120 | ナイアシンに関する記述 | 欠乏で皮膚炎・下痢・中枢神経症状(ペラグラ)、トウモロコシ主食地域で欠乏に注意が正しい。「ニコチン酸に耐容上限量が設定されていない」「過剰で頭蓋内圧亢進」は誤り |
| 第105回・問122 | 栄養素の欠乏症 | 亜鉛欠乏 → 味覚障害が正しい。「B₆欠乏 → ウェルニッケ脳症」(正しくはB₁)、「ナイアシン欠乏 → 壊血病」(正しくはペラグラ、壊血病はビタミンC)は誤り |
| 第103回・問231 | あるビタミンの性質 | アミノ基転移反応の補酵素、ペラグラ様皮膚炎といった記述でB₆/ナイアシンを識別させる |
| 第98回・問227 | 高カロリー輸液の調製 | 総合ビタミン製剤は水溶性ビタミンのみ含有という誤り選択肢 |
水溶性ビタミンの出題は「欠乏症の取り違え」を突いてきます。B₁とB₆、ナイアシンとビタミンC——この2組が特に混ぜられます。「何の補酵素か」から欠乏症を導く癖をつけておけば、選択肢の取り違えはすぐ見抜けます。
まとめ
- 脂溶性(DAKE)以外は全部水溶性。余分は尿へ出るので重篤な過剰症は原則なし
- ただし耐容上限量があるのは、ナイアシン・B₆・葉酸の3つ
- B₁=糖代謝 → 脚気・ウェルニッケ(アルコール多飲で頻発)。B₆ではない
- B₂=酸化還元(FAD/FMN) → 口角炎・皮膚炎。着色料としても使われる
- B₆=アミノ酸代謝 → 皮膚炎。イソニアジドで欠乏
- B₁₂と葉酸=核酸合成 → どちらも巨赤芽球性貧血。B₁₂はCo含有・内因子で吸収・植物性食品にない
- ナイアシンはトリプトファンから合成可能、欠乏はペラグラ
- ビオチンは生卵白(アビジン)で吸収低下、パントテン酸はCoAの原料
- ビタミンCはコラーゲン合成(Pro・Lysの水酸化)・抗酸化・鉄の吸収促進。欠乏は壊血病
次はミネラルの覚え方|多量ミネラルと微量ミネラルの欠乏症・過剰症を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。