
講義でもいちばん時間をかけて説明されている山場です。そして、オッズ比の計算問題は近年ほぼ毎年出ています。第105回、第110回、第111回と、実践問題で連続して出題されました。
ここで押さえるべき筋は1本だけです。症例対照研究では発生率が出せない。だから相対危険度も出せない。そこでオッズ比で代用する。 この因果の連鎖さえ頭に入れば、「なぜオッズ比なんてものが必要なのか」が腑に落ちます。
前提としてコホート研究を先に読んでおいてください。対比で理解するのがいちばん速いからです。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
症例対照研究とは

結果が出ている人と出ていない人を集めて、過去にさかのぼって要因を調べる研究です。ケースコントロール研究、後ろ向き研究ともいいます。
図のとおり、集めるのは次の2群です。
- 症例群:肺がん患者
- 対照群:肺がんではない人
そのうえで、「過去にタバコを吸っていましたか」と聞き取り調査をします。
| 曝露(タバコあり) | 非曝露 | |
|---|---|---|
| 症例群(肺がん患者) | A人 | C人 |
| 対照群(非肺がん患者) | B人 | D人 |
A・B・C・Dの置き方がコホート研究の2×2表と同じになるように並べてあります。つまりA=要因あり・疾病あり、B=要因あり・疾病なし、C=要因なし・疾病あり、D=要因なし・疾病なし。この対応は崩さないでください。
なぜ発生率が出せないのか
ここが最大の理解ポイントです。
コホート研究では、要因を持つ人を集めて、そのうち何人が病気になったかを数えました。だから「タバコを吸う人100人中3人が肺がんになった」という発生率が出ます。
ところが症例対照研究では、肺がん患者を何人集めるかを、研究者が自分で決めています。肺がん患者100人と、対照100人を集めた。この100:100という比率は、研究者の都合であって、現実の発生率とは無関係です。
したがって、
- 発生率が出せない
- 死亡率も出せない
- だから相対危険度も出せない
じゃあどうするか。オッズ比で代用します。
オッズとオッズ比
オッズとは「外れ分の当たり」、つまり起きた数 ÷ 起きなかった数です。競馬やギャンブルの言葉と同じ発想で、割合(全体に対する比)ではなく、2つのグループの比です。

オッズ比 = 症例群の要因ありのオッズ ÷ 対照群の要因ありのオッズ
図の吹き出しがわかりやすいので、そのまま使います。
- 分子:肺がんの人の、喫煙 vs 禁煙は何対何? → A ÷ C
- 分母:肺がんじゃない人の、喫煙 vs 禁煙は何対何? → B ÷ D
よって、
オッズ比 = (A ÷ C) ÷ (B ÷ D) = (A × D) ÷ (B × C)
最後の形がたすき掛けです。実際の計算では、A×D を B×C で割ると覚えておけば一瞬で出せます。
なぜオッズ比が相対危険度の代わりになるのか
ここは理屈まで押さえておくと、応用問題に強くなります。
相対危険度は {A ÷ (A+B)} ÷ {C ÷ (C+D)} でした。もしその病気がまれな疾患なら、病気になる人(AとC)は、病気にならない人(BとD)に比べてずっと少なくなります。すると、
- A + B ≒ B(Aが無視できるほど小さい)
- C + D ≒ D(Cが無視できるほど小さい)
これを相対危険度の式に入れると、
相対危険度 ≒ (A ÷ B) ÷ (C ÷ D) = (A × D) ÷ (B × C) = オッズ比
まれな疾患であれば、オッズ比は相対危険度の近似値になる。 これが「近似できる条件」です。「まれな疾患のとき」という条件つきである点が問われます。
コホート研究と症例対照研究の比較
| コホート研究 | 症例対照研究 | |
|---|---|---|
| 時間の向き | 前向き(現在→未来) | 後ろ向き(現在→過去) |
| 集める人 | 要因のあり/なしで集める | 結果のあり/なしで集める |
| 発生率 | 出せる | 出せない |
| 主な指標 | 相対危険度・寄与危険度 | オッズ比 |
| まれな疾患 | 不向き(発症を待てない) | 向いている |
| コスト・期間 | かかる | 少なくて済む |
| バイアス | 比較的少ない | 生じやすい(思い出しバイアスなど) |
「まれな疾患には症例対照研究が向いている」――ここは第110回・問193でそのまま問われました。コホート研究でまれな疾患を扱おうとすると、膨大な人数を何年も追いかけないと1例も発生しません。すでに発症した人を集められる症例対照研究のほうが現実的です。
一方で、過去のことを思い出してもらうので、思い出しバイアスが入りやすいのが弱点です(詳しくは疫学データの落とし穴で扱います)。
計算してみる
第105回・問230 ― ベンゾジアゼピン系薬剤と奇形
| 奇形あり | 奇形なし | |
|---|---|---|
| 服用あり | 30 | 1,000 |
| 服用なし | 35 | 3,000 |
オッズ比 = (30 × 3,000) ÷ (1,000 × 35) = 90,000 ÷ 35,000 ≒ 2.6
第110回・問229 ― 食塩摂取とESRD
慢性腎臓病の患者500人。うち100人がESRDを発症。食塩6.0g/日以上の摂取者は85人で、そのうちESRDを発症したのは20人。これを表に直します。
| ESRD発症 | 非発症 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 食塩6.0g/日以上 | 20 | 65 | 85 |
| 6.0g/日未満 | 80 | 335 | 415 |
オッズ比 = (20 × 335) ÷ (65 × 80) = 6,700 ÷ 5,200 ≒ 1.3
問題文から2×2表を組み立てるところが山です。「全体500人」「発症100人」「高摂取85人」「高摂取かつ発症20人」の4つがわかれば、残りは引き算で埋まります。
第111回・問226 ― 年齢群による死亡リスク
インフルエンザ感染者の死亡データから、55〜64歳と比べた80〜94歳のオッズ比。
- 55〜64歳:感染1,000人、死亡2人 → 生存998人
- 80〜94歳:感染1,000人、死亡30人 → 生存970人
オッズ比 = (30 × 998) ÷ (970 × 2) = 29,940 ÷ 1,940 ≒ 15
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第111回・問69 | 症例対照研究で算出できる統計値 | オッズ比。絶対リスク減少率・発症割合・寄与危険度・相対リスクはすべて出せない |
| 第110回・問193 | 症例対照研究の特徴 | バイアスが生じやすい、後ろ向き研究であるが正しい。「まれな疾患に適していない」は誤り |
| 第97回・問304 | オッズ比と相対リスクの式の組合せ | オッズ比 = ad/(bc)、相対リスク = {a/(a+b)}/{c/(c+d)} |
| 第105回・問230/第110回・問229/第111回・問226 | オッズ比の計算 | たすき掛け(A×D)÷(B×C) |
| 第100回・問126 | SNPと疾患のオッズ比 | 遺伝子型TTとその他を2×2に組み直してから計算 |
| 第98回・問126 | イタイイタイ病の調査で「オッズ比を求めることができるか」 | 有病率の地図調査は記述疫学であり、症例対照研究ではない |
第111回・問69は式を覚えていなくても答えられる問題です。「症例対照研究では発生率が出せない」→「発生率を使う指標は全部ダメ」→「残るのはオッズ比」。理屈で消去できるので、絶対に落とさないでください。
まとめ
- 症例対照研究は後ろ向き。結果(疾病)のあり/なしで人を集め、過去の曝露を調べる
- 自分で被験者を集めているので、発生率も死亡率も出せない。よって相対危険度も出せない
- 代わりに使うのがオッズ比 = (A × D) ÷ (B × C)(たすき掛け)
- オッズ比が相対危険度の近似になるのは、まれな疾患のとき
- まれな疾患には症例対照研究が向く。ただし思い出しバイアスが入りやすい
- 計算問題は問題文から2×2表を組み立てるところが山。表さえ作れれば掛け算2回
次は感度と特異度の違い|2×2表での計算を読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。