
この記事は2つの分かれ道を扱います。
1つめは有病率と罹患率。どちらも「病気の人の割合」に見えますが、一時点を切るか、期間で数えるかが違います。
2つめは研究デザインの分類。観察研究と介入研究、その下の記述疫学と分析疫学、さらにその下のコホート研究と症例対照研究。この木構造を描けるかどうかが、そのまま得点差になります。この記事は、次のコホート研究と症例対照研究への入口です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
有病率と罹患率 ― 点で見るか、期間で見るか
有病率は「一時点」

有病率 = 一時点における患者数 ÷ 集団の人口(×1000など)
ある一時点で病気にかかっている人の割合です。カメラのシャッターを切るイメージで、今この瞬間に何人が病気を持っているか。新規も古株も、すべて含みます。
罹患率は「一定期間」

罹患率 = 期間内の新発生患者数 ÷ 人年(人口 × 観察年数)
一定期間に新たに病気にかかる危険度です。ポイントは2つ。
- 分子は新発生の患者だけ。すでに病気の人は数えない
- 分母は人年(じんねん)。人口 × 観察年数
人年法は、「100人を2年観察した」も「200人を1年観察した」も200人年として同じに扱う考え方です。観察期間がバラバラな集団でも比較できるようにするための工夫だと理解してください。
なお、その年の伝染病の罹患率のように観察期間が1年なら、人年は実質「その年の総人口」になるので、
罹患率 = 伝染病の届出患者数 ÷ その年の総人口
という簡単な形になります。図の下段がこれです。
2つの違いを1行で
- 有病率 … 一時点。今、病気を持っている人の割合(点)
- 罹患率 … 一定期間。新たに病気になる危険度(期間)
慢性疾患のように治りにくい病気は、罹患率が低くても有病率が高くなります。逆に風邪のようにすぐ治る病気は、罹患率が高くても有病率は低い。この関係がわかっていると、応用問題にも対応できます。
研究デザインの木構造
疫学研究は、まず観察研究と介入研究に分かれます。
疫学研究
├── 観察研究(こちらは何もしない。見るだけ)
│ ├── 記述疫学 … ヒト・時・場所を観察 → 仮説を立てる
│ └── 分析疫学 … 仮説を検証する。因果関係を調べる
│ ├── コホート研究
│ └── 症例対照研究
└── 介入研究(こちらから働きかける)
└── 臨床試験(無作為化比較試験など)
観察するだけか、こちらから手を加えるか。 これが最初の分岐です。高木兼寛の脚気研究は食事を変えたので介入研究、ジョン・スノーのコレラは地図を描いただけなので記述疫学、ということになります。
記述疫学 ― 仮説を立てる段階
ヒト・時・場所を観察して、仮説を立てる。異常な集積性(=流行)を見つけ出す。
原因はまだわからなくてもかまいません。「こういう人に、この時期に、この場所で多い」というありのままの頻度を記述します。
記述疫学は仮説を「立てる」だけで、因果関係は示せません。 ここが国試の急所です。
分析疫学 ― 仮説を検証する段階

記述疫学で「集積している」とわかった。ではなぜそれが起きているのか、因果関係はどうなっているのかを調べるのが分析疫学です。
分析疫学は、時間軸のどちらを向くかで2つに分かれます。
- コホート研究:現在、要因(喫煙習慣)を持つ人を集めて、未来に向かって追跡し、結果(肺がん)を見る → 前向き
- 症例対照研究:現在、結果(肺がん)が出ている人を集めて、過去にさかのぼって要因(喫煙習慣)を調べる → 後ろ向き
図の矢印の向きがそのまま2つの違いです。「喫煙してたら肺がんになりやすいのか追ってみた」がコホート、「原因なんだったのか調査しよう」が症例対照。
横断研究も押さえる
もう1つ、横断研究(横断的研究)があります。ある一時点で、疾病の有無と要因の保有状況を同時に調べる方法です。
有病率を調べるのがまさに横断研究で、時間の前後関係がわからないのが弱点です。「喫煙者に喉頭がんの有病率が高い」とわかっても、喫煙が先か、がんが先かは言えません。だから因果関係は不明、という結論になります。
介入研究 ― こちらから働きかける
臨床試験が代表です。とくに無作為化比較試験(RCT)は、対象者を無作為に2群に分けて一方に介入するので、交絡因子の影響を最も小さくできます。
だからエビデンスレベルは介入研究がいちばん高い。順番は次のとおりです。
メタアナリシス・システマティックレビュー > 無作為化比較試験(RCT) > コホート研究 > 症例対照研究 > 症例集積・症例報告 > 専門家の意見
この並びは必須問題で繰り返し出ています。丸暗記でかまいません。
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第98回・問19 | 要因曝露に起因する疾病発生頻度が得られる疫学研究手法 | コホート研究。発生率が出せるのはコホートだけ |
| 第109回・問16 | 一時点における疾病の有無と要因の保有状況を調査し関連を明らかにする手法 | 横断的研究 |
| 第97回・問126 | ある一時点で生活習慣と癌の罹患状況を同時調査し、喫煙者で喉頭癌の有病率が高かった | 横断的研究であり、喫煙と喉頭癌の因果関係は不明 |
| 第100回・問68/第105回・問69/第106回・問17 | 研究デザインをエビデンスレベルの高い順に並べる | RCT > コホート > 症例対照 > 症例集積 |
| 第111回・問195 | メタアナリシス | エビデンスレベルは症例対照研究より高い。出版バイアスに留意 |
第97回・問126は、「一時点で同時に調査」という一句だけで横断研究と判定でき、そこから自動的に「因果関係は不明」が導けるという、きれいな問題です。「一時点」「同時」という語を見たら横断研究と反応できるようにしてください。
まとめ
- 有病率は一時点の患者の割合。罹患率は一定期間に新たにかかる危険度で、分母は人年(人口×観察年数)
- 疫学研究は観察研究と介入研究に大別。観察研究は記述疫学(仮説を立てる)と分析疫学(仮説を検証)に分かれる
- 分析疫学はコホート研究(前向き)と症例対照研究(後ろ向き)
- 記述疫学は仮説を立てるだけ。因果関係は示せない
- 横断研究は一時点で疾病と要因を同時に調べるので、因果関係は不明
- エビデンスレベルはメタアナリシス > RCT > コホート > 症例対照 > 症例集積
次はコホート研究とは|相対危険度と寄与危険度を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
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